りんぐすらいど

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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2021 第3週

 

「今年のツールは終わった」と感じさせた第1週。

そして、「何が起こるか最後までわからない」とも感じさせた第2週。

 

いよいよ、戦いは激動の第3週へと突入していく。

 

超級山岳山頂フィニッシュ2連戦。そして、マーク・カヴェンディッシュの「伝説超え」の行方は?

 

ツール・ド・フランス2021、第3週全6ステージを詳細に振り返っていく。 

 

目次

 

コースプレビューはこちらから

www.ringsride.work

 

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第16ステージ パ・ド・ラ・カーズ〜サン・ゴダンス 169km(丘陵)

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スプリンター向きではなく、かといって総合争いが起きるほど難易度は高くなく、翌日から厳しい山岳ステージが待ち構えるという、典型的な逃げ切り向きステージ。

登りも本格的なクライマーでなければ越えられないほど厳しくはなく、終盤は比較的平坦なレイアウトということで、様々なタイプの選手にチャンスのあるステージとなった。

形成された逃げは13名。マイヨ・ヴェールでカヴェンディッシュとの差を縮めたいソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)マイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ)や総合14位のダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)、今大会積極的に逃げに乗り続けているフランク・ボナムール(B&Bホテルス・p/b KTM)などが含まれていた。

その中から終盤の2級山岳ポルテ・ダスペ峠(残り32.5㎞地点、登坂距離5.4km、平均勾配7.1%)の登りで抜け出したのがパトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ)

これまでも逃げに乗りながらも「仕掛けるのが遅すぎて勝てなかった」ために、「今回は早めに仕掛けることにした」という言葉の通り、30㎞以上を残して独走を開始したコンラッド。

これまでパリ~ニースやジロ・デ・イタリアなど、大きなステージレースでの総合TOP10入りはコンスタントに果たしながらも、国内選手権意外でのステージ勝利を得ることはなかった男が、オーストリア人としては史上3人目かつ16年ぶりとなるツール・ド・フランス勝利、そしてオーストリアチャンピオンジャージを着ての勝利としては史上初となる、偉大なる功績を母国にもたらした。

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一方、このコンラッドを逃すこととなった追走集団では、残り2.3㎞から単独で抜け出したピエールリュック・ペリション(コフィディス・ソルシオンクレディ)を最後の最後でギリギリ抜き去ったコルブレッリが2位、マシューズが3位に入り込み、マイヨ・ヴェールランキングでマシューズがカヴェンディッシュに大して37ポイント差にまで迫ることに成功した。

メイン集団では残り7㎞地点に用意された4級山岳(登坂距離800m、平均勾配8.4%)で総合TOP勢を中心とした小集団が抜け出す動きができたものの、その中に上位勢はすべて含まれていたことで、結局は変動なくフィニッシュすることとなった。

 

波乱を予感させる結末とともに、プロトンはいよいよ今大会最も厳しい2日間へと突入していく。

 

 

第17ステージ ミュレ~サン=ラリ=スラン(コル・ド・ポルテ) 178km(山岳)

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7月14日。フランス革命記念日となるこの日に、今年のツール・ド・フランスはクイーンステージをぶつけてきた。

全体的なレイアウトは比較的シンプル。序盤はひたすら平坦が続くが、ラスト60㎞から突然その様相を変える。

1級ペイルスルド、1級ヴァル・ルーロン・アゼ、そして超級ポルテ。

3年前のツール・ド・フランスのあの「65㎞超短距離ステージ」でも使われ、総合争いの重要な舞台となった山岳コンビネーション。

その舞台で、今大会で最も激しい戦いが繰り広げられることとなる。

 

ルーカス・ペストルベルガー(ボーラ・ハンスグローエ)アントニー・テュルジ(チーム・トタルエナジーズ)など、比較的平坦向きな選手が中心となった6名の逃げというのは、タイム差が最大8分まで開いたとはいえ、逃げ切りを容認されるような組み合わせとは言い難かった。

