「春のクラシック」もいよいよクライマックス。連日、ビッグレースが続く4月のレースを振り返っていく。
なお、対象レースを多くし過ぎて苦しんだ先月の反省から、今回はぐっと絞り込んだ。代わりに、1つ1つのレビュー内容を厚めにしたので、結局は文字数ベースでは変わらないという・・・。
「注目選手」は扱わなかったレースから対象選手を選出。今月はエースを喰ってしまう勢いで結果を出しているあの選手。
- ロンド・ファン・フラーンデレン(1.WT)
- イツリア・バスク・カントリー(2.WT)
- シュヘルデプライス(1.HC)
- パリ~ルーベ(1.WT)
- ブラバンツペイル(1.HC)
- アムステルゴールドレース(1.WT)
- ツアー・オブ・ジ・アルプス(2.HC)
- ツアー・オブ・クロアチア(2.HC)
- フレッシュ・ワロンヌ(1.WT)
- リエージュ~バストーニュ~リエージュ(1.WT)
- ツール・ド・ロマンディ(2.WT)
- 今月の注目選手
ロンド・ファン・フラーンデレン(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:ベルギー
「クラシックの王様」と形容される、ワンデークラシック最高峰のレースの1つ。5つあるモニュメントのうち、2番目に開催されるレースだ。
舞台はベルギー・フランデレン地域。レース名の「ロンド・ファン・フラーンデレン」とは、「フランデレン1周」、すなわち、ツール・ド・フランスの「ツール」や、ジロ・ディタリアの「ジロ」と同じ意味の言葉が「ロンド」である。
フランス語では「ツール・デ・フランドル」。日本ではこちらの名の方が馴染み深いかもしれない。
最大の特徴は全部で18ある石畳の急坂(ミュール)の存在。
オムロープ・ヘット・ニウスブラットから始まる「北のクラシック」で何度も使われてきた地域・急坂を使用し、その集大成として開催される。「北のクラシック」最強を決めるレースと言える。
石畳に強い脚質、急坂で対応できる脚質、そして多くの場合、逃げ切りの形になるため、追走を振り払うだけの独走力が求められる。過去、トム・ボーネンやファビアン・カンチェラーラなどが3勝している。
今大会で勝利したのはクイックステップ・フロアーズのニキ・テルプストラ。
2014年にパリ~ルーベを制したオランダ人で、今回で2つ目のモニュメント制覇となった。
実は2015年のロンド・ファン・フラーンデレンでも2位になっている。そのときは、ラスト30kmを切ったところで現れる「クルイスベルフ」という急坂でアレクサンデル・クリストフと共にアタックし、最後までに逃げ切った。
そして最後のスプリント争いで、やはりスプリンターのクリストフには敵わず、敗れている。
今回もまた、テルプストラはクルイスベルフでアタックをした。ただし今回は、クリストフという危険な随伴者はいない。
ミラノ~サンレモを制したヴィンツェンツォ・ニバリのアタックに反応する形で飛び出したのだが、まだまだ北のクラシックには慣れていないニバリをあっという間に突き放し、独走体勢に入った。単なるチェックであると考えた集団は彼の動きに反応できず、みすみす逃がすことに。ジルベールやスティバールといった強力なチームメートが集団の中に残っていたこともまた、テルプストラの独走を許す要因となった。
今大会、テルプストラが最強というわけではなかったとは思う。
たとえばペテル・サガンは、今シーズン序盤の不調を完全に脱した様子で、最後の坂「パテルベルフ」では強力なアタックで集団から抜け出す姿も見せていた。
ただ、テルプストラは遥か前方におり、もはや捕まえることは敵わなかった。
クイックステップというチームのあまりにも盤石な体制が、今回の勝利を、そして今回の勝利「も」生み出したのである。
これでクイックステップは、北のクラシックと呼ばれるレースで8勝。今シーズンここまでで圧倒的な21勝を記録した。
「北のクラシック最強チーム」の面目躍如、といった結果である。
別に、ボーネンが引退したからこその結果ではない、はず。
