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リエージュ~バストーニュ~リエージュ2016

 激しい吹雪と冷たい雨の中、前年度優勝者のアレハンドロ・バルベルデや、2013年度優勝者のダニエル・マーティンといった優勝候補たちが姿を消した。今年新たに加わった石畳の上り坂「コート・ドゥ・ラ・ルー・ナニオ」を制した4人の中で、最も安定したスプリントで勝利したのが、チーム・スカイのヴァウテル・プールスであった。

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https://twitter.com/zephel02/status/724250674788081668

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 前日まで雪が積もるほどの悪天候で、開催すら危ぶまれた2016年のリエージュ~バストーニュ~リエージュ。なんとか当日の積雪もなく、無事開催されたものの、吹雪いては晴れ、また冷たい雨が降って晴れて、というように選手たちを翻弄し続ける天候が続いた。一度晴れてレインウェアを脱いだにも関わらず、また雨が降ってきて着る羽目になった選手も多数いた。

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目の前が見えないほどの吹雪に襲われた。https://twitter.com/TeamSky/status/724160340662079488

 

 あらゆる選手が疲弊し、誰が勝つのか全く分からない状態でレースは終盤に入った。例年であればアタックがかかるような箇所でも大きな動きはなく、ある程度の集団を形成したまま、最後の勝負所であり、今年から新たにコースに加わった「コート・ダ・ラ・ルー・ナニオ」に突入した。

 残り3km。

 この石畳の登りで、優勝候補の一人、アレハンドロ・バルベルデが遅れていった。すでにダニエル・マーティンの姿はない。そこから飛び出した選手が4人。オリカ・グリーンエッジのミヒャエル・アルバジーニ、BMCレーシングチームのサムエル・サンチェス、ランプレ・メリダのルイ・コスタ、そしてヴァウテル・プールスである。

 石畳の登りを超えたあとの下り坂でも、濡れた路面を恐れることのない攻撃的な走りで、4人は後続とのタイム差をさらに広げていく。その後の小さな登りでまたこのタイム差が縮まっていっているように見えたが、後続は後続でお見合い状態になり効果的な追走を行えずにいた。

 先頭4人の中で最も活発だったのはアルバジーニであった。他の3人をあわや突き放すかのような動きも見せた。しかしその中で落ち着いていたのがヴァウテル・プールスであった。彼もグラブを外し、臨戦態勢に入った。サミュエル・サンチェスは苦しそう。

 残り500m。登りはまだ続く。ここでプールスがアタック。アルバジーニはすかさず後ろにつく。状況はアルバジーニにとって有利な形で推移しているように見えた。スプリント能力は4人の中で最もあるはずだ。あとはプールスの後ろから、適切なタイミングで飛び出すだけ。

 しかし、飛び出してもがいたアルバジーニは、プールスを超えることができないままゴールラインへ。右手を掲げた28歳オランダ人は、チームに初のモニュメント優勝をもたらした。

 

 ヴァウテル・プールスは、昨年のツール・ド・フランスにおいて、優勝したクリス・フルームを強力にアシストした実力派クライマーの1人であった。今年度もすでにバレンシア1周(ボルタ・ア・バレンシアナ)で区間2勝と総合優勝、カタルーニャ1周(ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ)でも区間1周を遂げ、先日のフレッシュ・ワロンヌでも4位入賞を果たしており調子を上げてきている。

 今回の勝利は、様々なアクシデントが積み重なったうえでの、偶然的な勝利と言うこともできるかもしれない。しかし度重なる悪天候と石畳の急坂といった、過酷な環境を誰よりも乗り越えて勝利を掴み、ロードレーサーとしての強さを見せつけたのも、間違いなくこの男であった。だからこそ彼は、最も古いモニュメントの勝利という果てしない栄光を得るに十分な男であるし、今後も、アルデンヌクラシックやイル・ロンバルディアなどでの活躍を、十分に期待していけるのではないかとも思う。

 

 しかしつくづく思うのは、このような選手を1アシストとして使役できるチーム・スカイの層の強さである。他にもパリ~ニースで総合優勝を果たしたゲラント・トーマス。E3優勝を果たした元世界チャンピオンのミハウ・クフィアトコウスキー。リッチー・ポートの穴を埋めるべくライバルチームから引き抜いたミケル・ランダは、シーズン序盤こそ体調不良で苦しんだものの、ジロ・デル・トレンティーノ総合優勝など、少しずつ調子を取り戻しつつあるようだ。セルヒオルイス・エナオもまた、各レースでエースにアシストにと八面六臂の活躍を見せている。今期スカイにおける最強の山岳アシストはもしかしたら彼かもしれない*1

 これだけの層の厚さを超えるチームは果たしてあるのだろうか。ティンコフもマイケル・ロジャースの急遽引退が決まり、危機的状況に陥っている。マイカは非常によい状態ではあるようだが、彼1人だけではどうしようもない。

 今年も結局、スカイの、そしてフルームの圧勝に終わってしまうのか。しかし、何が起こるかわからないのもまた、ロードレースの魅力である。

 とりあえずは目の前のジロ。バルベルデ、ランダ、ニバリ、マイカと、誰が優勝するか予想のつかない激戦が、今まさに開かれようとしている。このリエージュ~バストーニュ~リエージュをもって春のクラシックシーズンは終わりを迎えるが、ついにグランツールのシーズンが始まっていくのだ。

 今から楽しみでならない。

*1:しかし先日、バイオロジカルパスポートの異常値が見つかり、一時活動停止状態になっている。何事もなければ良いのだが。

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