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イル・ロンバルディア2017 プレビュー

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「モニュメント」最終戦にして、「落ち葉のクラシック」とも呼ばれる、シーズン終盤最大のレース、イル・ロンバルディア

 

今回はこの、クライマーたちの最終決戦をプレビュウしていく。

 

 

 

コース概要

イル・ロンバルディア――かつてはジロ・ディ・ロンバルディアと呼ばれた――は、5つの歴史あるクラシック「モニュメント」の1つであり、その中で最も、純粋なクライマー向けのクラシックである。

 

ここ数年は1年ごとにスタートとゴールを交換しており、今年は2年前と同じく、ベルガモを出発してコモに至る247kmのコースが用意されている。

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公式サイト(http://www.ilombardia.it/it/percorso/)より。この後の断面図も同様。

 

最初の勝負所は、残り72.7km地点から始まるマドンナ・デル・ギザッロ教会への2段階の登り。

 

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合計した平均勾配は6.2%だが、これはあくまでも途中の平坦部分を含んだうえでの数字。2つある登り区間それぞれの最大勾配は14%と12%と、非常に厳しい。

 

 

プロトンが登りの頂上に到達したとき、教会の鐘の音が鳴り響く。これもまた、イル・ロンバルディアの大きな特徴である。

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マドンナ・デル・ギザッロ教会は「サイクリストの聖地」と呼ばれ、教会の中には世界チャンピオンたちの奉納したジャージや自転車が飾られているらしい。

 

 

 

この登りを終えたあと、短い下りを経て、いよいよ最重要地点「ソルマーノの壁」に至る。

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登坂距離は2km弱と短いが、平均勾配は15.8%。最大勾配は27%に達する。

この山頂が今大会の最高地点となる標高1124m。山頂を越えたあとも、長くテクニカルなダウンヒルが待ち受けている。

 

2年前の大会でも、この登りでクフャトコフスキがアタックを仕掛け、前年覇者のダニエル・マーティンや、2009年・2010年覇者のフィリップ・ジルベールが脱落した。

 

 

この大会が面白いのは、この強力な2つの登りでレースが動き出すものの、それですべてが決まるわけではない、ということだ。

事実、13kmの長いダウンヒルの後に、次の登りまでは16.5kmの平坦区間が控えている。

2年前、ソルマーノの壁で先頭に躍り出たクフャトコフスキとティム・ウェレンスは、アスタナの組織するプロトンによって、この平坦区間で捕まえられてしまったのだ。

 

ラスト20kmからは最大14%の激坂チヴィリオ

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さらに残り8kmから5kmにかけて、最後の丘サンフェルモ・デッラ・バッターリアが待ち構えている。

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厳しい登りだけれども、ゴールからはまだ離れているチヴィリオと、ゴール直前ではあるけれども、そこまで厳しいわけではないサンフェルモ・デッラ・バッターリア。

この2つの組み合わせが、ここまで生き残ってきたクライマーたちに、最後の選択を強いることになる。勝利に向けた、重要な選択を。

 

 

たとえば2年前の優勝者、ヴィンツェンツォ・ニーバリは、まずチヴィリオの登りでアタックした。

これは決まることがなかったが、その後、チヴィリオの下りで彼は再度アタックしたのだ。

プロトンの中でも随一のダウンヒル能力を誇るニバリ。彼の下りを前にして、他の優勝候補たちは後手を踏むことになる。

サンフェルモ・デッラ・バッターリアの登りでダニエル・モレーノが攻勢を仕掛け、ニバリとのタイム差を10秒近くまで縮めることには成功するが、その後再び、バッターリアの下りで突き放される。

 

最後は風に舞うイタリア国旗が、イタリアチャンピオンジャージに貼り付いた格好で、その年を苦しい思いで過ごしてきたグランツール覇者のシーズン最後の栄光を掴み取った。

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とにかく、ラスト60kmからの展開は一瞬の見逃しも許されない。誰がどこでアタックし、どのアタックが勝敗を決めるのか。逃げ切りになるのか、小集団になるのか。あらゆる可能性がありうるレースというのは、見ていて非常に面白い。

