個人的に注目をしていたヴォルタ・アン・アルガルヴェが閉幕した。
自分の挙げていた優勝予想は
- プリモシュ・ログリッチェ
- ミハウ・クフャトコフスキ
- ダニエル・マーティン
だったが、実際には、
- プリモシュ・ログリッチェ
- ミハウ・クフャトコフスキ
- トニー・ギャロパン
となった。
最終ステージでもマーティンが飛び出すかと思えばそうでもなく、タイムトライアルでもタイムを落としすぎた、ということが敗因となった。
それでもログリッチェの好調とクファトコフスキの実力は十分に期待通りであり、とくにクフャトコフスキは失意のままに終わった昨シーズンの挽回を予感させてくれた。
今回はこのアルガルヴェの全ステージをレビューする。
ヴォルタ・アン・アルガルヴェ2017の最終表彰台。左から順に、ポイント賞のアンドレ・グライペル、総合優勝のプリモシュ・ログリッチェ、山岳賞のフアン・フェリペ・オソリオ(マンサナ・ポストボン)、新人賞のティース・ブノート(ロット・ソウダル)、最終ステージ優勝のマヌエル・アントゥネス(W52FCポルト)
- 第1ステージ:アルブフェイラ~ラゴシュ 182.9km
- 第2ステージ:ラゴア~フォイア山頂 189.5km
- 第3ステージ:サグレシュ~サグレシュ 18km(ITT)
- 第4ステージ:アルモドヴァル~タヴィラ 203.4km
- 第5ステージ:ローレ~マリオン山頂 179.2km
- 総括
第1ステージ:アルブフェイラ~ラゴシュ 182.9km
前半に多少起伏があるものの、基本的にはスプリンターたちによる集団スプリントが期待され、実際にそのようになったステージ。
デゲンコルブ、グライペル、ブアニといった、グランツールでも勝利経験のあるスプリンターたちが並み居る中で、22歳の若きコロンビア人スプリンターが勝利をもぎ取った。
昨年のパリ~トゥール、そして年初のブエルタ・サン・フアンでの2勝に続く好調を見せるフェルナンド・ガヴィリア。今期3勝目。クイックステップ・フロアーズにとっては10勝目となる勝利であった。
トップライダーたちとの真っ向勝負で力強く勝利した彼は、いよいよグランツールへのデビューを決めたらしい。今年はジロ・ディタリアとツール・ド・フランスへの参戦を決めている。
そして彼は語っている。「僕は今年最初のピンクジャージ着用者になりたい」と*1。
Volta ao Algarve 2017 | Stage 1 | Finish HD
第2ステージ:ラゴア~フォイア山頂 189.5km
9kmの長い登りを経て訪れる山頂フィニッシュ。爆発力よりも持続力が問われる山岳ステージだ。
ステージを支配したのは、リーダージャージを擁する今期最強軍団クイックステップ・フロアーズ。もちろんガヴィリアが勝負するわけではない。チーム最強のクライマーとなったダニエル・マーティンが、この日の主役だ。
マーティンをアシストすべく、エンリク・マース、ゼネック・スティヴァールといった面々が集団をコントロールする。そこから飛び出したダニエル・マーティン。食らいつけたのは、プリモシュ・ログリッチェとミハウ・クフャトコフスキのみ。今大会最有力優勝候補の3人が並び立つ形となった。
しかしマーティンがここでアタック。クフャトコフスキが脱落。
ログリッチェのみが、執拗にマーティンに喰らいついていった。
勝ったのはダニエル・マーティン。チームに今期11勝目をもたらした。
しかし、ログリッチェもこのステージの勝者であると言える。
この日、ボーナスタイムも合わせて獲得した22秒が、最終的な2位クフャトコフスキとのタイム差となった。
もし、このタイム差がなければ――すなわち、タイム差0秒という状態で最終ステージを迎えていれば――そのわずかな差をひっくり返すための攻撃を、クフャトコフスキに喰らわされていたかもしれない。