最終的にはそこからアントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)ドリアン・ゴドン(AG2Rシトロエン・チーム)の2人が抜け出して先頭を突き進むものの、最後の超級ポルテ峠に差し掛かった時点でメイン集団とのタイム差は4分。

逃げ切るにはあまりにも厳しい状況であった。

 

この日はUAEチーム・エミレーツが、これまでにないくらいチーム力を発揮してポガチャルのための走りを敢行していた。

ポルテ峠に突入した時点でアシストが3枚。残り14㎞地点でダヴィデ・フォルモロが仕事を終えて脱落するが、まだ先頭にはブランドン・マクナルティラファウ・マイカが残っている。

登坂距離16㎞という長さで平均勾配8.7%。一部に厳しい区間があるのではなく、常に8%以上の勾配が延々と続く非常に厳しいこの最後の登りで、マクナルティの牽きによって世界王者ジュリアン・アラフィリップワウト・ファンアールトなども落ちていく。

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残り12.3㎞でマクナルティも仕事を終え、ポガチャルのアシストはマイカだけに。

そのマイカがさらにペースを上げて集団を牽いていく。これでイネオス・グレナディアーズのゲラント・トーマスが脱落し、総合4位リチャル・カラパスのアシストはヨナタン・カストロビエホだけに。

そのカストロビエホが一瞬前に出て主導権を奪おうとするが、これもすぐさまマイカに奪い返されるほどに、この日のUAEは積極的かつ強かった。

 

そして残り8.4㎞。

ついにマイカが仕事を終えるとともに、ポガチャルが満を持してアタック。

これについていけたのはリゴベルト・ウランヨナス・ヴィンゲゴーリチャル・カラパスベン・オコーナーといった総合2位~5位の面々のみ。

単独で逃げていたペレスはあっという間に抜き去られてしまった。

 

さらに残り7.5㎞。

ここで総合2位のリゴベルト・ウランが遅れる。ここまで実力以上の成績を出していたと思われていたオコーナーがなおも食らいついていく。

 

そして残り7㎞。

ここで再びポガチャルがペースを上げると、さすがにオコーナーも千切れ、先頭はポガチャル、ヴィンゲゴー、カラパスの今大会の真の実力者たる「3強」が残る形に。

ポガチャルの前を牽けというサインにヴィンゲゴーは反応し、積極的に前を牽く。一方、カラパスは終始苦しそうな表情を見せ、先頭交代を拒否。

 

残り5.3㎞。

みたびポガチャルがペースを上げるが、ヴィンゲゴーもカラパスもしっかりと食らいついてくる。

この先頭3名を単独で追いかけるのが総合11位のダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)

ウラン、オコーナーなどはその後ろを走っている。

 

ひたすらシッティングで先頭を突き進むポガチャル。ダンシングでこれを追いかけ、ときに前に出るヴィンゲゴー。ポガチャルも彼を警戒し止まってしまうかのようなペースダウンをしたり、ヴィンゲゴーのサインも無視して前に出ないようにするなど。

そしてカラパスは終始その2人の後ろで先頭交代を拒否し続けた。

 

残り2.2㎞。

ポガチャルがさらにペースアップ。振り切れない。

残り2.1㎞。さらにペースアップ。だが、振り切れない。

ヴィンゲゴーは後ろのカラパスを見るが前に出ない。

単独追走のゴデュは50秒差。ウランたちは1分5秒差。

 

残り1.4㎞。

ここでついにカラパスがアタック。

ポガチャルはすぐさまついていくが、ヴィンゲゴーがここで離れた。

 

カラパスは全力の加速。ポガチャルは振り切れないが、カラパスはもうポガチャルのことは眼中にない。その後方に見えるヴィンゲゴーにすべての意識を向けている。

だが、ヴィンゲゴーも、一度は遅れたものの、その後はペースを維持してじわりじわりと近づいていく。

そして残り200mでついにヴィンゲゴーが先頭2人に追い付き、カラパスの前に出る。

そこから、ポガチャルがスプリントを開始。

後方2人を振り払い、今大会第5ステージのTTに続く2勝目を飾った。

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最後の最後まで圧倒的な余裕と強さを見せつけたタデイ・ポガチャル。

