いよいよ開幕が近づきつつある、2018ツール・ド・フランス。
その第1週目のコースをプレビュウしていく。
今年は何かと「3年ぶり」なコース設定。
それは第1週目からまさしくそうで、「3年ぶり」のチームTT。「3年ぶり」の「ブルターニュの壁」。「3年ぶり」の「ミニ・パリ~ルーベ」。
そして、2015年のように平坦が多い第1週目でもある。休息日明けに山岳3連戦が待ち構えている、という点でも一緒だ。
では、2015年が平凡な1週目だったかと言えばそんなことはない。
平凡なはずのオールフラット第2ステージが、まさかの大雨による集団分裂を巻き起こし、このときの遅れが原因でキンタナは敗北したと言っても過言ではない。
ユイの壁のステージではまさかの集団落車によりマイヨ・ジョーヌを着ていたカンチェラーラがレースを去り、ブルターニュでは同じくマイヨ・ジョーヌを着ていたトニー・マルティンが落車で早々と姿を消した。
そういう形でのスペクタルは望まないが、それでも、平坦だからレースは退屈になるとは限らない。
また、近年は若手の台頭も著しく、スプリンターの戦国時代化がより一層進んでいる。
連日、激しいスプリントバトルが展開されそうで、何だかんだ見所の多い第1週目となりそうだ。
↓3週間の注目コースをピックアップしてプレビュウした記事↓
↓2週目のプレビュウはこちら↓
- 第1ステージ ノワールムティエ・アン・リル~フォントネー・ル・コント 201km(平坦)
- 第2ステージ ムイユロン・サン・ジェルマン~ラ・ロッシュ・シュル・ヨン 182.5km(平坦)
- 第3ステージ ショレ~ショレ 35.5km(チームTT)
- 第4ステージ ラ・ボル~サルゾー 195km(平坦)
- 第5ステージ ロリアン~カンペール 204.5km(丘陵)
- 第6ステージ ブレスト~ミュール・ド・ブルターニュ・ゲルレダン 181km(丘陵)
- 第7ステージ フジェール~シャルトル 231km(平坦)
- 第8ステージ ドルー~アミアン・メトロポール 181.5km(平坦)
- 第9ステージ アラス城塞~ルーベ 156.5km(丘陵・石畳)
第1ステージ ノワールムティエ・アン・リル~フォントネー・ル・コント 201km(平坦)
フランス西部、ヴァンデ県からスタートする2018年ツール・ド・フランス。同県でのグランデパールは史上6回目となる。
そして全体としては、同県の西部、大西洋に浮かぶ「ノワールムティエ島」からスタートすることになる。
島と本土とを結ぶ砂洲「パサージュ・デュ・ゴワ」で有名で、2011年大会はこの海の道からのスタートとなった。
しかし、今大会はこの海の中道は使わずに、島の南部の「ノワールムティエ橋」を通って本土に渡るルートを採用したようである。
島と本土とを結ぶ唯一の橋、ポント・ドゥ・ノワールムティエ(ノワールムティエ橋)。
なお、ノワールムティエ島自体をスタート地点として使用したのは2005年大会が最も最近の例。今大会は島の最北端に位置するノワールムティエ・アン・リルというコミューンでスタートする。
過去の大会の例に漏れず、初日ステージは非常にフラットなピュアスプリントステージ。4級山岳がゴールまで30kmという微妙な位置にはあるものの、基本的には逃げグループの中で争われることだろう。ジロのラインステージ初日(第2ステージ)ではこの山岳賞を巡る激しいアタック合戦も繰り広げられたが、ツールでは果たしてどうなるか。
そして、注目は今大会から採用された「ボーナスタイムポイント」。
今回はゴール前13.5kmの位置に登場するこのポイントでは、先頭通過から3秒、2秒、1秒のボーナスタイムを得ることとなる。
