6/3(日)から開催される、8日間のステージレース。
「ツール前哨戦」とも呼ばれるこのアルプスの厳しいレースを、今回は簡単にプレビュウしていく。
- スプリンターの出番なし⁉ ツールを意識した全8ステージ
- 数少ないスプリントのチャンスを狙う優勝候補たち
- 総合成績に大きな影響を及ぼし得るチームTTでの有力チームは?
- 初の栄冠を手に入れることができるか――今大会注目の実力者クライマーたち
スプリンターの出番なし⁉ ツールを意識した全8ステージ
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは「ツール・ド・フランス前哨戦」とも呼ばれる。
その理由は、ツールと同じA.S.O.の主催であるということや、ツール開催1ヶ月前に開催されるということ、そしてツールでも主戦場となるアルプスの山々を舞台にして行われるということ以外にも、その年のツールで目玉となるステージを意識したようなコースレイアウトが用意されていることにもある。
昨年も目玉となる「モン・デュ・シャ」を、2年前も同じく目玉であった山岳TTステージをコースに組み入れるなどしている。
では、今年はどうか。やはり今年も狙ってきたようだ。
まずは、今年のツール本戦で3年ぶりに登場となるチームタイムトライアル。
3年前はブルターニュ地方の起伏の多いコースレイアウトでの28km。
今年も同じくブルターニュ地方で、距離も35kmと長くなっている。総合成績にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。
そして、今回のドーフィネ第3ステージにも、同じくチームTTが登場する。
しかも、距離は同じく35km。
当然、各チームともに、ツール本戦を意識した「試し走り」をすることになるのは間違いない。
また、もう1つ、今年のツールの注目ステージは「短距離山岳ステージ」の存在である。
第11ステージには108kmの、第17ステージに至っては65kmという前代未聞の短さである。しかも、平坦なステージではなくいずれも山頂ゴールの厳しいレイアウト。
過去のグランツールでも「短距離山岳ステージ」が総合優勝に大きな影響を及ぼしたこともあり、今年のツールにおける注目ステージの1つであることは間違いないだろう。
さて、今回のドーフィネでもそれを意識したステージが登場する。
最終日前日となる土曜日の第6ステージ。さすがに65kmには匹敵しないものの、110kmという、十分な短さである。
さらにこの前日と翌日(最終日)にも、130km前後の短めな山頂フィニッシュステージが。
全体的に見ても第4ステージから4日連続で山頂フィニッシュが続き、非常にハードな1週間。
かろうじてスプリンター向けステージとも言えそうな第1・第2ステージも、アップダウンが激しく一筋縄ではいかないステージのため、スプリンターが活躍できる機会はほぼない、と言うことができそうだ。
よって、各チームとも、スプリンターよりもクライマーを多めに連れてきている。
続いて、注目選手&チームをプレビュウしていく。
数少ないスプリントのチャンスを狙う優勝候補たち
まずは2つしかチャンスのない、しかもそのチャンスも限りなく細いチャンスであるスプリントにおける優勝候補を見ていこう。
今大会の出場選手ラインナップの中で、アップダウンコースにおけるスプリントの実績で言えば、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ディメンションデータ)が頭一つ飛び抜けているだろう。
ドーフィネでも過去にステージ4勝とポイント賞を獲得しており、相性は良い。
純粋なスプリント力で言えばブライアン・コカール(ヴィタルコンセプト・サイクリングクラブ)も勿論候補となるが、今回のレイアウトでは力を発揮しづらいかも・・・。
ただ、ツール本戦にチームが選出されなかった以上、ここで結果を出さねば先がない。
勝利への渇望は人一倍だろう。
5月もHCクラスで立て続けに2勝しており、調子は悪くないはずだ。
今年調子が良い選手といえば、ジェイ・マッカーシー(ボーラ・ハンスグローエ)も忘れてはいけない。
今年、いずれもゴール前の登りが肝となったカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースやバスク1周で、一流スプリンター・パンチャーを相手取り勝利している。
これまでオーストラリアでのみ活躍している印象の強かった彼が、今年は一皮むけた様子を見せてくれている。
若手の台風の目となりそうなのが、ファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・フロアーズ)の存在。
21歳のネオプロでありながら、今年すでにノケーレ・コールス、シュヘルデプライス、ツール・デ・フィヨルドとHCクラスレースで3勝している。
ノケーレ・コールスは緩やかな登りスプリントであるため、今大会への適性も悪くないはずだ。
ただし、クイックステップとしては今大会のスプリントをジュリアン・アラフィリップで狙ってくる可能性も十分にある。
2年前のドーフィネではボアッソンハーゲンに喰らいついてのステージ2位を経験。
今年もバスク1周やフレッシュ・ワロンヌで好調さを見せつけている彼が、ポイント賞(これも2年前、ボアッソンハーゲンに敗れて2位)も含めて狙ってくる可能性は十分にあるだろう。
たった2つしかないスプリントステージではあるが、十分に盛り上がる要素を秘めている。
総合成績に大きな影響を及ぼし得るチームTTでの有力チームは?