今年はライバルたちの脱落などもあったが、ここでしっかりと、「最強」であることを証明して見せた。

そして、いよいよ、今大会最後の山岳ステージへと向かっていく。

 

 

第18ステージ  ポー~リュス・アルディダン 129.7km(山岳)

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今大会最後の山岳ステージは、前日以上にシンプルな構成。前半は平坦。そして最後に、2つの超級山岳が雑に置かれている。

しかしそれはピレネーを代表する超級トゥールマレー峠と、10年ぶりの登場となる超級リュス・アルディダン峠。

2つの超級山岳を舞台に、最後の山岳バトルが繰り広げられる。

 

マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)などを含む5名の逃げ集団が最初に生まれ、その後ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)ピエール・ラトゥール(チーム・トタルエナジーズ)なども合流。

最終的にはトゥールマレーを越えた先でゴデュが単独で逃げ続ける形となったが、これもリュス・アルディダンに突入しフィニッシュまで10㎞を切ったところでメイン集団に吸収された。

そしてメイン集団では、最初のトゥールマレーで総合4位リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO)が早くも脱落。今大会、総合2位を長く維持してきていた彼だったが、この第3週で大きく崩れ落ちることとなってしまった。

 

そしていよいよ、最後の超級山岳リュス・アルディダン。

登坂距離13.3km、平均勾配7.4%。

前日のポルテ峠ほどではないものの、それでも一定の急勾配が続く、厳しい山頂フィニッシュである。

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最初にこの登りでペースを上げたのは、トゥールマレーでは大人しい様子を見せていたイネオス・グレナディアーズ。

とくに、ここまで「思う通りの走りができずにいた」という昨年ジロ覇者テイオ・ゲイガンハートが、ここにきて最大限の力を発揮。

サングラスを外し、今にも限界に至ろうとするようなギリギリの表情で先頭を牽引し、カラパスにとってライバルとなるウランとのタイムを開くために、全力を尽くした。

続くミハウ・クフィアトコフスキもペースを上げ、集団の数は一気に絞り込まれていくが、彼の牽引が終了すると一旦、集団のペースがダウン。

すると、ここで残っていたラファウ・マイカが牽引開始。

前日のポルテ峠でも集団先頭を牽引し続けていたポガチャルの筆頭アシストが、残り5.4kmから3.3kmまでハイペースを刻み続け、これでゴデュ、ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)も落ちていく。

そのマイカが仕事を終えると同時にアタックしたポガチャル。

山岳アシストが限界まで集団を牽き伸ばしライバルたちの動きを封じ込めたうえで、その長い集団の先頭からエースを放つ――という、実に王者を支えるチームらしい、完璧な動きをしてみせたマイカ、そしてUAEチーム・エミレーツ。

彼らの「進化」もまた、今大会の一つの注目ポイントであった。

 

だが、第1週アルプスと違い、アタックによってライバルたちを完全に突き放せないことも、この第3週のポガチャルの特徴でもあった。

ポガチャルのアタックにリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)エンリク・マス(モビスター・チーム)がついていく。

先頭はクスが牽引する。カラパスのアタックを封じ込め、彼がヴィンゲゴーを逆転しようとすることのないように。

 

残り1㎞。マスが右サイドから加速。クスがこのタイミングで落ちる。

先頭はポガチャル、カラパス、ヴィンゲゴー、マスの4名だけ。

残り750m。マスが再び、今度は左サイドからアタック。

一瞬牽制状態に陥った残り3名だが、そこで迷わず飛び出したのが結局は、マイヨ・ジョーヌだった。

一気に加速し、マスを捕らえ、そしてこれを追い抜いた。

そしてヴィンゲゴーを従えたカラパスも懸命にペダルを回しこれを追いかけるが――一度開いたギャップは、もう埋めようがなかった。

 

最後は余裕のフィニッシュ。

今大会「最強」の男は、最後までどこか底を見せないような走りで危なげなく2度目の王者に君臨した。

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これで、総合首位ポガチャルと総合2位ヴィンゲゴーとのタイム差は5分45秒。