この秒数は微妙なところだ。たとえば、この日のフィニッシュラインを先頭で越えた選手には10秒のボーナスタイムが得られ、2位には6秒のボーナスタイムとなる。たとえばボーナスタイムポイントを先頭で通過した選手がゴールで2位となっても、1位でゴールした選手をボーナスタイムで超えてマイヨ・ジョーヌを得ることはできない。
結局は、この日の勝者がそのままマイヨ・ジョーヌ着用者となることは間違いがなさそう。それでも、明日以降のマイヨ・ジョーヌ争いにも影響を及ぼしそうな、面白い試みである。
ここ最近のツール・ド・フランスでは、常に、「最初のラインレース」で勝利した選手が、その大会の最多勝利選手となっている。
2013年:マルセル・キッテル(4勝)
2014年:マルセル・キッテル(4勝)
2015年:アンドレ・グライペル(5勝)
2016年:マーク・カヴェンディッシュ(4勝)
2017年:マルセル・キッテル(5勝)
この日の勝者は、このジンクスからすると、ただの1勝、マイヨ・ジョーヌ着用権以外のプレゼントがツールの神様から与えられることになるかもしれない。
今大会最強のスプリンターを決める重要なステージ、というと言い過ぎかもしれないが、気合の入った最強スプリンターたちのせめぎあいを、楽しみにしたい。
昨年のツールで最初のスプリントステージとなった第2ステージ。リエージュの街でキッテルが強さを見せつけた。
個人的には、今年、5月に少しずつ調子を上げてきたグライペルが、その勢いのまま勝利を掴んでほしいという思いがある。ほんの少しだけど登り基調なところも彼に向いているはず。
彼は今年、チームとの契約に関する折り合いがつかず、移籍の可能性も出ているとか・・・。複数勝利を掴んで、よりより条件を手に入れてチームに残れるならば、それはとても幸いなことなのかもしれない。
第2ステージ ムイユロン・サン・ジェルマン~ラ・ロッシュ・シュル・ヨン 182.5km(平坦)
引き続きピュアスプリンターたちの激しいバトルが展開しそうだ。ヴァンデ県の県庁所在地ラ・ロッシュ・シュル・ヨン、ナポレオンによって作られ、かつてはナポレオンの名を冠していた街へと至る182.5km。
ゴール前1kmで直角カーブを曲がって、あとは長い直線。前日も1.5kmの直線ゴールで、いずれも危険も少ない、チームトレインの力が肝になりそうなレイアウトだ。今シーズン、最も最強のスプリントトレインを形成しているのはクイックステップ・フロアーズ。今年ツール初挑戦となるフェルナンド・ガヴィリアが、自らの存在を主張する鮮烈なる勝利を叩き出せるか。
「ミニ・ツール」とでも言うべき豪華な顔ぶれの揃ったツアー・オブ・カリフォルニアで、他を寄せ付けない圧倒的な力量を見せつけたガヴィリア。
昨日に引き続き、ゴール直前に置かれたボーナスタイムポイント。昨日は優勝選手のマイヨ・ジョーヌを奪い取るほどの効果はなかったものの、この2日のポイントの取り方次第では、勝利なしでマイヨ・ジョーヌを手に入れる可能性はある。このあたりの白熱た展開にも期待したいところ。
第3ステージ ショレ~ショレ 35.5km(チームTT)
今大会の最初の目玉、35.5kmのチームタイムトライアル。
35kmという距離は、3年前、同じく起伏の豊かなチームTTを行った2015年よりもさらに7km長い。このときはBMC、スカイ、モビスターの上位3チームは4秒以内に収まるという大接戦を繰り広げ、とくにスカイのニコラ・ロッシュが最後に少し遅れてしまったことが勝敗を分けるという、非常に盛り上がりを見せたチームTTだった。
そのときはブルターニュで開催されたが、今回もまた、ブルターニュ同様に起伏の激しいレイアウト。やはりスカイやモビスターといったチームが上位に来るのは間違いがなさそうだ。
