りんぐすらいど

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「僕たちは今でも強いチームだけど、正しい瞬間に強くあらねばならない」――オリバー・ナーセンの兄弟愛と、彼がチームに求めるもの

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2020年シーズンにチームメートとなることが決まっているオリバー・ナーセンとローレンス・ナーセンの兄弟。

フレンチアルプスで行われているAG2Rのチームビルディングキャンプにて、CyclingNewsが敢行したインタビューを翻訳していく。

www.cyclingnews.com

 

本当に仲が良いことが文面からも伝わってくるこの兄弟。

その青年時代、プロになってから、そしてこれからの未来へ――レースから離れた話題も多いが、普段は見ることのできない一面も覗ける実に面白いインタビューだった。

オリバーが今のチームにクラシックで求めるあるべき姿というのもちらっと出ていて・・・その点においても実に興味深い内容である。

 

※独特な表現も多く多分に意訳を含んでいます。より適切な翻訳やアドバイスがあればぜひコメントしていただけると幸いです。

 

 

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青年時代、プロになってから、同じチームへ

 

ーーナーセン家で育つというのはどういう感じでしたか?

 

オリバー・ナーセン:普通の青年時代を過ごしていたよ。僕たちはいつも勝負していた。スケートボードとか、BMXとか、そういった趣味の類をほとんどなんでも一緒にやった。同じ学校に行って、似たような友人を持ち、まるで親友同士のような兄弟だったけど、僕たちは本当にたくさんの勝負をした。

 

ーーそのときは大体どちらが勝ってましたか?

 

僕だよ。彼が僕より大きくなるまではね。それからはもう勝負しなくなったからわからないけど。

 

ローレンス・ナーセン:正確には、僕が一度彼を負かしたときまではね。それが最後の勝負だった。

 

それは言わないでいてほしかったな。

 

ーー最初に自転車を始めたのはどちらですか?

 

僕だね。16か7の頃だった。普通よりちょっと遅いくらいかな。でも彼の方は、たしか21歳のときだっけ?

 

うん。大学で教師になるための勉強をしていたときだった。授業のあと暇になることがよくあって、何かスポーツの類をしたいなって思っていたときに、オリーがいくつかのレースで勝ち始めているのを見たんだ。「僕も同じことをしよう」って。

 

彼は負けず嫌いだからね。

 

ーーナーセン家は自転車一家だったんですか?

 

いや、たしかに父はスポーツが好きでいつも自転車に乗ってはいたけれど、ベルギー人としては普通くらいだったね。

 

僕たちの街にはツーリストクラブのような自転車クラブがあって、父はよく僕たちをそこに連れて行ってくれた。でもそれくらいかな。

 

ーー子どもの頃、TVで自転車を見たことは?

 

彼が12歳で、僕が14歳の頃からかな。僕はTVでレースをやっていれば絶対に見てたけれど、彼の方はそうでもなかった。

 

僕がTVでレースを見始めたのは大学生の最後の年からかな。コンタドールとシュレクのバトルを覚えてるよ。それはとても面白かった。

 

彼は結構単純なところがあるんだよね。

 

ーー2人とも、自転車に触れたのは結構遅い時期なのにも関わらず、そこからプロ選手として活躍し始めるまでが早いですよね。

 

確かにね。

 

とくに彼は本当に早いと思う。僕の場合は、U23のあとプロにはなれず2年間アマチュアチームのままだった。だからちょっと遅い方だと思う。それが彼の場合は・・・

 

僕はU23の最後から2年目の年から自転車を始めて、最後の年には勝ち始めていた。僕もアマチュアチームに2年いたけれど、自転車を始めて4年でプロになった。たしかに早いとは思うよ。

 

ーー自転車の前には何かスポーツはしてましたか?

 

陸上はしてたけど、16歳までだね。そこから自転車を始めるまではとくに何もしてなかった。

 

BMX・・・

 

ただの遊びだよ。本気でやってたわけではなく、ちょっと屋外でジャンプしていたくらい。

 

家の裏に小さな森があって、彼はそこでジャンプとか色々やってたんだ。

 

ショベルと自転車をもって外に出て、シューっとね。良い時間だったな。

 

僕も1回だけやってみたけれど骨を折ってね。僕には向いてなかった。

 

ーーロードバイクにもよく一緒に乗っていたんですか?

