りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

ガッツポーズ選手権 写真で振り返る2018年シーズン(前編)

昨年、思いがけぬ多くの得票を頂いたガッツポーズ選手権。

今年も、再び開催していこうと思う。

 

とはいえ、昨年以上に選出には非常に苦労した。

その中で、以下の20枚の写真に絞り込み、ピックアップさせていただいた。ポイントは「勝者の感情が伝わってくること」「他にない独特なものであること」「背景や周りの選手たちとの組み合わせ」などの3点を重視した。

また、原則としてGetty Imageにて見つけることのできるものに限定した。

 

今回もGoogleフォームを利用してアンケートを取れるようにしてある。

docs.google.com

 

昨年多かった要望に応え、今回は1位から3位まで選ぶことができるようになっている。

1位~3位にそれぞれ3ポイント~1ポイントを加え、最終的に獲得ポイントを合計して順位を決めたいと思う。

2位・3位については「空欄」もアリ。ただし、1位を空欄で2位・3位を回答したり、1位と3位を回答して 2位を空欄にした場合は、それぞれ順位繰り上げを行うので注意。

また、1位~3位で2つ以上、同じ回答を行った場合は無効票とするため注意してほしい。 

締め切りは11/30(金)終日を予定!

期間は長めにとってあるが、早めの回答をしていただけると幸い。

 

 

それでは、紹介していこう。

 

紹介文の文字数が想定以上に多くなりすぎたため、前編後編で分割しました

後編はこちらから↓↓

suzutamaki.hatenablog.com

 

 

1.ミゲルアンヘル・ロペス(ツアー・オブ・オマーン 第5ステージ)

Embed from Getty Images

ドバイ・ツアーに続き中東の砂漠地帯で行われるシーズン序盤のステージレース。ドバイ・ツアーやかつて存在したツアー・オブ・カタールと比べると、砂漠地帯の割には「山」があり、とくにこの第5ステージは「グリーンマウンテン」と呼ばれる登坂距離5.7km、平均勾配10.2%の本格的な山頂フィニッシュである。

当然、この山の覇者が、そのままこのツアー・オブ・オマーンの総合優勝者となる可能性が高い。そんな重要なステージで、プロトンを完全に支配したのがアスタナ・プロチームだった。

 

頂上まで残り2km。昨年ジロ・デ・イタリアでも活躍したヤン・ヒルト(チェコ)の牽引により、ロペスのアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)の計3人のアスタナが集団から抜け出す。バーレーン・メリダのゴルカ・イサギーレ(スペイン)がこれに喰らいつくが、やがて力尽きてしまう。

ヒルトが仕事を終え下がっていく姿を尻目に、ロペスとルツェンコが2人旅に。コフィディスのヘスス・エラダ(スペイン)が追走を仕掛けるが、圧倒的な力を見せつけたこの2人には追い付くことができなかった。

 

そして、余裕の姿でロペスがゴール。ルツェンコもまた、総合リーダーの座をほぼ確実なものとした。それぞれの勝利を分け合った二人の熱いハンドシェイク。

ニバリ、アルを失ったアスタナの新しい時代を築くのがこの2人であることを、象徴したシーンであった。

 

 

2.ティシュ・ベノート(ストラーデ・ビアンケ)

Embed from Getty Images

プロデビュー初年度、21歳のときに、いきなりのロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)3位。それがゆえに、彼に向けられた期待は絶大なものだった。

その後も各種クラシックでの上位入賞や短めなステージレースでの総合上位争いなどにも参加するオールラウンダーな才能を見せつけていたが、しかし「勝利」を得られずにいた。過大な期待による見えない重圧は、まだ年若い彼にとっては簡単に耐えられるようなものではなかっただろう。

しかし、そんな状況を彼はついに「勝利」でもって吹き飛ばした。

舞台は、「白い道」の名の通り、トスカーナ州に用意された全長63kmの未舗装路区間。今年はそこに大雨が襲い掛かり、地獄のような様相を呈した。

 

残り50kmを切って集団から抜け出したのはロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)。これにシクロクロス世界王者のワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスクラシック)。そして、この2人に遅れて抜け出し、独走の果てに追い付いたのがベノートだった。

