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パリ〜ルーベ2019  コースプレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:フランス

Region:北フランス

First edition:1896年

Editions:117回

Date:4/14(日)

 

「クラシックの女王」「北の地獄」と呼ばれる、モニュメント一過酷で予想のつかないレースが今年も始まる。

 

今回はこの北のクラシックのフィナーレを飾る大レースの、注目すべき各セクションを解説していく。

 

↓注目選手プレビューはこちら↓

www.ringsride.work

 

 

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レースについて

3月頭のオンループ・ヘットニュースブラッドから始まった「北のクラシック」と呼ばれる一連のワンデーレース群。

その終幕を飾るのが、この激しい石畳を特徴とするレースである。

 

今年の全長は257㎞。最初の石畳区間は100㎞の舗装路区間を終えた後に登場する。

全部で29ヶ所の石畳区間の総延長は54.5㎞にも及ぶ。中にはケースに入れたボトルが吹っ飛び、ハンドルを握り続けられないほどの振動をもたらす荒れに荒れた石畳も存在し、パンク、メカトラ、落車は日常茶飯事となる。

 

コースは昨年とほぼ変わらず。

最初にプロトンが経験する石畳セクターがぐっと短くなり、代わりに「セクター・マイケル・ホーラールツ」が直後に登場する。そして一部の石畳セクションで走る方向が変わるくらいで、レースの展開を影響を及ぼす類の変更はない。

 

以下では、いくつかの重要なセクションだけを見ていこう。

※残り距離はそのセクションの「突入時」のものとする。

 

 

残り151.5km「ブリアストル~ヴィースリー」(★★★★)

第28セクター 全長3km

プロトンが経験する最初のパヴェ「トロワヴィル」(全長900m、★★)の直後にやってくる、いきなりの4つ星パヴェ。まだまだゴールまで距離があるため、パンクなどのトラブルに見舞われたとしても復帰は十分に可能だが、余計な力を使うわけにもいかない。慎重にいきたい。

このセクションには、昨年のパリ~ルーベで心停止によって落車し、そのまま帰らぬ人となった若き選手マイケル・ホーラールツを偲ぶモニュメントが建てられている。そして、このセクションの名前自体も「セクター・マイケル・ホーラールツ」と別名がつけられてもいる。

彼が所属していたチーム「フェランダース・ウィレムス」はすでに消滅しているが、これを吸収する形で合併した「ルームポット・シャルル」は今回も出場。その中でもセンヌ・レイセンは昨年も彼と共に走った選手だ。もしかしたら逃げに乗ってこのセクションを先頭で通過し、彼のために祈りを捧げる場面もあるかもしれない。

あるいは、同じく彼とルーベを走った、現ユンボ・ヴィズマのワウト・ファンアールトが、彼の想いを感じながら今日の勝利を固く誓いながら走るかもしれない。

Embed from Getty Images

 

 

残り103km「アヴルイ」(★★★★)

第20セクター 全長2.5km

最初の重要地点「アランベール」の直前に登場する難易度の高い長めのパヴェ。

当然、アランベールに向けての位置取り争いも白熱し、昨年はここで、マッテオ・トレンティンとセバスティアン・ラングフェルドという2人の優勝候補が落車リタイアする憂き目に遭った。

マシュー・ヘイマンも何度もここでレースを失ったと告げる、隠れた重要セクションである。

 

 

残り94.5km「トルエー=ド=アランベール」(★★★★★)

第19セクター  全長2.3㎞

ゴールまで100kmを過ぎて、いよいよ本格的なパリ~ルーベが始まる。

全部で3つある5つ星パヴェの1つ目にして、「地獄の入り口」。

それは珍しい、森の中のパヴェでもある。

Embed from Getty Images

とはいえ、全選手が警戒するポイントであり、かつゴールまで距離もあることから、ここで勝負を仕掛けようとする優勝候補はほとんどいない。むしろここでは「脱落しない」ことが重要である。

 

落車、パンク、道が狭いこともあり後方に取り残されてしまうと大きなタイムギャップが生まれ、たとえ先頭に戻ることができたとしても大きく力を使ってしまうことになる。たとえば2014年には、優勝候補でもあったアレクサンダー・クリストフがパンクし、戦線離脱する羽目になってしまった。

有力選手が遅れた場合、前方でも引き離したいチームの強力牽引などもあり、非常に見応えのある展開となるだろう。

 

また、アランベールでは細く長い隊列が作られることが多く、抜けた直後の舗装路でアタックを仕掛けようとする選手も多いため注目だ。優勝候補というよりは、逃げに乗りたい選手が、といったところだけど。

 

 

残り59.km「オルシー」(★★★)

第13セクター  全長1.7㎞

この石畳が、というよりもここと次の第12セクターとの間の「舗装路」とに気をつけていきたい。

というのも、この舗装路で、勝敗を決する決定的な動きが起きていることがままあるのだ。

 

2012年にはここでトム・ボーネンがアタックしてそのまま逃げ切り勝利を果たした。

昨年はここでペテル・サガンが抜け出し、悲願のルーベ制覇を果たした。

 

