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ツアー・ダウンアンダー2017 総括

2017シーズン最初のワールドツアーレースである「ツアー・ダウンアンダー」が8日間の大会日程を終え、閉幕した。

 

今年のダウンアンダーは色々と「初」尽くしであった。

クリテリウム含めた全7戦において、勝者はたったの2人だけ。

そして見事総合優勝(これも本人にとっては「初」である)を飾ったリッチー・ポートは、2位に48秒ものタイム差をつけての勝利となった。大会史上最も大きなタイム差だという。

 

昨年のダウンアンダーでも、オーストラリア勢の独壇場であることが話題になったが、今年はそれ以上といった印象・・・個人的には、もっと色んな選手の勝利を見てみたかった気もするが、それはまた、今後のレースでの楽しみとしておこう。

 

今回はそんなダウンアンダー2017の、総括としての記事を書こうと思う。

目次は以下の通りだ。

 

 

なお、今回のダウンアンダーの開幕前に書いた注目選手・ステージ詳細・スタートリスト・優勝予想(全然外れまくったけれど・・)は以下の記事を参照のこと。

suzutamaki.hatenablog.com

 

そして各ステージの詳細なレビューは以下のリンクからどうぞ。

ツアー・ダウンアンダー2017 ピープルズチョイスクラシック - りんぐすらいど

ツアー・ダウンアンダー2017 第1ステージ - りんぐすらいど

ツアー・ダウンアンダー2017 第2ステージ - りんぐすらいど

ツアー・ダウンアンダー2017 第3ステージ - りんぐすらいど

ツアー・ダウンアンダー2017 第4ステージ - りんぐすらいど

ツアー・ダウンアンダー2017 第5ステージ - りんぐすらいど

 

 

表彰台・各賞ジャージ振り返り

総合優勝 リッチー・ポート(BMCレーシングチーム)

 2014年以降、連続でクイーンステージのウィランガ・ヒルを制しながらも、総合順位では4位→2位→2位と悔しい結果を出し続けてきたポート。そのタイム差も10秒→2秒→9秒というこれまた僅差であったのだ。

 だが今年のコースには、登りが得意なポートにはおあつらえ向きのステージが、ウィランガ・ヒル以外にも用意されていた。すなわち、パラコーム――スターリングのように「登れるスプリンター」向きではなく、ウィランガ同様に総合勢のための登りフィニッシュだ。

 2年前もその年の総合優勝者ローハン・デニスを輩出したこのゴールで、ポートは幸先の良い勝利を決めた。その後は一度たりとも、オークルジャージを手放すことはなかった。守りに立つかと思われたウィランガ・ヒルでもいつも通りのアタックを決め、難なく4連勝目を叩き出した。

 こうして、例年以上に順調なスタートを切ることができたリッチー・ポート。もちろん彼の最大の目的は、夏のツール・ド・フランスにあるはずだ。同じようにうまくいくとは限らない。しかし昨年のツール・ド・フランスは、実質的な総合2位に達しうるだけの走りを見せていた(序盤の落車が手痛かった)。

 母国での勝利は何事にも代えがたい嬉しさを味わえるだろうが、それでも、やはり「短めのステージレースだけの男」と思われ続けるのはもう嫌だ! 今年のポートは、今年こそ、グランツールで大きな結果を見せてくれるはずだ。

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総合2位 エステバン・チャベス(オリカ・スコット)

 今年のダウンアンダーは、彼がひっかきまわしてくれるはずだ、と予想していた。リッチー・ポートのウィランガ・ヒル4連勝を妨げるものがいるとすれば、彼だ、と。

 実際彼は、パラコームで、ウィランガ・ヒルで、いい走りを見せてくれた。ダウンアンダー初出場ではあったが、昨年ウィランガで活躍したセルジオエナオ以上の好走を見せ、しっかりと上位ゴールを成し遂げることができた。その結果、総合2位も獲得できたのである。

 しかし、結果としてその存在感を十分に発揮できたかというと、否、と言わざるを得ないだろう。確かにいい走りは見せたが、誰かを突き放すような圧倒的な攻撃力を見せることはできなかった。そしてそれは、好調であった昨シーズン全体においても感じたことだ。

