アップダウンは激しいが、勝負所はあくまでもラストの登りだけ――そんな風に思っていたら、序盤から激しい展開が。
バッド・デイに見舞われたトム・デュムランが、プロトンの後方に下がってしまっていた。それに気づいたモビスターとバーレーン・メリダが、残り130km地点の下り区間で前に出てペースを上げたのだ。
キンタナとニバリはもちろん、総合4位のティボー・ピノ、5位のイルヌール・ザッカリンも含むキンタナグループと、総合7位バウケ・モレマ、8位スティーヴン・クライスヴァイク、9位アダム・イェーツなどを含むデュムラングループとのタイム差は1分近くにまで広がる。
とばっちりを喰らったのは、最初に16人近い集団を作ったダニエル・テクレハイマノら逃げ集団である。最大で6分近くつけたタイム差も一気に消滅し、2級山岳の登りで完全に吸収された。
デュムランにとっては危機的な状況であった。
とくに、2級山岳キアンズタンの登りに至る段階で、すでに集団内の山岳アシストたちはほぼ残っていないような状態であった。
一方のキンタナグループにはまだ、シウトソウ、ペリゾッティ、アナコナ、アマドール、ライヒェンバッハなど、頼れる山岳アシストたちがしっかりと残り牽引している。
もはやエース陣しか残されていないようなデュムラングループでは、キンタナたちに追い付くのは絶望的のように思えた。
だが、そこで前から降りてくるユルゲン・ヴァンデンブロック。
ベルギーチームのベルギー人総合エースとして期待され、なかなか結果を出せずに苦しみ続け、ここ2年は古巣を離れチームを転々としていた彼は、先日、今シーズンいっぱいの引退を表明した。
そして今日、彼は、引退に向けての花道作りのため、最初の逃げに乗り、ステージ優勝を狙うつもりでいた。
だが、そこで聞かされたエースの危機。
ヴァンデンブロックは、ただちに逃げから退き、キンタナグループをパスして、デュムラングループまで降りてきた。そして彼らの牽引を始める。
結果的にこの日、クライスヴァイクは体調不良を理由にリタイアしてしまう。
それでも、ヴァンデンブロックの働きによって、デュムランが大きく助けられたのは間違いない。
また、もう1人、キンタナたちにとっては誤算となる選手がいた。
アダム・イェーツ。
新人賞を着る彼は、しかしライバルであるボブ・ユンゲルスとの間に、わずか24秒しかリードを得られていない。
最終日の個人タイムトライアルで簡単に逆転されてしまう程度のタイム差である。
にも関わらず、今、彼はデュムラングループに取り残されており、しかもユンゲルスがキンタナグループに乗ってしまっている。
すでにアシストは集団からいなくなってしまったが、自らのジャージを守るべく、彼は、デュムラングループの先頭に立ち懸命に牽引することに決めた。
こうして、アシストもおらず、キンタナたちに1分以上のタイム差をつけられてしまったデュムランだったが、最終的にはキアンズタンの登りの途中、残り90km地点で、なんとかキンタナたちに追い付くことができた。
間一髪であった。
その後のデュムランの動きは冷静だった。
再び一つになった集団から、再度飛び出す選手が数名。
2日前ステージ優勝を決めたピエール・ローラン。スカルポーニに捧げる勝利をなんとしてでも挙げたいルイスレオン・サンチェス。そして今年、新チームでアブダビ・ツアー総合優勝などそれなりの結果を出しつつ、ここ数年グランツールでの勝利を経験していない元世界チャンピオン、ルイ・コスタ。
さらにこれを追走するミケル・ランダやジョヴァンニ・ヴィスコンティなどが次々と飛び出すものの、プロトンをまとめる責任を持つデュムランは動かない。プロトンは一気にペースダウンし、やがて、グルペットを含む、現出場メンバーほぼ全員が集まるような大集団が形成された。その中で、遅れていたサンウェブのメンバーも復帰し、再び彼らが先頭を牽引することとなった。
一気にペースダウンしたプロトンと18名ほどの逃げ集団とのタイム差は、最大で12分ほどに開いた。
