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ヴォルタ・アン・アルガルヴェ2017 プレビュー

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来週水曜日(2月15日)から5日間にわたって開催されるポルトガルのステージレース。

ランクはHCだが、2月中旬という時期と登り・スプリント・TTがバランスよく配置された日程により、多くのトップレーサーが出場するレースとなっている。

 

今回は開催が目前に迫ったこのヴォルタ・アン・アルガルヴェを紹介すると共に、注目選手や表彰台予想をしていきたいと思う。

 

目次

 

 

ヴォルタ・アン・アルガルヴェとは?

ポルトガル南部アルガルヴェ地方を舞台にして毎年2月中旬に行われる5日間のステージレース。今回で43回目の開催となる。

ヨーロッパツアーHCクラスのレースではあるが、歴代の総合優勝者の名を確認すると、錚々たるメンバーが連なっている。

 

直近8年間の総合優勝者

  • 2009年:アルベルト・コンタドール
  • 2010年:アルベルト・コンタドール
  • 2011年:トニー・マルティン
  • 2012年:リッチー・ポート
  • 2013年:トニー・マルティン
  • 2014年:ミハウ・クフャトコフスキ
  • 2015年:ゲラント・トーマス
  • 2016年:ゲラント・トーマス

 

 こうして見てみると、純粋なクライマーというよりは、TT能力も高く山でも遅れない脚質を持つ選手が有利に立っていることがわかる。 

 昨年もTTで2位につけたトニー・マルティンが一時総合リーダージャージを着用。その後、最終日の山岳ステージで勝利したアルベルト・コンタドールが総合3位に。TTも山も十分な結果を出したゲラント・トーマスが総合優勝を果たした(総合2位のヨン・イサギーレも登り・TT共に強い選手である)。

 

 今年のコースレイアウトもほぼ同じ。

 必然的に似たような選手に注目が集まるだろう。

 

 

注目選手たち

Overall Contenders

ミハウ・クフャトコフスキ(ポーランド、27歳)

 まだ正式なスタートリストが出ているわけではないため確言はできないが、今のところ、ディフェンディングチャンピオンのゲラント・トーマスの出場はアナウンスされていない。ということは、クフャトコフスキがチーム・スカイのエースを担うことになるのだろう。2014年には総合優勝を果たしている。世界チャンピオンになった年だ。その素質は十分にある。

 昨年はチーム・スカイ移籍初年度であった。春先のE3・ハレルベークではペテル・サガンを下しての優勝。しかしその後は、病気に蝕まれ、十分なシーズンを過ごすことができなかった。アルデンヌ・クラシックで勝利を重ねることも、ツール・ド・フランスでクリス・フルームをアシストすることも。

 今、新たなシーズンを迎えるにあたって、彼の心は十分に落ち着いている。そして彼は、その照準を4月後半のアルデンヌ・クラシックにおいている。だから彼は、このアルガルヴェでの総合優勝は特に狙ってはいないと、cyclingnewsのインタビューで語っている。それでも我々は期待せざるをえない。彼の3年ぶりの総合優勝を。そして、新たなシーズンで迎える、新たな彼の可能性を。

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ヴォルタ・ア・バレンシアナ最終ステージで残り300mまで逃げ続けたクフャトコフスキ。その力は着実に戻ってきている。

 

 

トニー・マルティン(ドイツ、32歳)

 昨年はTTでカンチェラーラに敗れた。わずか5秒の差であった。しかしカンチェラーラはもういない。だから、今年の第3ステージにおける最有力優勝候補である。

 そしてもちろん総合優勝も。すでに彼は2度、経験しているのだ。昨年も第3ステージ終了時点ではリーダージャージを着用していた。あとは山で遅れさえしなければ。

 だが彼自身も、まずはタイムトライアルにおける勝利を最大限に考えているだろう。何しろ今年のツールの初日タイムトライアルは、彼の母国であるドイツで行われるのだから! まずはTTにおける今年最初の勝利を、存分に期待したい。

