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UCIロード世界選手権2018 男子エリートロードレース プレビュー

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いよいよ本日から開幕した、2018年UCIロード世界選手権。オーストリア西部の都市インスブルック(チロル州)を舞台に、8日間の日程で開催される。

そして、その最終日となる9月30日(日)に行われるのが、男子エリートロードレース。

4連覇のかかるペテル・サガンを始め、注目選手たちが集う今年の世界選手権男子ロードを徹底プレビュウしていく。

 

  

 

コース詳細

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コースはインスブルック市の北東90kmの街クーフシュタインを出発し、インスブルック中心地とその南北の山岳地帯を利用した周回コースで決着を迎える。

  1. ラインレース
  2. 周回コースを7周回
  3. 最後の周回のみ北の登りを使用

という流れとなる。

 

全長265km。総獲得標高は4670mの非常に厳しい山岳コースレイアウトである。

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ポイントとなる登りは3つ。

 

1.グナーデンヴァルト(Gnadenwald)

60~70km地点、ラインレース中に登場する登りで、登坂距離2.6km、平均勾配10.5%

厳しい登りではあるが、まだまだレースも序盤であり、大勢に影響を与える登りとはならないはずだ。

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2.イグルス(Igls)

インスブルック市内に入ってからの周回コースに登場し、全部で7回登る。

登坂距離7.9km、平均勾配5.7%

決して厳しい登りではないが、短くもなく、着実にスプリンターや並のパンチャーたちの足を削っていく。

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3.グラマルトボーデン(Gramartboden)

最後の周回にのみ登場する、最も厳しい登り。

登坂距離2.8km、平均勾配11.5%、最大勾配25%

最大の勝負所となるのは間違いない。各国の有力クライマーたちが全力で駆け上る中、サガンがこれについていくのはさすがに至難の業であるように思える。

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そして、最後のグラマルトボーデンの山頂からゴールまでは8km。

 

上記のようなコースレイアウトのため、勝負は「7回のイグルスの登りで足を削られていく中、最後のグナーデンヴァルトで抜け出した1人、ないしは数名が逃げ切りか小集団スプリントで決着をつける」パターンか、「グナーデンヴァルトで生き残った十数名の小集団が抜け出した選手を捕まえたうえでスプリントで決着をつける」パターンのどちらかが考えられるだろう。

よって、勝利する選手のパターンとしては、激坂を含む登りでアタックして抜け出せる力と下り・平坦独走を得意とする脚質や、クライマーたちについていけるだけの足をもつパンチャータイプもしくはスプリントを得意とするクライマーのどちらかとなるだろう。

果たしてサガンはその中に含まれるのか否か。

 

また、コースレイアウト的には、同じく獲得標高が多く最後に登りからの下り、その後の平坦が用意されたようなレイアウトをもつ「イル・ロンバルディア」「クラシカ・サンセバスティアン」もしくは2年前の「リオ・オリンピック」などが近いものとして挙げられるだろう。

 

それらを踏まえ、以下では注目すべき選手をピックアップしてプレビュウしていく。

 

 

注目選手たち

ヴィンツェンツォ・ニバリ(イタリア)

おそらく今大会のコースレイアウトに最も近いであろうワンデーレース、「イル・ロンバルディア」を2度制している男。しかもいずれも、得意とする「下り」での決着である。

そして、同じく山岳レイアウトの国際的な大会となった2年前の「リオ・オリンピック」でも、最後の登りでマイカエナオと抜け出して先頭に躍り出たものの、最後の下りで落車しあえなく勝機を逃した。

このときの下りは他にも有力選手の落車が相次いだ問題コースであり、同じような轍を踏むことはないだろう。なお、エナオも共に落車し、唯一生き残ったマイカは平坦での独走力に難があり追走をしてきたフールサンやファンアフェルマートに追い付かれてしまった。一方のニバリは独走力も十分であり、最後の登りの山頂からゴールまで12kmあったリオと比べれば、今大会は8km。単独でも十分に逃げ切れる距離である。

さらに今年は、同じく「登ってから下って平坦」のレイアウトであるミラノ~サンレモでも逃げ切り勝利。

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直前のブエルタ・ア・エスパーニャでも、総合争いには挑まない走りで体力を温存しつつ、得意の下りでライバルチームたちにダメージを与える場面もあるなど、彼らしさを十分に発揮した好調ぶりを見せていた。

 

今大会、最大の優勝候補と言ってよい。

 

チームメートは今のところ、ペリゾッティ、ヴィスコンティ、ポッツォヴィーヴォといったチームメートたちもリスト入りしている。彼らが共に走ってくれればニバリにとっては心強いことこの上ないであろう。

また、ブランビッラ、モズコン、ヴィレッラといったアタッカーたちがかき回し役としては非常に優秀のはず。先日のジロ・デッラ・トスカーナで優勝した調子の良いモズコンは、手綱を握るのが難しいタイプの選手ではあるものの、その強さでもって自分勝手に動いた結果が、ニバリにとってプラスになる可能性も十分にある。

 

なお、もしも今回、ニバリが優勝することができれば、フェリーチェ・ジモンディ、エディ・メルクスベルナール・イノーに続く、史上4人目の「3大グランツール制覇・モニュメント勝利・世界選手権勝利」の選手となる。

 

 

ジュリアン・アラフィリップ(フランス)

