ツール・ド・フランスの7月!
・・・だが、逆に言うと、ツール・ド・フランス以外のレースはそこまで多くないシーズンでもある。
いや、小さなレースはいくつかあったりはするのだが、DAZNもお休み期間だったりして、あまりちゃんと見れていない。そもそもツール・ド・フランスを連日見ていて、他のレースを見る余裕などなかった。
その中でも、個人的に注目していたオーストリアとワロニーを厚くレビュウしてみる。
とくに今年のワロニーは終盤、実に手に汗握る展開を楽しめたので必見である。国際映像の関係で第4・第5ステージとはいえ、DAZNで英語実況でのみだが見られるので、確認しておこう。
・・・ライドロンドン・サリークラシック? 確かにワールドツアーレースだが、JsportsでもDAZNでも放送しておらず、軽く見た感じ特に意外性もなく集団スプリントで終わったようなので、とくに取り上げずに終えておく。
アッカーマンが勝った!ということ自体は凄いこと。けど、それ以外に特に語ることもないと思うので・・・。
ツアー・オブ・オーストリア(2.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:オーストリア
サイクルロードレース界ではマイナーな、しかし近年その実力を示しつつある国、オーストリア。
元々国土の6割以上をアルプス山脈が占める「山岳の国」。今年の世界選手権も、このオーストリアの西方、アルプスの只中にあるチロル・インスブルックで行われる。
4月で開催されたツアー・オブ・ジ・アルプスもこのオーストリアとイタリアを舞台にして行われるレースであり、多くの有力選手が出場し、活躍した。
このツアー・オブ・オーストリアもまた、ツール・ド・フランスの裏で開催され、マイナーな部類に入るレースではあるものの、毎年非常に豪華な顔ぶれによるワールドツアーさながらの激戦が繰り広げられる。
今年も各ステージ、ワールドツアーの選手たちばかりが目立っている印象。とくにバーレーン・メリダとアスタナ・プロチーム。その中でもモホリッチ、ヴィスコンティ、ルツェンコがひたすら連日活躍していた。
逃げですら彼らが目立ってたからなぁ。。。
その中でも注目したいのはまず、バーレーンのアントニオ・ニバリの勝利。
🇦🇹 #TourofAustria
— Team Bahrain Merida (@Bahrain_Merida) 2018年7月13日
➡️ @AntonioNibali first win as a pro 📸 Credits Mario Stiehl pic.twitter.com/80ZNS4EOv8
プロ初勝利だという。昨年、兄の引き合いによりワールドツアー入りを果たし、カタルーニャ1周で積極的な逃げを見せたほか、ジロ・デッレミリアではヴィスコンティの勝利を導く重要な役割を果たした。
26歳という年齢はもう若手とは言えない年齢ではあるものの、これからも、1クラスやHCクラスを中心に、地味かもしれないが重要なルーラーとしての活躍や逃げに期待したい。
また、第5ステージでは超級グロースクロックナーでプロコンのピーター・ウェーニングが勝利したものの、彼はワールドツアーチームでの経験が長いのでそこまで不思議ではない。むしろ、2位につけたアレクサンデル・フォリフォロフ(ガスプロム・ルスヴェロ)に注目したい。2年前ジロの山岳個人TTで勝利し、世界のファンを驚かせた男だが、それ以降の勝利は無し。しかし、今回の活躍で、再び台頭してくる可能性を見出せる。
まだ26歳。ルスヴェロは、先月のジロ・チクリスティコ・ディタリアでも総合優勝を勝ち取った。チームとしても今後期待していきたい。またジロに出ないかなぁ。
Today Alexander Foliforov finished second 🥈on the fifth stage of @TourOfAustria 🇦🇹💪#GazpromRusVelo pic.twitter.com/dS2eUbJ6uu
— Gazprom-RusVelo (@RusveloTeam) 2018年7月11日