今大会における最重要ポイントの1つは、第3ステージでの35kmチームTTである。
ここまでの長さのチームTTは、ツール・ド・フランス本戦では2009年大会以来、およそ10年ぶりである。
各チームとも、ツールを意識した絶好のシミュレーションの機会として本気で臨むことになるだろう。
今大会の各チームメンバーを眺めていて、最もタイムを稼げそうなチームとしてはチーム・スカイとクイックステップ・フロアーズが想定できる。
スカイはゲラント・トーマス、ミハウ・クフャトコフスキ、そして世界選手権表彰台経験のあるジョナタン・カストロビエホの3名が強力。いずれも、昨年の世界選手権チームTTにも出場している。
ただし、ここで重要になるゲラント・トーマスについては、初日プロローグにて落車しており、その影響が不安視されるところ。
クイックステップ・フロアーズも同じく昨年世界選手権に出場しているボブ・ユンゲルスとニキ・テルプストラがおり、ジュリアン・アラフィリップもタイムトライアル能力が高いため、期待ができる。
普段、チームTTでは無類の強さを誇るBMCレーシングチームだが、今回は一軍メンバーを連れてきていない。
ブレント・ブックウォルターとパトリック・ベヴィンは十分に個人タイムトライアル能力が高い選手ではあるものの、その他に有力選手がいるわけではない。
ミッチェルトン・スコットも常連強豪チームであり、アレクサンダー・エドモンドソンやダミアン・ハウスン、ダリル・インピーといった昨年世界選手権出場メンバーを揃えてきてはいる。
しかしTTが苦手なエースのアダム・イェーツがどうなるか次第、というところもある。
サイモン同様に覚醒するか?!
