りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2016 第8ステージ

 ナイロ・キンタナが復活を遂げた。

 今年のツール・ド・フランスで、誰からも期待され、その勝利を信じられていた男。

 総合3位という、決して簡単ではない結果に対しても、「期待外れだ」という評価を下されてしまった男。

 悔しさと意地が、この日のステージで爆発した。

 最強のライバル、クリス・フルームを突き放す鋭いアタック。

 昨年のティレーノ~アドリアティコばりの、今年のツール・ド・ロマンディばりの「強いキンタナ」の姿が炸裂した。

 かくしてキンタナ、人生初――いや、2年前にほんの一瞬だけ着たことがあるから2回目の――マイヨ・ロホ。

 黄色いジャージにはまだなかなか手が届かないけれど、ピンクに続き赤のジャージを、今年は本気で獲りにいけるか。

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残り1km地点でアタックを仕掛けるキンタナ。最強クライマーの意地を見せた。jsportsより。

 

 

 全長181.5kmのうち173kmは起伏のほぼない平坦が続く。

 だがラスト8.5kmの1級山岳「カンペローナ」は、最大勾配25%、ラスト3kmは平均15%という激坂中の激坂である。このラスト3kmで、150階立てビルの頂上まで登ると想像すれば、そのすさまじさは十分に理解できるのではないだろうか。

 逃げは11人。最大で10分半も開いたタイム差は、登りの入り口に差し掛かったときでさえまだ9分近く残っており、逃げ切りは確実なものとなった。

 ステージ優勝に向けてまず飛び出したのは、チーム・カチューシャの21歳コロンビア人ホナタン・レストレポ。最大勾配25%の区間も軽快に登り進め、そのまま逃げ切りの可能性すら漂わせ始めた。

 しかし残り1.6km。トッププロのレーサーですら足をついてしまいそうな急勾配で、ペースを落としてしまったレストレポの背後から4人の追走。一気に追い抜かれ、レストレポは脱落してしまう。

 先頭はアージェードゥーゼルの山岳逃げスペシャリスト、アクセル・ドモン。しかしその集団の中には、レストレポのチームメートであるロシア人、セルゲイ・ラグティンの姿があった。

 最後の最後までわからない展開の中で、残り200m、少し勾配が緩んだところで一気にラグティンがラストスパート。これにドモン、追い付かない!

 35歳のベテランレーサー。勝利の瞬間に、ガッツポーズはなく、ただ「信じられない」という表情で頭を抱えながらゴールを迎える。そしてその後、しばらくしてから胸の前で右手を強く握りしめ、小さなガッツポーズを見せた。

 レストレポの力強い走りによるアシストを受けたうえでの勝利。

 まさにチームワークが成しえた大きな結果であった。

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f:id:SuzuTamaki:20160828055813p:plain上段:ラスト200mで飛び出すラグティン。下段:「信じられない」と頭を抱えながらゴールを迎えるラグティン。後方には懸命な走りを見せながら惜しくも勝利を勝ち取れなかったドモンの姿が。jsportsより。

 

 

 もちろん、総合も大きく動くことが予想されたステージであった。

 今大会おそらく最強のチームであるモビスターが積極的に牽引。しかし残り2kmを切るころには、加速したフルームの走りについていけたのはキンタナとコンタドールのみ。そのコンタドールも残り1kmを前にして失速。

 ここでキンタナが飛び出した。フルームはついていけない。

 いつもの「ペース走法」というわけではない。事実、フルームは一瞬、ダンシングでキンタナを追おうとしたのだ。しかし、追いすがることができなかった。

 そのままぐんぐんとキンタナは前を行き、フルームたちに30秒近い差をつけてゴールした。

 フルームはそのあとも失速。そしてなんと、コンタドールがここでフルームを振り切って、彼に8秒の差をつけてゴールしたのだ。

 初日のチームTTでいきなり大幅にタイムを失い、さらには昨日の落車により大きく傷ついたコンタドール

 ツール、オリンピックを棒に振っただけに留まらず、このままブエルタも失敗に終わってしまうのか・・・そう、諦めにも似た境地に至っていた我々の前に見せたコンタドールの意地。

 その姿は感動的ですらあった。

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最後の最後でフルームを、バルベルデを、チャベスを振り切ってゴールするコンタドール。これが、王者の意地である。jsportsより。

 

 やはりこうでなくてはブエルタは面白くない。

 ツールで絶対的な強さを誇ったフルームですら、その疲れからは逃れられない。

 代わって、ツールでは悔しい思いを味わわされた強者たちが反撃に出る。

 この打ち合い・差し合いは、まだまだこれからのステージでも繰り返し展開されるはずだ。

 その中で次代のエース候補であるエステバン・チャベスがどこまで喰らいついて行けるか。あるいはサイモン・イェーツも、ベスト10に残れる走りを見せられるか。

 そしてキンタナはマイヨ・ロホを守り抜くことができるか。

 

 山岳決戦がいよいよ本格化していくブエルタ第2週に向けて、まだまだ目が離せない展開が続いていく。

 ようやくブエルタが面白くなってきた。

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マイヨ・ロホに身を包むキンタナ。ツールの悔しさを倍返しできるか。jsportsより。

 

www.jsports.co.jp

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