りんぐすらいど

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【ブエルタ2019】アスタナ・プロチーム出場全選手プレビュー

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略号:AST

国籍:カザフスタン

GM:アレクサンドル・ヴィノクロフ

創設年:2007年

使用機材:アルゴン18

 

ユンボ・ヴィズマの最強布陣に負けじと、アスタナもまた、最強のステージレーサーたちをかき集めた布陣で、ブエルタに乗り込んでくる。

リーダーは昨年総合3位のミゲルアンヘル・ロペス。そこにクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝のヤコブ・フルサング、イツリア・バスクカントリー総合優勝のヨン・イサギレ、ツール・ド・ラ・プロヴァンス総合優勝のゴルカ・イサギレ、ブエルタ・ア・ムルシア総合優勝のルイスレオン・サンチェスなどが揃っている。

そして山岳アシストには、今年ジロでも1勝しているベテランクライマーのダリオ・カタルドと、2015年・2016年のブエルタ山岳賞オマール・フライレという強力なラインナップ。平坦アシストと純粋に言えそうなのがマヌエーレ・ボアーロだけというのはやや不安要素だが、とにかくアスタナの持っている強力な選手をすべて突っ込んできた、という印象。エースになれる選手の数としては全チーム最多かもしれない。

ただ、エースとアシストの役割分担が明確で、バランスの良さを感じるユンボ・ヴィズマと比べて、やや力任せというか、強い選手を並べただけという印象を感じなくもない。

それでも、同じようにエース級の選手たちを並べながら、アンダルシアもバスクカントリーも、エース同士のコンビネーションがきっちりと発揮されて優勝を掴み取っている。

今回も不安は杞憂に終わるか。今年間違いなく調子の良いこのチームが、今年最後のグランツールできっちりと結果を出してくれることを期待する。

 

 

※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。 

※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。

 

 

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ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、25歳)

クライマー、170㎝、65kg、出場日数:50日

Embed from Getty Images

昨年のジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャの両方で総合3位。今年もツアー・コロンビアとボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで総合優勝。今や押しも押されもせぬこのチームのエースである。

今年のジロは満足のいく結果ではなかった。2年連続で新人賞は取れたものの、総合順位は7位。とくに個人タイムトライアルでのロスは非常に大きく、それだけで総合順位を3つくらい落としている。

個人タイムトライアルの総距離が60㎞もあったジロに比べて、今回のブエルタは36㎞の1ステージのみ。さらにロペスとも相性の良いスペインの厳しい山岳地帯ばかりということで、十分総合優勝候補ではある。

あとは、フルサングら、最強すぎるアシストたちとのコンビネーションをいかに発揮できるか。あとは、ジロ第20ステージで見舞われたような不運に遭わなければ・・・それでも殴っちゃダメよ。冷静に、冷静に。

 

 

ヤコブ・フルサング(デンマーク、34歳)

オールラウンダー、182㎝、68kg、出場日数:49日

Embed from Getty Images

今年は彼史上最高に調子の良い年だった。年初のブエルタ・アンダルシアで総合優勝、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、イツリア・バスクカントリー総合4位、ストラーデビアンケにアルデンヌクラシックはすべて表彰台。リエージュでは優勝すら手に入れた。

そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝。それ自体は2年前にも果たしているが、そのとき以上に、自信を持てる勝ち方だった。

かなり多くの人が、ベルナルやトーマスと並んで、ツールの総合優勝候補にその名を挙げていた。その成績に相応しい走りを、シーズンを通して見せていた。

だが、残酷なツールの悪魔は、2年前同様に彼に不運をもたらした。初日いきなりの落車。そして、第3週目の初日、なんでもない平坦ステージだったはずのその日に、彼は激しく落車して身体を打ち付けた。

その時の彼の表情はあまりにも切なかった。呆然として、身体の痛み以上に、心が折れているような印象を受けた。

だが、そんな彼が再びグランツールの地に戻ってきてくれた。今度は、より若きチームのエースを助けるために。

ダブルエースとしての適切な戦い方は、バスクでやってみせている。ロペスにとってこれほどまでに心強い存在はいまい。

彼のアシストを受けて、このチームは4年ぶりのブエルタ総合優勝を目指す。

 

 

ルイスレオン・サンチェス(スペイン、36歳)

クライマー、187㎝、74㎏、出場日数:70日

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言うなれば遊撃隊。不意をついたアタック、逃げ、そこからの前待ちで、かつてブエルタの王を生み出す手助けもした。

そんな彼も、ツール・ド・フランスを半ばで立ち去らざるを得なかった男の1人だ。まるで、前日に悔しさと共に離脱したエースの後を追うように。

そして、じっくりと休息を取った彼は、そのときのエースと共に再び、新たなエースに尽くすために戻ってきた。

もう1度、ブエルタの王を生み出すために。 

 

 

ヨン・イサギレ(スペイン、30歳)

オールラウンダー、173㎝、60㎏、出場日数:55日

Embed from Getty Images

次期エースとして育てられつつも、上にはまだ沢山のエースがいたモビスター・チームを離れ、エース待遇を得られるバーレーン・メリダでの活躍を意気込んだものの思ったように結果が出せず、そして彼は、 次の舞台としてこのアスタナを選んだ。

