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UAEではエースがトレインを作る? ブエルタ・ア・サンフアン第1ステージで最高のトレインを形成したUAEチーム・エミレーツの走りを振り返る

ガビリアがUAEに移籍すると聞いたとき、多くの人が思ったに違いない。

「ガビリアは確かに強いけれど、UAEでもその強さが維持できるとは思えない」 

と。

 

そう思ってしまう理由の1つが、マルセル・キッテルの2018年のあの失墜である。

2017年もツール・ド・フランス5勝など圧倒的な強さを見せていた彼が、新チームに移籍した2018年にはわずか2勝。

チームメートとの連携も全く取れない姿を露呈していた。

 

そして、UAEチーム・エミレーツというチームも、アレクサンドル・クリストフというエーススプリンターを抱えながら、彼のためのトレインというのがどこまで機能していたのかイマイチ判然としない2018年だった。

クリストフはこの年、5勝。エシュボルン・フランクフルト優勝やサイクラシックス・ハンブルクでの3位、ミラノ~サンレモでの4位と、決して悪くなかった。念願のシャンゼリゼも手に入れた。

しかしそれらの多くのレースでクリストフは、どこか彼自身の力だけで勝っていたような印象がある。あまり、最後の最後まで完璧なリードアウトを、という感じではなかったのだ。

 

だから、ガビリアがこのチームに移籍すると聞いて、2019年の彼はこれまでのような圧倒的な強さを発揮することは難しいのではないか、と感じていた。

むしろ、最強のトレインが残るクイックステップのヴィヴィアーニやホッジ&ヤコブセンが、2019年もクイックステップが最強であることの証明をし続けてくれるのではないか、と。

 

 

しかし、ブエルタ・ア・サンフアン第1ステージでのガビリアの勝利は、そんな不安を払拭してくれるほどの鮮烈な勝利であった。

素子この勝利の陰には、UAEの若く、しかし力強く進化し続けているトレインの存在があった。

 

 

ラスト1km

ブエルタ・ア・サンフアン2019の第1ステージは、途中に3級山岳が2つあるものの、基本的にはフラットな完全スプリンター向けステージであった。

ラストも3km以上続く道幅の広い直線となっており、これ以上ないくらいにスプリントトレインを組み立てやすいレイアウトとなっていた。

 

そんな中、ラスト1kmを過ぎてまず攻勢を仕掛けたのが、マヌエル・ベレッティをエースに据えるプロコンチネンタルチームのアンドローニジョカトリ・シデルメク。

しかしこの完璧かと思えたトレイン体制は、残り500mを前にして急激に崩壊し始める。

代わってコース右手から少しずつ番手を上げてきたのがUAEチーム・エミレーツである。この時点でガビリアの前に4名ものアシストを残しているUAEは、この日、最強のトレインを持ったチームであった。

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その左側からサガンもポジションを上げてきたが、彼は若きスロバキア人スプリンター、エリック・バシュカを引き連れて彼をアシストするような動きを見せていた。

そして、本命であるはずのドゥクーニンク・クイックステップは、このUAEトレインとサガン・バシュカに囲まれるようにして行き場を失い、ずるずると集団の中で力を失いつつあった。

最強発射台のマキシミリアーノ・リケーゼが怪我により十分な力を発揮できない状況にはあったようだが、それにしても、少し物足りない動きである。

 

 

ラスト400m

ゴールまで残り400m。いよいよ、最終スプリントが始まる、その瞬間においてなお、UAEはフェラーリとコンソンニの2名のアシストをガビリアの前に置いていた。

すでにクイックステップのアシストたちはバラバラで、エースを任された若きコロンビアンスプリンター、アルバロホセ・ホッジは、たった一人でかろうじてガビリアの後輪を捉えている状態だった。

サガンもバシュカを引き連れて良い位置に陣取っていたものの、バシュカはエースにするにはやや物足りない存在。実際、彼もまた発射台であった。では、誰の?

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それは、昨年のジロ・デ・イタリアで3勝しているボーラの2番目のエーススプリンター、サム・ベネットである。

しかしベネットはこのとき、集団のかなり後方にいた。

 

本来、ベネットを導く存在であるはずのバシュカはそれに気がつかず、サガンが強力なリードアウトの果てにバシュカに順番を手渡した直後、後ろを振り返ってベネットがついてきていないことに気がつく始末。

ベネットはこの後一気に追い上げる加速を見せるが、結局は届かず、同じく後方から加速したカハルラルのマッテオ・マルチェッリに競り負ける形でステージ3位で終わった。

 

 

逆に、この日最高の飛び出しを見せることができたのがガビリアだった。

残り350mまで牽引したベテランのフェラーリの後、最終発射台となったシモーネ・コンソンニは意外に早くリードアウトを終えてしまい、残り300mを切ってすぐあたりでガビリアは先頭に立つこととなった。

 

