これぞドロミテ!というような雄大な景色の中を駆け巡る137kmの道のり。
ひたすら登っては下る過酷なレイアウトの中をプロトンは突き進んだ。
その中でもとくに厳しく、美しい姿を見せるピズ・ボエ(Piz Boe)をぐるりと反時計周りに巡る形で、まずは1級ポルドイ(2239m)、2級ヴァルパローラ(2200m)、2級ガルデーナ(2121m)という2000m超の3つの山岳を登る。
このステージ前半で活躍したのが、チーム・スカイの今年新加入ディエゴ・ローザ(イタリア、28歳)である。
最初の3人の逃げにも入り、ポルドイ峠の山頂も先頭で通過する。
追走と合流し合計で19人の塊となった後も、チームメートのフィリップ・ダイグナンと共に先頭を牽引。ミケル・ランダの山岳賞確保のために全力を尽くした。
そのランダも、第16ステージに続いての、厳しい山岳ステージでの逃げを敢行。
ヴァルパローラこそ、山岳賞3位につけるフライレに先着されたものの、その後の3つの山岳はすべて先頭通過。
この日だけで65ポイントもの山岳ポイントを獲得。フライレに85ポイントもの大差をつけて山岳賞首位に立っている。
これで、チーム・スカイによる2年連続山岳賞獲得に王手をかけた形だ。
しかし、山岳賞だけでなく勝利も欲しい。ランダはそう思っていたはずだ。
一方のメイン集団は、ガルデーナで動きを見せる。
登り口の11%を超える急勾配で、ホセホアキン・ロハスが決死の牽引を見せてペースアップ。これによって、サンウェブの最後のアシストであったローレンス・テンダムが脱落。デュムランは独りとなってしまった。
その後もモビスターはゴルカ・イサギーレが全力牽引。このハイ・ペースの次なる餌食となったのが、マリア・ビアンカを着るボブ・ユンゲルスであった。ライバルの1人アダム・イェーツはまだ集団の中。ビアンカを奪われる危機に直面する。
そして山頂まで残り2kmでキンタナがアタック!
一気にデュムランたちとのタイム差を10秒以上に広げ、さらに先頭から落ちてきたアマドールと合流した。のちにアナコナとも合流。教科書通りの攻撃であった。
クイーンステージでタイム差を30秒にまで縮めたとはいえ、最終日に2分近いタイム差をまたつけられてしまう可能性がある。
となれば、今大会最後の5つ星ステージとなるこの日に、最低でもジャージは奪っておきたい。しかも、最後の登りだけで十分なタイム差をつけることは難しいので、最終一歩手前の難関山岳であるこのガルデーナでの攻撃は必至――誰にとっても予想できた攻撃ではあったが、すでにアシストを全て失っているデュムランがすぐにこれに反応するのは難しかった。
動かないデュムランを見てニバリもアタックを仕掛け、デュムランはこれも見送る。
キンタナとニバリにとって最大のチャンスとなったこのガルデーナ攻防戦であったが、デュムランが得意のペース走行で一気に二人との距離を詰めていく。結局、ガルデーナ山頂で総合TOP3が合流。モビスターの攻撃は失敗に終わった。
ガルデーナの下りで先行したのは、逃げから落ちてきたルーベン・プラサとアダム・イェーツ。遅れているユンゲルスとのタイム差をさらに開きにかかる。
キンタナも再びペースを上げ、この2人に合流するも、元々下りが得意なデュムランは落ち着いて追走する。
この激戦の結果、逃げとメイン集団とのタイム差が20秒を切る。
戦いの舞台はいよいよ後半戦に。
本日のゴール地点であるオルティセイ(独:ザンクト・ウルリッヒ)を一度通過し、まずは3級山岳ピネイ峠を越えてカステロットの町へ。そのままイザルコ渓谷の町ポンテ・ガルデーナ(独:ヴァイトブルック)に降り立つ。標高467m。そこからまた、1000m越えの1級山岳ポンティヴェス峠を登って最後はオルティセイの町に戻っていく。
先頭集団は再びローザが先頭を牽引。3級ピネイをランダに先頭通過させるための全力のアシストだ。集団も一気に絞り込まれ、合計で7人に。
ローザと共に最初から逃げていたディメンション・データのナトナエル・ベルハネ(エリトリア、26歳)、第16ステージでランダたちと共に逃げていたCCCのヤン・ヒルト(チェコ、26歳)、キャノンデールからは2名、ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア、25歳)とジョー・ドンブロウスキー(アメリカ、26歳)、そしてランダとローザと、最後にBMCレーシングのティジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、28歳)。
距離の短い3級山岳とはいえ、15%の激坂区間が続いたピネイ峠。ローザのわが身を犠牲にして走りで、再びメイン集団とのタイム差が30秒以上に開く。ここでローザが脱落。