同じ距離で開催された「前哨戦」クリテリウム・ドゥ・ドーフィネのチームTTでは、スカイが圧倒的な記録を叩き出して勝利をしたが、同じ調子の良さが発揮されるとは限らない。BMCも強かったが、3位のロット・スーダル以下は結構な団子状態。チームTTが決して強くないはずのAG2Rラモンディアルもそこまで大きくはタイムを落とさなかったため、各チームがしっかりとチームTTに向けて準備を進めていることがよくわかる。あとは、本番にどれだけの選手を揃えてこれるかである。
3年前のツールでわずか1秒差でスカイを破ったBMC。ドーフィネでも調子の良さを見せており、今年も優勝候補の最右翼である。スポンサー問題もあり、勝利は絶対である。
第4ステージ ラ・ボル~サルゾー 195km(平坦)
ツール初登場となるサルゾーは、第1ステージの1km、第2ステージの1.5kmに続き、実に4kmというロングストレートをフィニッシュに用意している。幅も7mと広い、集団スプリントに最適なレイアウトだ。
公式プログラムによると、UCI新会長のダヴィド・ラパルティアン曰く「2018年大会で、最もすばらしいものになる」フィニッシュが見られるという。彼がこの村出身の人物だからという色眼鏡もあるだろうが・・・。
なお、このサルゾーの北側には、ブルターニュの誇る美しき「モルビアン湾」が広がっている。エーゲ海のように小さな島が点在するこの風景は、今大会のベスト空撮ショットの1つになるかもしれない。
第5ステージ ロリアン~カンペール 204.5km(丘陵)
チームTTを除けば、近年稀にみるフラットさで開幕した2018年ツール・ド・フランスも、いよいよ本格的にブルターニュ地方に入ってくるに従って、より「アルデンヌ風味」の丘陵ステージが開始されてくる。
この日も、逃げ切りが容認される、という可能性は少ないながらも、序盤の山岳賞ジャージを独占できる可能性を巡って、激しいアタック合戦が繰り広げられる可能性がある。最後はそこまで厳しくはないが登りゴール。パンチャーたちの激しいせめぎ合いが予想されるだろう。
2016年・2017年ともに、序盤のパンチャーステージを制しているペテル・サガン。アラフィリップ、マシューズといった過去の敗北者たちはリベンジを果たせるか。
今年のツール・ド・フィニステーレは、今回のこの第5ステージと同じフィニッシュを設定していた。このときはディレクトエネルジーのジョナタン・イベールが勝利し、そしてロマン・バルデが2位、ギョーム・マルタンが3位につけていた。
このことが示す意味とは。意外にも、わずかなタイム差が総合争い勢の中でもついてしまうかもしれない。
第6ステージ ブレスト~ミュール・ド・ブルターニュ・ゲルレダン 181km(丘陵)
「ブルターニュの壁」が3年ぶりに登場。2kmの登坂はほぼ直線で、挑む者の精神を挫けさせる。3年前は、山岳賞を着ていたテクレハイマノや、クフャトコフスキが早々に遅れる姿を見せ、最終的にはヴィンツェンツォ・ニバリが餌食となった。今年はこの登りを「2回」こなすことに。また、1回目の登りを終えたあと(残り13km地点)にボーナスタイムポイントが控えているため、1回目は1回目で重要な役割を果たす可能性がある。
3年前はAG2Rラモンディアルのアレクシー・ヴュイエルモが制する。今年は、たとえば昨年のフレッシュ・ワロンヌ3位のディラン・トゥーンスや、同9位のダヴィ・ゴデュなどに期待したいところ。彼らが出場するかどうかはまだわからないけれど。
キャリア最大の勝利となったヴュイエルモの3年前の勝利。ダニエル・マーティンも集団から抜け出して追撃したものの、届かなかった。
第7ステージ フジェール~シャルトル 231km(平坦)
今大会最長の231kmに、小刻みなアップダウンはあるものの、基本的には平坦ステージ。平原の只中ゆえの横風に注意したいくらいか。
