教会(カペル)に向かう急坂を登る選手たち。今年はこの「カペルミュール」が勝敗を分ける重要なポイントとして登場する。
いよいよ「春のクラシック」シーズンが幕を開ける。
その始まりを告げるレースが、2/24(土)に開催される、ベルギー・オースト=フラーンデレン州を舞台に繰り広げられる200km弱の石畳クラシック「オムロープ・ヘット・ニウスブラット(Omloop Het Nieuwsblad)*1」である。
今年はDAZNでの日本語実況・解説もつく予定*2のこのレースだが、今年はゴールレイアウトの大きな変更もあり、 例年以上の盛り上がりが期待できそうだ。
今回はこの、注目すべきフランドル開幕戦をプレビューしていく。
コース詳細
オムロープ・ヘット・ニウスブラットは、1945年に初開催されたベルギー伝統のレースである。
すでにベルギーでは歴史のあったロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)に対抗し*3、カペルミュールなどのロンドでもお馴染みの急坂を多く取り入れた正真正銘の「前哨戦」である。
翌日に開催されるクールネ~ブリュッセル~クールネと合わせ、「セミクラシック」と呼ばれることもある。クールネがよりスプリンター向けのレースであるのに対し、オムロープはより厳しいクラシックスペシャリスト向けのレースとなっている。
昨年・一昨年はともに、小集団でのマッチスプリントを制したグレッグ・ファンアフェルマートが優勝している。サガンは2年連続でファンアフェルマートに敗れ、2位に甘んじることに。
しかし今年はコースレイアウトに大きな変更が加えられた。
例年はヘント(Gent)を発着するレイアウトだったが、今年はゴール地点がヘントではなく、その南東に位置するニノーヴェ(Ninove)=メールベーケ(Meerbeke)となる。
これは、2011年までロンド・ファン・フラーンデレンでゴールとして採用されていた町である。
すなわち、今回のオムロープのコースレイアウトとは、2010年ロンドでカンチェラーラが伝説を作り上げた、あのレイアウトの再現なのである。
2010年のロンドで伝説を作り上げた「スパルタクス」ことカンチェラーラ。伝説の再現なるか。
もちろん、コースを同じにすれば伝説が再現される、という簡単な話では決してないが、それにしても例年以上に厳しく、スリリングな戦いが演出されるコースであることは間違いない。
もしかしたら今年の「ロンド」本家以上に激しい展開が生み出されるかもしれない。
参考:13の「急坂」の詳細
13の激坂を制し、最初にゴールに飛び込んでくる選手は果たして誰か。
注目選手
今回のオムロープは、サガンにとって最も向いているコースである、と感じていた。
2016年のロンドで見せた、石畳の急坂での他を寄せ付けない圧倒的な登坂力。そして、その後の平坦における、カンチェラーラすら追い付かせない独走力。
そんな彼の実力をもってすれば、2010年のカンチェラーラの再現すら、彼には可能なのではないか、とも予感させていた。それこそが2年前のロンドで、カンチェラーラから「王位継承」したサガンのなせる業であると、と。
しかしサガンは今回のオムロープの不出場を決めた。この時期のレースには出場せず、翌週のストラーデ・ビアンケからようやく春のクラシックへと参入していく、そんなスケジュールを組んでいるようだ。
非常に残念ではある。しかし、サガンは例年、この時期にはまだまだ身体が出来上がっておらず、それが敗北を重ねる要因ともなっていたように思う。
それならば無理して出場して本気で優勝を狙って行くのではなく、少しずつペースを上げていきながら3月末からの本格的なシーズンを迎えた方がよい、と思えないことはない。
だから、残念ではあるが、サガン抜きでのオンループ優勝候補を考えていきたいと思う。
キーワードは「激坂対応力」と「独走力」である。
最後の登りから30km近い平坦が続いた昨年までと違い、今年は最後の登坂「ボスベルグ」からゴールまではたったの11km。
しかもボスベルグの5km手前には、平均勾配10%近い石畳の超激坂カペルミュールが控えているのだ。
有力勢が確実に分断されるカペルミュールで、単独で抜け出すための「激坂対応力」。
そしてラスト11kmを後続に追い付かれずにハイペースで走り続けられる「独走力」が求められるというわけだ。
戦術や小手先ではない、純粋な実力勝負が求められるのが今年のオムロープなのである。
グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、32歳)
BMCレーシングチーム所属
2017年パリ~ルーベ覇者にして、昨年・一昨年のオムロープ覇者。とはいえ前述した通り、今年のオムロープは昨年までと全く違う。確かにファンアフェルマートのスプリント力は高く、マッチスプリントになればほぼ負け無しだろうが、単独で抜け出すだけの力が彼にあるかというと微妙だ。
激坂対応力も独走力もそれなりにあるとはいえ、今回のオムロープの最有力優勝候補とは、ちょっと言いづらいように思える。
場合によっては、今年からチームメートになった元ロット・スーダル、ユルゲン・ルーランツが勝機を掴むかもしれない。彼もまたスプリンター寄りではあるが、今シーズンは好調にスタートできている選手だ。
フィリップ・ジルベール(ベルギー、35歳)
クイックステップ・フロアーズ所属