総合優勝経験者であり元世界チャンピオンであるクフャトコフスキと対峙して迎える最終ステージに向けては、この22秒というタイム差は絶対的に必要な条件であったのだ。
その意味で、このステージでのログリッチェの健闘は、今大会における総合優勝を決定付けたと言えるだろう。
Volta ao Algarve 2017 HD - Stage 2 - Final Kilometers
第3ステージ:サグレシュ~サグレシュ 18km(ITT)
ユーラシア大陸最南西端で行われるフラットな個人タイムトライアル。
最大の優勝候補はもちろん、世界チャンピオンのトニー・マルティン。
しかし、彼を打ち破ってこのステージで勝利を決めたのは、世界選手権ITT3位であり、リオオリンピックITT4位であり、そしてヨーロッパ選手権ITT部門を優勝した、モヴィスター・チームのスペイン人ホナタン・カストロヴィエホ。
ヨーロッパチャンピオンのジャージを着てアルガルヴェの地を疾走するカストロヴィエホ。
予想外に長めのパヴェ区間を含んでいたこともあり、レース序盤はアルノー・デマールやラース・ボームといった、TTというよりは荒れ地にも強い選手たちが上位に食い込んでくる結果となった。となると、そういったコースに強いマルティンやクフャトコフスキに有利か?とも思われた。
実際、マルティンはそれまで暫定トップタイムであったボームの記録を7秒も上回るタイムを叩き出した。
しかしカストロヴィエホも負けじと、これを4秒、上回ってきた。世界選手権でのリベンジを果たした形であり、今年の世界選手権制覇に向けた足掛かりとなったであろう。
そして注目されるのが、総合争い。
ミハウ・クフャトコフスキが、トニー・マルティンと1秒差の3位につける。圧倒的に速い。
去年、ITTで大失速してしまったプリモシュ・ログリッチェ。この日の結果はどうなるか・・・
結果として、ログリッチェも、クフャトコフスキとほぼ同タイムでの3位ゴールとなった。
そして、リーダージャージを着用するダニエル・マーティンが、ログリッチェたちと1分35秒遅れの74位ゴール。
総合優勝は絶望的となってしまった。
そして、ログリッチェがリーダージャージを獲得。2位クフャトコフスキとのタイム差は22秒のまま。
翌日の第4ステージはタイム差のつかないスプリントステージであり、総合争いの行方は最終ステージに委ねられることとなった。
リーダージャージを着用を決めたプリモシュ・ログリッチェ。右はステージ優勝のカストロビエホ。
Volta ao Algarve em Bicicleta 2017 Stage 3 Final KMs
サン・ヴィセンテ岬の風景も実に美しい。
第4ステージ:アルモドヴァル~タヴィラ 203.4km
基本的にはスプリントステージだが、最後の最後が、ごくわずかに登っているレイアウト。ガヴィリアのようなピュアスプリンターよりも、デゲンコルブやグライペルなどの、登りスプリントに強いスプリンターたちが勝負を争うステージだと予想された。
実際に、この日良い走りを見せたのがデゲンコルブ率いるトレック・セガフレード。最終盤まで完璧なチームプレーを見せつけ、集団をリードしていった。
最後のカーブはクイックステップ・フロアーズがガヴィリアを牽引して先頭を獲ったが、登りスプリントとはやや相性のよくないガヴィリアの先手必勝を狙ってのアタックであった。
ガヴィリアはいいところまでは伸びるのだが、結局は失速してしまいデゲンコルブらに飲み込まれる。
最高のタイミングで飛び出したデゲンコルブがまずは先頭。だがそこから、単独で驚異の追い上げを見せたグライペルがわずかの差でデゲンコルブを差し切った。
アンドレ・グライペル今期2勝目。チームにとっては6勝目となった。
この日3位に終わってしまったディラン・フルーネヴェーヘンも、圧倒的な加速を見せていた。なかなか勝ちきれずにいるが、彼もまた、今年さらなるブレイクを果たしそうな新星である。