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ヴォルタ・ア・バレンシアナで、新チームとして初めてとなる勝利をすでに獲得しているマルティン。得意の山岳逃げである。アルガルヴェは山頂フィニッシュのため同じような勝利は難しいかもしれないが、山岳で遅れることさえなければ、総合優勝も十分に狙えるだろう。

 

 

プリモシュ・ログリッチェ(スロヴェニア、28歳)

 昨年のジロで、多くの視聴者に衝撃を与えた「遅れてきた新人」。第1ステージのタイムトライアルで、優勝者トム・デュムランにコンマ以下の差で敗れる。それが決してまぐれではない実力なんだということを、第9ステージのより長いタイムトライアルでの勝利で我々に見せつけた。

 そしてTT能力だけではない。登りの力も十分にあることを、今年のバレンシアナで見せてくれた。トニー・マルティンが独走勝利を果たした第2ステージで3位、そしてナイロ・キンタナが総合優勝を決めた第4ステージの山頂フィニッシュでも5位。昨年はTTで思うように結果が出せずにアルガルヴェ総合5位に終わったが、今年はここできっちりと上位に食い込んでいければ――総合表彰台、いや、総合優勝すら狙えるのではないか。実は個人的に最も期待している選手だ。

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バレンシアナ第4ステージ。キンタナを勝利に導いた山頂ゴールでの5着。この実力は疑いようのないものだ。

 

 

Contenders for Stage Victory

ダニエル・マーティン(アイルランド、31歳)

 正直な話をすると、ダニエル・マーティンという選手に対して、「過去の人」という印象をずっと持っていた。自分がサイクルロードレースを見始めた2015年には、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャで、「スパートをかけるのが遅すぎた」所為でステージ優勝を逃して2位に入るという場面を立て続けに見て、実力はあるけれど勝負弱い人、という印象を勝手に持っていたのだ。2013年のツール区間優勝やLBLの勝利、その翌年のイル・ロンバルディアの勝利は知っていたけれど、そういったものも含め、「過去の人」だ、と。それはその実際以上の年齢に見える容貌も原因の一つだったのかもしれない。重ね重ね失礼な言い分ではあるが。

 だがそんな、彼に対する私の印象は、昨シーズンの活躍によって一気に吹き飛んだ。フレッシュ・ワロンヌで見せた粘りの走り。そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも総合3位に入った。続くツール・ド・フランスでは、またも区間優勝まであと一歩というところで届かない結果に終わったものの、強豪クライマーたちにも負けない走りを見せながら、果敢にアタックを仕掛けるその姿は、勝利とは関係なく憧れを抱いてしまう格好良さがあった。そしてツールの最終成績も総合9位。

 今年もマーティンに注目していきたい。彼のアルデンヌ・クラシックでの活躍に。そしてグランツールでの活躍に。

 その前哨戦となるのがこのアルガルヴェだ。正直、平坦TTの実績は少ないため、総合優勝は厳しいとは思うが、短く急な登りが見られる第5ステージのマリオン山頂などで、総合優勝争いを行うメンバーを尻目に鋭い飛び出しを見せて勝利を掴む可能性もきっと考えられるだろう。

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彼もまたバレンシアナに出場し、第4ステージでもログリッチェに続くステージ6位。最終成績は総合5位であった。

 

 

ホナタン・カストロヴィエホ(スペイン、30歳)

 今大会ITTのもう1人の優勝候補。何しろ昨年のオリンピックITTで4位。世界選手権で3位。ブエルタ第19ステージで2位。そしてヨーロッパ選手権では優勝と確実に力をつけてきている。カンチェラーラが現役を引退した今、マルティンやドゥムランに匹敵するTTスペシャリストになったと言えるだろう。

 おそらく、彼にとって最大の目的は、今年こそ、世界選手権ITTで勝利すること、だろう。そのためには、最大のライバルであるトニー・マルティンとの今シーズン最初の激突となるこの1戦で――確実に、勝たなくてはならない。

