ついに開催が決まった、新ロードレース「ハンマーシリーズ」の第一弾、「スポートゾーン・リンブルフ」。
Jsportsでの放送も決まり、あとは開催を待つだけ、というところまできたが、ここで今一度、今大会の概要の確認、そして注目すべきチームは一体どこなのか、を確認していきたい。
ハンマーシリーズとは?
ハンマーシリーズに関してはもう既にあらゆるところで解説がある。
ここでは参考として、以下のJspotsの紹介を挙げておく。
https://59.106.31.40/cycle/hammer/#raceInfo
簡単に特徴をまとめると以下の通りだ。
- 競うのは個人ではなくチーム
- 周回コースを中心に、2~3時間で終わる「観る側にやさしいレース」
- コンセプトを明確にした2日間のレースそれぞれでポイントを集計。最終日にポイントに応じた出走順で「チームTTバトル」に突入
ルールに関しては実際に見てみないと完全に腑に落ちない部分もあるだろうが、伝統から自由に、ロードレースの良い部分だけを集めて作り直したそのシステムは、期待を抱くに十分なものである。
レースは3種類。
登りを含んだ「ハンマークライム」と、平坦基調の「ハンマースプリント」、そして最終日の「ハンマーチェイス」。
いずれも、事前に登録した7名の選手のうち5名を選んで参加。
「クライム」と「スプリント」はそれぞれ11周、8周の周回コースとなっているわけだが、それぞれの周回でスタート/フィニッシュラインを越えた上位10名のライダーにポイントが入る。それぞれ特定の周回のポイントは2倍になる。
そのポイントに応じて最終日の出走順が決まるようだ。
(さらにそれぞれのチームは最初の2日でボーナスタイムを獲得できる。1位から順に15秒、12秒、10秒、8秒、6秒、5秒、4秒、3秒、2秒、1秒。合計最大で30秒のボーナスタイムを得られる)
ちなみに舞台となるのはアムステルゴールドレースの開催地としても有名な「オランダ・リンブルフ州」。
自転車競技の熱いこの地域だからこその初開催と言えるだろう。
コース詳細
以下の情報は公式サイト(https://www.hammerseries.com/)を参照しております。
Day1 ハンマークライム(7km×11周)
各周回、1位から順に10、8.1、6.6、5.3、4.3、3.5、2.8、1.9、1.5ポイントを獲得。3周目・7周目・11周目のポイント2倍。
リンブルフ州南東部のファールスを舞台に行われる。
アムステルゴールドレースの舞台だけあって、豊かな起伏に満ちたステージだ。
クライムと言っても2つある登り区間は900mと2000m。平均勾配は4.2%と5.3%で、最大勾配もそれぞれ8%ちょっと、といったところだ。
いわゆるグランツール的なヒルクライムではなく、アルデンヌクラシック風味の、それもそこまできつすぎない程度の登りである。
ゆえに、出場選手の中でもとくにアルデンヌクラシック寄りの選手に期待がかかるだろうが、純粋なクライマーでなくとも勝機のあるレイアウトでもある。
また、ハンマークライムのポイントは、一個一個が大したことのない登りであっても、それが短時間の間に繰り返し出現する、ということだ。今回で言えば7kmの間にあるこの2つの「丘」が、11周回にわたって繰り返し出現する。一周の獲得標高は162mだが、総合計獲得標高は、77kmの短さで1800mに到達するのである*1。
しかも、各周回で最終日に影響するポイントを集計するため、繰り返し繰り返しスパートをかける必要がある・・・結構エグいルールである。
瞬発的な登りに耐えられるパンチャーを、「どれだけの枚数用意できるか」がこのコースのポイントとなっている。
まさにチーム全体のパンチ力を問われるコースである。
Day2 ハンマースプリント(12.4km×8周)
2周目・5周目・8周目のポイント2倍。
2日目のハンマースプリントは、舞台をリンブルフ州中部のシッタート・ヘレーンに移しての平坦バトルとなる。多少の起伏はあれど基本的には平坦。12kmごとのスプリントバトルを計8回行うというもの。
やはり周回ごとにポイントがつくという仕様上、通常のスプリントバトルのように「最後だけ完璧であればいい」というわけにいかないのがこのハンマースプリントの特徴である。また、ハンマークライムであれば途中で抜け出して残りの周回すべて奪い取るという「逃げ」も可能だが、このスプリントではそうはいかないだろう。クリテリウムレースのように簡単に逃げさせて最後だけ貰うというわけにもいかないだろうし、どう出るか、いつ出るかといった駆け引きが、ハンマークライム以上に重要になるものと思われる。
今大会はユワン、ガヴィリア、フルーネヴェーヘン、グライペルといった強力なスプリンターたちがしっかりと参加する。ただ、そういった「単一のエーススプリンター」の存在だけでは、十分にポイントを稼げないように思う。場合によって、エースもアシストもなく、そのとき足があるスプリンターが勝負に出る、という方法が必要なのかもしれない。
ラスト1kmを越えてからの鋭角カーブが結構シビア。
ルール上もそうだし、レイアウト上も、そう簡単にトレインを組んで~なスプリントは期待できないかもしれない。メンバーも5人しかいないしね。ピュアスプリンターよりもスティバールのようなアタッカーの方が向いているのでは?