完全に2つに分かれた前と後ろの集団で、この日のレースは展開されることとなった。
残り50km地点で、LLサンチェスやコスタの集団になんとか追いついたランダ。
この日、彼をアシストする役目を担ったのはセバスティアン・エナオ。
ランダにしてみても、これだけ連日、チームメートの力を借りている以上、なんとしてでも、果たされずにいるステージ優勝を遂げたいところ。
残り20kmを前にして、ローランのアタックをきっかけにして逃げ集団も活性化。カウンターで飛び出したルイスレオン・サンチェスと、それを追うリュディ・モラールが、下り区間でランダたちに30秒以上のタイム差が開く。
最後の1級山岳ピアンカヴァッロに入った段階で追走と先頭とのタイム差がぐっと縮まり、先頭に飛び乗るルイ・コスタ。しばらくサンチェスとの逃げを展開するが、サンチェスも5kmほど登ったところで脱落。
単独で逃げるコスタを、残り10km地点で捉えたミケル・ランダ。
そして、これを追い抜く。
昨年、エースの座を得るためにチーム・スカイに移籍。
約束通り単独エースの座を保証されて参加したジロで、悔しい1週目のリタイア。
その年はツールにも出場するが、大きな結果を残すことはできなかった。
今年はゲラント・トーマスとのダブルエース体制でのジロ参加となった。
前哨戦のツアー・オブ・ジ・アルプスではトーマスの総合優勝を支える見事な走りを見せていた。
だが、ブロックハウスのステージで、トーマスと共に大きな落車に巻き込まれ、負傷し、25分ものタイムを失った。
その後、状態が回復していく中で、クイーンステージを皮切りに大暴れ。
現在、山岳賞の獲得はほぼ確定的という状況。
それでも、2位が2回。このままでは帰れない、という状況の中、この日も積極的に逃げに乗った。
最後のスプリントで敗れた前2回と違い、今回は独走で山頂に向かう。
コスタ、ローランの追走に1分30秒近いアドバンテージをもって、ゴールゲートの前に到着した。
かつてのチームメート、スカルポーニに捧げるかのように天を見上げ、指差すランダ。
万感の思いを込めてゴールゲートを潜った彼は、不運に見舞われるチームにしっかりと結果をもたらしてくれた。
ローラン、そしてヴァンガーデレン。
辛い日々を過ごし続けてきた男たちの勝利に続いての、このランダの勝利。
感動的な、ジロ第3週の展開であった。
そして、10分差でピアンカヴァッロに乗り込んだプロトンの中でも、大きな動きが。
バッド・デイの中、序盤の展開で大きく足を削られたデュムランが、登りのスタートから遅れ始める。
唯一残ったシモン・ゲシュケが懸命にアシストするが、彼にもついていけないような場面すら見られる。完全に足を失っている。
それでも、ゲシュケの全力のアシストで、キンタナたちとのタイム差もなんとか20秒程度で抑えている。
そんなゲシュケも、14%の激坂区間でついに脱落。
あとはもう、デュムラン独りで戦うしかなかった。
だが、調子が悪い のはニバリ、キンタナも同じだった。あるいは序盤の展開で、彼らも足を使い過ぎたのか。
昨日に引き続き、終盤でピノーがアタック。総合4位の彼の動きに、ついていかざるをえないニバリ、キンタナもその出足が鈍い。前からホセホアキン・ロハスも落ちてきてアシストするが、彼の牽引にすら、キンタナが遅れかける場面も。
この日、総合において最も躍進したのはピノ。2日続けての終盤のアタックにより、3位ニバリとのタイム差を10秒にまで縮めた。そして首位からは53秒。彼自身は「デュムランまでは遠いが総合表彰台を狙いたい」と、控えめなコメントを残していた昨日。だが、総合表彰台に乗るだけ以上の結果を、狙える位置にまで来てしまった。
一方のデュムランは、キンタナから1分9秒遅れてのゴール。
マリア・ローザもキンタナに奪い返される。だが、総合タイム差はまだ38秒。最終日のタイムトライアルでは十分に逆転可能なタイム差。
あとは1ステージ。ここを耐え凌ぐことはできるか。