そして何よりも、超級キッツビューラーホルン超級フィニッシュで勝利し、そのまま総合首位の座を奪われずに最終日までキープし続けたベン・ヘルマンスの活躍が嬉しい。
Nobody could take the #tourofaustria leader jersey away from us and our leader @hermansben , no matter how fiercely they attacked. “It’s amazing what this team did against the pro Tour teams” said Hermans. One more stage! pic.twitter.com/vTl0MyG1w0
— IsraelCyclingAcademy (@yallaACADEMY) 2018年7月13日
元BMCで、1週間程度の短いステージレースではかねてより成績を出していた。昨年2月もツアー・オブ・オマーンを区間2勝&総合優勝と注目を集めた。
十分にまだまだ成績が出せる中での、イスラエル・サイクリングアカデミーへの移籍。これは「降格」ではなく、ジロ出場を確定させた同チームが「強化」の為に呼び寄せたのだということは明白だった。
しかし、そんな期待に反して、エースとして出場したジロ・ディタリアでは全く活躍することができなかった。エースナンバーを切られなかったプラサの方がよっぽど調子の良いところを見せていた。
悔しい思いとプレッシャーに見舞われていたであろうヘルマンスが、このオーストリアの地で栄光を掴めたのは非常に嬉しかった。
1クラスとはいえ、これだけの面子が揃っている中でのこの成績は、チームとしても十分に大きなものである。
なお、バーレーンと同じくらい濃い面子を揃えてきていたディメンションデータは全く活躍せず。こういうところで稼がないと・・・今年はツール・ド・ランカウイでも勝ててないし・・・アスタナもバーレーンもすでに今年21勝を記録している中で、ディメンションデータはまだ5勝である。やばい。(なおチームEFは4勝)
ツール・ド・フランス(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス
詳細なレビューはこっちの記事でやっているので参考までに。
記事の中でも語っているが、今回のツールはここ数年の中ではとくに面白いものだったと思う。少なくとも総合争いは。(スプリンター対決はアルプスでの大量リタイアの為に終盤、面白くなくなってしまったのは否めない)
その要因はゲラント・トーマスが首位を守り続けたことで、「何が起こるかわからない」というハラハラドキドキな思いを感じられたことか。それはライバルたちにとっても同じようで、フルームが首位のときよりもチャンスがあると感じて繰り返し攻撃的な動きが繰り広げられた。言ってしまえば、「ブエルタのような展開」が巻き起こったのだ。
そして、トーマスの感動的な勝利のガッツポーズ。抑圧してきた感情を爆発させたかのようなこの「タイムトライアルでのガッツポーズ」は今年のガッツポーズ選手権優勝候補の1つだと思われる。
あとは個人的に感動的だったのはデゲンコルブの勝利。大きな勝利としては3年ぶり。ミラノ~サンレモ&パリ~ルーベを制したあの伝説の年の翌年に大事故に巻き込まれ、以来、最盛期の力を発揮できずにいた彼が、今年、この「ミニ・パリ~ルーベ」ステージとも言える第9ステージで勝利した。そのときのこの、歓喜の表情。
フルームも好きなんだけれど、やっぱりこういう、感情の爆発を見られる瞬間こそが、ロードレースを見ていて良かったなと感じる瞬間である。
ツール・ド・ワロニー(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー
その名の通り「ワロン」地方。すなわち、ベルギー南部のフランス語圏、「フレッシュ・ワロンヌ」などのアルデンヌ・クラシックの舞台となる丘陵地帯を舞台とする。