残り12km。ベノートが登りを利用してバルデとファンアールトを突き放す。サバイバルなレースの中で、純粋に最も力を持っていたのが彼だった。

独走でサンタカテリーナ通りの石畳坂を登り切り、カンポ広場に到着したベノート。その端正な顔立ちは泥に塗れ、呼吸も十分にはできない状態だっただろう。しかし両腕をしっかりと掲げ、彼は控えめな、しかし確かなガッツポーズを作った。

 

まだ24歳。来年は25歳。早熟の天才はここにきてようやくスタートラインに立った。ここから、また少しずつ着実に実績を積み重ねていこう。

 

 

3.ヴィンツェンツォ・ニバリ(ミラノ~サンレモ)

Embed from Getty Images

稀代のグランツールレーサーの1人であるこの男は、自身と決して相性がいいわけではないはずのこのミラノ~サンレモでの勝利をずっと望んでいた。

もちろん、スプリントで勝てるはずはない。だから、彼が得意とするダウンヒルで勝負を決めるために、最後の勝負所となるポッジョ・ディ・サンレモでのアタックを繰り返し仕掛けていた。2012年には惜しくも3位。

そして今年、彼はついに勝利を掴んだ。やはりポッジョ・ディ・サンレモでのアタックによって。しかし、今年は必ずしも自らの勝利のための走りではなかった。ポッジョ・ディ・サンレモ直前のバーレーン・メリダのフォーメーションは、牽引役のモホリッチの後ろにニバリ、その後ろにコルブレッリ。あくまでもニバリは、コルブレッリを守る最終発射台としての役割を担っていたのだ。

そして、ポッジョ・ディ・サンレモでの先行も、あくまでもコルブレッリを有利にするための牽制というのが最も大きな目的だったに違いない。だが、この動きが決定的なものとなる。それに気づいた彼は、あとはもう、全力でペダルを回すだけだった。

10年近くにわたる挑戦の果てに手に入れた栄光。昨年のロンバルディアで見せた「50勝」を意味する余裕のポーズとも違う、ピンと伸ばした全身で歓喜を表現した。

 

 

4.トーマス・デヘント(ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ 第3ステージ)

Embed from Getty Images

2017年の総「逃げ」距離は1000kmを超えるとも言われる超一流の「逃げ屋」デヘント。

その2018年最初の逃げ切り勝利があ、このカタルーニャであった。

 

この日は本来標高2000m超えの超級山岳の山頂でフィニッシュするピュアクライマー向けのステージであった。しかし積雪によってコースが大幅に短縮。中級山岳ステージに落ち着いたことで、デヘントの食指が動いた。そういえば、モン・ヴァントゥで彼が勝ったときも短縮のあった日だった。

ゴールまで残り20km。2級山岳コリャボス峠の登りで同行者たちを突き放した彼は、向かい風に立ち向かいゴールを急ぐ。総合タイム差もほとんどないため、モビスターを中心とするメイン集団も全力の追走。最終的にデヘントは20秒差をつけてゴールし、総合リーダージャージも獲得した。

 

悪天候の影響で霧がかった大気に夕暮れの近づいた太陽の光が反射し、実に美しい風景の中で「逃げ屋」の実力を見せつけた。

このあともブエルタで自慢の山岳逃げ力を存分に発揮して山岳賞を獲得。シーズン最終戦のイル・ロンバルディアの後では、ベルギーまでの約1000kmをウェレンスとともに自走で帰るという "Last Escape" も披露。ただ勝つだけではない自転車レースの戦い方、魅せ方を追求する彼の2019年の「逃げ」も実に楽しみだ。

 

 

5.ペテル・サガン(パリ~ルーベ)

Embed from Getty Images

昨年は「フラダンス」をピックアップしたサガン。しかし今年は、それとは随分とテイストの違うこの写真を選択。

その表情は、いつもの余裕たっぷり、お茶目たっぷりの彼の表情とは全く違う。全力の勝負の後、全ての感情を爆発させたかのような、彼にしては珍しい表情である。

それもそのはず、彼にとっては悲願となる「パリ~ルーベ」の制覇だったのだから。

 

