1級山岳を2つ乗り越えて、最後は平坦基調。
まさに最終日(一歩手前)に相応しいレイアウト。
注目は最初の1級山岳モンテ・グラッパで、モビスターや(新人賞確定を狙う)オリカ・スコットが攻撃を仕掛けるか否か。
逃げは6人。意外と少ない?
逃げを決められる最後のステージであり、山岳も厳しく逃げ切りも十分考えられるステージだっただけに、クライマーを含んだ大量の逃げが出来上がるものと思っていたが・・・結果的に出来上がったのは以下の6人だけだった。アタック合戦もさほど、なかった?
- ディラン・トゥーンス(トレック・セガフレード)
- フィリッポ・ポッツァート(ウィリエール・トリエスティーナ)
- マキシム・ベルコフ(カチューシャ・アルペシン)
- ドリース・デヴェニエンス(クイックステップ・フロアーズ)
- マチュー・ラダニュ(FDJ)
- トムイェルト・スラフテル(キャノンデール・ドラパック)
トゥーンスもスラフテルもデヴェニエンスもパンチャーではあるがクライマーとは言えないし、ラダニュも北のクラシックは強いが山はそれほどでも・・・という印象。
もっと、ホセホアキン・ロハスやプラサなどの前待ちスペシャリストがガンガン逃げるとか、あるいはいいとこなしのルイ・コスタあたりが今日こそはと逃げに乗るとか、そういうのを期待していたのだが、まったくなかった。
ここ数日間あまりにも激しいステージの連続で、さすがに全員足が残っていなかったのか。クライマーがいないことからわかるように、上記6名もここ数日大人しかったメンバー・・・さらに言えばもっと第1週とか第2週とかに逃げるイメージのある選手たちばかりだった。
そんなメンバーなので、今日の逃げ切りはほぼ、難しいのではないか・・・そんな予想を立てつつ、激しくなるであろうモンテ・グラッパの登りの到来を期待した。
逃げ6人は最大で7分台のタイム差を許されたものの、モンテ・グラッパの登りで一気に詰められる。頂上に到達した段階で残っていたのは、写真前方の2名、すなわちデヴェニエンスとトゥーンスのみだった。
モンテ・グラッパの戦い
本日最初の1級山岳モンテ・グラッパは、登坂距離24.2km、標高差1287m、平均勾配5.3%、最大勾配11%という、ひたすら長い登りである。登り始めに11%の区間があり、中盤と終盤一歩手前のところは比較的平坦な区間である。
プロトンでは、登り始めてすぐ、予想通りの激しい動きが巻き起こった。
ただし、その担い手がモビスターやバーレーンではなく、カチューシャだったことが意外だった。
集団の先頭に出て、強力に牽引するカチューシャのアンヘル・ヴィシオソとホセ・ゴンサルベス。集団内にはまだキセロフスキーも残っており、盤石の態勢である。
カチューシャのこの牽きで、バーレーンのアニョーリやヴィスコンティ、さらにはモビスターの最強アシストであるアナコナとゴルカ・イサギーレも脱落していった。
サンウェブのアシストはテンダムとゲシュケが残っているが、彼らも集団の後ろの方になんとか喰らいついている、というような形に。
カチューシャは先の2人が脱落したあともキセロフスキーが前に出て牽引。
さらには逃げに乗っていたベルコフも合流し、さらなるペースアップを図った。
山頂に近づく頃には、カチューシャ以外のアシストは残っていない、というような状況に。
カチューシャのアシスト陣の力がこれほどまでに残っていたことに驚くと共に、最強のはずのモビスターのチーム力にも綻びが見えてきたのだな、と実感した。これでは、逃げを送り込むどころの話ではないのも頷ける。
しかし結局、このカチューシャの攻撃は決定的なものにはならなかった。
彼らが山頂に辿り着く頃には、遅れていたアマドールやイェーツらも合流し、総合争いは一度仕切り直しという状態になった。
モンテ・グラッパの下りも比較的平穏に過ぎ去り、最後の1級山岳フォーザに向けて、プロトンの中は静かな緊張感に包まれていた。
そして逃げる2人は、わずかな希望をもって、最後の山に挑む。
フォーザ~アシアーゴの戦い
今大会最後の山岳フォーザは、全長14kmと、モンテ・グラッパと比べれば短いものの、やはり長めの山岳である。
この登りの中腹で最初に仕掛けたのはニバリだった。当然、キンタナを始めとした総合上位勢はこれに追随。しかし、デュムランが一度、遅れかける。
それでもまだ、彼は自分のペースを保った走りで、なんとか追いつくことができた。
次の攻撃は、この日チームメートが懸命に仕事をしてくれたカチューシャのエース、総合5位イルヌール・ザッカリンだった。この攻撃に、総合6位のドメニコ・ポッツォヴィーヴォが追随。2人のタイム差は9秒しかなかった。
2人は山頂まで5kmの地点で、単独で逃げていたトゥーンスを抜き去る。
ザッカリンと総合3位ピノとのタイム差は30秒。総合2位ニバリとのタイム差も40秒もない。
2人の動きを指を咥えてみているわけにもいかず、ニバリ、キンタナが次々とアタック。
ライバル同士とは思えない息の合ったコンビネーションで、一気にデュムランたちとの距離を開いた。
さらにティボー・ピノがブリッジを仕掛けてこれに合流。積極的にローテーションに回るピノのおかげでペースアップした3人は、やがてザッカリンたちにも合流した。
デュムランにとっては再び危機的な状況である。
しかしここでも、昨日のように、他のチームのエースが大きな助けをもたらしてくれた。
とくに協力的だったのが総合9位のボブ・ユンゲルスであった。
自らが牽くことで、28秒差で総合8位につけているアダム・イェーツを、集団から引き千切ることができると踏んだのか。
ヘトヘトのデュムランをアシストするように、追走集団の機関車役を担ってくれた。
さらに、デュムランと同国人の総合7位バウケ・モレマも協力し、追走集団は理想的なローテーションを作り上げた。
一方の先頭集団では、キンタナたちが追い付いてきた途端、ステージ優勝に切り替えたザッカリンがローテーションを拒否し始める。
ちぐはぐな状態になった先頭はペースダウンし、タイム差は15秒程度でキープされ、それ以上は開かなくなった。
総合2位〜6位が勢ぞろいする先頭集団は、そのままの形でアシアーゴの街に突入する。
そして、最後はスプリント勝負に持ち込まれ――
ピノーーーーーーーーーーーー!
正直、いつタレるか不安で不安で仕方なかった。
そんな、純粋なくらいに積極的に走る姿が、すべてフラグでしかないと思っていた。
だが、ここ数日のピノの走りは、そんな不安をすべて吹き飛ばしてくれた。
そして、今日のこの勝利。
確かに、今年は春先から、妙にスプリント力が高いと感じる場面があった。
その成果が、ここで出るなんて。
初出場のジロで、いきなりのステージ勝利。
そして首位キンタナから43秒遅れ、2位ニバリからは4秒遅れの総合3位に登り詰めた。
明日のタイムトライアルは、ピノにとっては決して苦手ではないもののはずだ。第10ステージのタイムトライアルは期待外れの結果に終わったが、その走り次第では、総合表彰台をキープすることは十分に可能なはずだ。
苦しい時期を乗り越えて、今年はツールに集中する選択肢を捨ててジロに挑んだティボー・ピノ。
その走りが報われる瞬間まで、あと一歩というところにまで来た。
あと1日。頑張れピノ!