 

だからこそ、このイル・ロンバルディアというのは実に見ごたえのあるレースなのだ。

とくに今年の、ベルガモ~コモのコースは。

 

 

 

過去の優勝者

2016年:コモ~ベルガモ。優勝者:エステバン・チャベス

-ローザ、ウランとのスプリントで勝利。

2015年:ベルガモ~コモ。優勝者:ヴィンツェンツォ・ニバリ。

-チヴィリオでアタックしたニバリが下りで差をつけて独走勝利。

2014年:コモ~ベルガモ。優勝者:ダニエル・マーティン

-9名の小集団の中から残り500mでアタックして勝利。

2013年:ベルガモ~レッコ。優勝者:ホアキン・ロドリゲス

-ゴール前10kmのヴィッラ・ヴェルガノでアタックして独走勝利。

2012年:ベルガモ~レッコ。優勝者:ホアキン・ロドリゲス

-ゴール前10kmのヴィッラ・ヴェルガノでアタックして独走勝利。

 

 

ベルガモゴールの2014年・2016年と違い、最後の登りの後に平坦がないため、小集団でのスプリント勝負にはなりにくいだろう。

2015年のニバリ、あるいは2012年・2013年と連勝したホアキン・ロドリゲスのように、終盤の登りでのアタックが鍵となるだろう。

 

しかし勝敗を分けうる登りは2つある。チヴィリオか、サンフェルモ・デッラ・バッターリアか。ニバリはチヴィリオで攻めた。モレノはサンフェルモ・デッラ・バッターリアで攻めようと考え、届かなかった。その駆け引きが面白い。

 

基本的には純粋なクライマーが有利。ニバリのように下りが強いことが、終盤においては肝になるかもしれない。

 

 

そのうえで、今大会の優勝候補を考えてみる。

 

 

 

優勝候補

ティボー・ピノ(FDJ, フランス)

2年はニバリ、モレノに次ぐ3位。それ以前も10位台を獲得している。

今年は初出場のジロで区間1勝&総合4位と大健闘。一方ツールは彼史上最高に存在感を発揮できないまま密かにリタイアし、うまくいかなかったことさえ印象に残さないというある意味クレバーな走りを見せつけた。

結果、「なんかあんまり見なかったけど今年のピノは頑張ったんじゃない?」というなんとなく良いイメージを残すことに成功した。・・・してるよね? 最後にロンバルディアを勝利できたらこれはもう確定である。ツールはなかった。

 

勝機は十分にある。2年前同じコースで3位という実績はもちろん、近年はジロのステージ優勝よろしく、「クライマーの中なら勝てる」微妙なスプリント力を持ち味にしており、小集団スプリントでも勝機はある。また、独走力も昨年あたりからついているため、終盤の登りで抜け出すことができれば独走勝利も十分狙えるだろう。今年ストラーデ・ビアンケで(驚異の)9位を獲るなど、ワンデーレース自体への可能性も見せている。

 

唯一にして最大の弱点は、下り。2年前ニバリが下りで勝利を決めたことを考えるとあまりにも致命的すぎるけれども、これが弱点。さすがに弱点弱点と言われ続けているのでいい加減克服しているような気もしているのだけれどやっぱり不安(そもそも2年前もモレノたちに置いていかれているのだから!)

 

登りで抜け出して独走したのに下りで追い付かれるピノの姿が見える・・・まあそれで集団スプリントになっても勝てる可能性は十分あるから大丈夫! 勝ってくれピノ

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ジロではニバリ、ザッカリン、キンタナをスプリントで下して勝利。ほかにも、シーズン序盤で、コンタドールをスプリントで下してもいる。ロンバルディアまでの各種前哨戦への出場も既に決めており、やる気は十分だ。

 

イル・ロンバルディア前哨戦の1つ「トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ」では、終盤のニバリのアタックに喰らいつく執念の走りを見せた。残念ながら勝利には至らなかったが、コンディションは悪くないはず。

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プリモシュ・ログリッチ(ロットNLユンボ, スロベニア)