Day3 ハンマーチェイス(14.9km×3周)
基本的なマップは変わらない。下図見てわかるように、スプリントのときと比べて迂回路が増えただけである。全長は延びたが周回数は減り、合計距離は44.7km。チームタイムトライアルとしては長い。
1日目・2日目のポイント状況に合わせて出走のタイミングが変わる。
メンバー数はこの日も5名。いつものチームTTと同じ感覚では走れないだろう。距離もあるし。
そして通常のチームTTとの大きな違いが、出走のタイミングに違いはあれど、結局は同じコースの中で争う、ということだ。それもう本当に弱虫ペダルじゃないか!
チームTTは結構危険な種目なので、ほぼ同じタイミングで各チームが同時に争うのはちょっと不安ではある。人数も少ないし、そこはテストプレイもしているだろうし大丈夫だとは思うが・・・第一回ということもあり、大きな事故が起きなければいいが。
いずれにせよ、刺激的な争いが繰り広げられるのは間違いない。
ちなみにこの日は、どのタイミングで「ゴール」とみなすのだろう。先頭の1人? あるいは全員? 3人目とかそういうの?
TTバイクを使用し、他チームのドラフティングを利用することは不可。
注目チーム
以下は5月22日現在、公式サイト(https://www.hammerseries.com/)で出場が表明されているメンバーのみを掲載しております。今後適宜修正します。
また、脚質については勝利レースなどにより独自に判断。「クライム」はアルデンヌクラシック寄りのコースのためパンチャー向き。「スプリント」はそのままスプリンター向きだが、混戦模様にもなるため北のクラシックなどにも適性のあるルーラーもやや有利。「チェイス」は独走力が鍵なのでTTスペシャリストとルーラーに向いている。
クイックステップ・フロアーズ
フィリップ・ジルベール:パンチャー
フェルナンド・ガヴィリア:スプリンター
ゼネク・シュティバール:ルーラー
マキシミリアン・シャッハマン:TTスペシャリスト
ティム・デクレルク:ルーラー
レミ・カヴァニャ:ルーラー
チームTT世界王者。その意味でチェイスでの活躍に期待したいが、実はそのときのメンバーは1人もいない。
代わりにクライムで圧倒的な力を誇るであろう「アルデンヌの王」ジルベールの存在と、ジロで覚醒した最強クラスのスプリンター・ガヴィリアに期待したい。また、シュティバールもスプリント力があるアタッカーで、不意打ち気味の攻撃が重要になる今大会のスプリント競技では、重要なポイント源になってくれそうだ。
それ以外の4名は、独走力の高いメンバーと、どちらかといえば北のクラシック寄りのメンバー。シャッハマンはまだ23歳だが、U23世界選手権ITT部門で2年連続の銀メダリスト、ジャック・バウアーは今年のニュージーランドITT王者で、逃げのスペシャリストである。
ロット・スーダル
アンドレ・グライペル:スプリンター
ティム・ウェレンス:パンチャー
イェンス・デブシェール:スプリンター
最強のスプリンター・グライペルと、アルデンヌクラシック・スペシャリストのウェレンス。その点では最強と言えるメンバーだが、チェイス向きかというと微妙。スプリントとクライムでどれだけポイントを稼げるかが鍵となるだろう。デブシェール・ルーランツ・バクといったグライペル側近衆が集まれば、スプリントもチェイスも安心か。グライペル来てるんだから彼らが来るのは何の不思議もない。
と思ってたらデブシェールの参戦が決定。しかもベルギー・ツアーの勝利を引っ提げて! 心強い。
オリカ・スコット
カレブ・ユワン:スプリンター
ロジャー・クルーゲ:スプリンター
ルーク・ダーブリッジ:TTスペシャリスト
サム・ビューリー:ルーラー
ミッチェル・ドッカー:ルーラー
アレクサンダー・エドモンドソン:ルーラー
マシュー・ヘイマン:ルーラー
