3月4日、ついに本格的なステージレースのシーズンが開幕する。
パリ~ニース。その名の通り、フランスの首都パリ近郊から、南仏の観光地ニースに向けて、1週間で1200kmほどの距離を踏破するステージレースである。
ツール・ド・フランスを主催するASOが運営するレースであり、総合首位のマイヨ・ジョーヌやポイント賞のマイヨ・ヴェールなど、ツール・ド・フランスと同じ名称の特別賞ジャージが与えられる。
出場選手もツール・ド・フランス並の豪華選手が揃い、コースも同年のツールを意識したものが採用されることも多いことから、「ミニ」ツール・ド・フランスと呼ばれることもある。
また、ときに雪さえ降るまだ寒いパリ近郊から、夏の気配すら感じさせる南仏のニースへと至ることから、「太陽へのレース(course au soleil)」という愛称も親しまれている。
そしてこのパリ~ニース、直近の2年は共に、わずか数秒差を巡る激しいバトルが展開されていた。
参考:2017年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選+1 - りんぐすらいど
その立役者たるアルベルト・コンタドールは引退してしまったものの、今年もまた、同じように白熱の攻防戦が展開されることを期待する。
今回はこの注目のレースの「コースプレビュー」を行う。
注目選手・チームについては↓にて!
- 第1ステージ シャトー~ムードン 134.5km
- 第2ステージ オルソンヴィル~ヴィエルゾン 187.5km
- 第3ステージ ブールジュ~シャルル・ギヨン 210km
- 第4ステージ ラ・フュイユルズ~サンテティエンヌ 18.4km(個人TT)
- 第5ステージ サロン・ド・プロヴァンス~シストロン 165km
- 第6ステージ シストロン~バンス 198km
- 第7ステージ ニース~バルデブロア・ラ・コルミアン 175km
- 第8ステージ ニース~ニース 110km
第1ステージ シャトー~ムードン 134.5km
スタート地点もゴール地点もパリ近郊で、両者の直線距離はわずか15kmほどしかない。パリ近郊をぐるりと回るレイアウトで、プロローグではないがプロローグのようにパリ市民が観戦しやすい独特なラインレースとなっている。
パリ~ニースの開幕ステージでは伝統的に、短距離個人TT(プロローグ)か、もしくは平坦スプリントステージと決まっていた。しかし昨年はその伝統を打ち破り、初日から急坂を上ってのゴールが設定され、アルノー・デマールとジュリアン・アラフィリップが激しい攻防を繰り広げた。
今年も同様に、小さな登りフィニッシュが初日ステージから設けられた。
全長1.9km、平均勾配5.4%の3級山岳。さらに最後の500mには石畳も敷かれているとのこと。
石畳の急坂に強いクラシックスペシャリスト――クリストフやマシューズ、デゲンコルブ、あるいはディラン・トゥーンスなどに期待が集まる。もちろん、昨年良い勝負をしたデマールとアラフィリップにも。クライマーの勝利も十分考えられるだろう。
逆にキッテルやフルーネヴェーヘン、ヴィヴィアーニなどのピュアスプリンターには厳しいステージとなるだろう。
第2ステージ オルソンヴィル~ヴィエルゾン 187.5km
パリ南方のオルソンヴィルからスタートし、シェール県のヴィエルゾンにゴールする。基本的には平坦ステージだが、この日もラスト500mがわずかに登っている。
平均勾配は4%程度でスプリンターでも十分に攻略できるレベルではあるが、キッテルやヴィヴィアーニなどはこの日も勝機を掴めないかもしれない。
この手の登りフィニッシュで強い選手といえばアルノー・デマールやアレクサンダー・クリストフである。とくにクリストフは直近のアブダビツアー初日登りスプリントでも勝利している。少しずつ調子を上げていけるきっかけになるか?
第3ステージ ブールジュ~シャルル・ギヨン 210km
今大会最長の210km。シャルル・ギヨンはリヨンとほぼ同緯度にあり、少しずつ太陽に近づいていることがわかる。
この日もピュアスプリンターたちにとっては残念なことに、正統な集団スプリントを望むことは簡単ではなさそうだ。
ラスト22km地点に全長4.6km・平均勾配4.7%の3級山岳。
これは、実質ラスト30km手前から緩やかに登り始めている。
そしてゴール前2.5km辺りからは、1.5km・平均勾配4.5%のトリッキーな登りも含まれている。
最後の1kmは平坦のため、3級山岳と直前の登りで生き残ることのできたスプリンターたちだけが、最後に勝負をする権利を得られるというわけだ。
登りでもラストの平坦でも突発的なアタックが展開され、場合によってはそこからの逃げ切りも見られそうなステージである。
アラフィリップやサイモン・イェーツなんかがそういった走りを好むタイプのように思え、彼らによるかき回しが楽しみになるステージだ。
第4ステージ ラ・フュイユルズ~サンテティエンヌ 18.4km(個人TT)
全体的には平坦基調の中距離個人TT。これくらいの距離だと、TTが得意な選手と苦手な選手とのタイム差は平気で1分以上開いてしまう。
なお、中間計測は、スタートから始まる緩やかな登り(平均勾配3.5%)の頂上にある。中間計測値だけを比較すると、その後の下りや平坦を得意とする選手との優劣を見誤る可能性があるので注意。
終盤は下りと平坦が基本だが、上記のようにラスト4.4km辺りから平均勾配10%近い激坂が一瞬現れる。これがタイムにどう影響するか。
いずれにせよ昨年のような厳しい登りを含んだレイアウトでは決してない。今回は安定したTTスペシャリストの出場がないため優勝を予想するのはなかなか困難だが、BMCレーシングチームのアレッサンドロ・デマルキ、チームEFエデュケーションファーストのラース・ボームあたりが良い走りをしてくれそうか?