イツリア・バスク・カントリー(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スペイン
スペインで最も自転車熱の高い?西ピレネー・バスク地方で開催される6日間のステージレース。
昨年まではスペイン語の「ブエルタ・アル・パイスバスコ」の名前で知られていたが、今年からUCI登録名をバスク語の「イツリア・バスク・カントリー」に変更。
意味合いは変わらず、日本語で言えば「バスク1周」。こちらの名で聞き覚えのある人も多いだろう。
厳しい山岳ステージと個人タイムトライアルとがバランスよく配置されており、例年グランツールで活躍する名オールラウンダーたちが活躍する。
昨年はアレハンドロ・バルベルデがシーズン序盤から続く好調ぶりを継続して総合優勝。今年も同じく好調だったが、今年はこのバスク1周には不参加となった。
代わって今回、最高のパフォーマンスを発揮して総合優勝を果たしたのは、スロベニアの「遅れてきた新人」プリモシュ・ログリッチェ。
昨年もこのバスク1周で積極的な走りを見せて総合5位に登りつめていた彼が、今年はついに栄光を手に入れた。
2016年のジロ個人タイムトライアルで圧倒的な強さを見せつけて注目を集めた元スキージャンパー。
2017年も個人TTの強さを活かし、アルガルヴェ1周総合優勝、バスク1周総合5位、ティレーノ~アドリアティコ総合4位、ツール・ド・ロマンディ総合3位と各種ステージレースでの総合争いに喰い込む。
さらにはツール・ド・フランスでも一流クライマーに負けない登坂を見せつけてステージ優勝。山岳TTとなった世界選手権ではデュムランに次ぐタイムで銀メダルを獲得した。
まさに、フルーム、デュムランに次ぐ最強格のオールラウンダーとしての才能を見せつけていた中で、今回ついに、ワールドツアークラスのステージレース総合優勝を果たした。しかもバスク、登りの厳しいレースで。
今年もまたツール・ド・フランスに照準を絞るようだが、この勢いで成長を続ければ、その総合表彰台も夢ではない、かもしれない。
しかしロットNLはクライスヴァイクといい、ジョージ・ベネットといい、こういった超強い・超可能性を感じさせるステージレーサーを定期的に輩出してくれている。
だがチーム全体がそれを支える体制はまだできておらず、またヘーシンクやテンダムのように結局は表彰台に届かないまま終わっているパターンが多い。
果たしてログリッチェは、その天井を突き破ることができるか・・・。
シュヘルデプライス(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:オランダ~ベルギー
例年、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベに挟まれた水曜日に開催されている、伝統的なクラシックレース。今年で106回目を迎える。歴史の長いレースだ。
昨年は引退するトム・ボーネンの故郷をスタート地点に定めたが、今年はまさかのオランダスタート。オランダからベルギーに渡る、国際的なレースとなった。
ロンド・ファン・フラーンデレンやドワースドール・フラーンデレンを主催する「フランダース・クラシック」主催のレースではあるが、北のクラシックというよりは、クールネ~ブリュッセル~クールネやヘント~ウェヴェルヘムのようなスプリンター向けのクラシックである。
去年までの5年間はすべてマルセル・キッテルが勝利しており、今年も当然注目が集まるが、新チームに移籍したばかりのキッテルは目下、不調が続く。
ならばと注目されたのがパリ~ニースで勝利したアルノー・デマールや、今期絶好調なディラン・フルーネヴェーヘン、そして3月のハンザーメ・クラシックとカタルーニャ1周初日ステージと連勝したネオプロ「ガヴィリアの後継者」アルバロホセ・ホッジ。
しかし彼らはレース中盤で起きた「踏切事件」により全員失格の憂き目に。
レースは混沌とした様相を見せ始める。
先頭集団で生き残っていたキッテルも残り13kmで2度目のパンクに見舞われ戦線離脱。
優勝候補不在のプロトンの中で、飛び出したのは3月のノケーレ・コールスでも優勝した「17年ラヴニール組」のファビオ・ヤコブセン。