上記4チームが今回のチームTTでタイムを稼ぐことにより、これらのチームのエースが総合優勝争いで有利になると言えるだろう。
とはいえ、翌日の第4ステージからは最終日まで、4日間連続の山頂フィニッシュが待ち構えている。
ツール本戦ならばまだしも、このドーフィネに限って言えば、チームTTの遅れは十分に挽回可能であると言えるだろう。
よって、最後に今大会出場の有力クライマーたちを見ていく。
初の栄冠を手に入れることができるか――今大会注目の実力者クライマーたち
今大会、まず注目したいのがロマン・バルデ(AG2Rラモンディアル)である。
5月はチームメートのドモン、ラトゥール、ヴュイエルモといった最強山岳トリオと共にシエラネバダでの高地トレーニングに邁進していたという。
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今大会に向けたチームとしての意気込みも強く感じられる。
バルデ自身もドーフィネでは2年前に総合2位を獲得しており、その年のツール・ド・フランス本戦でも総合2位となっている。
昨年のドーフィネは総合6位と振るわなかったものの、ツールでは総合3位。
今年は初出場となったティレーノ~アドリアティコやバスク1周では総合13位と微妙ではあるものの、ストラーデビアンケやリエージュ~バストーニュ~リエージュなどのワンデーレースではこれまでにない成績を残している。
石畳ステージの試走も2月には行っているようで、今年のツールに向けた準備は万端。
あとは、このドーフィネで山岳ステージに向けた最終調整を行うだけだ。
ダニエル・マーティン(UAEチーム・エミレーツ)も、ドーフィネ2年連続の総合3位となっており、今大会の優勝候補の1人である。しかし今期ここまで調子はあまり良くない。
元々所属していたクイックステップ・フロアーズはツール本戦ではスプリンターのためのチームを作ることが多く、マーティンの総合優勝争いをサポートしてくれる環境ではなかった。
その意味で移籍という選択肢自体は良かったと思うのだが、その移籍先がUAEという、これまた総合優勝争いにおいては不慣れなチームであることが不安材料。
ジロではファビオ・アルが全く良いところのなかったUAE。
今回のドーフィネとツールでは、そのリベンジを果たせるか?
ボブ・ユンゲルス(クイックステップ・フロアーズ)は、ジロ・ディタリアでの2年連続新人賞を経て、今年いよいよツール・ド・フランスに挑む。
チームのエースナンバーはアラフィリップがつけており、確かに1週間のステージレースであれば、彼の方が適性があるかもしれない。
しかし、グランツールでの実績ではユンゲルスの方が上。今大会で、彼がどれだけの走りを見せることができるのか。楽しみだ。
新人賞候補としては、今年のパリ~ニースで大逆転マイヨ・ジョーヌを獲得したマルク・ソレル(モビスター・チーム)が最有力候補となるだろう。
それ以外にはティレーノ~アドリアティコ総合4位のティシュ・ベノート(ロット・スーダル)や、2年前ラヴニール覇者ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)の覚醒にも期待したいところ。
誰がエースなのかイマイチ分からないスカイの中から、まさかのジャンニ・モズコン総合上位というのも、ありえてしまうかもしれない。
ほかにもカチューシャ・アルペシンのイルヌール・ザッカリン、ミッチェルトン・スコットのアダム・イェーツ、フォルテュネオ・サムシックのワレン・バルギルなど期待したい選手は数多くいる。
だが、最後にその中でも注目したい「チーム」として、コフィディス・ソリュシオンクレディの名前を挙げておきたい。
コフィディスと言えば、絶対エースのナセル・ブアニの存在が大きいだろう。実際に過去のドーフィネでも3勝しており、彼なしのドーフィネ・ツールというのはあまり考えられなかった。
しかし、今年のドーフィネに彼は出場せず。ツール本戦には現状出場予定ではあるが、ここ最近のチーム内の彼の立ち位置はやや不安定なものとなっている。
代わって、今回のドーフィネでこのチームに期待したい選手としては、今年新加入となったホセ&ヘススのエラーダ兄弟である。エースナンバーをつけるヘスス・エラーダは2月の2つのステージレースで総合上位につけている。初日プロローグも、26秒遅れとそこまで悪くない結果であった。
また、ディメンションデータを放逐されて行先を失っていた中、2月に突然コフィディス入りが決まったダニエル・テクレハイマノの走りにも注目したい。
2015年のドーフィネで山岳賞を獲得し、翌年も積極的に逃げに乗っていた山岳逃げスペシャリスト。
今年も、自らを拾ってくれたチームへの恩返しのためにも、しっかりとした結果を今大会で残していきたいところである。
ブアニなしのコフィディスではあるが、色々と期待できてしまいそうなメンバーリスト。
彼らの動きから、目を離さないようにしておこう。
以上、簡単ではあるが、今回のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの注目どころを確認してみた。
ツールに向けた事前状況の整理としても、あるいは単純に1週間の厳しいステージレースとしても、楽しんでいけそうなレースであることは間違いないだろう。