左手からは勢いのついた加速を見せるサガン。

しかしこの日レース前にサガンから「自分はベネットをリードアウトする」と聞いていたガビリアは慌てることなく、サガンのことは気にせずに進路を右手に取った。

 

背後からは最高のタイミングで飛び出そうとするアルバロホセ・ホッジ。

しかし、彼の進路は右手に移動したガビリアによって阻まれ、十分な加速ができぬまま終了した。

 

そのままあとは、踏みぬくだけだった。

 

 

ラスト6~700mからのトレインの働きはこの日、全チーム中No,1だったUAE。

ただ、あくまでもこの日は、非常に難易度の低い、トレインを組みやすいレイアウトだったことも原因ではあり、もっと複雑な、よりアシストとしての力量が試されるレイアウトで彼らが同じような力を発揮できるとは限らない。

 

それに、本来最強であるはずのクイックステップがこの日は十分な動きができていなかったことも勝因だ。

ボーラも、サガン&バシュカとベネットとの連携が噛み合わなかったがゆえの敗北であり、これが噛み合ったときの彼らの底力は間違いなく凄まじいものがあるだろう。

 

 

だから、UAEはまだまだ最強ではない。

フェラーリはベテランだが、それ以外のコンソンニ、コンチ、トロイア、ボーリといったメンバーはいずれも若く、ガビリアと同年代のスプリンター/ルーラーたちである。

だからこそ彼らは発展途上。

ガビリアもそれは認め、次のように語っている。

 

「僕は2019年にチームを変えるというリスクを取っていたので、今回の勝利は特別に嬉しく感じている。クイックステップというのは世界最高のチームの1つだったので、そこを去ることは非常に難しい選択ではあった。だけど僕はそのリスクを選んだ。そしてUAEというチームが、年を重ねるごとによりよくなっていこうとしているチームであると感じている。僕は彼らのために勝つ、そのためにここにいる」

 

クイックステップというチームは、「トレインがエースを作る」を体現するチームだったように思う。そこからカヴェンディッシュが、キッテルが、ガビリアが、トレンティンが、そして今はヴィヴィアーニやホッジ、ヤコブセンが、強力なエーススプリンターとして育ってきている。

一方、UAEはそうではないかもしれない。

しかし、彼らは新たなエースであるガビリアと共に、進化を始めようとしているように見える。

 

もしかしたらこのチームは、「エースがトレインを作る」を体現するチームとなるかもしれない。

そして、一体となった彼らが半年後に、どんな奇跡を見せるのか。

たった1つのステージの勝利に過ぎないが、今日の勝利からそんな希望を感じ取れる、そんな勝利だった。

 

 

シモーネ・コンソンニについて

この日はガビリアを発射させるのがやや早すぎるきらいのあったコンソンニ。彼もまた、発展途上のエースアシストではあるが、実は彼自身も非常に将来有望な若手スプリンターである。

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既にして結構貫禄のある顔をしているがこのときまだ24歳。

 

2015年の米リッチモンド世界選手権ではU23ロードレースの銀メダリスト。モズコンと並ぶイタリアの若手期待の星として多くの自転車関係者から期待されていた。

2016年にはU23国内王者に輝き、並行してトラック競技でも活躍。2017年にはチームパーシュート種目でトラックワールドカップ金メダルを獲得する。

この2017年に創設されたUAEチーム・エミレーツにてプロデビュー。

2018年はツアー・オブ・スロバキアでプロ初勝利を飾ったほか、ワールドツアーを含む各種レースで上位に入り込む実力の高さを見せつけた。

 

 

そんな彼にとって、2019年は雌伏の時期となりそうだ。

何しろ、クリストフだけでなく世界トップクラスのスプリンターであるフェルナンド・ガビリアがチームに加わった。

さらに、下の年代からは、ジャスパー・フィリプセンというこれまた才能に満ち溢れたスプリンターが台頭してきている。彼はこの1月のツアー・ダウンアンダーでいきなりの初勝利をチームにもたらしている。

 

サンフアンを終えたあと、コンソンニはポルトガルのヴォルタ・アン・アルガルヴェに出場予定だが、そこにはガビリアもクリストフもいない代わりにフィリプセンが出場予定。

もしかしたらコンソンニは、年下の彼の発射台を担うことになるかもしれない。

 

 

だが、それこそ「エースがトレインを作る」のかもしれない。

これまではある程度バラバラに走ることが自然となっていた感のあるUAEチーム・エミレーツが、新たに迎え入れた強力なエーススプリンターたちを支えるべく大きな改革に取り組んでいるのであれば、それは最終的にコンソンニにとって利益となる。

 

 

まずはこのブエルタ・ア・サンフアンの残りのスプリントステージでしっかりとガビリアを支え、チームの中での存在感を高め、やがて彼がエースとして台頭するための土台をチームの中に作っていく必要がある。

 

 

シモーネ・コンソンニ。野心と才能を持つこの若手の、今後の伸びに大いなる期待を抱いておこう。