ここにもモビスターのときのように、沢山のエースがいる。その中で、彼が自らをエースであると主張するためには、結果を出すしかなかった。

しかし、彼は結果を出した。自らの故郷バスク最大のステージレースで、栄冠を手に入れた。ヤコブ・フルサングという、チームNo.2のエースのアシストを受けながら。2月に彼を勝たせたアンダルシアのお返しであるかのように。

だから彼は、エースとしての実力を持ちながらも自分ではないエースのために尽くすというやり方をよく知っている。アスタナが今年最強たる所以のその走り方を身をもって理解している。

ジロ・デ・イタリアではイマイチ力を発揮しきれなかったことへのリベンジも必要だ。

 

 

ゴルカ・イサギレ(スペイン、32歳)

パンチャー、176㎝、66.5㎏、出場日数:55日

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弟の後を追って1年遅れでバーレーン・メリダに加入し、その後弟と共に今年からアスタナ入り。TTと下りが得意な弟とはまたちょっと違った脚質で、どっちかっていうと起伏や激坂に強いアルデンヌ系パンチャータイプ。直近のクラシカ・サンセバスティアンでも4位と好成績を記録している。

もちろんそれだけでなく、山岳アシストとしての能力も非常に長けている。アルデンヌ・クラシックではフルサングの連続表彰台を支え続けたし、イツリア・バスクカントリーではクイーンステージで、弟に16年ぶりのバスク人総合優勝の栄誉をもたらすための全力の牽引ぶりで、総合リーダーのシャフマンを振るい落とした。

エース級がひしめきあう今回のアスタナのメンバーの中で、実は最も最強の山岳アシストが彼かもしれない。

その優し気な表情とは裏腹に、その両肩には大きな責任が載せられている。

 

 

ダリオ・カタルド(イタリア、34歳)

クライマー、175㎝、64㎏、出場日数:52日

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2007年にリクイガスでプロデビュー。そこから13年間、ジロ・ブエルタを中心に19回のグランツールを経験。そのほとんどをアシストで過ごしつつ、今年のジロ・デ・イタリアで、ついに念願の母国グランツールでの勝利を達成した。

また新たなステージに立つことのできたベテランは来期、ライバルチームへの移籍を決めている。かといって、彼が果たすべき役割が変わるわけではない。最後に5年間在籍したチームへの恩返しとして、2015年と同様にブエルタ覇者を生み出す手助けをしたい。

なお、ブエルタでのステージ優勝経験もある。トーマス・デヘントを振り払い、超級山岳山頂フィニッシュを制している。その年のデヘントは、ジロ・デ・イタリアで総合3位にまで上り詰めているイケイケのときである。

ジロに続く奇跡を起こせるか?

 

 

オマール・フライレ(スペイン、29歳)

クライマー、184㎝、69㎏、出場日数:56日

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カハルーラルに所属していた2015年、そしてディメンションデータに移籍した2016年にブエルタの山岳賞を獲得。その武器は登坂力と、山岳ポイント直前に発揮するスプリント力であった。

そしてアスタナに移籍の後は、山岳アシストとして急成長。2年連続でツール・ド・フランスにも出場し、ステージ優勝も挙げている。

7月末に早くも2年の契約延長が決まっていて、チームからの信頼も厚い。エース級ばかりが揃う今回のメンバーの中では、その存在が光ること間違いなし。

 

 

マヌエーレ・ボアーロ(イタリア、32歳)

クライマー、184㎝、69㎏、出場日数:56日

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ダウンアンダーでメットの後ろにコアラつけている人。彼自身もコアラっぽい顔をしている。そんなことするくらいだし笑顔も眩しいのできっとチームのムードメーカー。実際、3週間の厳しい戦いを繰り広げるグランツールでは、ムードメーカーの存在って結構大きい。

そして、レース中においても彼は唯一無二の役割を演じる。すなわち、平坦アシストである。ほかに平坦でアシストできる選手なんて・・・ギリギリでイサギレ兄弟? カタルド? うーん・・・。

ということで平坦でチームを牽引する役割は一手に引き受けることになるだろう。ユンボも平坦アシストは少ないがあっちはマルティンが1人で3人分の役割を果たすので、比べてはいけない。

チームがマイヨ・ロホを手に入れたとき、心から笑えないのは彼なんではないだろうか。

なお、彼も平坦専門ではなく山岳も普通にこなせる。ジロでも第12・19ステージで逃げて第19ステージでは区間8位に入っていたりする。

まあ、今回は逃げられるような余裕は彼にはないかもしれないけれど・・・。 

 

 

総評

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ユンボ・ヴィズマと並び、エース、山岳アシストともに豪華な面子。その分、マルティンがいるかいないかで平坦アシストの質に差が出てしまう。

「前待ち」という意味では山岳逃げは積極的に生まれるかもしれない。このチームは4年前のブエルタで、まさにその方法で勝ちをつかみ取ったのだから。とくにルイスレオン・サンチェスは怖い。

ただ、そのまま勝利を狙うという意味では・・・フライレやカタルドが直近でも経験はあるが、今回はもっと総合にガチっと固めてきそうなので、果たしてどうなるか。

 

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