 トップクライマーたちについていくことはできる。ついていったうえで最後のスプリントではクライマーたちを出し抜くスピードにも長けている。しかし、単独で誰かを突き放す――フルームやキンタナのような——圧倒的な登坂力を持ち合わせてはいない。それはバルデなどにも共通する。そしてそれは、グランツール総合優勝を目指す選手としては大きな弱点となりうるのではないだろうか(その意味で、リッチー・ポートの方がまだ総合優勝に近い気がする)。

 今大会はそんなチャベスが一皮むける可能性を見られる大会かと期待していただけに、ちょっとだけ残念な結果であった。

 それでも総合2位。やはりスゴイ選手であるのは間違いない。

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総合3位 ジェイ・マッカーシー(ボーラ・ハンスグローエ)

 昨年総合4位でも十分に驚きだったのに、今年は総合3位。しかもそれは、大会最終日に世界チャンピオンのアシストを受けながら獲得したボーナスタイムによる、まさにギリギリの執念の結果であったのだ。あのユアンを下して得たボーナスタイムなのだから素晴らしい。

 まだまだ若い彼は、このあとどんな選手に成長していくのだろう。もちろんこのチームにいる限りにおいては、まずはしっかりとサガンのスプリントアシストとしての活躍が求められるだろう。一方で昨年もジロ最終ステージで9位に入るなど、グランツールでのスプリント勝負にも、少しずつ絡んでいくことができるかもしれない。オージー勢に有利なダウンアンダーだけで輝く存在にはなってほしくはない。

 そもそもウィランガ・ヒルでもしっかりと順位をキープするなどできているので、結構、アルデンヌクラシックにも適性があるんじゃないだろうか? 今年1年の彼の活躍を、しっかりと見守っていきたい。

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総合その他のメンバー

4位 ネイサン・ハース(ディメンションデータ)

5位 ディエゴ・ウリッシ(UAEアブダビ)

6位 ローハン・デニス(BMCレーシングチーム)

7位 ラファエル・ヴァルス(ロット・ソウダル)

8位 ロベルト・ヘーシンク(チーム・ロットNL)

9位 ウィルコ・ケルデルマン(チーム・サンウェブ)

10位 ホナタン・レストレポ(カチューシャ・アルペシン)

 

 

スプリント賞 カレブ・ユワン(オリカ・スコット)

 ユアン、イーウェンとも。今大会脅威の4勝。クリテリウムも含めたら5勝。去年の3勝でも十分すごかったのに。平坦ステージすべて掻っ攫うという結果に。

 もちろん彼はこの時期トップコンディションのオージーであり、キッテルやグライペルなどの超一流スプリンターがわんさかといるレースではない。だが昨年はそれでもユワンに肉薄していたマッカーシーマーク・レンショーが、今年はほとんど歯が立たない状況であり、それ以外にもニッコロ・ボニファツィオやダニー・ファンポッペルといった強力なチームメートに支えられたスプリンターたちも同様であった。

 そして何よりも、キッテルらにも匹敵する世界チャンピオン、ペテル・サガンを相手取って、一度ならず二度以上も、直接対決で下しているのだ。タイミングもあるが、飛び出したユアンを、サガンがまったく追い付けないまま敗北しているのだ。

 この状況は、間違いなくユワン自身にとっても最高に位置付けられるものだっただろう。最終日のゴール後に彼は"Unbelievable!"を繰り返すばかりだったのだから。

 さて、昨年はジロに出場したものの、それなりの好走を見せつつも途中リタイアという結果に終わった。シーズン後半も調子が上がり切らず、不安のままにシーズンを終えてしまっていた。

 今年は昨年以上に仕上がったスタートを切れている。さあ、今年はどんな活躍を見せてくれるのか? とりあえず、グランツールでの2年ぶりの勝利を、見てみたいものである。

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ポイント賞その他のメンバー

2位 ダニー・ファンポッペル(チーム・スカイ)

 十分に良い走りは見せられていた。こちらも2年ぶりのグランツール勝利が見たい。

3位 ネイサン・ハース(ディメンション・データ)

 ウィランガ・ヒルで執念を見せた。しかし翌日に悔しい表彰台からの転落。この後のカデルエヴァンス・グレートオーシャンズレースには出るのだろうか? 彼なら勝利してもおかしくない気はするが・・・。

 

 

山岳賞 トーマス・デ・ヘント(ロット・ソウダル)

 なんかいっつも山岳賞を狙っている人、という印象が強い。昨年はツールでモン・ヴァントゥー勝利という大きな結果を叩き出す。気が付けばもう30歳。それでも今日とて逃げに乗る。元気なおっちゃん。

 今回の山岳賞はドラマチックだった。何しろポートが大会に3つしかない1級山岳を2つ獲ってしまうものだから。それでも2級山岳2位通過と1位通過、そして残された1つの1級山岳をしっかり獲ってなんとかポイントは同点につける。もちろんこのままでは1級山岳の獲得数の差によって敗北してしまう・・・だから、最終ステージで果敢に逃げに乗る! 一度吸収されても、諦めずにもう一度逃げる!