母国オランダスタートとなった第106回シュヘルデプライスで見事なプロ2勝目を飾った。
ホッジが欠けても彼がいる。ほんと、クイックステップの今年の若手は凄い。
いや、真に凄いというべきは「17年ラヴニール組」の実力の高さか。
スカイの「ラヴニール組」クリストファー・ローレスもまた、3位に喰い込んでいた。
イーガンアルリー・ベルナルだけじゃない、「17年ラヴニール組」の今後の活躍に更なる注目を注ぐべきである。
パリ~ルーベ(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス
「クラシックの女王」、またの名を「北の地獄」。
ロンド・ファン・フラーンデレンと並ぶ「北のクラシック」最高峰のレースであり、モニュメントの一角。
登りはほとんどないものの、握りこぶし大の石礫が転がる荒れた石畳の上を走る250km超のレースは、パンクと落車が連続するまさに「地獄」のレースである。
今年の北のクラシックはクイックステップ・フロアーズが席巻していた。
全員が勝利を狙える体制で挑んでくる彼らのチーム力の前には、どんな実力者も歯が立たない、そんな様相であった。
その中で、本来マークすべきはずの存在に対する警戒が緩んでいたのかもしれない。
その一瞬の隙をついてするすると集団から抜け出したのが、3年連続世界チャンピオンであり、過去にも何度もパリ~ルーベ優勝候補となりながら、パンクや集団落車に巻き込まれるなど不運を繰り返し勝機を逃していた男、ペテル・サガンであった。
ゴールまで残り54km。5つ星パヴェを2つ残した舗装路の上で、彼は何気ない様子で集団から抜け出した。
ジルベールらクイックステップの面々はこのとき、集団の後方にいて手出しができなかった。「彼らが動かないならば」と、集団の先頭にいたファンアフェルマートも動くことを選ばなかった。これが最大の過ちだった。
あとは、もうサガンの独壇場である。2年前ロンドでカンチェラーラとファンマルケ2人がかりの追走すら寄せ付けなかった「覚醒サガン」の独走力を前にして、ファンアフェルマートも、ジルベールも、ロンド覇者テルプストラも、もう為す術はなかった。
サガンに追い付かれた逃げ集団の面々も、あっという間に置いていかれた――ただ一人、シルヴァン・ディリエを除いて。
昨年ジロでヤスペル・スタイフェンとの登りフィニッシュ一騎打ちを制した意外な実力者。今年はAG2Rに移籍し、アルデンヌ・北のクラシック双方での活躍を期待された。
しかしまさか、今回のような走りを見せるとは、誰も想像していなかったに違いない。
世界チャンピオンに対しても臆することなく、先頭交代にも積極的に参加し、あくまで対等な関係で最後のヴェロドロームにまでついてきた。
サガンも、まさかの展開を予想していたに違いない。結果は圧勝ではあったが、実に慎重に、確実に仕留めるスプリントで、サガンは勝利を掴んだ。
いつも飄々としている彼にしては珍しく、感情を爆発させたガッツポーズであった。そこには、これまで苦しみぬいてきた歴史が刻まれていたのだろう。
そしてディリエも、自らの健闘を手放しで褒めることなく、「次は勝つ」と野心高く宣言している。
彼もまた、今後が楽しみな選手だ。
ブラバンツペイル(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー
例年パリ~ルーベとアムステルゴールドレースの間で開催されるワンデークラシック。
「フランダース・クラシック」主催の最後のレースであり、舞台も一応フランドル地方に属するフラームス=ブラバント州ではあるため、厳密には北のクラシックの部類に入る。
ただし実質的には石畳の急坂の連続というよりもよりアップダウンの豊かなコースレイアウトで、アルデンヌ・クラシックの入り口、アムステルゴールドレースの前哨戦的な立ち位置に置かれている。過去の優勝者もジルベールやヘルマンスなどアルデンヌ系に強い面子が揃っている。
フラームス=ブラバント州自体がワロン地方とも隣接しており、州内にもフランス語を話す人々が多く居住している。