そしてこのピネイ峠の下りで、ランダとヴァンガーデレンが飛び出して先頭はこの2人だけになる。追走の4名は30秒近く引き離されてしまう。
その30秒後方から追いかけるメイン集団。ここでも動きが起こる。
集団から飛び出す「キンタナの右腕」ウィナー・アナコナ。
しばらく様子を見ていたキンタナも、頂上まで残り2kmほどを残した、勾配11%の区間で発射。アナコナの背中に飛び乗った。
500mほどアナコナが牽引し、キンタナがさらなるアタック。
チームワークを活かしたこの見事な攻撃だったが、ライヒェンバッハが牽引するメイン集団とのタイム差は開いて5秒が限界だった。
このライヒェンバッハにアシストされたティボー・ピノがポッツォヴィーヴォと共に飛び出した。さらにモレマ、クライスヴァイク、ザッカリンといった面々が次々とアタックを仕掛ける。
デュムランは動かない。山頂を通過し、緩斜面に入ったところでTTポジションを作ったデュムランは先頭を牽引しつつ、キンタナとニバリに「前を追いかけろよ」とサインを送るが二人は応じない。一度遅れかけていたアダム・イェーツが追い付いて前を牽く。
先行を許されたピノは全力で最後の急斜面を駆け上がっていく。
総合ベスト3が互いに牽制し合っている今、彼が総合表彰台への望みをつなぐ最高のチャンスだった。あるいは、ステージ優勝。
だがさすがに、先行する2人には追い付けなかった。
石畳区間を疾走するランダとヴァンガーデレン。激しいスプリント争いの結果、 BMCのヴァンガーデレンが先着した。
かつて、ツール・ド・フランスで、エースで総合優勝経験者であるエヴァンスを凌ぎ総合5位。新人賞も獲得した男だった。
2015年のツールではチームの力も借りて総合2位を維持したまま3週目に入り、実力を見せつけていた。
だが、そこで、体調不良を原因とした涙のリタイア。
以来、結果を出せないまま「期待外れ」と言われる時期が続く。
このジロでも、不調の連続で総合争いが絶望的なポジションにまで追いやられた。チームからのプレッシャーも相当に大きいものだったろう。
その中で、成し遂げたこの一勝。
ゴール後に、タオルに顔を押し付けて、肩を震わす場面もあった。
ランダは、今大会2回目の2位。悔しいが、次は彼の番だ。
そしてピノが3位につけた。ヴァンガーデレンたちと8秒差。ボーナスタイムも加えて、総合3位にニーバリとは34秒差にまで近づいた。
さらに、マリア・ローザグループに喰らいつきながらゴールしたアダム・イェーツが、ユンゲルスからマリア・ビアンカを奪い取る。
まだユンゲルスとは28秒差。フォルモロとも53秒差でしかない。
とくにユンゲルスは、最終日のタイムトライアルで下手したらステージ優勝もしかねない。
マリア・ローザ争い、総合表彰台争いに加えて、この新人賞争いも見逃せない展開だ。
前日までと比べて、総合4位~8位が上位3名とのタイム差を1分近く縮めた。
ちなみにレース外での舌戦も激しかったようだ。
デュムランがキンタナとニバリに対して彼らは僕を負かすことだけに集中しているようだ。自分たちが勝つことではなく。彼らは彼らのライバルたちが多くのタイムを失った。――そんな走りをしている彼らが、ミラノでの表彰台を失うことを本当に望むよ。それはとても素敵で幸せだね」と怒りを露わにしたのに対し、ニバリも「トムの言っていることは気にしていない。彼は少しうぬぼれが過ぎているんじゃないのか? 僕だったらそんなことは絶対に言わない。彼は確かにこのレースで強さを見せつけてはいる。だけど彼はそんなこと言うべきではなかったんだ。彼だって表彰台を失うことはありうる。レースってのは、なんだって起こりうるんだから。彼は地に足をつけ続けているべきで、あんまりしゃべらないほうがいい。彼はカルマっていうのを知ってるのかい? そういうことを口にするといつか帰ってくるんだぜ。ジロに勝つのはいつだって困難だけど彼はここまで完璧だった。でもまだ終わっちゃいないんだ」。
ちょっとデュムラン、言い過ぎかな?と思わなくもない。これも戦略的な観点からの発言という風に捉えられなくもないが、せっかく紳士的な振舞などもあって、プロトンの中でも一目置かれる存在になりえているんだから、憤りを抑えてほしいとは思う。
一方のニバリさんはさすがの経験者。「舌禍」のことをよく知っている。経験者は語るということか。(と言いつつ彼もcocky「うぬぼれ」とちょっと強い言葉をまた出しちゃってはいるが。ちなみにこのあとデュムラン、ここにも噛みつく)
そして「レースは何だって起こりうる」の言葉もまた、経験者だからこその言、という感じ。第19ステージも積極的に仕掛けると宣言しているニバリ。底力を見せられるか。マジで3週目の彼は不敵だ。