 そんな、漫画みたいな展開をさらっとやってしまうんだから、本当に随一の逃げスペシャリストといったところである。これからも要所要所で活躍が見れるはず。末永く活躍してほしいものである。とりあえず次はパリ~ニースかなー。

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山岳賞その他のメンバー

2位 リッチー・ポート(BMCレーシングチーム)

3位 エステバン・チャベス(オリカ・スコット)

 

 

ヤングライダー賞 ホナタン・レストレポ(カチューシャ・アルペシン)

 第4ステージまでは、新人賞部門3位につけていた。クイーンステージのウィランガ・ヒルで素晴らしい走りを見せてくれた結果、14秒も差をつけて単独首位に立った。しかも最終ステージで積極的に逃げて、スプリントポイントのボーナスタイムで総合ベスト10に入るという、誰も予想していなかった結果も出してくれた。

 そもそも本格的なプロ生活を始めたのは昨年?(その前の年はトレーニーだったようだ)。そこでいきなりのブエルタでの活躍。しかも、山も上位に入ることもあれば、スプリントでも上位に入ることもあるなど、なかなかの万能型。実際、ブエルタとの相性は良さそうだ。

 ホアキンが去った今、カチューシャといえばクリストフとザッカリンの二大巨頭といった雰囲気だが、そこにこのレストレポが食い込んでいけるか? 楽しみな選手だ。 

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ヤングライダー賞その他のメンバー

2位 マイケル・シュトーラー(UniSA)

 19歳! それでいてパラコームやウィランガ・ヒルでの堂々とした走り。さすがオーストラリア、層が厚い。将来、どのチームで活躍してくれるのだろう。楽しみだ。

3位 ルーベン・ゲレイロ(トレック・セガフレード)

 昨年のカリフォルニアでも活躍。U23国内ロードレース選手権でも優勝した、ポルトガルの22歳。ワールドツアーでしっかりと結果を出してくれた。この選手も今後、しっかりと注目していきたい。

 

名前と顔がかっこいい、オドクリスティアン・エイキング(FDJ)が惜しくも4位だったのは残念。

 

 

その他注目選手

 ジャック・バウアー(クイックステップ・フロアーズ)

 今大会において、総合上位および各賞ジャージの選手以外で最も目立った選手は?と聞かれたら間違いなくこの選手が挙がることだろう。第4~第6ステージで逃げに乗り、第4・第5ステージでは敢闘賞ゼッケンも手に入れた。オージー同様にトップコンディションで臨めるニュージーランド人とは言え、この結果は驚嘆に値する。

 そんなニュージーランドの国内選手権ITT部門優勝から迎えた今シーズン。もう31歳だけど、まだまだ31歳。逃げに乗るには最も脂の乗った年齢とも言えるかもしれない。3年前に果たせそうで果たせなかった、グランツールでの逃げ切り勝利――それを今年こそ、実現してしまえるかもしれない。

 ニュージーランド勢は、パトリック・ベヴィンもいい感じに育ってきている。今後、楽しみな勢力である。

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ショーン・ドゥ・ビー(ロット・ソウダル)

バプティスト・プランカートル(カチューシャ・アルペシン)

 クリテリウム含めた全5回のスプリントステージで、それぞれ4回ずつトップ10入りを果たしたベルギー人たち。スプリント賞ランキングでも上位に。同じベルギー人のトゥーンスも活躍していた。

 グランツールではそれぞれのチームのエースのために尽くすことの方が多いかもしれないが、それでもドゥビーは昨年ジロ最終ステージで5位につけているほか、プランカートルも元プロコンチの選手のためまだまだ未知数。まずはグランツールのスプリントで上位に入り込み、やがて勝利を掴む日が来ることを願っているよ。

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オンドレイ・ツィンク(バーレーンメリダ)

