りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2020年に注目すべき10人の「ネオプロ」

 

CyclingNewsで次のような面白い記事が掲載されていた。

www.cyclingnews.com

 

タイトルの通り、この2020年に「プロデビュー」を果たす20名弱の選手たちの中から、注目すべき10名の選手をピックアップして紹介した記事。

非常に興味深く思われる方も多いと思うので、記事の内容を参考にしつつ、その10名を自分なりに紹介していく。

 

なお、記事中でも断りを入れているが、「ネオプロ」と言いつつ、実際には2019年にプロコンチネンタルチーム(ハーゲンスバーマン・アクセオン)に所属していた選手も2名含まれる。

とはいえこのチームも育成チームの意味合いが強く、該当する選手(ビョーグ、ギャリソン)もU23カテゴリでの活躍が中心となるため、一応今回の「ネオプロ」の中に入れて考えることをご了承いただきたい。

※年齢はすべて2020/12/31時点のものとなります。

 

 

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クイン・シモンズ(アメリカ、19歳)

移籍先:トレック・セガフレード

2019年の主な戦績:ジュニア版ヘント〜ウェヴェルヘム優勝、ジュニア世界選手権TT4位、ジュニア世界選手権ロードレース優勝

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今年のジュニア世界選手権ロードレースで、33㎞を独走した末に2位に56秒差をつけて圧勝した彼は、U23カテゴリをすっ飛ばしてワールドツアーチームのトレック・セガフレードと契約する。

あれ?どこかで見たパターンだな、と思ったアナタ。その通り、我々は同じパターンを今年、レムコ・エフェネプールという怪物に見出している。もちろん、レムコほどの圧倒ぶりは彼にはない。それでも、期待しない理由はないだろう。アンドリュー・タランスキーもティージェイ・ヴァンガーデレンも大成できぬまま過ぎ去っていった後の、アメリカの「次の星」への期待度は高い(もちろん、まだまだニールスン・ポーレスやセップ・クス、ブランドン・マクナルティなど間の世代も十分に期待できる選手が揃ってはいるが)。

問題は、トレックにそれを育て切る能力があるのか?  引退も見えているベテラン選手たちに花道を用意するだけのチームではないのか?  いやいや、彼らは今年、マッズ・ペダースンに世界の頂点を取らせたではないか。

そして、注目すべきはこのシモンズがジュニア版ヘント〜ウェヴェルヘムを勝っているということ。別段、ジュニアのレースでの勝利が脚質に直結するとは思わないが、(地味だが)強力なクラシックハンターたちを育てているトレックが、その方向性を伸ばす可能性は十分にある。

 

 

アンドレスカミーロ・アルディラ(コロンビア、21歳)

移籍先:UAEチーム・エミレーツ

2019年の主な戦績:U23版ジロ・デ・イタリア総合優勝

今年のU23版ジロ・デ・イタリア(ジロ・チクリスティコ・ディタリア、通称ベイビー・ジロ)でステージ2勝ののち、総合2位に4分10秒もの大差をつけて圧勝したコロンビア人が、UAEの若き才能の軍団にその名を連ねた。非UCIレースのブエルタ・ア・コロンビアのU23版でも総合3位に輝いている。

UAEチーム・エミレーツとは異例の4年契約。このチームにはすでにフェルナンド・ガビリアやセルヒオ・エナオなど、名を残しているコロンビア人の先輩がおり、サポート体制も十分だろう。何より、今年、鮮烈なネオプロ1年目を記録したタデイ・ポガチャルの存在が、この才能溢れる「次世代のコロンビア人」の魂に火をつけ続けてくれるだろう。

夢はツール・ド・フランス。ナイロ・キンタナに触発されたという男が、ベルナルやソーサと共に、2020年代のグランツールを支配してしまうか。

 

 

トビアス・フォス(ノルウェー、23歳)

移籍先:チーム・ユンボ・ヴィズマ

2019年の主な戦績:ツール・ド・ラヴニール総合優勝、U23版リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ3位

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エガン・ベルナル、タデイ・ポガチャルとエリートでも世界トップクラスに入る成績を残す選手を立て続けに輩出した「ラヴニール覇者」の栄誉を受け継いだのは、U23カテゴリ最終年に4度目のトライを成功させたこのノルウェー人であった。

ラヴニールでのステージ優勝はない。過去の2人と比べるとやや地味な成績に映るかもしれない。

しかしフォスの最大の武器は、昔から地元ノルウェーのレースを始め、エリートのレースを多数経験していること。ネオプロではあるが、経験値は十分にエリートのそれである。

もちろん、プリモシュ・ログリッチェ、トム・デュムラン、ステフェン・クライスヴァイクが集うユンボ・ヴィズマで、ベルナルやポガチャルのような形でチャンスを掴むのは難しいかもしれない。しかし、セップ・クス、ローレンス・デプルス、ニールスン・ポーレスなどが、若くしてアシストとしての活躍の機会を与えられ、その中で成績を残していることを考えると、フォスもまた、エース級に注目を集めるアシストとして2020年のグランツールを走ることができるかもしれない。

