ジョヴァンニ・ヴィスコンティが、およそ1年ぶりの勝利を飾った。バーレーン・メリダに加入し、ヴィンツェンツォ・ニバリの右腕として働き始めてから、初の勝利である。
「多くの感情が渦巻いているよ。ずっとずっと長い間、勝利を待ち焦がれ続けていたから。今日は完璧な1日だった。言葉もないよ」
34歳、トリノ生まれのベテランライダー。ドーピング疑惑の中に放り込まれたこともある、イタリアきってのオールラウンダーの1人。今年のジロでは、もう1人のベテランライダー、フランコ・ペリゾッティと共に、ニバリのジロ総合3位、ブエルタ総合2位を支えた。
そんな彼を勝利に導いたのは、バーレーン・メリダのチームとしての強さだった。
ジロ・デッレミリアは今年で100回目を迎える。開催年はジロ・ディタリアと同年だというから、非常に歴史の長いレースである。
その最大の特長は、平均勾配10%、最大勾配18%の激坂「サン・ルーカ」をラストに控える10km程度の周回コースを、なんと5周回もする、というレイアウトだ。周回ごとに着実に集団の足を削っていく非常にタフなこのレースで、大きな動きが巻き起こったのは残り20kmを超え、残り2周となったタイミングだ。
それまでにも、何度かの攻撃が繰り広げられていた。AG2Rのミカエル・シェレルが試みたアタックにはジョヴァンニ・ヴィスコンティが1度反応もしている。残り20km付近でチーム・スカイのケニー・エリッソンドもペースを上げるが、アントニオ・ニバリはぴったりとこの背後に貼り付いて、彼を逃がさないように耐え抜いた。
エリッソンドが攻撃を諦めたとき、 アントニオはそのまま集団の先頭を牽引し続けた。ヴィンツェンツォ・ニバリの弟として、これまではずっとプロコンチネンタルチームに所属し続けていた男。今年、兄の口添えと共に、ようやくワールドツアーチーム入りを果たした彼は、春先のカタルーニャ1周では積極的な逃げを見せ続け、初のグランツールとしてのブエルタに出場するなど、経験を貯め続けてきた。
そして今回のジロ・デッレミリアにおいても、ペリゾッティ、ヴィスコンティ、そして兄ニバリと共に最終局面に残り、残るだけでなくこのラスト2周の最初の重要な4kmを、自ら先頭を牽き続ける形でチームに貢献した。
彼の牽引でプロトンがバラバラになったわけではない。
だが、他のライバルチーム――スカイであり、BMCであり、FDJであり、AG2Rである――は、そのプロトンの前方に全ての選手を集めることができず、4人いるバーレーンに対して、多くても3名、他は2名といった選手だけが、勝負できるポジションに残っている、そんな状態になってしまった。
だからこそ、残り16km地点での、ヴィスコンティの単独アタックが成功したのだ。バーレーンの集団の後ろに控えていたライバルチームたちは、彼の飛び出しに反応することができなかった。
アントニオはここで脱落する。しかし今大会において最も重要な働きを、この25歳の青年は、やり遂げることに成功したのだ。
次に動いたのはペリゾッティだ。ヴィスコンティを追うべく、チーム・スカイの準エースと言ってもよいディエゴ・ローザが、全力で先頭を牽引する。カードを1枚犠牲にしてでも、ヴィスコンティを捕まえなければならない、というスカイの強い意志だ。だがこのローザの背後に、ペリゾッティがしっかりと貼りついていた。
残り7kmでローザが脱落した後、今度はウィリエールのダニエル・マルティネスがアタックを仕掛けるが、これにもすぐさまペリゾッティは反応し、その背後につく。
長らくプロコンチネンタルチームで不遇を託っていた今年39歳の大ベテラン。ジロ、ブエルタに続きこのレースでも、ニバリにとっての最終アシストとして最大限の働きを見せたのだ。
タイム差は開いていく。焦ったのは、昨年優勝者のエステバン・チャベスである。ヴィスコンティがハイ・ペースで走る下りで、チャベスは集団の先頭に立って自らタイム差を縮めにかかる。
だが、焦り過ぎたのか。今シーズン冒頭から続く不運が今も残っているのか。路面が荒れ、滑りやすくなっている箇所で前輪を持っていかれたチャベスは、そのまま道の脇に大きくコースアウトする形で落車した。後ろからイーガンアルリー・ベルナル、そしてヤン・バークランツといった優勝候補たちもチャベスに向かって突っ込んでいってしまった。
この後、BMCの選手もコースアウトしかけるなど、プロトンは大きく混乱し、タイム差はいよいよ30秒を上回る。残り4km。ヴィスコンティ勝利の可能性が大きく高まった。
残り1.5km。ここで、スカイが最後の攻撃に出た。
ジャンニ・モズコン。先日の世界選手権でも、アラフィリップと共に終盤で攻撃を仕掛けたイタリア人若手の実力者。
最後の「サン・ルーカ」の登りで、先頭のヴィスコンティにブリッジを仕掛けるべく、このパンチャー気質もある男が、力強いペースアップを図った。
これに喰らいついたのが、ニバリである。彼は即座にモズコンを抑えた。
先頭はヴィスコンティ。これを15秒差で追いかけるのがウラン、モズコン、ロッシュ、そしてニバリだ。ロッシュ、ウランと立て続けにアタックが仕掛けられるが、その背後には常にニバリ。睨みを効かせて、彼らに牽制を行わせる。
ここまできたら、ヴィスコンティの勝利は揺るがない。
さらにニバリは最後にスプリントでウランを突き放し、自らも2位に入り込んだ。
バーレーン・メリダは、今年創設のチームだ。バーレーンのナセル王子が創設し、その目玉選手として注目されたのが、アスタナ離脱を決めていたヴィンツェンツォ・ニバリであった。
正直、不安は大きかった。新チームが常にそうであるように、様々なチームからの選手の寄せ集めという形になってしまい、いくら大金を積んで実力者を集めようが、チームとしての纏まりはそう簡単には作れないのではないか。そんな不安と共にシーズンは開幕した。
だが、春のツアー・オブ・クロアチアの辺りから、段々とチームとしての強さが発揮されていった。ニバリが総合優勝を果たし、カンスタンチン・シウツォウが総合6位に入ったこのレースを経て、ジロ・ディタリアでは既に述べたようにヴィスコンティ、ペリゾッティが活躍し、ニバリ総合3位。
そしてブエルタでも引き続きペリゾッティの驚異的な献身により、ニバリは総合2位の座を獲得した。新創設チームとしては上出来な結果である。
だがそもそもペリゾッティがここまで働ける選手だとは思っていなかった。確かにかつて、ワールドツアーにも所属していたベテランだが、それでも長い間プロコンチネンタルチームで燻っていた選手だ。
それを、ヴィンツェンツォ・ニバリとその周辺が、強い希望をもってチーム入りを望んだという。かつて、短い期間チームメートとして過ごしていたペリゾッティの実力を、ニバリはしっかりと理解していたのだ。
かくして、最強の「チーム・ニバリ」が完成する。ある意味でアスタナ時代以上に強力なのかもしれない。来期は新たにゴルカ・イサギーレ、マチェイ・モホリッチ、そして今大会においても強い走りを見せていたドメニコ・ポッツォヴィーヴォが新たにチーム入りすることが既に決まっている。
来期はどんな走りを見せてくれるのか。
失われたイタリア籍ワールドツアーチームを受け継ぐ存在としても、期待している。