4つの重要なツール前哨戦が繰り広げられた6月のサイクルロードレース。
今年のツールの主役とも言うべき選手たちがそれぞれの舞台で活躍していくのを見ると、否が応でも気持ちが盛り上がっていくのがわかる。
また、6月最終週に行われる各国ナショナル選手権もまた熱い!
とくにイタリア選手権なんかもリアルタイムで見ていて非常に面白い展開(ヴィヴィアーニが!激坂を!登って喰らいついて勝った!)だったものの、泣く泣く割愛。全日本選手権のみ扱うことにしました。
また、今月の注目選手はまたコフィディスから。書いた当時はまだ出場が決まっていなかったけれど、しっかりと評価されて見事参加が決まったあの人。
ぜひ、勝利を掴んでほしいね。
- ツール・ド・ルクセンブルク(2.HC)
- ハンマー・リンブルフ(2.1)
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
- ジロ・チクリスティコ・ディタリア(2.2U)
- ツール・ド・スイス(2.WT)
- ツアー・オブ・スロベニア(2.1)
- ルート・ドクシタニー(2.1)
- 全日本選手権ロードレース(NC)
- 今月の注目選手
ツール・ド・ルクセンブルク(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ルクセンブルク
シュレク兄弟、ボブ・ユンゲルスを始め、小国ながらも才能ある選手をコンスタントに輩出し続けているルクセンブルクで行われるステージレース。昨年はルクセンブルク人ジャンピエール・ドラッカーとグレッグ・ファンアフェルマートのBMCレーシングチームが席巻したものの、今年はワールドツアーチームの出場はなし。
よって、ここ最近非常に調子がよく、スプリントも石畳もTTもこなせるコフィディスのラポートが他を圧倒してしまうのではないか、と思っていたのだが・・・細かなアップダウンと登りゴールが多く配置された今年のレイアウトは、ラポートにとってはやや厳しかったのかもしれない。
結果としてステージ2勝、総合優勝を成し遂げたのはワンティのパスカロン!
スプリンターにしては軽量級のこの選手は、過去にも登りゴールでウリッシやコルブレッリ、ヴュイエルモなどを下して勝利を掴んでいる。
今までは1クラスの勝利ばかりだった彼だが、今回HCクラスでの勝利を複数獲得。今年のツール出場の候補となっており、今後の活躍にも期待である。
ハンマー・リンブルフ(2.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:オランダ
3度目の開催、そしてリンブルフとしても2度目の開催ということで、各チームとも、こなれてきたというか、ハンマーシリーズの戦い方を心得てきた、という印象。序盤から安易に逃げを許さず、毎周回スリリングなアタック合戦が見られるパターンも多くなってきた。
ロード以上にチームのタレント層の厚さが鍵となりそうなレースなので、今後もっと注目が集まり、各チームとも本気のメンバーを揃えてこれるようになってほしい。今回は層の厚かったクイックステップが、安定して上位に入り優勝を果たした。
独走力の高いルーラー系が活躍しやすい競技だとも思うので、裏開催のドーフィネなどには出場しない、クラシックスペシャリストたちが軒並み出場するようになると面白いところ。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス
言わずと知れた、ツール・ド・フランス前哨戦。今年も、ツール本戦と同じ距離を走らせるチームTTや、短距離山岳ステージを用意するなど、本戦を意識したコースレイアウトとなった。
ツール本戦が例年より1週間、開催が後ろ倒しになったことにより、裏開催のツール・ド・スイスに出場するトップレーサーたちも非常に多く、それ故に見所は例年よりも少ないという意見もあったようだ。
しかし、そういうときこそ、寧ろ面白いレースが見られたりするものなのだ。
たとえば、今年ずっと不調だったダニエル・マーティンの、完全復活を宣言するような勝利。
前日の2位で「復調してきたけれどやっぱりマーティンだな」という印象を覆すかのようなこの勝利は見ていてとても気持ちが良かった。
また、たとえばゲラント・トーマスの、今年契約最終年度であることを意識したかのような飛ぶようなアタック。今までの彼とはまた違ったスタイルのようにも感じられた。
そんなトーマスを黙々と牽引し続けた、タオ・ゲオゲガンハート。まだ若手、という印象が拭えなかった彼の、ツアー・オブ・カリフォルニアに続く「スカイ最強トレイン」としての覚醒の兆しを、我々はこのレースで目に焼き付けることができたのだ。
そしてたとえば、ペリョ・ビルバオの、ジロ総合6位から引き続きとなる活躍に、アスタナの新エースとしての可能性を見出したりなど・・・
個人的にはロマン・バルデとAG2Rの走りの状態の良さに満足している。
相変わらずライバルを突き放す決定的なアタック力には欠けているものの、チームでしっかりとチャンスを作り、下りで後続を突き放す攻撃的な走りは健在。結局はその後の平坦で捕まえられてしまったものの、まだ今は調整段階。今年のツールは下りフィニッシュも多いため、バルデとしても狙ってくることだろう。
あとはラトゥールやドモン、ヴュイエルモといった山岳アシストたちの活躍と、今大会で言えばギャロパンやナーゼンやディリエといった平坦アシストたちの働きとが噛み合えば、今年のツールは非常に大きな可能性を持っていると言えるだろう。
ジロ・チクリスティコ・ディタリア(2.2U)
U23レース 開催国:イタリア
ベイビー・ジロとも。しばらく開催がなかったが2017年に復活。
詳細は以下のリンクを参照のこと。
ジロ・デ・イタリアU23(ベビージロ2018)レースレポートまとめ - サイバナ
昨今、キンタナから始まりチャベス、ガビリア、そして昨年のベルナルなど、ひたすら若手のコロンビア人選手が活躍しているが、今回のベイビージロでもコロンビア人選手が大活躍!