そのためレース名もフランス語の「ラ・フレッシュ・ブラバンソンヌ」で呼ばれることも多く、ここから「フレッシュ・ワロンヌ」の「フレッシュ」と、「ブラバンツペイル」の「ペイル」が同じ意味(「矢」という意味)であることがわかったりする。
今大会は、北のクラシックで大活躍中のクイックステップ・フロアーズではなく、もう1つのベルギー籍ワールドツアーチーム、ロット・スーダルが存在感を示した。
中盤からヴァンデルサンドなどを先行させ、レースを自ら作っていったロット・スーダル。
終盤ではマキシム・モンフォール、イェーレ・ヴァネンデール、そしてエースのティム・ウェレンスが次々と攻撃を仕掛け、最後は残り7kmからの「逃げスペシャリスト」ウェレンスの独走が始まった。
天を指差してゴールするウェレンス。その左肩には黒い喪章が。
数日前のパリ~ルーベ中に死去したベルギー人若手マイケル・ホーラールツへの祈りを込めた静かなガッツポーズであった。
ロット・スーダルはもう1人の「エース」ティシュ・ベノートがスプリントで3位につける。
アルデンヌ・クラシックに向けてチームとしても良い状態に仕上げつつあることを見せつけた。
アムステルゴールドレース(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:オランダ
オランダ・リンブルフ州で開かれたワンデーレース。
アルデンヌ・クラシックに分類されるものの、この後のフレッシュ・ワロンヌやリエージュ~バストーニュ~リエージュなどと比べるとまだまだ登りの厳しさはそこまででもなく、北のクラシックで活躍した選手たちも多く登場している。
優勝候補はクイックステップ・フロアーズのフィリップ・ジルベールやジュリアン・アラフィリップ。モビスター・チームのアレハンドロ・バルベルデにロット・スーダルのティシュ・ベノートとティム・ウェレンス。
そして、5年ぶりの出場となるパリ~ルーベ覇者ペテル・サガンである。
レースは勝負の残り40km以降、エース級の選手が集まったバーレーン・メリダが積極的な動きを見せていく。
終盤でミッチェルトン・スコットのロマン・クロイツィゲルと、バーレーン・メリダのエンリコ・ガスパロットという過去優勝経験者2名が抜け出して逃げ集団に合流するも、サガン、バルベルデ、アラフィリップ、グレッグ・ファンアフェルマート、そしてウェレンスなどを含んだメイン集団に追い付かれる。
ここで、ここまで順調にレースを展開していたバーレーン・メリダが、ガスパロット以外の選手を先頭に送り込めないという致命的な事態が発生する。
逆に複数名を入れることに成功したアスタナが攻撃を開始する。
まずはエース格のヤコブ・フールサンがプッシュ。
そして彼の逃げが吸収されたのちに、オムロープ・ヘット・ニウスブラット覇者ミケル・ヴァルグレンがアタック!
オムロープのときのように、一度失敗してもめげずに再度アタック。そして、2度目は鋭かった。
オムロープのときは、ミッチェルトン・スコットのマッテオ・トレンティンが喰らいつこうとしてきて、これを引き千切って独走を開始した。
しかし今回は同じミッチェルトン・スコットのクロイツィゲルがしっかりと貼りつく。しかも、さっきまで逃げていたクロイツィゲルはあまり積極的に前を牽こうとしない。
ここで、ヴァルグレン、不意に、ものすごく辛そうな表情を見せる。
もしかしたら本当に辛かったのかもしれないし、もしかしたらブラフだったのかもしれない。
何にせよこれでクロイツィゲルも前を牽くようになり、追走を仕掛けてきたガスパロットに追い付かれることなくゴール前に到達する。
最後の直線でも、ヴァルグレンはギリギリまで、クロイツィゲルに前を牽くようにアピールし続け、最後はクロイツィゲルの後ろから飛び出してスプリントで勝利を果たした。
2年前、ガスパロットと共にカウベルフの登りで抜け出して逃げ切ったときは、あまりにも焦り過ぎてガスパロットの前を牽き続けてしまい、敗北した。
今回は、しっかりとゴール前の駆け引きを制して、より戦術的な勝利を掴むことに成功した。
2年前の悔しい敗北へのリベンジを達成!