エトワール・ドゥ・ベセージュで総合優勝をしたトニー・ギャロパンや、ブエルタ・ア・アンダルシアで良い走りを見せたティム・ウェレンス、あるいはディレクトエネルジーのシルヴァン・シャヴァネル辺りも優勝候補となりそうだ。
総合勢ではLLサンチェス、ヨン・イサギレ、ジュリアン・アラフィリップ、そしてバウケ・モレマあたりはライバルに差をつけることができそうだ。もちろん、アンダルシア個人TTで勝利したダビ・デラクルスも。
第5ステージ サロン・ド・プロヴァンス~シストロン 165km
いよいよパリ~ニースも本格的な山岳ステージに突入してきた。
今大会最初の1級山岳(登坂距離11km・平均勾配7%)も登場。とはいえ、ここと、そして次の3級山岳を乗り越えたあとは、ゴールまで60km近い下りと平坦。スプリンターたちが戻ってくる可能性も十分ありうるだろう。
だが、ゴール前13kmに位置する3級山岳も、1.3kmと短いが、平均勾配は6.4%とそれなりにある。
そのあともカテゴリーのついていない小さな登りがあり、中盤の山岳を乗り越えたスプリンター陣もここでバラバラにされてしまう可能性がある。
少なくとも総合勢での大きな動きはないだろう。・・・終盤の下りでの、挑戦的なアタックがない限りは。
ゴール地点のシストロンは昨年のツール・ド・フランス第19ステージでも通過しており、 上記写真の「ボーム岩」が非常に有名。この岩の向こう側には、シタデルなどの歴史的建造物が立ち並ぶ。
システロンをゴール地点に定めた2015年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネではナセル・ブアニが勝利している。今年いまだ勝利なしのブアニ、意地を見せられるか?
第6ステージ シストロン~バンス 198km
コース後半に小刻みな登坂が連続する。ゴール10km手前に登場する1級山岳は登坂距離こそ1.8kmと短いが平均勾配は10%で強烈。
さらにこれを越えたあとにも、ラスト3kmまでは登りが続く。平均勾配は5.7%ほどだが、一部に10%を超える区間もあるとか。
アルデンヌに強いパンチャー系の選手が勝利を掴むにはちょうどいいコースと言えるかもしれない。マシューズ、Dトゥーンス、ギャロパン、ウェレンスあたりに期待である。とくにマシューズが抜け出して小集団スプリントに持っていければ勝率は高い。
第7ステージ ニース~バルデブロア・ラ・コルミアン 175km
ついにニースに到達したプロトンは、今大会のクイーンステージへ。途中の山岳ポイントは大したことなく、勝負はすべて最後の1級山岳バルデブロア・ラ・コルミアンで決着がつくだろう。
全長16.3km、平均勾配6.2%という、今シーズン最初の本格的な山頂ゴールである。
突出して厳しい区間があるわけではないが、終始しっかりとした登坂が続くレイアウトのため、瞬間的な登坂力に優れるインターバルタイプよりも、一定速度で登り続けられるペース走行タイプに有利な登りと言えるだろう。
2016年パリ~ニース山頂フィニッシュで勝利しているイルヌール・ザッカリンや、アンダルシア山頂フィニッシュで1勝したワウト・プールス、あるいはヘラルド・サンツアーで他を圧倒した走りを見せたエステバン・チャベスなどに期待。
第8ステージ ニース~ニース 110km
パリ~ニース最終ステージは例年と同様のニース近郊を巡る短距離の山岳ステージである。ただし、ここ2年のドラマを生み出した「ペイユ峠→エズ峠からの下りフィニッシュ」を今年は採用せず、エズ峠から降りてニースに到達したのちに、もう1つの山を登ってからのゴールとなる。
最後の2級山岳は登坂距離5.5km・平均勾配5.5%。エズ峠ほどの破壊力はない。
過去2年のパリ~ニースはいずれも、最後のエズ峠にてアルベルト・コンタドールがアタックして、当時チーム・スカイのエースだったゲラント・トーマスとセルヒオ・エナオをともに突き放し、最後の下りで差を詰められた結果、わずかに総合優勝に届かなかった、という結末を生んでいる。
今年の2級山岳で、同じように突き放してからの逃走劇を演じられるかどうか。あるいはエズ峠からのアタックも考えられるが、そのエズ峠も今年は登坂距離1.6kmと短いのがネック。
今回のコース変更が、今年のパリ~ニースの結末にどんな影響を与えうるのか・・・。
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