総合争いの舞台が第20ステージの個人TTのみとなった今、この逆転の可能性は限りなく0となった。

序盤に大きくタイムを稼ぎ、それを守り続けたという意味で、今年のポガチャルの走りは2010年代のクリス・フルームを彷彿とさせる走りであった。

ただ、守るだけで終わるにあらず。最後にこの超級山頂フィニッシュ2連戦で共に勝利するという、実にアグレッシブな勝ち方を演出したことに、この男の無限の可能性を感じさせることとなった。

 

このまま「5勝」も果たしてしまうのか。あるいはそれ以上に・・・?

 

 

第19ステージ ムランクス〜リブールヌ 207km(平坦)

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ピレネーの激戦を終え、プロトンはいよいよ最終決戦の舞台、ボルドーに向けて北上していく。

最後の移動ステージであり、そしてシャンゼリゼ前最後の平坦ステージ。

当然、「伝説超え」を狙うマーク・カヴェンディッシュにとっては重要なステージとなる、はずだったのだが・・・。

 

54.1㎞地点の中間スプリントポイントまでは6名の逃げが許されただけの至って一般的な平坦スプリントステージらしい展開が続いていたが、このスプリントポイントを越えた瞬間に強力なアタッカーたちが活動を開始。

20名近い追走集団が形成され、これを逃がすわけにはいかないメイン集団もしばらくは本気の追走態勢でペースを上げていくが、やがて先頭6名と合流し総勢20名に膨れ上がった新たな先頭集団に対し、残り82㎞地点でタイム差が2分半に開いたところで、メイン集団もついに追走を諦めるに至った。

 

勝負権が先頭20名に絞られたのち、残り50㎞を切ってからこの先頭集団でアタックが散発的に行われていく。

そんな中、ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)がペースを上げて集団の先頭縦に引き伸ばした末に、残り25.5㎞地点でマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)がするすると抜け出した。

限界を迎えつつあったライバルたちはこれに反応できず、残り25㎞ゲートを単独で先頭通過したモホリッチは、そのまま追走集団に対してのギャップを着実に開いていく。

 

ここまでくれば、この逃げスペシャリストを止められるものはいない。

今大会、第7ステージに続く2勝目。ジロ・デ・イタリアで悲劇的な落車に見舞われ、チームとしても直近、突然のフランス警察による捜索を受けるなど、逆風も吹いていた。

それらをすべて「黙らせる」勝利。

スロベニアの若き才能が活躍する今ツールで、スロベニア新王者が大いなる2勝目を叩き出した。

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総合勢による動きはもちろんなし。

総合争いの最終決戦は、翌日のボルドー個人タイムトライアルに持ち込まれた。

 

 

第20ステージ  リブルヌ~サン=テミリオン 30.8km(個人TT)

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ツール・ド・フランス2021歳種総合決戦の舞台は、ボルドーの葡萄畑に囲まれた30㎞超の中長距離個人タイムトライアル。

葡萄畑特有の丘陵レイアウト・・・というわけではなく、その合間を縫う形で作られた、比較的平坦なレイアウト。とりわけテクニカルなコーナーなども少なく、純粋なTTスペシャリスト向けと思われた。

34番出走のシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)が、さすがの好タイムを記録し、それまでの暫定首位だったドリス・デヴェナインス(ドゥクーニンク・クイックステップ)を更新。

1時間以上にわたり破られなかったこの記録を上回ったのが、74番出走のカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)だった。

デンマークTTチャンピオンジャージを身に纏うアスグリーンは、最終的にビッセガーを23.4秒上回り暫定首位に。第5ステージの個人TTで区間2位、ヨーロッパTT王者のシュテファン・キュング(グルパマFDJ)は第1・第2計測区間ではこのアスグリーンを上回ったものの、後半にかけてペースを上げていたアスグリーンのタイムを最終的には17秒も下回る結果に。アスグリーンはホットシートを守ることに成功した。

