りんぐすらいど

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ジロ・ディタリア2016 第1ステージ

 第99回ジロ・ディタリアの第1ステージは、オランダの都市アペルドールンで行われた全長9.8kmの個人タイムトライアル。地元オランダでの開催ということで、オランダが誇るタイムトライアルスペシャリスト、トム・デュムランに大きな期待がかけられていた。また、今年引退を決めている元世界TTチャンピオン、ファビアン・カンチェラーラも期待されていたが、直前にウイルス性の胃腸炎に悩まされたことによってデュムラン優勢、という雰囲気の中での開幕となった。

 

 しかし、デュムランは全くの敵なし、という状態では決してなかった。まず、デュムランやカンチェラーラといったTTスペシャリストにとってはあまりにも短すぎる距離。この程度の距離だと、スプリンターにとっても有利と言われることがある。実際、パリ~ニースのプロローグでもデュムランはオリカ・グリーンエッジのマイケル・マシューズに敗れることとなったし、今日この日も、マルセル・キッテルが11秒遅れの5位とかなりの好成績を叩き出している。

 そんな中、デュムランにとってのカンチェラーラに続くライバルとなりうるのが、同じく地元オランダのチームであるロットNL・ユンボ。とくに、昨年同じくオランダで開催されたツール・ド・フランス第1ステージ、同じく短距離のTTだったこのステージで5位(デュムランに7秒遅れ)につけていたヨス・ファンエムデンは、デュムランと並ぶ優勝候補と目されてもいた。

 しかし、そんなファンエムデンを襲ったのが、コース途中にある直角カーブ。カーブ自体はそこまで厳しくはないのだが、元々広い道からいきなり狭い道へと曲がるカーブのため、予想以上に曲がり切れずにコースアウトしてしまう選手が多発した。チームメートのマルティン・ケイゼルも、このコーナーで少し膨らんでしまったことでタイムを落としているし、BMCの、これまた良いタイムが期待されていたステファン・クーンも、このカーブで落車している。そしてファンエムデンもまた、落車。悔しい結果となってしまった。

 

 だから、デュムランの勝利の前には2つの大きな不安の壁が立ち塞がっていた。まず1つ目が、短すぎるTTのために、必ずしもスペシャリストに有利には働かないのではないか、ということ。そしてもう1つが、危険な直角カーブの存在。

 デュムラン自体は相変わらず完璧な走りであった。背後から見れば完全に見えなくなるくらい深い前傾姿勢を保つその姿勢。カーブの曲がり方にも全く無駄がない。文句のつけようがないくらい完璧なTTのスタイル。しかし、2つの大きな不安の壁の存在が、観る側の、応援する側の心をどこまでもかき乱し続けたのである。

 

 しかし、デュムランのその壁を打ち破った。

 いや、むしろ彼は、静かに冷静にその壁を乗り越えた、というべきか。

 結果はやはり、簡単ではなかった。ロットNL・ユンボスロベニア人、プリモシュ・ログリッチェと0.022秒差(!)というギリギリの勝利であった。しかし、ゴールした瞬間の彼の表情にはいかなる不安も浮かんでおらず、自分の全力を出し切ったといった様子だった。彼はのちにインタビューで語っている。「自分の勝利の鍵は、ミスをしなかったことだ」と。

 思えば、昨年のブエルタでも、大いに期待されながら、その期待にしっかりと応えたTT勝利によって、最終日まで着ることになるマイヨ・ロホを確定付けた。

 彼の走りは、必ずしも常に勝利を掴める、といったものでもまだまだないが、少なくとも常に、全力で、後悔しない結果を出すことのできる走りだ、とは言えるのかもしれない。

 彼はまだまだ若い。その姿勢で、自分のペースで、常に全力を出す走りをし続けることによって、今後も、様々な場面において、TT勝利を、あるいはグランツールの総合表彰台を、獲得することができるのかもしれない。

 改めて、今後に期待が持てる選手だ。

 

 初日の新人賞は、序盤で驚異の11分11秒という記録を叩き出し、その後1時間以上にわたって暫定1位をキープし続けた、ジャイアント・アルペシンの25歳スウェーデン人、トビアス・ルドビグソンが獲得した。本日の特別ジャージすべてを、このジャイアント・アルペシンが独占した形となった。そのほか、プライドラーやヘイガなど、ジャイアントの選手が多く、上位のリザルトを獲得したことによって、チームの総合成績自体もおそらく高い結果を出しているだろう。

 今年初め、スペイン合宿中の交通事故で、ジョン・デゲンコルブを初め主力級の選手たちの多くが戦線離脱した悲運のジャイアント。そのためにここまで主要レースでの勝利を掴み取れなかったこのドイツチームが、ジロ・ディタリアという大舞台でいきなり、晴れ晴れしい結果を叩き出すことができた。

 すでにデゲンコルブもレース復帰しており、今後、ツールブエルタといった舞台でも、バルギルなどと共に活躍してくれることは間違いがないだろう。

 

 明日は全長190kmの平坦ステージ。おそらくはスプリンターたちの集団スプリント勝負となるだろう。となるとやはり優勝第1候補はマルセル・キッテル。今日タイムトライアルも良い結果だっただけに、ボーナスタイムの蓄積具合では、今後、マイヨ・ロホを着る機会にも恵まれるかもしれない。そのためにも明日のレースは彼にとって非常に重要なものとなる。

 1つ気になるのが、ゴール前44.7km地点にある4級山岳。もちろん有力スプリンターたちを戦線離脱するほどのものではないとは思うが、微妙な距離にあることで、山岳賞獲得者が「逃げ」の集団から出るのか、それともメイン集団から出るのか、というのは気になるところである。このあたりも1つの見処と言えるかもしれない。

 

 いよいよ始まったジロ・ディタリア。初日のTTにおける総合争いはニバリが一歩リード。とはいえまだまだ団子状態。勝敗を決定付けるものではない。次の総合争いの舞台となるのはおそらく第6ステージ、山頂ゴール。あるいは第9ステージ、起伏を含んだ40km長距離TT。果たして誰が、総合優勝争いからまずは「脱落」するのか、見ものである。

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