りんぐすらいど

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なぜユアンが沈み、ヴィヴィアーニが独りで戦う必要があったのか――向かい風によって演出されたカオスなスプリントバトル【ツアー・ダウンアンダー2019 第1ステージ】

2019シーズン最初のワールドツアー開幕ステージは、ピュアスプリンターたちによる、正統派のバンチスプリントで争われた――と、いうわけには、いかなかった。

 

この日、コース短縮を招いたほどに吹きすさんだ強風は、ゴール前においては強烈な向かい風となった。

それゆえに、この日の「勝者」ヴィヴィアーニも、「敗者」ユアンも、口をそろえて次のようにコメントしている。

 

「向かい風が強かったから、あまり早く前に出たくはなかった」

 

結果、ラスト1kmは実にカオスな展開となった。

ドゥクーニンク・クイックステップも、ロット・スーダルも、先頭ではなく少し下がった位置からエースを引き上げようとした。

しかし、狙いはどのチームも同じ。あらゆるチームがこの残り1kmで前に出ようとした結果、各地で、予想していなかったほどの大混雑が発生し、ベルギーの2つの最強スプリントチームはその濁流の中に飲み込まれてしまった。

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最初に犠牲になったのはカレブ・ユアンだった。

ラスト1km、フラム・ルージュを抜けたタイミングではアシストの後ろにいた彼は、その直後に番手を上げてきたダリル・インピーとそのアシストたちによって割り込まれ、完全に行き場を失ってしまった。

 

「最後の数百メートルで僕は立ち往生してしまった。そこからなんとか前に出ようともがいたが、スプリントを開始したときにはもう、自分に足が残っていなかったことに気がついた」

 

2日前のダウンアンダー・クラシックで、チームメートたちによって集団先頭付近のポジションを確保してもらったおかげで落車に巻き込まれず、勝つことのできたユアン

しかしこの日は、向かい風というアクシデントの結果、集団先頭の安全な位置取りが許されず、結果として彼の得意な「先行逃げ切り型スプリント」をする機会さえ失われてしまった。

 

もしもこれが、日曜日のようにすっきりとした先頭状況であれば、きっとまた、最強発射台から放たれた鋭いロケットはゴールを先頭で突き抜けることだったろう。

しかし、その強靭な翼も、鋭い牙も、濁流に飲み込まれてしまえば意味をなさない。

 

美しきトレインは、混沌とした戦場においてはまだ、十分には機能しきれないようだ。

 

 

 

一方、ドゥクーニンク・クイックステップも、 困難に直面していた。

こちらも、ラスト1kmを過ぎるまでは集団の後方にいたものの、こちらはミケル・モルコフとファビオ・サバティーニという2人の最強アシストが、エリア・ヴィヴィアーニをしっかりと引き連れて、少しずつその番手を上げようとしていた。

 

しかし、カオスはこちらをも飲み込んだ。

エースを先導するモルコフ、サバティーニの前に、カチューシャ・アルペシンの選手たちが入り込み、その進路を完全に蓋してしまったのだ。

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なんとか肩でカチューシャの選手を押しのけ、進路を確保しようとするモルコフだがうまく行かず、結局、このアシストたちは志半ばで失速することになる。

 

だがこの日、ヴィヴィアーニが強かったのは、ここからの冷静かつ大胆な判断力であった。

アシストに先導されての進路確保が不可能と見極めたヴィヴィアーニは、冷静に周囲を見渡し、そして、左手にわずかなスペースが空いているのを発見した。

 

「決して簡単ではなかった。僕はじっと待つ必要があった。もしもあと50m早く飛びだしていたら自滅していただろう。次の瞬間、僕は左手にスペースがあることに気がついた。僕も馬鹿ではないので、もしそこにスペースがなければ、そこに飛び込もうなんて思いは持たなかった。行けると思った。そして僕はバウハウスをそっと押しのけて、彼の左側を抜き去った。完璧な動きだった。彼を追い抜いたあと、あとはもう、フィニッシュラインに向かって全力で走り抜けるだけだった」

 

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わずかな隙間を突き抜けて、あとは2018年に18勝した最強の足がペダルを回すだけだった。

先行し、完璧な位置にいたはずのヴァルシャイドも、向かい風に失速していく中、背後から猛烈な勢いで飛び出してきた弾丸によって、完膚なきまでに叩き潰された。

 

そして、2019年最初のワールドツアー勝利を、昨年最多勝利チームの最多勝利ライダーが奪い取った。

まるで、今年も同じように勝ちまくるぜ、とでも言うかのように。

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結論として、この日は実に「特殊な」スプリント勝負となった。

その中で勝ち残ったのは、迅速かつ適切な判断を下すことのできた、経験豊かなベテランイタリアンライダーであった。

24歳のまだ若いオージースプリンターは、この点で後塵を拝すこととなった。

 

だから、まだ純粋で濁りのない集団スプリントにおいて、ユアンとヴィヴィアーニと(そしてクイックステップとロット・スーダルと)どちらがより強いのかは判断できない。

第2ステージはこの意味で、今日よりは平和なスプリントとなればよいのだが・・・。

 

 

また、この日、もう1人の勝者を選ぶとしたらやっぱりこの男、マックス・ヴァルシャイドである。

チームメートたちがラスト数kmから尽力してくれてはいたものの、頑張り過ぎたせいか、ラスト1kmを過ぎた直後のちょっと早すぎる段階で独りになってしまったヴァルシャイド。

しかし、彼はそこで冷静に、先行していたユンボ・ヴィスマの選手たちの後輪に飛びついて、残り200mで一気にアクセルを踏んだ!

 

最後、ヴィヴィアーニがありえない位置からありえない加速で抜け出しさえしなければ、後続に差をつけてこの25歳の若者が勝利を掴んでいたはずだった。

 

彼は間違いなく強かった。今年のブエルタ・ア・エスパーニャにて、エースを任せられる予定の選手だけある。

 

残り数回のスプリントステージで、結果を出すことができるか。

彼の走りにも注目していくべきだろう。