第2ステージのパラコームの登りと同様。
「残り1.5km」で飛び出した彼は、他の追随を一切許すことなく、4年連続の勝利を手に入れた。
さらに言えば今年は、彼にとって、いつもすぐ近くまで引き寄せながらも逃し続けてきた、オークルジャージを着たうえでの勝利——すなわち、母国レースでの総合優勝ほぼ確定という、あまりにも嬉しい特典付である。
「ウィランガ・ヒルの王」リッチー・ポートの、新たな伝説が生まれた瞬間だ。
4年連続の勝利、そして初の総合優勝をほぼ手中に収めた瞬間のポート。歓喜のゴールだ。jsportsより。
ツアー・ダウンアンダー恒例のクイーンステージは、マクラーレン・ヴェイルからウィランガ・ヒルまでの151.5km。
前半の平坦周回コースから、ラスト30kmはウィランガ・ヒルを2回登るレイアウトとなっている。ウィランガ・ヒルは全長3.5kmで245mを登る、平均勾配7%の1級山岳である。
逃げは4名。下記写真の前から、
- ジャック・バウアー(クイックステップ、31歳、ニュージーランド)
- トーマス・デヘント(ロット・ソウダル、30歳、ベルギー)
- ウィル・クラーク(キャノンデール、31歳、オーストラリア)
- ジェレミー・メゾン(FDJ、23歳、フランス)
バウアーは昨日も逃げに乗り敢闘賞を獲得。赤ゼッケンをつけている。
メゾンも第3ステージで逃げており、まだ若いのに、積極的な走りを見せてくれる。
クラークはピープルズチョイスクラシックで逃げ、最初の周回賞を獲得した選手でもある。
そしてデヘントはバウアーと共に昨日のステージを逃げ、ポートと並んで山岳賞ランキングの首位に立っている男である。
デヘントは当然、今日のウィランガ・ヒルを狙っているはずだ。
1級山岳のウィランガを獲得すれば、それだけで合計ポイントは32。
もちろん、同ポイントのポートが、ゴールのウィランガ・ヒルを獲得すれば、ポイントは再び並ぶことになる。
その場合、1級山岳の獲得数の多いポートが、最終的な山岳賞を得る権利を持つこととなる。
だが、総合優勝という重要な守るべきものを持つリッチー・ポートが、今日は守勢に回る可能性も十分に考えられる。
いずれにせよ、デヘントにとっては、この「1周目ウィランガ」の獲得は絶対条件であるのだ。
バウアーもいい走りを見せており、少しハラハラしたものの・・・
最終的には問題なく、デヘントが山頂を1位通過。
これで、合計32ポイントとなった。
さて、その後、メイン集団からクリス・ハミルトン(サンウェブ、21歳、オーストラリア)とジョヴァンニ・ヴィスコンティ(バーレーン・メリダ、33歳、イタリア)の2人がアタックを仕掛けるも決まらず。
デヘントらもメイン集団に吸収されながら、いよいよクライマックス、「2周目ウィランガ・ヒル」に突入する。
セバスティアン・エナオを牽引する「小さな巨人」ケニー・エリッソンド。jsportsより。
最初に集団をリードしたのはチーム・スカイ。
今大会をエース待遇で臨むセルヒオ・エナオ・・・ではなく、その従弟にあたるセバスティアン・エナオがまずは勝負を仕掛ける。
そのセバスティアンを懸命にリードアウトしたのが、今大会、突然の出場キャンセルとなったオウェイン・ドゥールに代わって出場したケニー・エリッソンド。
昨年ブエルタで山岳賞を巡り激しい攻防を展開し、今期スカイに移籍したばかり。169cmとロードレース選手としては低慎重な彼が、長身のセバスティアンを懸命に牽き続けた。
そしてエリッソンドが脱落したあとはセバスティアンの猛烈な牽き。
これにより、集団は以下の9名に絞られた。
- エステバン・チャベス(オリカ・スコット、26歳、コロンビア)
- ジェイ・マッカーシー(ボーラ・ハンスグローエ、24歳、オーストラリア)
- リッチー・ポート(BMCレーシング、31歳、オーストラリア)
- セバスティアン・エナオ(チーム・スカイ、23歳、コロンビア)
- セルヒオ・エナオ(チーム・スカイ、29歳、コロンビア)
- ラファエル・バルス(ロット・ソウダル、29歳、スペイン)
- マイケル・ウッズ(キャノンデール・ドラパック、30歳、カナダ)
- ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(AG2R、34歳、イタリア)
- ホナタン・レストレポ(カチューシャ、22歳、コロンビア)
マッカーシー、セルヒオ・エナオ、バルス、ウッズ、ポッツォヴィーヴォはいずれも昨年大会でも総合上位に入り込んでいた実力者たちだ。
そしてやがてセバスティアン・エナオが脱落すると、エンジンをかけたのがリーダージャージを着用するリッチー・ポート!