元々はサガンと同じく、登れるスプリンターからパンチャーといった辺りでクライマーとは言えないタイプの選手、という印象だった。

しかし今年はツール・ド・フランスで山岳賞を獲得して大変身。今回のインスブルックのコースレイアウトにも十分対応できる力を感じさせた。

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元より、激坂には強い脚質。今年はついにバルベルデを実力で打ち破ってのフレッシュ・ワロンヌ制覇と、今大会にも似たレイアウトをもつクラシカ・サンセバスティアンで勝利。9月に入ってからもツアー・オブ・ブリテンとオコロ・スロベンスカでともに総合優勝を果たすなど、調子をしっかりと上げてきている。

 

実績だけでなく、その勢いから言えば最も優勝に近い選手であると言える。

 

チームメートには下りが得意で同じく優勝候補(だけど平坦が苦手なので飛び出しても途中で捕まえられそうという意味ではアラフィリップの引き立て役には最適な)ロマン・バルデや、平坦牽引やアタックを得意とするトニー・ギャロパンなどがリスト入り。ワレン・バルギルも、よく分からないところでアタックするなど、うまくハマればいい感じに場をかき乱してくれる魅力があるため、味方にすると心強い。

 

 

ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)

基本的にはアラフィリップと似た脚質をもち、アラフィリップ同様、今年(も)とても調子の良い姿を見せている。ただ、ツール山岳賞を獲得している今年のアラフィリップと比べ、最後のグラマルトボーデンの登りをこなせるかは微妙なところ。クフィアトコフスキって確か、激坂耐性あまり強くなかった印象もあり・・・。

勝利の可能性を考えるうえで参考になるのは2017年のミラノ~サンレモ。最後の登りで飛び出したサガンにアラフィリップと共についていき、最後のスプリントを制した。

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もちろん、ミラノ~サンレモと今大会とでは、獲得標高も最後の登りの難易度も全然違う。クフィアトコフスキの勝利に期待するのは、いわば2年前のリオのファンアフェルマートの勝利に期待するようなものだ。

また、チームとして順当に勝利を狙える選手としてはそのリオで最後の登りで抜け出す力をもっていたラファウ・マイカブエルタでも勝てはしなかったが調子は悪くはなかったので、うまくいかないことが続いたシーズンの最後に栄光を掴みたいところ。

それ以外のチームメートはフランスやイタリア、スペインなどと比べるとやや力不足。

 

 

マイケル・マシューズ(オーストラリア)

世界選手権前哨戦としても位置付けられているカナダの2連戦で連勝。勢いで言えば最もある選手だ。元々オーストラリアの優勝候補はリッチー・ポートだったが、その彼が体調不良からの練習不足のため出場を断念。一気にマシューズがエースとなりうる可能性が浮上した。

とはいえ、彼はあくまでもサガン同様のパンチャータイプ。最後の登りをこなせるか否か、こなせたとして、そのときはサガンと競うことになりそうだというのが懸念点である。

とはいえ、やはりその勢いに期待したくもなる。

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プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)

イタリアのニバリ、フランスのアラフィリップ、そしてスペインのバルベルデといったところが優勝候補国・選手の大本命だとすれば、このスロベニアのログリッチェは、「優勝候補最右翼」からは一歩外れた、しかし十分に優勝を狙える可能性があると多くの人が認める「裏優勝候補」と言えるだろう。

登りの強さは昨年ツール・ド・フランスの山頂フィニッシュ勝利、そして今年のツール総合4位で証明済み。そのツールでも昨年のバスクでも見せた下りの強さと積極性、そして当然、平坦での独走力と、ニバリと並んで今年の優勝候補とも言うべき要素を兼ね揃えた選手である。

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今年のコースレイアウトが彼にとって最大のチャンスであることは彼自身もよくわかっているようで、昨年2位で今年もチャンスであるはずの個人タイムトライアルへの出場を蹴ってまで、ロードに集中しようとしている。

だからこそ今年、我々は見るかもしれない。元スキージュニア世界チャンピオンが、自転車ロードレースの世界チャンピオンとして表彰台の頂点に立つ姿を。

 

また、スロベニアにはもう1人、重大な優勝候補が存在する。今年の国内選手権ロードを制し、ビンクバンクツアーとドイツ・ツアーも総合優勝を果たした男マチェイ・モホリッチ。

登坂力も独走力もずば抜けているわけではないが、サガンにも匹敵するダウンヒルテクニックに加え、持ち前の「体力」によって、執念で終盤まで先頭集団で生き残り、意外なアタックを見せてくれるかもしれない。彼もまた、その勢いから、優勝する姿を思い浮かべられる選手の1人である。

 

 

 

 以上、5名(+2名)の注目選手をピックアップしてみた。

もちろん、それ以外にも、もっと本命と言うべき選手たちも存在する。スペインのアレハンドロ・バルベルデやヨン・イサギレ、ベルギーのファンアフェルマート、コロンビアのウランやエナオ、キンタナにミゲルアンヘル・ロペスブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を果たしたサイモン・イェーツと最強のアシストであったアダムももちろん注目を集めている選手たちだ。地元オーストリアにも、グロースシャルトナ―やミュールベルガー、ペストルベルガーなどの実力者が揃っている。

 

そもそも、世界王者サガンの勝機も十分に残されてはいる。

 

ただ、少なくとも言えるのは、昨年までとは全く違った展開を今年のロードレースでは見ることができるだろうという期待。

そして、同じ山岳レイアウトということで、2年後の「東京オリンピックロードレース」に向けて、その優勝候補を占うレースにもなりうるという点でも、優勝者以外も含めて注目していきたいレースである。