古くからその勝利を期待され、彼自身も特に好きなレースと公言していたパリ~ルーベ。だが、過去のレースではパンクや落車に巻き込まれるなど、実力とは異なる不運によって勝機を失ってきた。また、絶対的な優勝候補であるがゆえに徹底的にマークされ、それがゆえになかなか自由な走りを許されずにいた。

 

しかし、今年はその辺りの状況が違っていた。あまりにも例年、期待されながらも勝利に届かない状況と、2年連続でロンド・ファン・フラーンデレンを制しているクイックステップ・フロアーズの北のクラシックへの調子の良すぎる状況とで、サガンに対するマークの徹底ぶりが、今年に限っては失われた。

その最大のチャンスを、彼は見逃さなかった。

残り54.3km。最大のライバルとも言える昨年優勝者ファンアフェルマートが後ろを向いていた瞬間に、コースの右端からサガンがするすると集団を抜け出した。ファンアフェルマートらが気づいたときにはもう遅かった。あとは、2年前ロンドを制したときのような黄金の独走力を持つサガンが、先頭を逃げる3名に追い付き、これを抜き去るのも時間の問題だった。

 

そんなサガンにとって最大の誤算は、彼の走りに27歳のスイスチャンピオン、シルヴァン・ディリエが喰らいついてきたことだ。

スイスITT王者の経験もあり独走力は高いものの、北極圏レースでの勝利やルート・ドゥ・スッドでの総合優勝、ジロの登りスプリントステージでの勝利など、どちらかというとパンチャー向きな脚質をもっていると思われていた男の、思わぬクラシック適性の高さに誰もが驚いた。

しかも、圧倒的な力の差があると思われる中で、駆け引きも何もなく積極的に先頭交代を行っていくディリエ。そのおかげもありこの2人は最後まで捕まえられることなく、ベロドロームに到着。

最後はさすがのスプリントで前を一度も譲ることなく勝利したサガンだったが、それが決して余裕の結果でなかったことは、思わず広げた両腕と、魂を全て吐き出すかのような表情がよく物語っている。

後方のディリエもまた、悔しそうだった。ルーベ2位という、間違いなく彼のキャリア最大の結果にも関わらず、その表情はあともう少しで勝利を得られたことへの悔恨しかなかった。

「次は勝つ」と彼は言った。その言葉は決して、勢いだけのものではないだろう。

 

 

6.エンリコ・バッタリン(ジロ・デ・イタリア 第5ステージ) 

Embed from Getty Images

4年ぶりの勝利に感極まった表情、爆発的な加速の後に訪れる、弛緩した全身が魅せる身体のバランス、そして後方から追いすがるヴィスコンティ、ゴンサルベス、そして新人賞ジャージを着るシャフマンの必死の表情・・・純粋にガッツポーズだけで選ぶに至ったのがこの勝利である。

 

バッタリンはいわば純粋なパンチャー、という表現に相応しい選手だと感じている。クライマーほど登りには強くなく、スプリンターほど加速力に優れているわけではない。

そういったピュアパンチャーと言うべき選手は、なかなか勝利に恵まれないことが多い気がする。ディエゴ・ウリッシならばよりクライマーに近く、サイモン・ゲランスならばよりスプリンターに近い脚質のように感じるが、このバッタリンや、来期はニッポ・ヴィーニファンティーニへの移籍が決まっているモレノ・モゼールなんかは、アタッカーとしては優秀であっても、なかなかそれが勝利に結びつく機会が少ないように感じた。

だからこそ、今回のこのジロの勝利は輝かしく感じる。来年はカチューシャ・アルペシンへと移籍するという。今年は散々だったカチューシャに、勝利の星を届けることができるか。そして個人的には・・・モゼールにも来期、頑張ってほしいところだ。  

 

 

7.エステバン・チャベス&サイモン・イェーツ(ジロ・デ・イタリア 第6ステージ) 

Embed from Getty Images

勝ったのはエステバン・チャベス。序盤から形成された大規模な逃げ集団に乗り込み、残り5kmから独走を開始した彼は、かつてのジロ・デ・イタリア総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位の実力を遺憾なく発揮し、エトナの山を制した。