「ライダーとして、そして人間として成長したい」と抱負を語る22歳は、着実に踏み固めてきた地盤から大いなる世界へと飛び立とうとしている。

なお、ユンボ・ヴィズマのヴィズマはノルウェーの企業。スポンサー様にとっても期待の存在である。

 

 

ミッケル・ビョーグ(デンマーク、22歳)

移籍先:UAEチーム・エミレーツ

2019年の主な戦績:U23世界選手権TT優勝、ツアー・オブ・デンマーク総合6位

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U23世界選手権の個人タイムトライアルを3年連続制覇。それだけで、この男の異様ぶりがよく分かるだろう。2018年にはツアー・オブ・カリフォルニアの個人TTで6位。すでにして、エリートでも優勝候補になりうる男である。

プロコンチネンタルチームのハーゲンスバーマン・アクセオン所属ということで、ほかの「ネオプロ」たちと比べ、エリートレースでの経験は豊富。地元デンマーク最大のステージレースでは2年連続の出場で今年は総合6位。ほか、ツール・ド・ヨークシャー、ロンド・ファン・ドレンテ、ノケレ・コールスなど、HCクラスのレースには数多く出場している。

UAEはポガチャルやジャスパー・フィリプセンの成功の裏で、同じく期待のネオプロとして加入したオリヴェイラ兄弟なんかはいまいち活躍できずに1年を終えている(もしかしたら彼らはもともとの得意分野であるトラック種目に精を出していたのかもしれないが・・・)。

2020年は今年ラリー・サイクリングでプロコン最後の年を迎えたブランドン・マクナルティも同じUAEでワールドツアーデビューを果たす。果たして彼は「成功」するか、否か。

 

 

イーサン・ヘイター(イギリス、22歳)

移籍先:チーム・イネオス

2019年の主な戦績:ツール・ド・ラヴニール区間1勝、U23版ジロ・デ・イタリア区間2勝・ポイント賞

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2018年のトラック世界選手権金メダリスト(チームパーシュート)、かつヨーロッパ選手権金メダリスト(オムニアム)。トラックで鍛え上げた選手らしく、TT能力とスプリント能力はずば抜けており、2019年のベイビー・ジロではプロローグとスプリンター向きの第1ステージで優勝。ツール・ド・ラヴニールでも、同じく集団スプリントで優勝。2位には同じ英国の天才児トム・ピドコックが入り英国ワンツーフィニッシュを飾った(なお、マティアス・ノルスガードが優勝した第1ステージでも、集団の先頭を取ったのがこのヘイター、集団の2位がピドコックであった)。

トラックで活躍し、イネオスへ、というのはまさにこのチームのかつての黄金パターンである。ブラッドリー・ウィギンス、ゲラント・トーマス、ピーター・ケニャック、あるいはマーク・カヴェンディッシュなんかも、確かそのパターンである。

古き良き英国チームの伝統に則って、次の時代の中心たる存在になれるか。ただ、このチームはやや、スプリンター系の選手には冷たいところが気になる・・・英国人なら大丈夫か? TT能力の高さは重宝されるだろうし・・・。クリス・ローレスやベン・スウィフトなど、一芸をもつ英国スプリンターは確かにこのチームで生き残っている。

 

 

イアン・ギャリソン(アメリカ、22歳)

移籍先:ドゥクーニンク・クイックステップ

2019年の主な戦績:アメリカ国内選手権U23TT優勝、アメリカ国内選手権エリートTT優勝、U23世界選手権TT2位

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この人物の恐ろしさは、アメリカ国内選手権TTで、U23部門で優勝した1週間後に、エリート部門でも同じく優勝してしまったことだ。

もちろん、いまだロードレース先進国ではないアメリカでの国内選手権優勝は、ベルギーやフランスでのそれと比べるとやや劣るのは間違いない。それでも、彼はドゥクーニンク・クイックステップに入るのだ。それだけで、ほかの新人選手たちよりも、大きなアドバンテージをもって2020年を迎えられると言ってよい。

何しろ2018年はアルバロホセ・ホッジやファビオ・ヤコブセンとカスパー・アスグリーンを育てたチームである。2019年にヤコブセンはブエルタ・ア・エスパーニャで2勝し、アスグリーンはロンド・ファン・フラーンデレンで2位、ツアー・オブ・カリフォルニアで総合3位となった。

ギャリソンもまた、このチームでその潜在能力を十二分に発揮してもらえることだろう。

 

 

クレモン・シャンプッサン(フランス、22歳) 