チームのエースナンバーを担うのはスティーヴン・クライスヴァイクで、実際にイル・ロンバルディアに向いているのは間違いなくクライスヴァイクだろう。ログリッチェ自身は直前のミラノトリノでも 66位と明らかに良くない順位だし、アルデンヌでの実績があるわけでもない。

それでも彼を推すのは、彼の持っている未知数なポテンシャルだ。とくに、あえてこのイル・ロンバルディアで勝利を狙いうる素質があると考えるのは、ツール区間勝利を成し遂げた登坂力と、世界選手権ITT2位につけた独走力、そして、パイスバスコ第4ステージで、吸収されるたびに2度、3度とアタックを繰り出し続け最後には勝利を獲得したあのアグレッシブな走りゆえである。

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グリッチェもまた、恐れることない走りができる男だ。元々スキージャンパーという異業種から転向してきた選手。ワールドツアーチーム入りも昨年からだ。遅咲きのスーパースター。実力は申し分ないが、周りには強力な選手たちがたくさんおり、その実力の割には注目され重圧に押しつぶされる環境の少なかった彼は、まさに伸び伸びとした気持ちの良い走りを見せてくれる。

まずは「ソルマーノの壁」などの重要地点で集団に残ることが鍵。そのうえで、最後の2つの丘でどのタイミングで仕掛けるか。独走に持ち込めば十分に勝ちを狙えるだけに、すべてはタイミング次第だ。まずもって警戒されないであろうことも、彼にとっては大きなチャンスである。

 

 

ナイロ・キンタナ(モビスター, コロンビア)

先日のミラノトリノでは、チーム一丸となって攻撃を繰り出す姿が見られた。まずはダイェル・キンタナが強力に集団を牽引し、デラパルテ、そしてアナコナがアタックを繰り出した。

キンタナ自体は最終的に4位と表彰台こそ逃したものの、ツール以降、なかなかうまくいかないシーズンを過ごしているモビスターというチームが、この終盤戦においてもうひと頑張りしよう、という意気込みが伝わってくるレースだった。

 

クライマーにも大きく2種類、グランツール向きとワンデー向きがいるように思う。フルームやコンタドールはもちろん前者で、ワンデーレースではまず活躍しない。ダニエル・マーティンやリゴベルト・ウランはどちらかというと後者で、グランツールでも総合上位を獲ることはあるが、リエージュ~バストーニュ~リエージュやこのイル・ロンバルディアで結果を出している。

キンタナはその分類でいうと間違いなく前者なのだが、それでも彼の土壇場でのスプリント力は意外と強かったり、ペースではなくインターバルで登る彼の走りの特徴から考えると、意外とワンデーにも向いている脚質とも言えなくはない。今回、モビスターのゼッケンナンバーはアルファベット順のようで、ナイロがエースナンバーを着けているわけではないのだが、ミラノトリノでの動きを見るに、狙ってくる可能性は十分あるだろう。

「ソルマーノの壁」は当然超えることができるが、そこでどれだけチームメートを残し、最後の2つの登りでどんなアタックを繰り出せるか。

グランツールを1つも獲ることのできなかった今年、その悔しさを払拭するためにも、モニュメント勝利という偉大な功績を残すことができるか。

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チームとしての走りも楽しみにしている。レースを面白くかき回してほしい。

 

 

 

前哨戦

9/30 ジロ・デッレミリア(1.HC)

本日開催。その名の通り、エミリア=ロマーニャ州を舞台にして行われるワンデーレースで、創設は1909年と、実はジロ・ディタリアと同年。1906年開催のロンバルディアに並ぶ歴史の長さを誇る。

このレースの最大の特長は、残り40kmを過ぎてから始まる、登坂距離2km、平均勾配10%弱、最大勾配20%という「サンルーカの激坂」を立て続けに5回、登るということ。周回の距離は10km弱なので、その間隔で5回、ユイの壁にも匹敵する激坂を登らされるのだから、たまったものではない。さらにラストはその頂上でゴールというのだから、難易度は非常に高い。

