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ガビリアとフルーネヴェーヘン、真の最強スプリンターはどっち?

今年のツール・ド・フランスも第1週目を終えた。

初日から落車やトラブルが頻発し、総合争いの面々もタイムを失う波乱の展開。

しかし、コース自体は近年稀に見る平坦中心の構成。スプリンターたちにとっては大きなチャンスとなる平坦ステージが全部で5つ。そのうち、大きなトラブルなくある程度の役者がそろった状態で集団スプリントが行われたのが、第1・第4・第7・第8ステージの4つだった。

その4つのステージで勝利を分け合ったのが、今年初出場・昨年ジロ4勝+ポイント賞のフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップ・フロアーズ)と、昨年シャンゼリゼ覇者ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、チーム・ロットNLユンボ)。それぞれ2勝ずつを挙げ、「最強スプリンター決定戦」は、現在のところ引き分けの状態で2週目を迎えることとなった。

 

実際に、ガビリアとフルーネヴェーヘン、どちらがより強いのか。

今回は上記4ステージを振り返りながら検証してみる。

 

 

 

過去の戦績

今大会の振り返りを行う前に、2人のこれまでの戦績を見てみたい。

まず、ガビリアは言わずと知れた、急成長中の若手最強スプリンターである。

1994年生まれで今年24歳。元々はトラックレースのオムニアム種目金メダリストでもあり、クイックステップにトレーニーとして参加していた2015年には、ツアー・オブ・ブリテンにてグライペルやボアッソンハーゲンなどの並み居る強豪を抑えての勝利を果たしている。

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クイックステップへの正式加入を決めた翌2016年には、ティレーノ~アドリアティコで同年代のライバルであるカレブ・ユワンを退け、パリ~トゥールではミラノ~サンレモ覇者アルノー・デマールを打ち倒した。WTクラスも含めた年間通算8勝は、プロとは思えない戦績である。

2017年には初めてのグランツールとなるジロ・ディタリアにも出場。同じ南米出身のマクシミリアーノ・リチェセのリードアウトを頼りに、手を付けられない強さを発揮して4勝。ポイント賞「マリア・チクラミーノ」も獲得する。

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今年は怪我にも悩まされ、思うように結果を出せない時期もあったが、5月のツアー・オブ・カリフォルニアではサガン、ユワン、キッテル、クリストフらを相手取ってステージ3勝という圧倒的な戦果を叩き出す。今大会で勝利したスプリンターは彼だけだ。

今年ツール初出場。しかし、初出場ながらも今大会最も勝利数を稼ぎだす可能性も十分にあると噂される、「現役最強」候補に早くも登りつめている。

 

 

一方のフルーネヴェーヘンは、ガビリアほどの派手な経歴は持ち合わせていない。

1993年生まれの25歳。現チームに移籍してきたのは2年前。エネコ・ツアーではブアニやサガンなど一流スプリンターたちを前にして1勝するも、その他の勝利は1クラスレースが中心であり、実力派認められていたものの、そこまで目立つことはなかった。

そんな彼の名を一躍有名なものにしたのが、昨年ツール・ド・フランスの最終ステージ、シャンゼリゼ・フィニッシュであった。誰もが早すぎると感じた、残り300mからの飛び出し。しかしそのスピードを緩めることはなく、猛追するグライペルを振り切っての、見事なパワースプリントであった。

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今年に入ってからも好調は止まらず、出場した6つのステージレース全てで勝利。合計11勝は、ワールドツアーチームのスプリンターの中では、ヴィヴィアーニに次ぐ勝利数であり、今期の勢いだけで言えば、すでにガビリアを凌駕している。

そんな彼が、今回のツール・ド・フランスで活躍しないわけがない。やはり彼も、実績は少なくとも今大会の「最強」候補なのだ。

 

 

それでは実際に、今大会の4つのステージで、ガビリアとフルーネヴェーヘンがどのように勝利していったのかを見ていこう。

 

 

 

第1ステージ

ラスト10kmで大規模な落車が発生し、リッチー・ポートやアダム・イェーツと共に、アルノー・デマールもまた、足止めを喰らってしまった。デマールは集団復帰を諦め、メイン集団はデマール抜きでの最強決定戦を行うことに。

チーム力において最強はクイックステップ。ラスト1kmの時点でアシストを5枚も残していた。

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Jspots公式ハイライト。ラスト1kmとなる4分10秒~から再生。

 