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昨年の世界選手権ITTで、マルティン(中央)、キリエンカ(奥)に続く3位表彰台に立ったカストロヴィエホ(手前)。今年こそこの表彰台の中央に立ちたいと、強く思っていることだろう。

 

 

ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、28歳)

 昨年頭の大事故で、重要なシーズン前半を棒に振ってしまった彼が、先日のドバイ・ツアーで勝利を飾った。それも、かつてのチームメートであり、現在では最大のライバルでもある、マルセル・キッテルを打ち破って。彼の得意な起伏ありのスプリントではなくピュアスプリントで。昨年も勝利自体はあるものの、今回の勝利はより特別なそれだったようにも思える。

 そんな彼が、このアルガルヴェも、万全の態勢で勝ちを狙いにきているような気がする。クーン・デコルト、ジャスパー・ストゥイヴェン、エドワード・トゥーンス、ボーイ・ファンポッペルといった名うてのスプリンターたちがアシストに回ってくれている。敵はキッテルこそいないもののマーク・カヴェンディッシュ、アンドレ・グライペル、ディラン・フルーネヴェーヘン、アルノー・デマール、ナセル・ブアニ、そしてフェルナンド・ガヴィリアと、強敵の中の強敵が揃っている。それでもその中で、勝利を掴む可能性が十分以上にあると感じられる。それだけ今、勢いのよい選手であるように感じられるのだ。

 もちろん彼の最重要目標はミラノ~サンレモ、あるいはパリ~ルーベといった春のクラシックたち。それでも、この2月、もう一度勝利を見せてほしいものだ

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カヴェンディッシュを差し置いての今シーズン1勝目を飾ったデゲンコルブ。すでに2勝しているキッテル、1勝しているグライペルに次いでその勝利数を伸ばしていけるか。

 

 

 

 

ステージ詳細&優勝予想

第1ステージ:アルブフェイラ~ラゴシュ 182.9km

 22.4km地点に標高320mの3級山岳。その他200~300mほどのアップダウンは前半にあるが、基本的には集団スプリントで勝者が決まるだろう。

 こういう開幕ステージに強い選手は、自分の中ではナセル・ブアニであるようにも思う。彼は先日のバレンシアナでも惜しいところまで行っていたのだが、なかなか勝利を掴めないまま同じフレンチ・スプリンターのコカールに先を行かれてしまった。相当フラストレーションが溜まっているはずだ。

 しかも今回は宿敵のアルノー・デマールも参戦している。彼にだけは絶対に、絶対に負けたくないはずだ。意地のスプリントを見せるブアニの2017シーズン最初の勝利を見てみたい。2着以降にディラン・フルーネヴェーヘンマーク・カヴェンディッシュジョン・デゲンコルブあたりが続くだろうか。

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第2ステージ:ラゴア~フォイア山頂 189.5km

 128.1km地点と170.8km地点にそれぞれ3級・2級山岳が控えており、最後は標高900mのフォイア山頂に登る1級山岳フィニッシュ。

 登坂距離9km、平均勾配は5~6%。登り初めに9.%超の区間あり。トップクライマーでなければ登り切れない、というわけではないだろうが、持続的に登れる力がなければ脱落するであろう。総合優勝候補をふるい分けるステージとなるはずだ。

 昨年は同じフィニッシュでルイス・レオン・サンチェスが優勝した。しかし3秒後にプリモシュ・ログリッチェが3位に入り込んできている。5秒後にチーム・カチューシャのティアゴ・マシャド。この辺りが今年も優勝候補になりうるだろうか。いずれにせよ総合成績にまだ大きな差はつかないはずだ。

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第3ステージ:サグレシュ~サグレシュ 18km(ITT)