これからもさらなる活躍に期待がもてる、デンマーク人新星の1人である。
ツアー・オブ・ジ・アルプス(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:イタリア~オーストリア
かつて、「ジロ・デル・トレンティーノ」と呼ばれていたレースで、昨年から名前を変更。イタリアだけでなくオーストリアも加えたコース設定で、厳しい山岳地帯のレースとなっている。
以前からジロ・ディタリアの前哨戦レースとして注目を集めており、今年もクリス・フルームやファビオ・アル、ティボー・ピノなどのジロを狙うオールラウンダーたちが集結した。HCクラスとは思えない豪華さだ。
注目の選手はやはりフルーム。
今年、初めて本気で総合優勝を狙って走るジロへの挑戦に向けて、このレースに初挑戦となった。結果として総合4位。他のグランツールの結果と合わせてみれば良い、とは言えない結果だが、それでも今年これまで出場してきたレースと比べれば、結果も、実際のレース中の動きも、格段に良くなってきている。
リッチー・ポートもミハウ・クフャトコフスキもいない中、ケニー・エリッソンドという新たな彼の「右腕」の覚醒もあり、ジロ本戦が実に楽しみになる。
そしてもう1つ楽しみに感じるのが、アスタナの調子の良さである。
5ステージ中3勝。昨年、このレースでのスカルポーニの勝利が、シーズン初勝利であった昨年とは大違いである。
今年のアスタナは本当に雰囲気が良い。
だれか突出した選手が強いわけではない。
気が付けば終盤に複数名が残っており、それぞれがそれぞれの役割を果たした結果、そのうちの誰かが勝利を掴むというパターンが多い。
スカイのエースを守るチーム力とも、全員が最強クラスのクイックステップのチーム力ともまた違う。準エースクラスが集まって最強に牙を剥く、そんな感じの走り方をチームとして行っているのだ。
ジロでも当然、今回とほぼ同じメンバーで挑む。
スカルポーニの悲しい死から1年。今年、アスタナの大爆発に期待したい。
当然、ピノの総合優勝も喜ばしい。
ただ、実はここ数年のこのレースの総合優勝者とジロの結果を考えると、あまり手放しでは喜べないのである・・・。
2014年:カデル・エヴァンス
2015年:リッチー・ポート
2016年:ミケル・ランダ
2017年:ゲラント・トーマス
・・・ピノはその、期待し過ぎない方が結果を出す感はあるので、あまり騒がず、静かに見守っていようと思う。
ツアー・オブ・クロアチア(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:クロアチア
旧ユーゴスラビアの悲痛な紛争の記憶と、ダルマチア海岸など美しき自然の姿とが同居する東欧クロアチアを舞台にした6日間のステージレース。
今年で4回目となる今回、HCクラスへの昇格が決まり、より注目度の高いレースとなった。
昨年、優勝したニバリを献身的にサポートしていたカンスタンティン・シウツォウが、今年は自ら総合優勝。
隣国スロベニアの選手も多く抱える中東チームが今年もやる気満々といったところで、期待されていた若きスプリンター、ニッコロ・ボニファツィオが移籍後初勝利も嬉しいし、いつもは逃げやスプリント前の牽引で地味ながら活躍しているマヌエーレ・ボアーロの3年ぶりの勝利も嬉しい。
最近バーレーン・メリダがひたすら好きな自分にとっては昨年に続き大満足な大会である。
もう1人、注目すべき選手がいる。
アスタナのネオプロ21歳カザフスタン人エフゲニー・ギディッチである。
彼は先月のツール・ド・ランカウイから注目していた。その大会特有のベストアジアンライダー賞も獲得している。そのときも今回も、彼の役目はチームの若きエーススプリンター、リカルド・ミナーリの発射台のはずだった。
今大会も第2ステージで、ミナーリに次ぐステージ4位でゴールしている。
紛れも泣くスプリンターである、と思っていた。
しかし、今大会の第3ステージ、シウツォウが勝利した「登坂距離25km、獲得標高1760m」の驚異的な山頂フィニッシュで、彼は何とステージ3位につける。
クライマー、と称しても全く問題のない脚質だ。
また1人、今後注目すべき選手が増えた。
フレッシュ・ワロンヌ(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:ベルギー