 

彼が乗り始める頃には僕はもうプロだったし、最初の頃はあまり一緒には走ってなかったな。

 

最初の2年は1人でトレーニングしていた。毎日数時間だけね。

 

数時間?  2時間くらいでしょ。

 

そうだね。毎日、2時間、自分一人で。

 

彼が大学を卒業したあとは、一緒に乗る機会も増えた。彼はコンチネンタルチームにいて、僕はトップスポート*1にいたので、いくつかのレースでは一緒に走った。彼がプロになってからは、より多くのレースで一緒に走ることになったね。

 

ーー今はトレーニングも一緒なんですか?

 

そう。グレッグ*2やみんなと同じグループで。

 

ーーだから2人とも同じ地域に住んでるんですか?

 

僕が数年前に引っ越したので、今僕らは近くに住んでいる。まあ彼はこれからアルデンヌのガールフレンドのところに住もうとしてるみたいだけどね。

 

いや戻ってくるつもりはあるよ・・・すぐ近くにアパートメントを建ててるけどまだ準備できていないんだ。

 

ーーそして同じチームに・・・

 

素敵だよね。彼がプロになったときから、「いつか同じチームになったらいいね」と言い合っていたんだ。彼はロットに行って、「多分ロットで一緒になるんじゃないか」と言ってたし、僕もAG2Rに行ったときに「きっとAG2Rで一緒だよ」と言っていた。何が起こるかわからない。

 

ーーローレンス、その選択は簡単なものでしたか?  ほかに選択肢はありました?

 

シーズンのごく早い時期に僕はサインした。ほかのどのチームともそういう話はしなかった。僕はここに来ることができて本当に嬉しかったんだ。何しろ、兄と同じチームに入ることは僕の大きな人生の目標の1つだったからね。

 

ーーあなたたちの勝負はもうなさそうですか?

 

多分またやるんじゃないかな。チームが僕らを同じレースで走らせたら・・・

 

でも僕はそれはあまり望ましいことだとは思わない。僕は彼に、僕の弟として同じチームにいることを望んではいない。そういう風に彼に思ってもほしくない。

彼は僕とはまったく違った選手だ。僕は彼がツール・ド・フランスのようなレースを走る選手ではないと思っているし、一年中同じレースを走るべきではない。

彼は彼自身の走りをするべきだし、チームに対しての彼なりの意味を見つけてほしい。 

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オリバーが弟に、そしてチームに求めるもの

 

ーーあなたはローレンスがこのチームに来ることにどんなメリットがあると感じていますか?

 

僕たちには本当に純粋なスプリンターがいなくてね。もし彼が来れば、それは僕たちにとってもメリットがあるし、彼にとってもチャンスが大きいだろう。

集団スプリントで終わるレースはとてもたくさんある。このチームでなら、集団スプリントで5位以内に入れれば、それは大きな成果となる。ロットで5位だと・・・あのチームにはそれができる選手はいくらでもいるからね。

だから彼にとってこのチームで走ることは、自分自身を成長させる大きなチャンスとなる。それにクラシックにおいても、ニコやバグド*3が去った今、彼はその穴を埋める存在となれるだろう。肉体的にはローレンスは彼らより才能を持っているようにも思える。

だから、このチームのクラシック班はよりレベルアップすると思っている。

 

ーーAG2Rのクラシック班は、あなたが加入してから進化し続けてますよね。

 

年々良くなっていると思う。来年はその選抜もより厳しくなるかもしれない。

 

ーーローレンスにはどういう役割が求められますか?

 

必要なことは、出来る限り長く生き残ること。最後の最後で働くことが、クラシックではより重要になってくる。

たとえば、スティン*4はレースの最初の3時間は自分の近くにいないことがよくある。でも彼は最後の重要なタイミングで近くにいてくれる。それがより重要なんだ。

チームメートが常に集団を引っ張ったり逃げを追いかけ続ける必要はない。できるだけ長く生き残り、僕が最後の25名の集団の中でひとりぼっちにならないことがより重要なんだ。

生き残り、集団の中にいて、正しく強くあること。それが今の僕らには必要なことで、データ上ではよくできていても、実際のアスファルトや石畳の上ではうまく機能していないことなんだ。

僕たちは今でも強いチームだけど、正しい瞬間に強くあらねばならない。

 

ーーローレンス、あなたは兄と共に走ることについてどれだけのモチベーションがありますか?

