晴天の下、開幕した206.1kmの旅路は、いくつかの小さなクラッシュと共に始まった。
その中でいきなりのリタイアを余儀なくされた選手の1人が、トニー・ギャロパン(ロット・ソウダル)であった。
それゆえに最初に形成された6人の逃げは、問題なく4分以上のタイム差を作ることができたようだ。アレクシー・グジャール(AG2R)、ローレンス・デブリース(アスタナ)、ダヴィド・ペル(バーレーン・メリダ)、ヒース・ファンフッケ(ロットNLユンボ)、タコ・ファンデルホールン(ルームポット)、クリストフ・マッソン(WBヴェランクラシック)の6人である。
逃げ巧者グジャールを先頭に走る6人。グジャールはこういった経験をもとに、やがてクラシックでの勝利を得るところまで成長してほしいものだ。
後続からはドリース・デボント(ヴェランダスウィレムス)とトム・ヴァンアスブロック(キャノンデールドラパック)、そしてミカエル・ドゥラージュ(FDJ)が追走を仕掛けるも、これは先頭に追い付くことなく宙に浮いてしまう。
残り75km地点でオリヴィエ・ルガック(FDJ)がアタック。
しかしその直後の勝負所「タイエンベルク」にて大本命トム・ボーネン(クイックステップ・フロアーズ)がアタックを仕掛ける。
これに喰らいついたのがBMCレーシングのダニエル・オス。
さらにフィリップ・ジルベール(クイックステップ・フロアーズ)がカウンターアタックを仕掛けるも、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(BMC)、オリバー・ナーセン(AG2R)、ルーカス・ポストルベルガー(ボーラ・ハンスグローエ)がこれに喰らいつき、彼らは残り66km地点で芋掘りをしていたヴァンアスブロックらに合流する。
そして、これも優勝候補の1人であるセップ・ヴァンマルク(キャノンデールドラパック)が、先日のドワルスドール・フラーンデレンでもよい走りを見せていたルーク・ダーブリッジ(オリカ・スコット)と共にブリッジを仕掛け、ジルベールらに追い付く。ヴァンアスブロックはエースのヴァンマルクをサポートしたのちに、「エイケンベルク」の登りでデボント、ドゥラージュと共に脱落していった。
そして残り59km地点で先頭集団に追い付き、12名の小集団となった。
このときすでに、後続集団との間には48秒のタイム差がついていた。
この後続集団に取り残されたのが、最大の優勝候補であったペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)。
彼は何度かブリッジのためのアタックを仕掛けるが、誰も彼に協力をしない状況の中、何度も集団に引き戻されてしまう。
そうこうしているうちに、残り42km地点で、彼は落車に巻き込まれてしまう。すぐさま集団に復帰しようとするも、トラブルに見舞われた自転車は言うことを聞いてくれず、このとき彼のレースは終わりを告げた。
12名の先頭集団からは、ジルベールが積極的なペースアップを図ったことにより、最初の逃げのメンバーが次々と脱落していってしまう。唯一残ったのがデブリースである。
そして残り40kmを切ったところで訪れる「オウデ・クワレモント」にてナーセンがアタック。これについていけたのはジルベールとヴァンアーヴェルマートというクラシックにおける2大巨頭だけであった。
ファンマルクとダーブリッジ、ポストルベルガー、デブリースの4人は引き離されてしまい、その後この4人が先頭3人に合流することはなかった。
オウデ・クワレモントで仕掛けたナーセン。ついて来られたのは最強の2人だけだった。
オリバー・ナーセン。
1990年生まれのこのフランドル人は、昨年はじめてワールドツアーランクのチームに所属し、初年度からツール完走、エネコ・ツアー総合2位と活躍してみせた。
所属チームが解散し、第2のワールドツアーチームとして選んだのがAG2R・ラモンディアル。総合に力を注ぎ過ぎたせいで勝利数を稼げずに終わったフランスチームが、クラシックのエース格に、とベテランのヴァンデンベルフと共に獲得した。
しかし、特段クラシックでの実績があったわけではない。クラス2時代のオンループで3位、ル・サミンで10位といった程度だ。
そんな彼が、このE3で、最強の2人を引き連れて最終盤に突入しようとしていた。
残り20km地点の「ティーヘムベルク」でジルベールはナーセンを引き離そうとペースアップを試みる。しかし彼は決して引き千切られることはなく、執念で2人に食らいつき続けた。それゆえに追い付いてからなかなか前に出られず、2人に怖い顔で睨まれたりもしたけれど。
そして3人はフラム・ルージュを通過。
すでに、後方とのタイム差は2分以上に開いていた。
だから最後の直線で先頭を走るジルベールは、ことさらゆっくりと、後方を確認しながらペダルを回した。
背中にぴったりと貼りついているのがヴァンアーヴェルマート。いつもの体勢であり、ここで飛び出せば彼に差し切られてしまう、とジルベールはわかっていた。
だから彼は、飛び出したくとも飛び出さない状況であった。
そんな均衡を打ち破ったのがナーセンであった。
最も若く、最も経験のない26歳が、その余りある勇気でもって開始したスプリントは、意外なほどに力強く、一瞬、そのまま先頭でゴールラインを通過するのではないか、と我々に予感させた。
しかし、やはりオリンピック金メダリストのスプリントは一流だった。
結果としてヴァンアーヴェルマートは、軽々とナーセンを抜き去ったのだ。
しかし、遅れて飛び出したジルベールもまた、ほぼヴァンアーヴェルマートに並ぶくらいにまで迫り込んだ。
結果として、4分の1ホイール差で、ヴァンアーヴェルマートが勝利を決めた。
今年、オンループ・ヘットニウスブラッドに次ぐ、クラシック2勝目である。
咆哮と共にゴールに飛び込んだヴァンアーヴェルマート。後方では、ナーセンが祝福の拍手。しかし真に拍手を捧げたいのは彼の走りであった。
3人のゴールから40秒後、ゴールに飛び込んできたのがルーク・ダーブリッジとルーカス・ポストルベルガーであった。
ダーブリッジは先日のドワルスドール・フラーンデレンでも4位、今回も4位と、素晴らしい結果を残している。
まだ25歳。これからの活躍に期待だ。
またポストルベルガーも同じく25歳。プロコンチネンタルチーム時代のボーラからの叩き上げで、元オーストリアロードチャンピオン。サガンを失いながらもチームに5位という成績をもたらし、今後もクラシックにおけるトップメンバーの1人として活躍しそうだ。
ファンマルクやデブリースといったクラシック巧者たちを置き去りにし、将来有望な若手2人が追走劇を繰り広げた。
着順は以下の通り。