読み:チーム・ロットエヌエル・ユンボ
国籍:オランダ
略号:TLJ
創設年:1984年
使用機材:Bianchi (イタリア)
2017年UCIチームランキング:16位
(以下記事における年齢はすべて2018年における数え年表記となります)
2018年ロースター
独走力の高いメンバーが多いのがこのチームの特徴。その割にはチームTTは大して強くなく、どちらかというと「逃げ」で目立つことが多い。
ただ最近はグランツール総合争いを狙える選手が増えてきた。ヘーシンクはもとよりツール総合上位に入るなどの成績を出しているベテランではあるが、2016年ジロでクライスヴァイクが台頭し、2017年はログリッチェがオールラウンダーとしての覚醒を迎えつつある。さらにジョージ・ベネットがまさかのカリフォルニア総合優勝を成し遂げて、ツールでも強い走りを見せた。
スプリントでもフルーネヴェーヘンが手堅い成績を出しつつシャンゼリゼも制覇。2018年はスカイからファンポッペル弟も加入し、さらなる強化が図れることだろう。
ただ飛び抜けた才能がない分、UCIランキングという意味では低迷してしまった2017年シーズン。確実な総合上位の連発と、ステージ優勝だけでなくクラシックでの上位入賞を狙っていきたい。
注目選手
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、29歳)
脚質:オールラウンダー
元スキージャンプのジュニアチャンピオンという異色の経歴をもつ選手。2016年ジロ初日の個人タイムトライアルで、トム・デュムランにコンマ差以下のタイム差で2位に喰らいつき、さらには第9ステージの40km個人TTでは優勝まで獲得したことで一気に名前が広がった。
このときはまだTTスペシャリストとしての名の売れ方だったが、年が明けた2018年、まずはヴォルタ・アン・アルガルヴェで総合優勝。さらにはティレーノ~アドリアティコ総合4位、バスク1周総合5位、ロマンディ総合3位と、TTを含むステージレースで次々と上位入賞を果たした。
そしてツール・ド・フランス。山岳ステージでも積極的な逃げを見せ、第17ステージではついにステージ優勝。さりげなく山岳賞ランキングでも2位につけるなど、山での適性の高さも見せつけた。
それゆえに今、デュムランに次ぐTT系オールラウンダーとして、ポスト・フルームの最有力候補の1人として見ることができそうだ。
ちなみにクライマー同士のスプリントにおける優位性、またダウンヒルでの攻撃的なスタイルなども特徴である。
山岳TTの様相を呈したベルゲン世界選手権では銀メダルを獲得。2018年インスブルックも登り含みのTTとなりそうなので、期待が持てる。
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、28歳)
脚質:クライマー
2017年ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝。マウント・ハミルトンを越える第2ステージでマイカと同タイムの区間2位、マウント・バルディ頂上ゴールの第5ステージでもマイカに2秒遅れの区間3位。ただ第6ステージはベネットが苦手な個人タイムトライアルで、昨年は優勝者デニスから2分近く遅れ、総合3位から9位へと大転落を経験していた。
だから、まさかベネットが来るとは思っていなかった。マイカが守り切って総合優勝を果たすか、もしくはタランスキーが44秒差をひっくり返して逆転大勝利をするか・・・そんな風に、思っていたのだ。
その中で、タランスキーからわずか2秒遅れの区間4位、マイカを30秒以上突き放し、ベネットが逆転総合優勝を果たした。
ベネットの勢いはそれだけでは終わらなかった。クリストファー・フルームを苦しめたツール第12ステージ、ペイラギュードの頂上激坂フィニッシュにて、自ら仕掛ける強い走りを見せつけた。これは結局吸収されてしまったものの、最終的にもサイモン・イェーツやニエベ、キンタナを上回る区間8位でゴールしている。この日の結果を受けて、総合順位も9位にまで登り詰めた。ツールでも十分戦えるクライマーであることを証明してみせたのだ。
しかし、このツールでは3週目に入るまえに体調不良でリタイアしてしまった。続くブエルタでも良い結果を出せないままやはり体調不良でリタイア。まだまだ、3週間のステージレースを戦い続けられるほどの経験は積めていない、ということだろうか。
2018年は更なる経験の蓄積と、短めのステージレースでの結果を出していくことに期待したい。なお、カリフォルニアで見せたTTの才能だが、ツール初日TTでは結局、1分37秒遅れの162位と相変わらずな結果に終わってしまった。まあこの日は、チームメートのフルーネヴェーヘンが落車するなど、最悪なコンディションの中だっただけに、必要以上に警戒し過ぎてしまったのかもしれないけれど
カリフォルニアを見事制したベネット。来年はグランツールでの更なる経験を積みたいという意味で、カリフォルニアではなくジロを選択する可能性もあるだろう。
ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、25歳)
脚質:スプリンター
今年躍進した若手スプリンターの1人。何しろ、念願のツール・ド・フランスでの勝利。しかもシャンゼリゼで、である。
シャンゼリゼでのスプリント開始は明らかに早かった。残り300mからの単独先頭。背後にはクリストフがついていて、さらには後方からではあるが圧倒的な勢いでグライペルが加速してきていた。
しかし、フルーネヴェーヘンは一瞬たりとも前を譲らなかった。クリストフも出られず、グライペルも届かない。もがき続けたフルーネヴェーヘンのロングスプリントが、栄光を掴んだのだ。