 

が、同時に彼を追っていたメイン集団から残り1.5kmで飛び出したサイモン・イェーツこそが、この日の最強だったように思える・・・いや、今年のジロ・デ・イタリアの、第17日目までの最強でもあったのがこの男だ。

この日の彼の走りもまた、その最強に相応しい走りだった。あまりにも鋭い加速に、誰もついていくことができない。一気にチャベスとの距離を詰め、追い付いたら今度は彼を全力で引っ張り上げる。

そして最後はチャベスに前を譲る。力尽きたわけではないのは、両手を大きく広げたその余裕のガッツポーズからよくわかる。勝利はエースに。そして自らはマリア・ローザを手に入れた。ミッチェルトン・スコットの、完璧なまでの勝利だった。

 

この後サイモンは合計3回の勝利を手にする。このエトナでの実質的な勝利も含めれば4勝となり、エリア・ヴィヴィアーニと並ぶ勝利数となる。クライマーでこの勝利数を稼げるのは、3大グランツール制覇者くらいなものだ。

しかし、いずれの勝利にも、今回の「勝利」にも当てはまるのは、その朝貢劇的な勝ち方――力でライバルたちを捻じ伏せ、誰にも影を踏ませないその強烈な加速だった。それがゆえに、彼は最後には糸が切れたように力尽きるのであった。

 

 

8.リチャル・カラパス(ジロ・デ・イタリア 第8ステージ) 

Embed from Getty Images

聖地モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノに至る緩やかな山道は、今大会最初の大雨に見舞われた。

2日前のエトナ、そして翌日のグランサッソという、2つの超級山岳に挟まれたこともあり、この日の登りは総合争いにおいては重要なファクターにはならないと予想されていた。その分、序盤からのアタック合戦が激しく、レース開始から1時間半が経過したのちにようやく落ち着いた逃げ集団は7名。その中に紛れ込んでいたチーム・ロットNLユンボの若きクライマー、クーン・ボウマン(オランダ)がラスト2kmまで粘り続けた。

しかし、彼の200kmを超える逃げをあえなく吸収したのが、このカラパスだった。新人賞ジャージ「マリア・ビアンカ」を身に纏った彼は、雨のモンテヴェルジネの登りで集団から一気にスパートをかけ、先行してボウマンを飲み込みにかかったミカエル・シェレル(フランス、AG2R)をも一瞬のうちに抜き去り、先頭で頂上に辿り着いた。

 

昨年のブエルタでエクアドル人として初めてグランツールに出場し、今回のジロでエクアドル人として初めての勝利を掴んだカラパス。南米の小国に新たな夢を抱かせる若き英雄は、激しい雨に抗うかのように、両腕を水平に掲げた。

 

この大会を総合4位で終えたカラパスは、新人賞ジャージこそミゲルアンヘル・ロペスに奪われたものの、24歳で迎えた人生2度目のグランツールの成績としては申し分のないものであった。続いてブエルタ・ア・エスパーニャではキンタナ・バルベルデのダブルエースを支えるアシストとして十分すぎる働きも示した。

さらに言えば、3月のパリ~ニースでマルク・ソレルが総合優勝を果たせたのは、このカラパスの献身的なアシストによるものだった。

エース格の揃うモビスターでは来年もアシストとしての役割が中心とはなりそうだが、2年後・3年後には確実にグランツール総合表彰台に登っていそうなポテンシャルをもつ男である。

 

 

サム・ベネット(ジロ・デ・イタリア 第21ステージ) 

Embed from Getty Images

この画像については、まっすぐ掲げられた右腕の美しさもさることながら、背景にコロッセウムを背負ってのゴールというフォトジェニックさを評価した。また、そういった数十年に一度しかないチャンスをモノにしたベネットという男の勝負強さへの評価も含んでいる。

昨年のジロも彼は強かった。しかし、惜しいところで勝ちに届かないことが続いた。そこから、今年はヴィヴィアーニに並んでの3勝。しかも、誰もがうらやむグランツール最終ステージの勝利を奪い取って。