細い道や短くも急勾配な坂が用意され、過去の総合優勝者もファンアフェルマートやディラン・トゥーンスなどのパンチャーが名を連ねる。とはいえ、比較的スプリントで決まるステージも多いため、メールスマンやテルプストラのような(比較的登りもいける)スプリンター・クラシックスペシャリストが勝つことも多い。
今大会はどうか。ゴール前3kmに小さな丘が用意された第2ステージで、絞り込まれた集団の中でのスプリントを制したウェレンスがまずは総合首位に立つ。4年ぶりの出場で、過去最高総合順位は8位の彼だが、年々パンチャーとしての力量を増してきている彼であれば、そのまま総合優勝する可能性は十分に高く、ほぼ決まったと言っても良いだろう。そんな風に、思われた。
が、そこはワロニー。甘くはない。第3ステージでエイキングを逃すものの集団の中で先頭を取り2位、そして第4ステージではしっかりと勝利したテレネット・フィデア・ライオンスのクインテン・ヘルマンスがウェレンスを逆転して3秒差で首位に立った。
しかし、ウェレンス、そしてロット・スーダルもまた、簡単に総合優勝を奪われるタマではない。なんと、最終ステージの中間スプリントポイントのボーナスタイム3秒を獲得することに成功。こうして、ヘルマンスとウェレンスが「同タイム首位」に立つこととなった。
タイムトライアルの存在しないステージレースにおける同タイム時の順位の付け方は、微妙にレースごとにルールが違う可能性があるが、おそらくは、各ステージの順位を合計してより小さな数字を出した方が上位とされるはずだ。
そうして見てみると、
ウェレンス:19位ー1位ー8位ー22位 合計50位
ヘルマンス:78位ー15位ー2位ー1位 合計96位
ということで、このまま両名のタイム差がつかない形で最終ステージが終了したときに、ボーナスタイムもなければウェレンスが勝つことになる。
しかし、問題はヘルマンスのスプリントである。第3、4ステージは誰よりも強いスプリントを見せたヘルマンス。なんとしてでもこれを抑えなければならない。
そうして迎えた最終日最終ストレート。集団スプリントに挑むヘルマンス。
(残り1kmから再生。[黄緑でなく]黄色いジャージがヘルマンス)
向かって右側から番手を上げ、前を塞がれながらもなんとか左手に進路を変えて、少しでも順位を上げようとするヘルマンス。
勝てなくてもいい。3位以上に入れば、ボーナスタイムで総合優勝が決まる・・!
と思っていたところで、向かって左から一気にまくりあげてくるロット・スーダルの選手。これは、もちろんウェレンスではない。ウェレンスにそこまでピュアスプリントが得意なわけではない。これは・・・チームメートのデブッシェール! ウェレンスの総合首位を守るべく、そのボーナスタイムを奪うべく、最高の追い上げでそのまま勝利を掴んでしまった!
今年22歳の若きクイックステップのスプリンター・ホッジも惜しかったが、7歳年上のベテランライダーにはギリギリで敵わなかった。ヘルマンスもさすがの伸びを見せたが、最後の最後で、昨年ジロでも健闘していたアフリカンスプリンター・ギボンズに差されてしまった。
これで4位。ボーナスタイムをあと一歩で得られなかったヘルマンスは、残念ながら総合首位には届かなかった。
しかし、十分過ぎる結果だ。ステージ1勝に総合2位。もちろん新人賞に、ポイント賞も獲得した。
実はこの選手、というかこのテレネットというチーム自体、本業はロードレースではなく、シクロクロスである。ヘルマンス自体も、3年前のシクロクロスヨーロッパ大陸選手権U23部門王者であり、2年前のU23世界選手権銅メダリストではあるが、ロードレース自体はまだまだ経験は多くない。その中で、これだけの成果を出したのだ。
同じような選手として、今年ストラーデ・ビアンケ3位という驚異的な成績を叩き出し、現在進行形のポストノルド・デンマークルントでも大活躍中のワウト・ファンアールト(フェランダース・ウィレムスクレラン)がいる。彼も現シクロクロス世界王者である。
シクロクロス選手がロードレースで活躍するのは昔からだが、このファンアールト、そしてヘルマンスといった選手は、その中でも今、注目すべき選手だと言えるだろう。
まだまだ若さの残る顔立ちのヘルマンス。だがその中に秘めた可能性は無限大だ。