2018年もチームのエーススプリンターであることは保証されるだろうが、気になるのはスカイから移籍してくる同年代のオランダ人スプリンター、ダニー・ファンポッペル。実績ではフルーネヴェーヘンの方が上ではあるだろうが、激しいライバル関係が見られることは必至だ。
見ている側としては楽しい。
クリストフを下して勝利を掴んだオランダ最強スプリンター。2018年はさらなるグランツール勝利数を積み上げていきたい。
その他注目選手
ラース・ボーム(オランダ、33歳)
脚質:ルーラー
ベルキン所属時代の2014年ツール、石畳ステージにて勝利。それがゆえかアスタナに引き抜かれ、翌年ツールにも登場した石畳ステージでエースのニバリをサポートした。
しかしその間、彼自身の勝利はほとんどなかった。2017年はニバリもアスタナを去ったため、ボームも再びオランダのチームに舞い戻った。
チーム復帰元年から、しっかりと結果を叩き出した。ビンクバンクツアーにて、サガンらを振り切っての逃げ切り勝利。3年ぶりのワールドツアーレース勝利に、彼自身も興奮し過ぎてしまったのか、「やってはいけないガッツポーズ」を繰り出して1000フランの罰金を喰らってしまう。そのあともツアー・オブ・ブリテンの個人TTで他を圧倒し、その勢いのまま総合優勝。良いシーズンを過ごしたと言えるだろう。
今後の目標は、2015年に4位に入り込んでいるパリ~ルーベでの勝利。ライバルは元チームメートのファンマルケだ。
フアンホセ・ロバト(スペイン、30歳)
脚質:スプリンター
またの名をJJロバト。モビスター時代にドバイ・ツアー名物ハッタ・ダム登りゴールで優勝して以来、個人的に注目している選手。ミラノ~サンレモでも2014年に4位に入り込んでいるなど、ピュアスプリンター向けではないレイアウトに強い。2017年のブエルタでも、登りゴールでトレンティンに次ぐ区間2位を記録している。
フルーネヴェーヘンの成長に、ファンポッペルの加入など、ロバトにとっては肩身が狭くなる状況が続いている。とはいえ彼らもピュアスプリンター寄りなので、うまく棲み分けしつつミラノ~サンレモなどではエースを務め続けてほしい。
個人的にはこういう選手、好きなのだ。
ダニー・ファンポッペル(オランダ、25歳)
脚質:スプリンター
兄と共に過ごしたトレック時代に、ブエルタ・ア・エスパーニャにてステージ優勝を挙げている。しかも、終盤で前輪パンクを経験し、一度後退したのちに、である。
その後移籍したスカイではイマイチぱっとしない成績ではあったが、この度母国のチームへの移籍を獲得した。問題は、すでに実績を上げているフルーネヴェーヘンとの絡み。まあ、ファンポッペルはブエルタなどスペインのレースとの相性が良いので、なんとかすみ分けることもできるのかもしれないけれど・・・。
父はツール、ブエルタでそれぞれ9勝を記録しているジャンポール。兄ボーイは今もトレック。
ネイルソン・パウレス(アメリカ、22歳)
脚質:オールラウンダー
2016年ツアー・オブ・カリフォルニアで新人賞獲得。当時弱冠20歳。新人賞2位・3位も共にチームメートであったタオ・ゲオゲガンハートとルーベン・ゲレイロ。両名は翌年からワールドツアーチーム入りを果たしたが、パウレスはまだ若いということもあってアクセオンに残った。今年のカリフォルニアも期待していたが、カリフォルニアがワールドツアーレースへと昇格したことで、チーム毎出場できなくなってしまった。
そして、2018年、満を持してワールドツアーチームへと移籍を果たす。選んだのは縁の少ないオランダのチーム。しかし、近年若手を含め実力者を育成しつつあるこのチームで大事な20代前半を過ごせることは十分幸せなことだと思われる。本人が登りだけでなくタイムトライアル能力も高いことも、このチームとの相性が良いと言える要素の1つとなりそうだ。
グランツールを含むワールドツアークラスのレースで、積極的に逃げに乗るパウレスの姿をぜひ見たい。期待し過ぎてしまうのも良くないかもしれないが、ある意味で来期プロデビューを果たす「期待の新人」たちの中で、最も伸び伸びとした活躍ができそうな選手である。
2018年ツール 出場メンバー案
1.ディラン・フルーネヴェーヘン(エーススプリンター)
2.ラース・ボーム(石畳要員&平坦アシスト
3.ロベルト・ヘーシンク(アタッカー)
4.トム・レーザー(平坦アシスト)
5.ネイルソン・パウレス(育成枠)
6.プリモシュ・ログリッチェ(総合エース)
7.ヨス・ファンエムデン(平坦アシスト&個人TT優勝候補)
8.ダニー・ファンポッペル(発射台)
フルーネヴェーヘン(or ファンポッペル)のスプリントと、平坦逃げ・山岳逃げを含めた逃げでの勝利を狙う布陣。ログリッチェで総合上位を狙ってもいいが、執着はしない。
パウレスにもぜひ出場してもらい、最悪完走しなくても良いので経験を積んでもらいたいところ。何度か逃げに乗ることもできるだろう。
総括
ファンポッペル以外の新加入はすべてネオプロ。ファンポッペル自身もまだまだ若手。その意味で、大規模な移籍が各チームで巻き起こっている中、かなり特異なチームであると言える。
それだけ生え抜きの選手たちが伸び伸びと走れる環境であるとも言えるのかもしれない。きっちりと総合上位を狙ったり、確実にスプリントやクラシックで勝てる布陣を作ったりはしていないが、地味な選手も含めて1人1人の選手が活躍する姿が見られるのは嬉しい。
それでも2018年は、グランツールとステージ優勝を稼いでいくことに期待したい。TTTももうちょっと上位に来たりはしないのかなぁ。
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