移籍先:AG2Rラモンディアル

2019年の主な戦績:ツール・ド・ラヴニール総合4位、U23版イル・ロンバルディア2位、グラン・ピエモンテ9位

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全フランスが注目する新世代最強のフランス人。ツール・ド・ラヴニールでは総合優勝も大いに期待されたが・・・残念ながら届かなかった。

しかし彼はトレーニーとして参加した2019年のAG2Rラモンディアルで既にして鮮烈な戦績を残している。それがすなわち、HCクラスのグラン・ピエモンテ――2019年は、「パンターニの山」オローパの山頂に至る超級山頂フィニッシュであった――9位という、驚きの成績である。

2020年のプロデビューは、ほかの多くの新人たちと違って4月1日とやや遅い。それでも彼が、2020年はツールを回避するロマン・バルデ、そしてその代わりにツールにエースで挑むピエール・ラトゥールに次ぐ、AG2Rの3番目のグランツールエース候補であることは、間違いないだろう。

 

 

アンドレア・バジョーリ(イタリア、21歳)

移籍先:ドゥクーニンク・クイックステップ

2019年の主な戦績:U23版イル・ロンバルディア優勝

U23版イル・ロンバルディア――正式名称イル・ピッコロ・ロンバルディア――で2位につけたのは先に述べた「フランスの至宝」クレモン・シャンプッサン。では、1位は? それがこの「イタリアの至宝」バジョーリである。

バジョーリという名前は聞き覚えがあることだろう。そう、NIPPOヴィーニ・ファンティーニ所属で2018年のティレーノ~アドリアティコで山岳賞を獲った(そして筆者がDAZNのプレゼントでサインを当てた)ニコラ・バジョーリの弟である。

そんなアンドレア、U23版イル・ロンバルディア以外にも、ロンド・デ・イザール、 ジロ・チクリスティコ・デッラ・ヴァッレ・ダオスタ・モンブランなど、U23カテゴリの有名レースの数々で活躍している。2018年にはU23版リエージュ~バストーニュ~リエージュで2位にもなっている。

類稀なるクライマーとしての才能を発揮する彼を獲得したドゥクーニンク・クイックステップの思惑は透けて見えるだろうか? 彼らは近い将来、ジュリアン・アラフィリップで再びマイヨ・ジョーヌを狙うと宣言している。このバジョーリの存在が、そこに向けて大いなる伏線となっているのかもしれない。

 

 

ステファン・ビッセガー(スイス、22歳)

移籍先:EFエデュケーション・ファースト

2019年の主な戦績:ツール・ド・ラヴニール2勝(TTT含む)、U23スイス国内選手権TT優勝、U23世界選手権TT3位、U23版エシュボルン・フランクフルト4位

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彼もまたトラック出身である。それゆえに、TT能力とスプリント力が彼の持ち味。登りも決して苦手ではなく、ツール・ド・ラヴニールでは、今年のブリュッセル・サイクリング・クラシックでエリート選手たちに混じって10位に入った才能ある若手スプリンター、カデン・グローヴス(2020年はミッチェルトン・スコットでプロデビュー)を打ち破りステージ優勝を飾った。

その多方面にポテンシャルを秘めた芽吹き前の才能は、今年、ヒュー・カーシーやダニエル・マルティネス、セルヒオ・イギータなどの有望若手に結果をもたらしている(そしてかつてはパトリック・ベヴィンやマイケル・ウッズを育て上げている)ジョナサン・ヴォーターズの下できっと花開くことだろう。

ただ、7月まではトラックに集中。ロードレースにおけるプロデビューは、 8月1日まで待たねばならない。

 

 

マウリ・ファンセベナント(ベルギー、21歳)

移籍先:ドゥクーニンク・クイックステップ

2019年の主な戦績:ジロ・チクリスティコ・デッラ・ヴァッレ・ダオスタ・モンブラン総合優勝

サイレンス・ロット(現ロット・スーダル)で現役を終えたウィム・ファンセベナントの息子。主に北のクラシックで活躍した生粋のベルギー人であった父と違い、息子マウリはクライマーとしての才覚を現し始めている。その2019年最大の功績は、ジロ・アオスタ・モンブランでの総合優勝。これは、過去にティボー・ピノ、ファビオ・アル、最近だとパヴェル・シヴァコフらが総合優勝を飾っている由緒あるクライマーズレースである。

ゆえに彼もまた、バジョーリ同様に将来のアラフィリップ親衛隊を期待されているのかもしれない。が、そのプロデビューは8月まで待たねばならない。その理由は「大学の学位を獲るため」。近年、ヨーロッパでは学業とサイクリングを両立させる選手が増えてきている印象がある。それは彼ら自身の頑張りだけでなく、今回のドゥクーニンク含め、プロチームたちの理解の現れでもあるだろう。

ところで何の学位を取るんだろう?

 

(その他の注目ネオプロはCyclingNewsの記事を参照のこと)

 

 

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