台頭したのはやはり山岳。第4ステージ、登坂距離10km、平均勾配8%の難関山岳フィニッシュで、コロンビアナショナルチームとして出場したアレハンドロ・オソリオとダニエル・ムニョスが並んで手を繋ぎながらワンツーフィニッシュ。圧倒的な強さを見せつけた。
🚴⚡ Tappa 4 - Classifica | Stage 4 - Classification 🚴⚡
— Giro d'Italia U23 (@giroditaliau23) 2018年6月11日
1⃣ Alejandro Osorio
2⃣ Daniel Munoz
3⃣ Gino Mader#GiroU23Enel pic.twitter.com/PjqAsFzGrV
翌日の難関山岳ステージでも同じくコロンビア人のエイネル・ルビオが勝利。
しかし、このコロンビア人の活躍に待ったをかけるのが、この時点ですでに今期10勝をあげているオランダのコンチネンタルチーム「SEGレーシングアカデミー」。
クーン・ボウマンやファビオ・ヤコブセンなどを輩出するこの若手強豪チームのエース、スティーヴン・ウィリアムズが第5ステージで2位に入る走りを見せてマリア・ローザを獲得。すると翌第6ステージでオソリオが大胆にも逃げに乗り、マリア・ローザを奪還。続く第7ステージの1級山岳山頂ゴールでは逆にオソリオが遅れ、ウィリアムズが独走のまま勝利を飾った。
Bravo @stevierhys_96! #GiroU23Enel @segracing pic.twitter.com/sVIDMGZz9a
— Giro d'Italia U23 (@giroditaliau23) 2018年6月14日
連日のようにマリア・ローザの持ち主が変わる波乱の展開。
この波乱を象徴するのが、午前午後のラインステージとTTステージの二部構成となった最終日。その午前ステージで集団落車が巻き起こり、マリア・ローザのオソリオも大きくタイムを失ってしまった。
そして迎えた最終決戦、22.4kmの個人タイムトライアルは、なんと総合成績の上位15名がそのタイム差ごとに順にスタートし、最初にゴールラインに入った選手が総合優勝となる独特のルールを採用。
個人タイムトライアルでありながらも、熾烈な抜きつ抜かれつが演じられる白熱のバトルとなった。
その中で、最強の走りを見せたのが、ミッチェルトン・バイクエクスチェンジに所属するロバート・スタナード。総合首位ウラソフから2分5秒遅れの総合7位だった彼は、一気に4名の選手を抜き去り、総合3位に浮上。ウラソフとのタイム差も1分以上縮める快走で、ステージ勝利をも手に入れた。
#GiroU23Enel WHAT A RIDE!! @stannardrj wins the stage and time trials his way into third place overall 🌟🌟🌟
— Mitchelton-BikeExchange (@GreenEDGEconti) 2018年6月16日
📷 @twilcham pic.twitter.com/osvnSmEx7B
「ミッチェルトン・バイクエクスチェンジ」はミッチェルトン・スコットの育成チーム*1。今大会で実力を見せつけたスタナードは、晴れて来期からのミッチェルトン・スコット入りを決定付けた。登りも登れてTTも速い彼は、将来有望なオールラウンダーとして2020年代注目の選手の1人となるだろう。
さらに、最終的には総合5位に沈んでしまうものの、強さを見せつけたスティーヴン・ウィリアムズも、8/1付でバーレーン・メリダにトレーニー加入。
来期から2年契約でのバーレーン入りも確定しており、こちらも活躍が楽しみな選手だ。
Really happy to announce that I will step up to WorldTour with @Bahrain_Merida next year, I will begin as a stagiere from The first of August. Thanks to everyone who made this opportunity possible. @segracing @WelshCycling @SD_Sealants @DaveRaynerFund #SafetyNetServices pic.twitter.com/ISqCkpbZyw