では今年は? さすがに同じ展開を連続では許されないことだろう。しかし、たとえばロンドの借りを返そうと躍起になったドゥクーニンク・クイックステップあたりが、何かを仕掛けてくるかもしれない。あるいは、それを抑え込もうと他のチームが動いている間に、ダークホース的な存在がするすると抜け出すかもしれない。

 

 

 

残り48km「モンサン=ペヴェル」(★★★★★)

第11セクター  全長3km

およそこの辺りから、実力者による本格的なペースアップと、集団のセレクションがかかってくる。

2013年にはカンチェラーラが集団を一気に絞り込んだ。

2016年はここでヘイマンやボーネンなど最終グループの5人を含む7人が抜け出す形となった。

昨年も優勝候補級の6名が絞り込まれたが、すでに先頭にはサガンが逃げており、追いつくことはなかった。

 

また、石畳スペシャリストでも落車を起こしてしまうポイントでもある。

2016年には衝撃のカンチェラーラ落車。すぐ後ろにいたサガンは驚異的なバイクコントロールで落車こそ免れるものの、先行されていた有力集団に追いつくことはできなくなった。

昨年もクリストフとルーク・ロウが落車している。

Embed from Getty Images

 

今年も優勝候補が犠牲になるかもしれない。運命のポイントだ。

 

 

残り38.5km「ポンティボー」(★★★)

第9セクター 全長1.4km

ここも決して難易度の高い区間ではないものの、いよいよ残り距離が短くなってくるため、勝負どころになることもしばしば。

2013年はファンデンベルフやファンマルクといった優勝候補が飛び出し、カンチェラーラが遅れる(のちに追い付いて逆転優勝してしまうが)。

2014年はサガンが飛び出して先頭集団に追い付き、のちに独走に入った。

 

残り30km台という距離は、クラシックにおいてはしばしば決定的な動きが巻き起こる区間でもある。一般的にルーベは次の「カンファナン・ペヴェル」でこそ最終的なセレクションがかかりがちだが、油断しているとこのセクションで、勝者が決定付けられてしまうかもしれない。

 

 

残り19km「カンフィン・アン・ペヴェル」(★★★★)

第5セクター 全長1.8km

最後の山場である「カルフール・ド・ラルブル」を前にして、それ単体では勝負を決めきれないと判断したスペシャリストたちによる積極的な攻撃が始まる。

2014年はカンチェラーラの執拗なペースアップにより、先行していたボーネングループが捕まえられる。

2016年はここで、最後の5名が形成された。

2017年はファンアーフェルマートのためにダニエル・オスが強力な牽引を続け、後方に取り残されたトム・ボーネンとの距離を決して縮めることなく、エースの勝利に最大限の貢献をしてみせた。

 

そして、これを抜ければすぐに、最後の関門が待ち構えている。

 

 

残り16.5km「カルフール・ド・ラルブル」(★★★★★)

第4セクター 全長2.1km

ここが最後の勝負所である。2017年はここで、ファンアーフェルマート、スティバル、ラングフェルドという3名に絞り込まれた。

逆に独走、もしくは小集団がすでに決まっていれば、それは本当に強いメンバーであるため、後方から追いかけてくる集団が追い付くことはかなり難しくなるだろう。

 

観客の盛り上がりも最高潮。それゆえにトラブルも起こりがち。

たとえば2013年には先頭に2人も送り込んでいたクイックステップの選手が次々と観客との接触に見舞われて脱落している。

どうしても道の端の石畳の少ない区間を走りたくなりがちだが、気をつけないと・・・。

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この区間を越えれば、あとはゴールまで、難易度の低いパヴェだけが続いていく。

しかし、パリ~ルーベにおける本当に決定的な動きは、しばしば何でもない舗装区間で引き起こされてしまう。

2015年はあらゆる選手がルーベ対策を講じ、慎重に事を進めた結果、最後のカルフール・ド・ラルブルを越えてもなお20名以上の大集団、となってしまった。

そうなるともう、機を見た飛び出しと、そのあとの独走力によって決まる場合がある。このときはファンアーフェルマートとランパールトが残り12kmで集団から抜け出す。ここにベルト・デバッカーが単独でブリッジすると、次いで集団から飛び出したデバッカーのチームメートでエースであるジョン・デゲンコルプが合流。

最後は7名ほどの小集団となるが、この中でデゲンコルプのスプリント力は圧倒的であり、同年のミラノ~サンレモに次ぐモニュメント2勝目を飾った。

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そんな風に舗装路でのアタックが功を奏することもあれば、ヘイマンが勝利を飾った2016年、ファンアーフェルマートが勝利を飾った2017年なんかは、最後に絞り込まれた小集団の中でスプリント勝負に持ち込みたくない選手たちがアタックを仕掛ける場面が頻発したが、結局は決まり切らず、ということもよくある。

その意味で、カルフール・ド・ラルブルを越えたあとの14kmこそが、本当の意味での「ルーベ」なのかもしれない。

独走で終わることの多いロンドとはまた違った、白熱した終盤戦を楽しめるルーベの黄金の14kmである。

 

 

そして、最後。

栄光のベロドロームで見事、栄冠を手に入れるのは果たして誰だ。

 

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