だが、これをさらに上回ったのが、第11ステージのモン・ヴァントゥで勝利している謎脚質のワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)

2年前のツールの個人タイムトライアルで大怪我を負い、自転車生命の危機すら感じさせていた男が、この日は第1・第2計測地点ともに暫定トップのキュングを大きく上回るタイムで通過。

後半にかけてもそのタイムは衰えず、最終的にはアスグリーンの成績を21秒更新。

文句なしのトップタイムで、この日の優勝を決めた。

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そして総合勢による戦い。総合9位ペリョ・ビルバオに対して1分2秒差の総合8位ギヨーム・マルタン、同じく総合5位ウィルコ・ケルデルマンに対して32秒差の総合4位ベン・オコーナーなどが逆転の危険性があったものの、それぞれ31秒差・11秒差にまで迫られながらも、それぞれの順位を守ることに成功。

一方、総合2位ヨナス・ヴィンゲゴーはポガチャルとのタイム差を少しでも詰めるべく全力走行。最終的にはあのキュングすらも6秒上回り、ステージ3位に入る好成績を残した。

ただ、5分の壁を崩すのはもちろん不可能。第5ステージでは優勝しているポガチャルもさすがにこの日は安全に走ることを最優先し、最数滴にはヴィンゲゴーに25秒を奪われるものの、それでもステージ8位でフィニッシュし、危なげなくマイヨ・ジョーヌを守り切った。

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総合20位以内のすべてのライダーの順位の入れ替わりが起こらない「無風の総合争い」となったこの第20ステージ個人TT。

これにて、総合争いは決着。

あとは、最終日シャンゼリゼにおける、マーク・カヴェンディッシュの「伝説超え」の瞬間に注目が集まることとなった。

 

 

第21ステージ シャトゥ〜パリ・シャンゼリゼ 108.4km(平坦)

f:id:SuzuTamaki:20210612151758j:plain毎年恒例のパリ・シャンゼリゼ。

総合勢や各賞ジャージ保持者にとってはパレードの1日であると同時に、世界のトップスプリンターたちにとっては、1年を通して最も名誉ある瞬間ともいえる「スプリンターたちの世界選手権」。

とくにマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)にとっては、ツール通算35勝という、前人未到の領域に到達しうるかどうかが決まる重要な一戦であった。

 

散発的に巻き起こる逃げはすべてコントロール下に置かれ、問題なく集団スプリントに向けて体制を整えつつあったプロトン。最終周回に向けて緊張感が高まりつつあるプロトンを、世界王者ジュリアン・アラフィリップが先頭牽引してしっかりと抑えていく、そんな状況のまま最終周回を迎えることとなる。

ドゥクーニンク・クイックステップの完璧な体制。

そんな風に思っていたが、この最終周回に突入した瞬間に、ミハウ・クフィアトコフスキがゲラント・トーマスを引き連れて加速。

集団が一気に縦に引き伸ばされる。トーマスの後ろにドゥクーニンクの選手は1人だけ。カウンターで逆サイドからニルス・ポリッツが加速をしていくと、マーク・カヴェンディッシュはかなり番手を下げることとなってしまった。

最後の凱旋門周回を終え、シャンゼリゼ通りを逆方向に下っていく中で、ダヴィデ・バッレリーニとミケル・モルコフに率いられながら少しずつ番手を前に戻していくカヴェンディッシュ。

アラフィリップが再び先頭に陣取り、崩れかけていた体制を元通りに。ワウト・ファンアールトもマイク・テウニッセンに守られながら、先頭付近の真ん中あたりに身を置いている。

残り3㎞でカヴェンディッシュの前にはアシストが4枚。

盤石か?