過去の優勝者を振り返ってみると、やはりパンチャーというよりは純粋なクライマーの方が多い印象だ。そして、注目すべきは昨年の優勝者。これが、イル・ロンバルディアと同様、エステバン・チャベスなのだ。しかも、2位はロンバルディア4位だったロマン・バルデ。3位はロンバルディアでも3位だったリゴベルト・ウランと、リンクする部分が非常に多い。

もちろん、昨年のこの繋がりは偶然の範疇である。それより前の年はそこまで共通点が多いわけではない。そもそも、レースの特徴もロンバルディアとはまたちょっと違ってもいる。だからこそ、ロンバルディア前哨戦としてだけでなく、これ単体で楽しめるレースであることは間違いない。

suzutamaki.hatenablog.com

 

 

10/3 トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ(1.HC)

標高500m以上の山岳を含む78kmを走った後、標高差200m以上の12km周回コースを10周以上回る。ラストはやや登り基調の平坦スプリント。

昨年はコルブレッリが勝利。3年前はアルバジーニ、ほか、ジルベールが勝利していたりと、登れるスプリンターやパンチャー向き。ただし2年前はニバリが優勝しており、その勢いのままロンバルディアも制している。

勝利までいかなくとも、最終集団に入り込めるかどうかで、ロンバルディアに向けた状態を確認することができるだろう。

 

 

10/5 ミラノトリノ(1.HC)

残り24km地点から、2つの強烈な登りが登場。1つ目は4kmで400m、そしてフィニッシュへと至る最後の登りは5kmで500m登る。

まさにクライマー、とくにワンデーレースでは重要な、瞬発力のアル登りが得意な選手に有利だ。昨年はミゲルアンヘル・ロペスが優勝し、2位以下にウッズ、ウラン、ダニエル・モレーノ、ウリッシ、アルと続いている。

その意味で、ロンバルディアに向けた最高の前哨戦と言えるだろう。

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優勝者には独特なトロフィーが授与される。

 

 

 

日本ではDAZNで見られる・・・はずが

※無事、ミラノトリノ、そしてイル・ロンバルディアの放送が行われました。しかし直前ギリギリまで不安が続いていたのは何とも言えず・・・。今後そういったことがないことを期待したいですね。

イル・ロンバルディアの主催はミラノトリノと共に、ジロ・ディタリアの主催者であるRCSスポルトが引き受けているため、当社の放映権を一挙に買い取ったDAZNでの放送が決まっていた。

 

実際に、9月頭のシクリスト・ドゥ・モンレアルの放送直後、解説者の別府始氏も、今後の放送予定としてミラノトリノイル・ロンバルディアの名を挙げていた。今も見れるDAZNの「ヘルプ」内「今後の放送予定」にも、ロンバルディアの名は残っている。

 

が、本日確認した段階では、最新の放送予定の中にミラノトリノはもちろん、イル・ロンバルディアの名すら存在しない。

さらに、本来予定していなかったはずのツアー・オブ・タイフーレイクの放送が告知されている。

(これも微妙に謎で、自分の知っている限り、タイフーレイクは11月開催のはずなのに、放送予定では10月11日から、しかも11日・13日・15日・・・というように1日おきでの放送となっている。どういうことだ?)

 

果たしてミラノトリノイル・ロンバルディアは見られるのか?

見られます、と告知していたものを、直前になって色々あってやっぱり見られません、となるのは百歩譲って良いとしても、それに関して公式から何ら告知がないように見えるのは納得がいかない。

ここ最近は、Jsportsでは見られなかった放送も日本語実況・解説付でどんどん放送し、シクリスト・ドゥ・ケベックモンレアルからはゲスト解説や、待望のテロップなども登場するなど、今後が非常に期待できる状況だっただけに、今回のこの事態は残念極まりない。

 

結果的に見られるようになれば幸いだけれども、現状は予断を許さない状況である。

何か知っている方がおりましたらご教示願います。

 

 

 

とにかくも、シーズンを締めくくるクライマックスとも言えるこのイル・ロンバルディア

レース自体は大きな期待をもって開催を待ちたいと思う。

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