こちらも世界選手権チームTTでは上位常連である。しかもダーブリッジとエドモンドソンはそのメンバーでもある。よって、チェイスでは優勝候補のチームと言える。
スプリントではユワン&クルーゲコンビが稼ぎ頭。ただしクライム向きの選手はいないように見える。スプリントでできるだけポイントを稼いでチェイスで逃げ切る形を狙いたい。
BMCレーシング
ステファン・クーン:TTスペシャリスト
マヌエル・クインツァート:TTスペシャリスト
2014年・2015年と世界選手権チームTTで優勝を果たしている強豪チーム。そして現時点で出場が発表されている2人はどちらもチームTTで中核を担うメンバーだ。今回のハンマーチェイスでは最大の優勝候補となりそうだ。
さらに、この2人は山岳多めのステージでの逃げ切り勝利も決めており、クライムでのポイント獲得も期待できる。クインツァートはオランダも走るエネコ・ツアーで勝利を挙げており、クーンもヴォルタ・リンブルフ・クラシックという、まさに今回の開催地域を走るレースで勝ってもいる。
あとはヴァンアーヴェルマートがいればクライムでもスプリントでもポイントを稼げるだろうが、果たして。
チーム・ロットNLユンボ
ディラン・フルーネヴェーヘン:スプリンター
フアンホセ・ロバト:スプリンター
ヨス・ファンエムデン:TTスペシャリスト
ラルス・ボーム:ルーラー
ロベルト・ヴァーグナー:ルーラー
トム・レーゼル:ルーラー
ワールドツアーチーム唯一のオランダ籍チームということで、母国開催となる今大会ではぜひ勝っておきたいところ。
スプリンターには2位が多いものの実力は申し分のないフルーネヴェーヘンと、登りスプリント巧者のJJロバトを揃えている。ロバトはクライムでも力を発揮するかもしれない。
さらにベルギーITTチャンピオンのカンペナールツと、つい先日ジロ最終ステージでトム・デュムランを破ったファンエムデンがおり、チェイスでの成績にも期待ができる。カンペナールツも登りもいけるタイプなのでクライムでも期待できそうだ。
北のクラシックスペシャリストのボームはスプリントでのかき回し役に期待できそう。
絶対的な優勝候補ではないが、結構いいメンバーを揃えている気がする。
モビスター・チーム
カルロス・バルベロ:スプリンター
マルク・ソレル:オールラウンダー
アレックス・ドゥーセット:TTスペシャリスト
ヘスス・エラーダ:クライマー
カルロス・ベタンクール:クライマー
ヌーノ・ビコ:?
エクトール・カレテロ:?
ここもチームTTに強い。とくにドゥ―セットは世界戦メンバーにも選ばれている、モビスターきってのTTスペシャリストだ。カストロビエホがいないのは残念だが。
スペインチームだけあって登りに強い。もちろん純粋なクライマーよりもパンチャー向きの本レースだが、エラーダとベタンクールは急坂対応可能なパンチャー寄りなので問題ないだろう。
スプリントでの活躍には少し不安が残る。
ビコとカレテロはそれぞれ22歳と21歳の若手。プロレース経験もまだ少なく、脚質も分析不可。
トレック・セガフレード
ジャコモ・ニッツォーロ:スプリンター
ジャスパー・ストゥイヴェン:スプリンター
ボーイ・ファンポッペル:スプリンター
マティアス・ブランドル:TTスペシャリスト
ローラン・ディディエ:ルーラー
マッツ・ペデルセン:ルーラー
ルーベン・ゲレイロ:ルーラー
ジロを不調で終えたニッツォーロがどこまで復活できるか。また、アタッカーとしても非常に有能なストゥイヴェンが、スプリントやクライムでの奇襲でどこまでポイントを稼いでくれるかにも期待。チェイス用にオーストリアTTチャンピオンのブランドルも連れてきているが、全体的にはスプリントに寄っている布陣。
ジロ組多いので、疲れがとり切れているかが不安。
キャノンデール・ドラパック
パトリック・ベヴィン:TTスペシャリスト?