この日のヴィヴィアーニは完璧だった。ミケル・モルコフが先頭を走るマチェイ・モホリッチの番手につけ、彼にリードアウトされる予定だったニッコロ・ボニファツィオを肩で押しのけた。モルコフの後ろにはサバティーニ、そしてヴィヴィアーニ。必勝の布陣だった。

しかしそのヴィヴィアーニの後ろに、ベネットはいた。居場所を失ったボニファツィオがなんとか番手を下げ、ヴィヴィアーニの後ろに陣取ろうと割り込んでくるが、これをベネットもしっかりと肩でガードした。

そして、ラスト150m。ヴィヴィアーニにとって最も得意とする距離で、彼は発射した。何の障害もなかった。ひたすら、全力でペダルを回し、ゴールに向かうだけだった。

が、その背後からベネットが飛び出した。ヴィヴィアーニに落ち度はなかった。ただただ、ベネットが強かった。

最後にはヴィヴィアーニも諦めて力を抜いた。そして、ベネットは右手を突き上げた。

 

今年の「最強」を真正面から打ちのめした瞬間だった。

直近のツアー・オブ・ターキーでも、あまりにも強すぎてスプリントが独走に変わってしまうような走りを見せていた。

チームメートにサガンがいる関係で、そこまでトップスプリンターたちと正面から戦う機会は多くないものの、来期はより強力なスプリンターたちとのガチンコ対決を見てみたい気がする。

それだけの進化を、今年のこの男は成し遂げている。

 

 

10トームス・スクインシュ(ツアー・オブ・カリフォルニア 第3ステージ) 

Embed from Getty Images

一度、ノミネートから外すつもりだったスクインシュだったが、やはり入れることにした。この日の彼のゴールはあの「奇妙なダンス」の話題でもちきりで、その姿の写真を最初は考えていたのだが、上記の写真こそがこのときの彼の想いを、情熱を最も伝えていると考え直し、改めてノミネートした。

 

スクインシュは、キング・オブ・カリフォルニアの1人である。

コンチネンタルチームに所属していた2015年、キャノンデール・プロサイクリングに移籍した後の2016年と共にステージ優勝を飾っている。しかもいずれも、逃げ切り勝利。

(このときのガッツポーズも共に印象的だ)

当然、2017年も彼は勝利を狙って山岳の第2ステージで逃げに乗った。チャンスは十分にあった。しかし彼はこの日、下りで落車に見舞われてしまった。

すぐに立ち上がり、バイクに跨ろうとするスクインシュ。しかし、その足元はふらつき、脳震盪の恐れを感じたスタッフによってドクターストップがかけられた。

 

スクインシュはこのとき、悔しさに溢れていたことだろう。3年連続のステージ勝利の可能性は十分あったのだから。

 

今年のこの勝利は、前年の悔しさを晴らすための2年越しのリベンジ戦だった。だからこそ勝利を確信してからの数十秒は、彼にとって2年分の喜びを示す必要があった。それがゆえのあのダンス、それこそ転倒してしまいかねないバランスの崩し方をするほどの喜びに溢れたダンスだったのだ。

そして、最後は両腕を掲げて感慨に浸る。勝利というのがこれほどまでに喜びに満ち溢れたものなのだ、ということを我々に思い知らせてくれるガッツポーズだった。

 

そして、その背後で悔しさにハンドルを殴るのが、まだ22歳の若き才能ショーン・ベネットであった。

アクセオン・ハーゲンスバーマンの一員として、チームメートのジャスパー・フィリップセンとルイ・オリヴェイラと共に連日のスプリントに参加していたアメリカ人。フィリップセンもそうだが、アクセオンの若手選手たちは皆、ワールドツアーの大先輩に怯まぬ戦いを挑み、そして負けたときは本気で悔しがる。その欲の深さは、大成の為の重要なファクターとなるだろう。

このベネットは来期はチームEFエデュケーションファーストへと移籍する。今年もアクセオンからは、有望な選手が何名も輩出されワールドツアーへと昇格していっている。彼らの姿をこれからも追っていこう。

 

 

 後編に続く。

スポンサーリンク