今大会は今日を含めて4回目の集団スプリントの機会となるだろう。ここまでで、今大会調子の良いスプリンターが誰なのか、段々と分かってくるはずだ。
キッテル、グライペル、カヴェンディッシュ、サガン、デマールといった最強クラスの選手はもちろん、昨年シャンゼリゼを制したフルーネヴェーヘンや、今年ツール初挑戦となるユワンやガヴィリアなど、近年稀に見る戦国時代の様相を呈している。
場合によっては連日、優勝者が入れ替わるようなこともあるかもしれない。むしろそんな展開を望んでいる。
なお、ラストはわずかに登っている。
シャルトルと言えば大聖堂。12世紀から13世紀にかけて作られた、「フランスにおける最も美しいゴシック建築」の1つ。
第8ステージ ドルー~アミアン・メトロポール 181.5km(平坦)
前日に引き続き、細かなアップダウンを含んだ平坦ステージ。基本は、集団スプリントになるだろう。各スプリンターチームも万全の態勢を整えており、ジロやブエルタほどには、簡単に逃げを許すようなことはないだろうから・・・。
とはいえ、この日はフランス革命記念日。一花咲かせたいフランス人エスケーパーたちの、意地の張り合いが見られるかもしれない。グジャールやシャヴァネル、ケムヌール、あるいは、かつて革命記念日に黄色のジャージを着た男、トニー・ギャロパンなど!
アミアンも大聖堂で有名だが、「北の小さなヴェネツィア」と呼ばれる水上庭園も見ものである。
第9ステージ アラス城塞~ルーベ 156.5km(丘陵・石畳)
ツール・ド・フランスに限らず各グランツールの主催者は、最も日数の長い第1週目のラスト(大体が第9、第10ステージ)にその年の大会を象徴する強烈なステージを放り込んでくる。
個人タイムトライアルの長かった2012年は第9ステージにも個人TTを用意し、ブラッドリー・ウィギンスが圧倒的な強さを見せつけた。
2013年は第8ステージのアクス・トロワ・ドメーヌでマイヨ・ジョーヌを得たフルームが、第9ステージにてチームをバラバラにされる危機的な状況に陥った。
2014年はラ・プランシュ・デ・ベルフィーユにてニバリが最強であることを証明した。
2015年はチームTTにおける激戦。
2016年はアンドラ・アルカリス、2017年はモン・デュ・シャを含む超級山岳3つを放り込み、いずれもクイーンステージが用意された。
そして迎えた2018年。
今年のツールは、この最重要ステージに、「ルーベ」を当て込んできた。
しかも、モン・サン・ペヴェルからカンフィナン・ペヴェルまで。本場「パリ~ルーベ」でも勝負所となる5つ星パヴェを本場と同じ終盤に持ってきた。今大会の総合優勝争いを左右する大事な一戦となることは間違いない。
2016年パリ~ルーベのモン・サン・ペヴェルは、最後のルーベとなったカンチェラーラを容赦なく飲み込んだ。
距離が短いというのもいいところだ。本場のようにやや退屈な前半戦もなく、かなり早い段階で強力な石畳の連続に襲われることになる。その分、勝負を仕掛けようとする選手たちは、最初からトップギアで駆け抜けていくだろう。そのスピードから、誰が最初に脱落するのか。
2014年ツールの石畳ステージでチームに支えられながらライバルたちに差をつけたヴィンツェンツォ・ニバリ。
あるいは、今年2月にもこのステージの下見に出て、かつ初出場のストラーデビアンケでも泥に塗れながら2位に入り込んだ走りを見せたロマン・バルデなどに期待。
彼らにとっては、この日、雨が降ることを期待していることだろう。
そして、ツール5勝目がかかる王者にとっては、雨の石畳ステージというのは、実にトラウマなものに映るに違いない・・・。
果たしてどんな波乱が、この「北の地獄」ステージに待ち受けているのか。
スタートからゴールまで、全く目が離せそうにない、重要なステージだ。