 

すごく楽しみだよ。これまでティシュ・ベノートやイェンス・クークレールのために働いていたのともまた違って、オリーのために走ることは、もっとずっと自然な感じにできると思っている。

 

そのためにはもっと頑張らないとね。

 

足だけじゃなく口もね。

 

ーーコミュニケーションは問題なさそう・・・

 

そうだね、そう思うよ。一緒にいくつものレースを走ってきたし、沢山会話してきているし、多くのことを彼に伝えてもいる。

僕がチームメートに伝えるようなことは彼にも伝えていた。どこかでエシェロンが作られていることに気づいたら、僕はチームメートにそれを伝え、ローレンスにも伝えた。もちろんそれ以外の選手には伝えない。それで彼に伝えるんだ。「これはお前だけに伝える特別な情報だ」ってね。

 

そして僕は僕のチームメートにはそれを伝えない。約束だからね!

 

ーーレースで敵同士として走るときはどんな感じでした?

 

なんかよく僕を追いかけてきたよね。

 

そうだね。

 

傭兵みたいな。

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ローレンス・ナーセンの未来

 

ーーローレンス、あなたのクラシック以外の目標は何ですか?

 

とにかく何でもいいからレースに勝ちたいね。

 

彼にとって幸いなことに、このチームはクープ・ドゥ・フランス*5を含むフランスのレースをほぼ全て走る。それらのレースはワールドツアーよりは難易度が抑えめで、勝つことの楽しさを味わえるレースたちだ。

ワールドツアーチームの多くが若手選手を獲得している。彼らがジュニアやU23時代にどれほどのレースで勝ったのかは分からないけれど、彼らにとってエリートのキャリアの序盤からすぐ勝つことはなかなか難しい。そうしてるうちに彼らはレースの仕方やレースの運び方のセンスを失っていくんだ。

だからローレンスがダンケルク*6のような小さなレースを走ることは望ましいことだ。

小さなステージレース、クラシックレース、あるいはグランツールにしてもブエルタ・ア・エスパーニャのようなレースで・・・彼が勝つチャンスはいくつもあるだろう。

 

ーー2人の間の主な違いは何でしょう。肉体的なものでしょうか?

 

僕の方が背が高いね。でも多分体重は一緒。彼の方がより筋肉質なんだと思う。僕は背が高いけど小さいんだ。

 

彼はスプリントにおいて少し速い。でも登りでは僕の方がやや上手かな。まあそんなに違いはないとは思う。2人も調子がいい時に同じレースを走れば、彼は僕の近くにいたりするから。

 

ーー性格の面では?

 

そりゃ難しい質問だね!  僕たちは似ているところが沢山ある。2人とも熱心だし社交的だ。違いはあるかな?  彼が自信家だってことくらいかな!

 

いやこの人の方が自信家だよ!

 

まあそうだね、やっぱ似ているかもね。

 

ーーオリー、最後に、あなたの兄弟はどこまで強くなれると思いますか?

 

限界を決めようとしないこと。それは決して簡単なことではないけれど。

まだそんなに沢山のレースを走ってはいないので、進歩の余地はまだまだある。ベルギーのチームでは、1人のコーチに30人の選手がついていることが多く、あまり手厚いサポートを受けられない場合が多い。「バイバイ、また来週、しっかり体作っとけよ」みたいな感じで。でもここではどれだけのコーチがいるかわからないくらいで、ローレンスもここで、今までよりずっと伸びる余地があるはずだ。

どこまで強くなれるか?  どこまでも。僕はすごく期待している。

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*1:トップスポート・フラーンデレン。ベルギーのプロコンチネンタルチーム。現スポートフラーンデレン・バロワーズ。

*2:グレッグ・ファンアーフェルマート。

*3:ニコ・デンツとゲディミナス・バクドナスのこと。いずれも2019年末でチームを去ったクラシック巧者。

*4:スティン・ファンデンベルフ。今年のロンド・ファン・フラーンデレンでも、終盤にセップ・ファンマルクやディラン・ファンバーレと共に抜け出した、AG2Rのオリバー・ナーセンに次ぐ北のクラシックスペシャリスト。

*5:フランス車連が主催するフランスのワンデーレース群。2019年シーズンはグランプリ・ド・ドナンやパリ〜カマンベール、トロ・ブロ・レオンなど15レースが対象となり、総合優勝者はグルパマFDJのマルク・サロー。

*6:ダンケルク4日間レースという北フランスの6日間のステージレース。スプリンターやクラシックスペシャリスト向けのコースレイアウトで、HCクラスながら若手や中堅どころの活躍するレースである。

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