 マウンテンバイクで活躍する、26歳のチェコ人。ロードレース参戦初年にして、いきなりのワールドツアーでいきなりの逃げ。そして激坂チェッカーヒル1位通過を果たす。そもそも第2ステージでも最初に逃げているんだよね。このアグレッシブさは今後に期待させてくれる。マウンテンバイクだし、スロバキアに近いしで、どことなくサガンをイメージしてしまうところも・・・。

 とにかく未知数な選手。これからの活躍に期待し続けよう。

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ダリル・インピー(オリカ・スコット)

 オリカの頼れる発射台。昨年はゲランスの、そして今年はユアンの活躍を影で支え続けてくれた。ザ・いぶし銀。グランツールでは惜しいところまでいくもののなかなか勝利までは掴めない。そろそろ純粋スプリントもきつい年になってくるところだし、そろそろ勝利が欲しい。こんだけ働いてくれてるんだから。

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マイルズ・スコットソン(BMCレーシングチーム)

 今年ワンティから移籍したばかりの23歳。そしていきなりの国内選手権ロードレース部門優勝。そしてそれだけじゃない。ダウンアンダーでは、ひたすらチームを牽引するという、地味だけど重要な役回りをきっちりとこなしていた。画面見ると彼が1人で牽引する場面が多かった気がする。ナショナルジャージのせいで目立ってただけかもしれないが。少なくともローハン・デニスよりは目立っていた気が。

 今後、グランツールで総合表彰台を目指すポートにとっては心強い存在だろう。もっともっと成長し、やがて彼自身が、ステージレースやワンデーレースで上位を狙える選手になってほしい。そして遠い未来の話でもないだろう。

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総括

 昨年同様オーストラリア人の選手の活躍が目立ったダウンアンダーではあったが、ポートもユアンも、昨年以上の進化を見せており、今シーズンのさらなる飛躍を期待させてくれた。

 一方で、冒頭でも述べたように、やはりもっと色んな選手の活躍が見たかった、というのが正直なところ。逃げなどは非常に見ごたえがあったのだが、それも、昨年・一昨年と比べ、UniSAの若手の活躍があまり見られなかったのも残念だ。シュトーラーの総合15位は頑張ったとは思うが。

(ネイサン・アールとキャメロン・マイヤーの活躍もあったりで、チーム時間賞は1位を獲れているため、UniSA自体は十分な結果を出したとは言えるだろう)

 あとは個人的に、もっとサガンが暴れてくれれば、という思いがあったのは事実だ。まだまだトップコンディションではない、ということなのか。実際、彼はまず3月~4月にピークを持ってこようとしているのは事実だろう。それでも、ユアンに直接対決で複数回負けている姿を見るのは残念でならない。まあ、昨年も序盤は2位続きからのあの結果だ。まだまだこれで今年をどうこう言う必要はないだろう。

 逆に、ボーラ・ハンスグローエというチームの潜在力の高さを実感できる6日間でもあった。純粋なスプリント力だけでも、マッカーシーも、サム・ベネットも十分に強い。彼らが本気でサガンをアシストしてくれれば、今年のサガンもしっかり、グランツールでも勝利できそうな気がする。

 ここにマイカやケーニッヒが加わるので、ハンスグローエ、今年1年注目するべきチームの一角に確実になるだろう。

 そして昨年度、いろいろと存在感を放ち、ある意味で最強チームと言っても過言ではなかったクイックステップ・フロアーズ。バウアーの3回の逃げに加え、ブランビッラも最終ステージで自己アピール。エンリク・マスも22歳でワールドツアー初参戦の割になかなかの結果を出してくれていた。まだまだ本格始動はしていないようだが、今年も活躍を期待している。

 そして、このダウンアンダーでチームとして個人的に注目していたのが、カチューシャ・アルペシン。レストレポの新人賞&総合10位、プランカートルのスプリントでの上位入り複数回。今年はトニー・マルティンも加入するほかザッカリンの飛躍も期待できるので、これまでのシーズンとはまたちょっと違った目立ち方をしてくれるチームかもしれない。

 何はともあれ、シーズンはまだ始まったばかり。この大会だけであらゆることを言えるわけでは決してない。とりあえずはまず、リッチー・ポート、優勝おめでとう。

 そしてツール・ド・フランスでの活躍を、心から期待しているよ。

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