 

残り2.6㎞でテウニッセンがファンアールトを率いて先頭に。

さらに左からコフィディス、バイク・エクスチェンジ、EFエデュケーション・NIPPOを中心とした新ラインが形成され、ドゥクーニンクは沈んでしまう。

残り1.4㎞。アスグリーンが再び先頭を奪う。だが、ワウトが先頭から5番手、マシューズがその後ろについているのに対し、カヴェンディッシュはそこからさらに2列ほど後方。

その目の前には「守護神」ミケル・モルコフの姿があり、しっかりとカヴェンディッシュを引き連れて加速していく。

しっかりとカヴェンディッシュをファンアールトの隣にまで引き上げるモルコフ。

だが、このことは、本来他のライバルたちをぶち抜く勢いでカヴェンディッシュをゴール前に運び上げる役割を担っているはずのモルコフが、ここで足を失う結果となってしまった。

 

最終コーナーを越え、最後は700mの直線。

カヴェンディッシュはファンアールトの背後につける。だが、もう、モルコフの姿はない!

残り450m。テウニッセンがファンアールトのための最後の加速を開始する。

 

残り200m。テウニッセンが外れ、ファンアールトがスプリントを開始。

カヴェンディッシュはその背後。右隣にジャスパー・フィリプセン。

カヴェンディッシュは一度ファンアールトの左側から抜け出そうとするが――狭い。足を止める。

右からはフィリプセンが加速し、ファンアールトに並びかけようとする。

だが、ファンアールトの勢いは止まらなかった。

 

そのまま、先頭通過。

全スプリンターにとっての最高の栄誉の舞台を、2年前のツールで初日勝利しマイヨ・ジョーヌを手に入れたマイク・テウニッセンの万全のアシストを受けて、今大会モン・ヴァントゥと個人TTで勝利している男が、まさかのシャンゼリゼ制覇を掴み取った。

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最後の最後までドラマチックな展開の続いた今年のツール・ド・フランス。

「伝説超え」ならず、悔しそうにハンドルを叩いていたカヴェンディッシュも、直後、すぐさまマイケル・マシューズと互いの健闘を讃え合う姿も。

それぞれがそれぞれのドラマを描きながら、今年も3週間の激戦が幕を閉じた。

 

 

 

タデイ・ポガチャル、総合2連勝。

ツール初出場、戦後最年少でツールの頂点を大逆転劇の末に掴み取った男が、王者に相応しい走りでもって2勝目を掴み取った。

このままどこまでその記録を伸ばしていくのか。底知れぬ才能の行きつく果ては。

 

そしてまた、こちらも驚くべき走りを見せてくれた、ツール初出場の24歳、ヨナス・ヴィンゲゴー。

エース、プリモシュ・ログリッチが去った後に手に入れたチャンスを最大限に生かし、こちらも将来を感じさせる総合2位という成績を記録に残した。

来年は母国デンマークでのグランデパール。ログリッチとの立ち位置は気になるところだが、「ダブルエース」として王者ポガチャルを脅かす活躍に期待したい。

総合3位はリチャル・カラパス。昨年イネオス入りした「外様」ながら、ブエルタ・ア・エスパーニャではログリッチにあと一歩まで迫る総合2位を記録していた男が、今大会も安定した強さを見せつけて、イネオスのクアドラブルエース体制の頂点に立った。

今後もツールでの単独筆頭エースというのは難しいかもしれないが、常に可能性を見せる走りに期待していきたい。

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そして、まさかのマイヨ・ヴェール、マーク・カヴェンディッシュ。

「伝説超え」が実現されなかったのは残念ではあるが、それでも、5年前4勝したときですら難しいのではないかと思われていた34勝目まで登り詰めた奇跡のような復活劇は多くの感動を巻き起こした。

2年前のツールの「もう一人の主役」がジュリアン・アラフィリップだったように、今大会、総合優勝者とは別の「もう一人の主役」は、間違いなくこの男だっただろう。

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来年、再び記録へと挑戦するのか?

 

もはや不可能は何もないことを証明してくれたカヴェンディッシュの、次なる挑戦に期待していきたい。

 

 

 

かくして、今年のツールも終わりを迎えた。

多くの有力選手がリタイアし、決して理想的でない部分もあったが、それでもやはり今年も多くの感動と驚きに満ちた3週間であった。

 

来年もまた、きっと予想のつかないドラマが待っている。

 

 

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