— Stevie Williams (@stevierhys_96) 2018年7月12日
ツール・ド・スイス(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スイス
かつては「4番目のグランツール」と呼ばれ、その名に相応しい厳しい山岳ステージを用意するツール前哨戦の1つ。今年はキンタナ・ランダコンビなど、例年以上に豪華なメンバーが集結した。
リッチー・ポート、ナイロ・キンタナ、ヤコブ・フールサンの好調。そして、ガビリアやサガン一強ではなく、コルブレッリやデマールが対抗してくるなど、今年のツールの混戦を予感させる結果となった。
個人的にはやはり、若手の活躍が気になる。
まずはサンウェブのアナスン。獲得標高3500mのクイーンステージで、迫りくるポートらの追撃をかわし、激坂フィニッシュを独走で制した。
24歳のデンマーク人。昨年のツアー・オブ・オマーンでもヘルマンスやコスタを差して登りフィニッシュを制しており、タイプとしてはパンチャーに近い。しかし北のクラシックにも強く独走力も高くスプリントもできるオールラウンダーとしての才能も開花させつつある。今回初のワールドツアー勝利。
また、最終日個人TTを制したのがBMCレーシングのステファン・キュン。25歳のスイス人で、昨年のツールでも初日のTTで好成績を出し、本格的な山岳ステージが始まるまで新人賞ジャージを着用し続けていた。
つい先日、2年連続となるスイス個人TT王者のタイトルも獲得し、その安定感の高さは飛び抜けている。
今年のツールは終盤まで個人TTはないものの、チームTTなどではポートにとってもなくてはならない存在となるだろう。今回のスイスも、ほぼチームTTの成績によって彼の総合優勝が決定付けられたと言っても過言ではない!
ツアー・オブ・スロベニア(2.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:スロベニア
ドーフィネやスイスと比べるとランクは落ちるものの、例年ニバリやマイカなども出場し、厳しすぎない前哨戦として人気を博している。スロベニア自体が、近年はモホリッチやログリッチェなど、強力な選手たちを輩出している。
スイスでポートやキンタナが調子を上げていく裏で、こちらではログリッチェやウランと言った、これまたツールを混戦に導きうる存在が力を示していった。
特筆すべきは、昨年から続く「ひたすら積極的な攻撃」を仕掛けるログリッチェの姿。第3ステージは惜しくもゴール直前で捕まえられてしまったが、翌第4ステージでは実に15km以上を独走して勝利。最終日のTTも安定した走りで勝利を獲得し、2度目の母国最大のレース制覇となった。
登りも下りも独走もイケる、稀代のアタッカーとしての実力を見せつけた。あとは今年、ツールの総合争いでどこまでの走りを見せることができるか。
Planica, Planica za @rogla, ki slavi z navijači. @rogla @LottoJumbo_road celebrating with fans at #tourofslovenia #fightforgreen #ifeelsLOVEnia pic.twitter.com/hWzVOcPpvt
— Tour of Slovenia (@TourOfSlovenia) 2018年6月17日
ルート・ドクシタニー(2.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:フランス
昨年まではルート・ドゥ・スッド(南の道)という名称で知られていた小さなツール前哨戦。今年はピレネー山麓地帯を指す「オクシタニー」の名を取って、この名称へと変更された。
4日間と短いものの、ピレネーの名峰も毎年登場する厳しいステージレース。今年は当初、エガン・ベルナルの出場も噂されていたものの変更となり、代わりにスイスには出場しなかったバルベルデが参加することに。となれば、もはや彼の独壇場であることは間違いない。総合優勝候補のくせに逃げたり、必要ないくらい果敢なアタックを決めたりと、本人的には完全にトレーニング感覚での出場と総合優勝。まあ、昔キンタナとかもそんな感じだったしね!
いずれにせよバルベルデの調子が良くて幸い。今年のツールではしっかりと活躍してほしい!
🏆 @alejanvalverde remporte la 42e Route d'Occitanie !