全長1.3km、平均勾配9.6%、最大勾配26%。「激坂」と呼ぶに相応しい「ユイの壁」を3回巡り、最後はその頂上で決着をつけることとなる伝統のレース。
「アムステルゴールドレース」「リエージュ~バストーニュ~リエージュ」という2つのアルデンヌ・クラシックに挟まれた水曜日に開催されるため、「水曜日のクラシック」という名でも知られている。
過去4年間はアレハンドロ・バルベルデが勝ち続けてきた。その中で、2位を2回経験していたジュリアン・アラフィリップが、ついにバルベルデという「壁」を打ち破った。
しかも、バルベルデが特別不調だったとか、不運だったとかではなく、存分に力を発揮した状態で、真っ向勝負でこれを打ち倒したのだ。
アラフィリップも(ゴールの瞬間は自分が勝ったことに気が付かなかったらしいが)ゴールの直後に歓喜の雄叫びをあげてしまうほどに、これは偉大なる勝利だった。
バルベルデの敗因は、モビスターが昨年までと比べて苦しい戦いを強いられていたことにある。
昨年は中盤のアタックの1つ1つを、カルロス・ベタンクールが潰し、終盤のコート・ド・シュラーヴでも多くのアシストを残すことに成功していたモビスターだったが、今年は最初のユイの壁登坂直後から、ライバルチームの度重なるアタックを止めることができず、カオスな展開へと持ち込まれてしまった。
そして終盤ではもはや、バルベルデを守るべきアシストはミケル・ランダのみとなり、彼もまた、ニバリらを含む強力な逃げ集団を捕まえるべく先頭を牽かされ続けた。
結果、最後の壁の登坂にて、バルベルデはもはや、適切なポジションを確保することができずにいた。そこで力を使ってしまったことで、最後の最後、アラフィリップを捕まえるための伸びが、出し切れなかったのだ。後方から飛び出したことで勝てなかったが、これがいつもの適切なポジションから発射できていれば、結果は違っていたかもしれない。
そして、それを成し遂げたのが、まさにクイックステップのチーム力であった。
序盤からメイン集団の先頭はモビスターとUAEチーム・エミレーツ、もしくはミッチェルトン・スコットといったチームが支配していたが、終盤にかけてクイックステップっがっ静かに存在感を現し始めた。
そして逃げに乗ったマキシミリアン・シャフマン。彼が最後まで逃げることによって、最終局面へのお膳立てができたと言えるだろう。
シャフマンもまた、プロ2年目の若手であり、先日のカタルーニャ1周では逃げ切り勝利を演出した男だ。
本当に今年のクイックステップの若手は活きがいい。
リエージュ~バストーニュ~リエージュ(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:ベルギー
モニュメントの1つにして最も古いクラスのレースであることから「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」の名でも知られる伝統レース。
アルデンヌ・クラシック3連戦の最終幕にして「春のクラシック」最終戦でもあるこのレースは、アムステルゴールドレース以上の激しいアップダウンにより、グランツールでも活躍する名クライマーたちが過去、勝利を掴んでいる。
今年、レースに大きな動きが巻き起こったのは、残り21kmから始まる「ラ・ロッシュ・オー・フォーコン(全長1.3km、平均勾配11%)。
山頂まで1kmを切って2011年大会覇者フィリップ・ジルベールがアタック。これにマイケル・ウッズやセルヒオ・エナオらが反応し、集団は一気に活性化する。
集団に引き戻されたジルベールに代わってペースを上げたボブ・ユンゲルスが、先頭のエナオに追い付き、山頂を越えたのちの下りで独り抜け出す格好に。
エース格の選手しか残らない追走集団は完全にお見合い状態。一気に数十秒のタイム差がついてしまった。
結局のところこの日も、ゲームを支配したのはクイックステップであった。
ジルベールのアタックをきっかけにペースアップした集団はアシスト選手たちを引きはがし、そんな中でアラフィリップとユンゲルスという強力な手札を残していたクイックステップが、自分たちに有利な形の展開を作り出すことに成功したというわけだ。
北のクラシックが終わってもなお、その強さを発揮し続けるクイックステップ。このまま、春のクラシックだけでその勢いが止まるようには感じられない。
今年はまさか、60勝に達してしまうのか?
