アストゥリアスの山岳3連戦を終え、いよいよ総合優勝候補たちが絞り込まれてきた。
近年のブエルタの傾向を見ても、第2週を終えた時点での総合上位と、最終的な総合順位とで、その顔触れは大きくは変わらないことが多い。
おそらくは今年も、この総合上位陣によって優勝争いが巻き起こることだろう。
ということで今回は、第3週に向けて、この上位チームの簡単なレビューを行っていきたい。
選手個人はもちろん、チームとしての状況も確認し、第3週で活躍する選手・チームたちを占っていこう。
ミッチェルトン・スコット
エースの実力 ★★★
アシスト力 ★☆☆
エースのTT力 ★★☆
ジロで3勝、最終盤までマリア・ローザを守り続けていた男。あのときは最後の最後でガス欠に陥ってしまったが、今回は実にマイペースに、抑え気味のクレバーな走りをしているとの評判。
現時点で間違いなく、今大会最強の男だ。
気になるのはアシストの動向。ここまでのステージで最も終盤まで残ってくれているアシストはジャック・ヘイグだが、そんな彼も最後まではなかなか残れない。本来であればダブルエースとなってもおかしくない双子のアダムが全く目立てていないのが残念だ。見分けつかなくて困っちゃう!って事態に全然なってないんですが。
これもすべて、3週目に向けて温存している結果であることを祈るばかり。
モビスター・チーム
エースの実力 ★★☆
アシスト力 ★★★
エースのTT力 ★★☆
ナイロ・キンタナはここ最近の中では最も調子が良い状態なのは間違いない。が、それでもまだ、アタックの他を圧倒するキレは取り戻しておらず、また最後には崩れてしまうことが結局多い。
好材料としてはバルベルデの調子が非常に良く、また彼とのダブルエース体制がうまく機能していること。キンタナの調子の不安定さが少しマシになれば、最も恐ろしいチームとなるのは間違いないだろう。アシストとしてのリチャル・カラパスの実力も非常に高い。全チームの中で唯一、アシストでありながら終盤まで残れる存在だ。
TT力に関してはバルベルデが★3つ級、キンタナが★1つ級なので合わせて★2つで。ただ、バルベルデはグランツールではTT微妙なんだよなぁ。。。
アスタナ・プロチーム
エースの実力 ★★★
アシスト力 ★★☆
エースのTT力 ★☆☆
ミゲルアンヘル・ロペスの足は十分なものがある。不必要に牽制して勝負所を間違えるところが玉に瑕ではあるが、機を見つけたときの爆発力と持続力は今大会随一である。サイモン・イェーツに唯一匹敵できる存在と言えるかもしれない。
チームの状態も悪くはない。ビルバオ、カタルド、ヴィレッラ、ヒルト・・・今大会、平坦要員を犠牲にして集めたクライマーたちがステージ毎に入れ替わりでエースを支える。第15ステージも、道中ひたすら牽引しっ放しだった様子(というか、ミッチェルトンとモビスターが仕事しなさすぎ?)。
その第15ステージでは仲間たちの献身に応えるが如きアグレッシブな走りを見せてくれたが、最後には結局大したタイム差をつけられず。やはりサイモンが頭一つ二つ飛びぬけているのか?
チーム・ロットNLユンボ
エースの実力 ★☆☆
アシスト力 ★☆☆
エースのTT力 ★★★
第14ステージでは実に積極的な走りを見せてくれたクラウスヴァイク。ツールでログリッチェをアシストしながら自らも総合5位に入り込んだ実力の高さを遺憾なく発揮してくれた。だが、上位4名にはまだ、足りない。
ツールに続きダブルエース体制の一角を占めてくれると期待されていたベネットが不発に。第9ステージでは恐ろしく強い牽引力を見せてくれたセップ・クスも、第2週ではすっかりなりを潜めてしまった。まあ、初グランツールだし、仕方がない。意外にもフローリス・デティールが頑張ってくれてはいるが、アシストを見込める度合いはミッチェルトンとどっこいどっこいと言ったところだろう。
そんなクラウスヴァイクの最大の武器がTT力。2年前躍進したジロ・ディタリアでは、山岳TTでバルベルデを23秒突き放しての区間2位(1位とはコンマ差)。今回のブエルタのTTは山岳とはとても言えないものの、まるっきりの平坦というわけではない。少なくとも上位5名の中では最も個人TTへの期待度が高い選手だ。
クイックステップ・フロアーズ
エースの実力 ★☆☆
アシスト力 ☆☆☆
エースのTT力 ★☆☆
エンリク・マスは今大会間違いなく、最も意外な急成長を遂げている選手だ。
もちろん、昨年のブエルタでも強さを見せていたし、今年のバスク1週総合6位、スイス総合4位と結果を出してきて、今大会でも総合エースとしての期待は背負わされていた。
それでも、ウランやヨン、ケルデルマンといった強豪たちが次々と崩れ落ちていく中で、まさかこの23歳のプロ2年目の選手が、こんなにも錚々たるメンバーの中で終盤まで喰らいつく走りを見せてくれるなんて!
もちろん、ヴィヴィアーニのための超スプリンター体制を敷いているチームからの援助はまったくない。TTに関しても基本的には典型的なクライマーとしての実績しかない。
それでも、今大会のマスはどこまで力を出せるか、まだまだ未知数だ。まずは現在の順位を失わずに3週間を終えられるか、それを見守っていこう。
グルパマFDJ
エースの実力 ★☆☆
アシスト力 ★☆☆
エースのTT力 ★★☆?
やった! ステージ優勝おめでとう! 帰っていいぞ!
というのは冗談で。ピノの強みは、どんなに苦しい状況、どんなに総合優勝から遠ざかった状況に置かれても、最後まで諦めず、実直に、チャンスを狙ってモノにしていくその執念にこそあるように思う。
それはロマン・バルデにあるような堅実さ、スマートさとは対極に位置するように思う。それは、彼が22歳のときに成し遂げた、ツールデビュー&初勝利のときのあの獣のな走りがまだ残っていることを表しているのかもしれない。だからこそ彼はツールで総合優勝ができないとも言えるのかもしれないが、それでもその走りは常に観る者を感動させ、結果が振るわなくとも多くのファンを獲得している。
そもそも、不運・不調に襲い掛かられることは、2015年のときに既に慣れている。あのときですら、最後の最後、ラルプデュエズで勝っているのだ。もう、彼に怖いところなどない。
常にチャンスをモノにすべく目の前の勝利を渇望する男、それがピノだ。おめでとう。
総合11位から7位への躍進。第16ステージでは元フランスTTチャンピオンとしての実力を見せつけることができるか?
ということで、7チーム8名の選手をピックアップしてレビュウしてみた。
まあ、現実的には上位4チーム5名の中で、総合表彰台争いが繰り広げられることだろう。マスは期待枠で、ピノはピノ枠で紹介しただけの部分はある。
それでも、最後の最後まで、ドラマを期待している。
何しろ、4位まで1分以内に収まっているのだ。こんなに接戦なブエルタは近年でも珍しい。あのアストゥリアス3連戦を超えてなおこれなのだから、ワクワクが止まらない。
しかもこのTOP10に、調子の悪いキンタナ以外、グランツール覇者が存在しないのだ。※バルベルデも2009年にブエルタ総合優勝しておりました。すみません。2015年以来の大波乱の展開である。
第3週はまだまだ厳しいコースが待っている。
さあ、楽しみだ。