2017年ロンド覇者。カペルミュールではチームメートと共に抜け出す力を発揮し、そして何よりもラスト55kmの独走を成し遂げたその実力が、今回のオムロープ勝者に最も相応しい要素であると言えるだろう。
ジルベールの魅力のもう1つは、他チームメートとの協同である。昨年はドワーズ・ドール・フラーンデレンでイヴ・ランパールトを勝たせるための囮アタックを仕掛けた姿が印象的だった。優勝したロンドでも、後続のボーネンたちの存在があったがゆえに、自らが捕まってもいいという思いをもって、無謀とも思えた独走劇に挑めたのだと思う。
勝利への強い渇望を抱きつつ、自らの勝利を犠牲にしてでもチームメートと共に勝利を目指す志向。クイックステップという最強チームと組み合わさって、今回のオンループにおける最有力候補と言えるだろう。
ニキ・テルプストラ(オランダ、33歳)
クイックステップ・フロアーズ
2014年ルーベ覇者にして、ロンドにおいても2015年2位、2013年と2017年に3位と常に上位を記録している。
テルプストラ自身はそこまでビッグレースでの勝利を量産するタイプではないが、ジルベールと共にチームメートとの連携が非常に巧みである。2017年のロンドでも、同年のパリ~ツールでも、先行したチームメートたちに後方から追い付き、いずれも勝負に関わる重要な動きを担っていた。ヘント~ウェヴェルヘムでは似たような動きでサガンを攪乱して怒られていたが、そのときは共に逃げるチームメートがいなかったこともあり、勝利に貢献することはできなかった。
今回、ジルベールと共に同様のクレバーな動きを見せることができれば、ジルベールかテルプストラのどちらかが勝利を掴むことは十分にありうるだろう。
マイケル・マシューズ(オーストラリア、27歳)
チーム・サンウェブ所属
ロンドを中心とする北のクラシックで活躍する、というイメージの少ないマシューズではあるが、昨年のツールは山岳でも積極的に逃げ、ポイント賞を獲得するなど、サガンに最も近い才能の1人となりつつある。
元々はアムステルゴールドレースなどスプリント要素の大きいクラシックでの勝利が目立っていたが、昨年は厳しい登りを最後に控えたリエージュ~バストーニュ~リエージュで4位。アムステルもゴール前に短いが厳しい登りを用意するレイアウトであり、今回のオンループのようなコースには意外な適性がありそうだ。
そして、激坂対応力と、10km程度のTTでの独走力という意味で、今回のオンループの重要な要素を共に満たしている選手でもある。
不安要素があるとすれば、今回のオンループが彼にとっての今シーズンデビュー戦となることか。とはいえ2年前のパリ~ニースなどでも、デビュー戦から絶好調だったので問題ないとも言えるかもしれない。
マシューズと似た脚質で勝利が期待できそうなのがディメンションデータのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン。彼もまた、短い距離での独走力が高い選手だ。
セップ・ファンマルケ(ベルギー、29歳)
チームEFエデュケーションファースト・ドラパックp/bキャノンデール所属
2012年オムロープ覇者。以来、パリ~ルーベで2位が1回、4位が2回。ロンド・ファン・フラーンデレンで3位が2回。
実力は間違いなくあるのに勝ちきれない。その原因としては、激坂で他を突き放すほどの破壊力はなく、独走で他を寄せ付けない圧倒的なものがないのが・・・ということなのかもしれない。スプリントでも同様。1番になれない要素が集まってしまっている。
ただ、ルーベなどでも見せる、ここぞというときの、好タイミングでの飛び出しを得意とする選手でもある。突き放せなくとも最後まで喰らいつく走りを見せたあと、ラストの11kmのどこかで飛び出すチャンスが得られれば・・・。
ティム・ウェレンス(ベルギー、26歳)
ロット・スーダル所属
彼もまたマシューズ同様にアルデンヌ・クラシック寄りの選手であり、北のクラシックという印象の少ない選手ではある。
しかし、直近のブエルタ・ア・アンダルシア第4ステージ、アルカラ・デ・ロス・ガスレスの石畳急勾配登りフィニッシュで、その圧倒的な強さを見せつけた印象が非常に強い。今夜開催される個人TTがどうなるかわからないが、昨年の同レースの12km個人TTでも20秒遅れの区間7位と悪くない走りを見せていた。短距離であれば、独走力も十分に見込める選手なのである。
よって、結構な大穴ではあるが、勢いに乗っている選手ということで、このウェレンスにも注目していきたい。最有力選手たちが最高のコンディションで集うロンド本戦ではさすがに厳しいだろうが、今のタイミングならば、そのコンディションの差で上位につける可能性もあるだろう。
なお、昨年のストラーデ・ビアンケでは3位。これもまた、期待させる要素となるだろう。
チームメートにはほかにティシュ・ベノートもいる。北のクラシックにより向いている選手という意味ではベノートの方も注目すべき選手だ。
ほかにも、昨年ルーベ4位のトレック・セガフレード所属ジャスパー・ストゥイヴェンや、AG2R所属の現ベルギーチャンピオンのオリバー・ナーゼン。
さらにはチーム・スカイに新加入したロンド昨年4位、一昨年6位のディラン・ファンバールレあたりが優勝候補として名を挙げていけるだろう。
いずれにしても、例年以上に白熱した戦いになりそうな今年の「オムロープ」。
3月末から本格的にスタートする石畳クラシックシーズンに向けて、その調子を占うという意味でも注目をしていきたい。
今年のオムロープを制し、独特なトロフィーを獲得するのは果たして誰か。