 ポルトガル南西部に突き出た半島で行われる中距離個人タイムトライアル。ユーラシア大陸最南西端にあたるサン・ヴィセンテ岬に行って帰ってくるコースレイアウト。起伏はほぼなく平坦。複雑なカーブやラウンドアバウトも序盤のみで、後半は下り基調のハイスピード展開となるだろう。ただし海沿いなので横風に注意。

 昨年は3秒差でカンチェラーラに敗れたトニー・マルティンが最大の優勝候補。次いでホナタン・カストロヴィエホがそれに喰らいつけるか。また、昨年はTTで遅れたために総合表彰台を逃したプリモシュ・ログリッチェが今年はリベンジを果たせるか。総合優勝にも大きく影響するステージだけに、注目度は高い。

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第4ステージ:アルモドヴァル~タヴィラ 203.4km

 4級山岳が1つだけ、基本的には集団スプリントとなる平坦ステージだが、ラスト10km近くまで小規模な起伏が繰り返し出現。それなりにスプリンターたちの足を削っていく。もしかしたら第2ステージよりも、起伏に適性のあるスプリンターが有利になるかもしれない。ラストも若干登っている。

 その意味でこのステージ、期待したいのがジョン・デゲンコルブ。万全のアシスト陣に支えられ、ナセル・ブアニアンドレ・グライペルといった同じく起伏に適性のあるスプリンターたちを抑えて勝利を掴んでくれるはずだ。あるいは、カヴェンディッシュではなく、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンがここで勝利を狙ってくる可能性も。 

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第5ステージ:ローレ~マリオン山頂 179.2km

 90kmを過ぎてから3級山岳が3つ、2級山岳が2つ。その2つ目の2級山岳が、今大会最後の決戦場マリオンとなる。登坂距離は3km、獲得標高は200m程度であるものの、ところどころ9%を超える激坂区間が。持続力よりもパンチ力のある登りが勝敗を左右し、昨年はコンタドールが力を見せつけた。

 今年はダニエル・マーティンに期待したい。フレッシュ・ワロンヌ3位のパンチ力、グランツールでも通用する登坂力でもって、今大会の誰にも負けない登りを見せてくれるはずだ。TTで遅れを喫し総合優勝は狙えない位置にいることで、彼の動きを封じようとする者もいないはずだ。

 そしてステージ優勝とは別のところで、総合優勝を巡る激しい打ち合いが行われてもいるはずだ。それはミハウ・クフャトコフスキか、それともプリモシュ・ログリッチェか。トニー・マルティンがしっかりと耐え、リーダージャージを維持することができるか。 

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表彰台予想

総合優勝:プリモシュ・ログリッチェ

 第3ステージの個人タイムトライアルで、マルティンやカストロヴィエホには敗れたものの可能な限りタイム差をつけずに3位と善戦。そして第5ステージで遅れるマルティンを尻目に、逆転総合優勝を目指すマーティンやクフャトコフスキの走りに懸命に食らいついていく。

 

総合2位:ミハウ・クフャトコフスキ

総合3位:ダニエル・マーティン

 

ポイント賞:ジョン・デゲンコルブ

 第4ステージ勝利のほか、第1ステージで上位に入ることによって。ただしスプリント争いが混戦模様となれば、動き方によってはマーティンなどのクライマーにも可能性があるだろう。

 

山岳賞:ネルソン・オリヴェイラ

 せっかくの母国レース。彼や、ティアゴ・マシャドには総合争いでも頑張ってほしい。ただ、マシャドはともかくオリヴェイラの方は、むしろ山岳ステージでの積極的な逃げでポイントを稼ぐ役回りもいいかもしれない。そういうのは間違いなく得意な選手のはずだ。

 ただ山岳賞は予想が難しい。プロコンチネンタルチーム、あるいはコンチネンタルチームの活躍次第では彼らによって獲られる可能性もあるから。

 

 

予想は当たらないのが基本だが、ログリッチェなど、普段なかなか日の目が当たらない選手たちの意外な活躍が次々と出てくるような展開は望ましい。

きっとわくわくしてくれる戦いを見せてほしいものだ。

 

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