— La Route d'Occitanie (@RouteOccitanie) 2018年6月17日
🏆 @alejanvalverde wins the 42th Route d'Occitanie!#RDO2018 pic.twitter.com/Ppd1vOaRdo
全日本選手権ロードレース(NC)
ナショナル選手権 開催国:日本
まるで4年前の焼き直しだった。30人を超える大量の逃げが生まれ、シマノレーシングやブリヂストンサイクリングが牽引するメイン集団は追走に失敗した。勝負はメイン集団から抜け出した山本と小石祐馬(チーム右京)、そしてこれを追走する佐野や新城などの小集団に絞られた。
終盤、最も力を残していたのは、2014年覇者の佐野と2014年3位の山本。山本にとっては、4年前の雪辱を晴らす一戦となった。
そして、山本にとっては、小石を振り切って山本・佐野に追いついてきた新城の存在は大きかったことだろう。彼がいることで、山本は失うものはない心境で、最後の登りで思い切り踏むことができた。
調子は完璧だった。山本のペースアップに、佐野はついていけない。みるみるうちにタイム差は開き、やがて、かつて取り損ねた栄光を掴み取った。
キナンサイクリングチーム 山本元喜選手
— jspocycle@ツール開催中🇫🇷 (@jspocycle) 2018年6月24日
全日本選手権ロードレースチャンピオンになりました!!!#jspocycle #全日本ロード pic.twitter.com/0rps7SlKW3
佐野も、最後まで踏み切った。悔しい思いを全身で表した彼に対し、生中継を見ていた視聴者たちは山本に対するのと同じくらいの拍手を送った。
最後に、新城がしっかりと3位でゴールに飛び込んできた。すぐさまが山本がこれを迎え、抱擁する。
4位集団は、一時は9分差をつけられたメイン集団から這い上がってきた入部が先頭を取る。
1月からローラー台でのトレーニングを続け、例年以上に万全の状態で臨んだという入部。まさかの序盤の大量エスケープにより優勝争いから脱落してしまった彼は、誰よりも辛く苦しい思いと共にゴールに飛び込んできたに違いない。
今月の注目選手
ダニエル・ナバーロ(フランス、34歳)
かつてはアルベルト・コンタドールのアシストとして活躍し、5年前にエースとして走ることを望みコフィディス入り。以来、今年で6年目。ツール・ド・フランスには毎年出場し、2013年には総合9位にまで登りつめた。
そんな彼が、約束されていたエースの座を奪われつつある。モビスター・チームから移籍してきた、ホセとヘススのエラーダ兄弟の存在だ。確かに、ここ最近のツールの総合順位は決して良くはなかった。勝利も2014年以来、遠ざかっている。
6/23現在、2018年ツール・ド・フランスの出場候補選手のリストの中に、彼の名前はまだない。
だが、彼には意地があった。コフィディスの山岳エースとして、プロコンチネンタルチーム最強クラスのこのチームの頂点に立つ存在として、長年やってきた男としての意地が。ただ単に山岳逃げで少し目立って、でも勝利に届かない存在としてではなく、ステージレースの総合上位を狙える男としてその名前を売ることに執念を燃やした。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第5ステージ、超級山岳ヴァルモレル山頂フィニッシュ。ダニエル・マーティンが集団を抜け出して見事逃げ切り勝利を決めたこの日、5番目にゴールゲートを潜ったコフィディスジャージの男は、エースのヘスス・エラダではなく、ナバーロであった。
さらに最終ステージでは、最初の1級山岳の登りからアタックを仕掛け、小規模なエスケープグループを形成した。その後の100km以上にわたる道のりの中、少しずつ削られていく逃げ集団に最後まで残り、ラストの1級山岳サン=ジェルヴェ・モン=ブランの登りで、ついに彼はライバルたちを突き放し、単独で山頂に向かうこととなった。
残り1kmを切って、タイム差は20秒弱。もはや、逃げ切りは濃厚だった。
しかし、メイン集団から、まるで殻を破ったかのような勢いで飛び出したアダム・イェーツが、あっという間に距離を縮めていき、残り50m、あとわずかといったところで、ナバーロは敗北を喫してしまった。
4年ぶりの勝利、栄光の瞬間を、彼は目の前で奪い取られてしまったのである。
しかしこの日の走りにより、彼はこのクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで総合9位に入り込む。さらに、続くルート・ドクシタニー(旧ルート・ドゥ・スッド)で総合2位。
ツール・ド・フランスに向けて、十分過ぎる状態の良さを見せつけてくれている。
果たして、今年6年連続のツール出場は達成されるのか。
そしてそのツールで、彼は大いなる栄光を掴むことができるのか。
温かく、見守っていきたい。
*1:両チームの昔の名前とかは調べてはいけない。ひたすらややこしくなるから。