そして、昨年ミラノ~サンレモ覇者のアルノー・デマールも、やはり登りとの相性は抜群。惜しくも4位であったが、今後が期待できる走りであった。
2017 Volta ao Algarve Stage 4 Last 5 KM
第5ステージ:ローレ~マリオン山頂 179.2km
いよいよ最終ステージとなる第5ステージは、3kmと短いながらも勾配の厳しい区間が連続する山岳ステージ。
勝利が期待されていたのは、こういった激坂含みの登りが得意なダニエル・マーティン。だが、思いのほか力を見せつけられず、逆に総合勢から5秒も遅れる結果となってしまった。
そして総合争いの行方では、クフャトコフスキがボーナスタイム含めて22秒以上の差をログリッチェにつけられるか。それともログリッチェがこれを死守するのか――というところが見所だったのだが、残り2kmを切ってからもなかなかクフャトコフスキが飛び出そうとしない。
逆にここで飛び出したのが、地元ポルトガルのコンチネンタルチーム、W52/FCポルトのアマーロ・アントゥネス。
第2ステージでもいい走りを見せていた彼が、地元の大歓声に応えながらのフィニッシュ。
HCクラスのレースは初であり、かつそこでの初勝利。最終的な総合順位も5位と、大成功を収めた。
ラスト1kmを切ってようやく、クフャトコフスキがアタック。しかし、ログリッチェはこれに難なくついていく。だけでなく、追い付いた瞬間にカウンターアタック!
この、張り付いて張り付いて追い付いたらアタック、というのは、第2ステージでマーティン相手にも仕掛けていた。
おそらく、カウンターを決めることによって、インターバル走行を行うクライマーのペースを乱すことを目的にしているのだと思われる。非常にクレバーな戦い方だ。
そのままクフャトコフスキはログリッチェと争うことなくゴール。
22秒のタイム差は1秒たりとも動くことなく、総合順位が確定した。
Volta ao Algarve 2017 HD - Stage 5 - Final Kilometers
総括
昨年ジロのITTでその名を一気に轟かせたプリモシュ・ログリッチェ。
そのTT能力を活かした、(まるでインドゥラインやトム・デュムランのような)ペース走行をベースとした山岳での強い走りが光るレースとなった。
今後、グランツールの総合上位を狙っていく、というタイプの選手ではないだろうが、ワールドツアーも含めた短めのステージレースではどんどん活躍していってもらいたい。
また、ロットNLユンボとしては、クライスヴァイクを始めとした総合上位を狙えるライダーたちの力強いアシストとしての成長が望まれるところである。
もちろんTTでの変わらぬ活躍を。
クフャトコフスキは今回、アルガルヴェでの総合優勝は最優先ではないと語っていた。
実際、爆発的な登りを見せた、というわけでは決してないが、TTの調子は間違いなく良かった。
そして彼の今年の最大の目標はアルデンヌクラシックであり、そしてグランツールでのフルームらのアシストである。
昨年は果たせなかったそれらの結果を求め、彼にとっての2017シーズンがいよいよ本格稼働した形だ。
そしてダニエル・マーティンは、TTと第5ステージを悔しい結果で終えてしまった。
それでも、第2ステージの、他を圧倒する走りはさすがであった。
今年はアルデンヌと、そして各種グランツールでの、総合上位を狙う走りをどこまで見せられるか。
31歳と、まだまだ脂の乗った年齢である彼が魅せる今年の走りに期待していきたい。
同じくクイックステップ・フロアーズの、フェルナンド・ガヴィリアの好走も。
そしてクイックステップ・フロアーズは、今年も50勝を狙えるか。
ヴォルタ・アン・アルガルヴェ。
ポルトガルのHCクラスのステージレース。
今年も、ひっそりと、熱いレースを展開してくれた。
来年もまた、楽しみである。