ツール・ド・ロマンディ(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スイス
厳しい山岳が豊富なスイス地方で行われる6日間のステージレース。
日程的にジロ・ディタリアが近いことから、ジロを狙う選手の出場は多くなく、ツール・ド・フランスに向けての前哨戦の1つとして位置づけられている。
よって、リッチー・ポートやヤコブ・フールサン、ダニエル・マーティンなどのツールを狙うオールラウンダーたちが集結。激しいバトルを繰り広げた。
勝ったのは、バスク1周に続き今期WTステージレース2勝目となるプリモシュ・ログリッチェ。TTスペシャリストとして台頭した2016年、ステージレーサーとしての力量を少しずつ見せていった2017年に引き続き、今年さらなる躍進を決定的なものとしてくれた。
ただし、あくまでもまだ、短いステージレースでの総合優勝。果たして、難関山岳ステージの連続するグランツールにおいて、彼の力がどこまで通用するのか。そこは、ローハン・デニス(総合7位)についても同様に言える部分である。
そして、今大会もう1人の注目選手は何と言ってもエガンアルリー・ベルナル。この男は、今年、期待され過ぎるほどに期待されていたものの、その過度な期待すら凌駕する結果を出し続けている男だ。ダウンアンダー新人賞に始まり、コロンビア・オロ・イ・パ総合優勝、カタルーニャ1周は最終日の落車リタイアさえなければ総合2位は固かった。そしてそのリベンジであるかのように、今回総合2位を獲得。しかも、山岳TTでポートやログリッチェを打ち破っての圧巻の結果だ。
今年はジロもツールも出る予定はないらしいベルナル。チームとしても慎重に、しかし好機を逃さないように、じっくりと育てていきたい逸材だ。果たしてこの男、どこまで伸びるのか。
今月の注目選手
クリストフ・ラポート(フランス、25歳)
4月中旬、フランスのブルターニュ地域圏で行われたトロ・ブロ・レオン(1.1)で優勝。未舗装路が特徴のワンデーレースで、プティ・パリ~ルーベとも呼ばれているレースだ。
今年すでに4勝。2014年にコフィディスでプロデビューして以来、昨年までで2勝しかなかった彼が、今年の4か月で一気に勝利を積み上げていった。
しかも、本来が彼が得意なはずのピュアスプリントだけでなく、エトワール・ドゥ・ベセージュやツーラ・ラ・プロヴァンスでは個人TTで上位に入ったほか、今回の「北のクラシック」レースで勝利したことは大きい。ヘント~ウェヴェルヘムでも4位と、トップレーサーたちと互角に渡り合っている。
パリ~ニース第1ステージ。厳しい登りと石畳を経たうえでの横一線スプリントで3位(写真一番左)。純粋なスプリント力だけでない総合力を発揮している。なお、この日ブアニは全選手中最下位でゴールしている。
元々はコフィディスのエース、ブアニの発射台という役目であった。
しかしブアニが早々にリタイアした2015年、開幕直前にリタイアした2016年は彼に代わるエースとして挑み、上位にも数回入っている。
今年はまだ勝ち星のないブアニ。今までは無条件に許されていたツール・ド・フランスのエースの座も、今回ばかりはさすがに危ないかもしれない。
代わってこのラポートがエースになりうるのか。まだまだ1クラスのレースでしか勝ててはいないので、今後、ビッグレースでの勝利に期待が集まる。
次回、5月は「エシュボルン・フランクフルト」「ジロ・ディタリア」「ツアー・オブ・カリフォルニア」などを扱う予定。ハンマーシリーズも。。。扱うかも?