ボブ・ユンゲルス、ジルベール、ベルギーチャンピオンジャージのイヴ・ランパールトなどの強力なサポートの末、最後にアリエルマクシミリアーノ・リチェセの牽引に導かれて、ラスト200m。最高のタイミングでガビリアは放たれた。

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最高速度はサガンやキッテルの方が上だった。しかし、チームメートたちが作り上げた完璧な状態からのスプリントで、ガビリアは人生最初のツール・ド・フランスの1日を、勝利で終えることができた。

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第4ステージ

第1ステージと異なり、集団牽引に力を使い果たしてしまっていたクイックステップの面々は、ラスト1kmの段階になっても千々に乱れており、集団の前方に固まることはできずにいた。

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ラスト1kmの空撮映像。青丸で囲ったのがクイックステップの選手。一番前にいる二人が、ガビリアを引き連れるリチェセ。Jsportsより。

 

しかし、リチェセだけは、常にガビリアの前にいた。そして、ゴールスプリント直前では、集団の中から群衆をかき分け、ガビリアをしっかりと先頭にまで運び上げていった。

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ハイライト映像ではカットされているが、集団の中に埋もれていたガビリアを、リチェセがしっかりとコースを見つけて運んでいっている。

 

まさにリチェセは最強のアシストである。そのまま加速したリチェセは、やはりラスト200mまでガビリアを導き、そして無敵のスプリントが放たれた。

この日はグライペルの伸びもよかった。サガンも含め、写真判定にもつれ込んだ。しかし、それでもガビリアは勝つことができた。リチェセという、最強のアシストがいたから。

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第7ステージ

この日もまた、リチェセの強烈な牽引により発車することのできたガビリア。

ただしこの日は、ややリチェセが外れるのが早かった。ガビリアが最も得意とする「200m」ではなく、「250m」からの発車。

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それでも、サガン、クリストフ、デマールといった強豪を抑えることはできたガビリア。

しかし、「オランダ選手権の疲れ」からの回復ができつつあるというフルーネヴェーヘンが、このラスト250mで実力を発揮して見せた。クリストフを背後からまくり上げ、一気に加速した彼は、ガビリアに対し圧勝とも言える勝利を掴んだ。

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第8ステージ

第8ステージもまた、リチェセがガビリアのために集団から抜け出そうとスパートを仕掛ける。

しかし、ここで、抜け出したリチェセにガビリアがついていけないというアクシデント!

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結果、2人の間にサガンが入り込み、ガビリアはその後ろでグライペルとのやり合いを経て、最終的に降格の憂き目に遭った。

このタイミングでうまくリチェセの背中に乗れていれば、この日もガビリアの勝利だったかもしれない。

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最後、やはり「残り250m」でグライペルの背中から飛び出したフルーネヴェーヘンが、完全復調した最高のスプリントでもってライバルたちを打ち倒した。

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まとめ

ここまで振り返ってみて、結論めいたものを出すとすれば以下のような形だ。

  • リチェセ最強! 運び屋としても優秀で、今大会アシストの中では最もスプリント力の高い選手である。
  • ガビリアも残り200mから放たれたときの強さは圧倒的。今大会、サガングライペルたちよりも強いのは間違いない。ただしリチェセがいないと最適なポジションを取れない。
  • フルーネヴェーヘンも疲れを残していた序盤はともかく、中盤以降は無敵のスプリント力。また、アシストがほぼいない中、単独で好位置をキープできる強みもある。

 

現時点では、純粋な力量としては復調してきたフルーネヴェーヘンが、ガビリアを凌駕ているといっても良さそうだ。

リチェセさえ万全の状態であればガビリアにも勝機は十分あるが、逆にリチェセなしの状態では厳しい。

このままの状態で進めば、残り3つの平坦ステージ、すなわち第13・第18・第21(シャンゼリゼ)においても、フルーネヴェーヘンが最有力となりそうだ。

 

しかし、元々昨年のジロのガビリアは、単独で狭い隙間を縫って強烈なスプリントをする姿も見せていたりした。

今年はシーズン当初より「完璧」という状態ではこれていないガビリア。この3週間の間に調子を取り戻すことができれば、単独でもフルーネヴェーヘンに打ち勝つだけの走りを見せることは十分可能だろう。

 

 

ガビリアとフルーネヴェーヘン。

台頭してきた「新時代のスプリンター」のうち、今大会最強の名を手に入れるのはどちらか。

また、ここまで苦しい戦いを強いられ続けているキッテル、グライペルカヴェンディッシュなどは復活を果たすことができるのか。

 

3週間の戦いはまだまだ続く・・・。