ウィリアム・クラーク:ルーラー
ローソン・クラドック:オールラウンダー
トーマス・スカリー:ルーラー
トムイェルト・スラフテル:パンチャー
セップ・ヴァンマルク:ルーラー
ワウテル・ウィッパート:スプリンター
ベヴィンはTTスペシャリスト・・・なのかな? 一応ニュージーランドITT王者だが、2年前のツール・ド・コリアではスプリントでユワンを降していたりもする。その点でチェイス・スプリンター両方に出られる素質はあるだろう。ちなみに同じコリアで2勝しているのがウィッパート。
クラークは逃げ名手。クラドックはステージレーサーといった感じで、アルデンヌクラシックでも大した成果は出していないが、この中ではクライム向きだろう。ヴァンマルクは北のクラシックスペシャリストではあるが、スプリントも結構ある。ボーネンを降したことも。
クライムで最も頼りになるのはスラフテル。とはいえ、他チームと比べてもやや層が薄い感じがする・・・じゃあ他に誰がいるの?と問われるとあまり名前を挙げられないのがキャノンデールというチームである。
バーレーン・メリダ
ハインリッヒ・ハウッスラー:スプリンター
ニッコロ・ボニファツィオ:スプリンター
祝・ハウッスラー復活! ミラノ~サンレモでも鳴らしたその健脚は、今回のような乱戦必至のスプリントバトルには最適だろう。二人ともハンマースプリントへの出場は間違いないだろうが、独走力はさほどでもないので、ハンマーチェイスに出るかは不明。
他の決まっていないメンバーとしては、ガスパロット(クライム用)やボアーロ(チェイス用)なんかがいいと思うが。もちろん、他のレースとの兼ね合いだね。
チーム・スカイ
ジョナサン・ディヴェン:TTスペシャリスト
ダニー・ファンポッペル:スプリンター
オウェイン・ドゥール:ルーラー
カリフォルニアで名を売ったばかりのディヴェンが早速参戦。
ヴィヴィアーニやクフャトコフスキ、キリエンカなど有力選手は多いスカイだが、何分ほかのレースとの兼ね合いもあるので、若手ルーラーたちが中心になりそう。逆に彼らが活躍するチャンスでもある。
モズコンとかどうよ。彼、今年は北のクラシック中心に活躍してるけど、パンチャーの素質もあると思うからクライムでポイント稼げると思うよ?
チーム・サンウェブ
トム・デュムラン:TTスペシャリスト
大丈夫か? 疲れ取れてんのか? と心配せざるをえないが、公式サイトの映像でも出演しているくらい気合が入っているので応援したい。地元だっけ?
デュムランのTT能力は申し分ないが、チームTT力があるのかというと微妙なチームでもある。デュムランがクライムやスプリントで活躍できるかというとうーん、という感じだし。
とりあえずスプリンターとしてアルント、バウハウスあたりはほしい。バウハウスは登りにも対応できるし役に立つでしょう(やはり疲れが心配だが・・)
ゲシュケもアルデンヌ適性あるので欲しいところだが、とくにジロでは力を使い切った感があるので・・・
もちろん最強はマイケル・マシューズ。オリカ時代は世界戦TTTにも出場。他のレースとの兼ね合い的に大丈夫ならば、彼が出てくれれば3種目すべてでポイント源になりうる。
こうやって、まとめてみて分かることは、このハンマーシリーズのルールが、本当にチーム全体の力のバランスの良さが重要になるのだ、ということ。
今までの伝統的なロードレースの枠組みでは簡単には測り切れなかった「チーム力」というものを、意図的に表出させていこうという主催者の思惑がよくわかってくる。
果たして成功するか否か。
期待して待ちたい。
*1:ちなみにアムステルゴールドレースは全長250kmで獲得標高4000m超である。