一気に加速するポートに、昨年同様セルヒオ・エナオがついていこうとするも、昨年以上の猛烈な走りを魅せるポートに、今年のエナオは触れることすらできないままに突き放される。
やがてエナオは失速し、代わって上位に入り込んできたのはエステバン・チャベスとネイサン・ハース(ディメンションデータ、27歳、オーストラリア)、そしてディエゴ・ウリッシ(UAEアブダビ、27歳、イタリア)!
独走状態でウィランガ・ヒルを駆け上るポート。jsportsより。
今大会最強のクライマーはもう明らかであった。
よって、戦いの焦点は2位争いに移ったのかもしれない。
まずは、一昨日の落車の影響によるものか、総合2位のゴルカ・イサギーレが大失速をしたために、総合2位の座がチャベスに転がり込んでくることは確実だった。
さらに、表彰台3位を巡って、同4位につけていたジェイ・マッカーシーとのタイム差をつけるべく、ネイサン・ハースは懸命にチャベスたちについていき、そして最後に差し切って2位を獲得した。
ボーナスタイムも得ることができ、ハースは総合3位でこの日を終えた。
また、彼は、スプリント賞のランキングでも、カレブ・ユアンに次ぐ2位に上昇。
明日の動き次第では、スプリント賞の獲得も視野に入ったとも言えるかもしれない。
さらに、レストレポも最後まで粘り、先頭から28秒遅れの13位に踏みとどまった。
新人賞のライバルであったルーベン・ゲレイロは46秒遅れ、エンリック・マースは1分44秒遅れとなり、レストレポがダウンアンダーの新人賞獲得に王手をかけた。
昨年ブエルタで存在感を示した22歳コロンビア人ライダー。
今後が楽しみな選手である。
なお、結局ポートが2周目ウィランガを制してしまったため、山岳ポイントはデヘントとポートが同点で並ぶ事態に。
しかしポートの方がよりレベルの高い山岳をより多く先頭通過しているため、山岳賞ジャージ着用権はポートのままとなった。
しかし、デヘントはまだ諦めてはいないだろう。
明日の最終日は、基本的には総合は動かないステージであるが、小さな山岳も設定しており、おそらくはデヘントが逃げに乗り狙ってくるだろう。
果たしてBMCがそれを邪魔しに来るのか、それともデヘントがきっちり取ることができるのか。
そんなところも楽しみにしながら明日のステージは見ていこう。
第5ステージ ゴール順位
- リッチー・ポート(BMCレーシングチーム)
- ネイサン・ハース(ディメンションデータ) +20秒
- ヨアンエステバン・チャベス(オリカ・スコット) +20秒
- ディエゴ・ウリッシ(UAEアブダビ) +20秒
- ジェイ・マッカーシー(ボーラ・ハンスグローエ) +20秒
- ネイサン・アール(UniSAオーストラリア) +23秒
- ラファエル・ヴァルス(ロット・ソウダル) +23秒
- セルヒオルイス・エナオ(チーム・スカイ) +23秒
- ロベルト・ヘーシンク(チーム・ロットNLユンボ) +23秒
- トムイェルト・スラフテル(キャノンデール・ドラパック) +23秒