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デルコ・マルセイユプロヴァンスと日本のロードレースの第3の夜明け

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11月7日、日本を代表する自転車ロードレース選手、別府史之(36歳)が、6年間を過ごしたワールドツアーチーム「トレック・セガフレード」を今期限りで退団することを発表した。

もともと2020年末まで契約を残していた彼の、突然の退団発表に、日本の自転車ロードレースファン界隈は騒然とした。

 

 

様々な噂が飛び交った。日本の会社名を冠に据えることになるチームNTT(旧ディメンションデータ)に移籍するんじゃないかという話も。

 

 

そんな中、ある一つのチームにも注目が集まった。

 

デルコ・マルセイユ・プロヴァンス

南フランスを拠点とする元・若手育成チームであり、近年は国際化とフランス系プロコンチネンタルチームの一角として存在感を高めているこのチーム。

このチームは来年、NIPPOとのコラボレーションを行うと発表しており、すでに3名の日本人選手の獲得が決まっている。石上優大岡篤志中根英登

 

ここにもう1名、日本人選手が加わるという話は以前からあった。

それらの情報を集め、まさか・・・とSNSが期待する中、翌11/8、ついに正式発表が行われた。 

 

2020年度UCI ProTeam登録予定のフランスのデルコ・マルセイユ・プロヴァンス(2019年度登録名称)へ移籍します。

デルコ・マルセイユ・プロバンスは来年度、フランス2番目のUCI ProTeamとなることが予想されおり、パリ〜ニースやパリ〜ルーベといったUCI WorldTourカテゴリーのレースの出場権も獲得予定です。

また、このチームの前身はヴェロクラブ・ラポム・マルセイユというフランスアマチュアチームで、フミがアマチュア時代を過ごしたチームでもあります。現在もチームマネージャーを務めているフレデリック・ロスタンとは旧知の仲で、今回の移籍についても、とても歓迎してもらえました。

また、このチームには、すでに日本人選手3名、石上優大、岡篤志、中根英登の加入が発表されています。

2020年度からまた新たなスタートを切ることになります。

改めて応援よろしくお願いします。

2020年 デルコ・マルセイユ・プロヴァンスへ移籍 | Life is Live! | 別府史之 Fumy BEPPU Official Site

 

 

このタイミングでの古巣復帰という選択は、彼が2020年東京オリンピックのメンバーに選ばれるための強い思いを感じさせる。

また同時に、彼の「後進育成」という思いの表れなのかもしれない。

 

 

今回は、デルコ・マルセイユ・プロヴァンスというチームとその新規獲得日本人選手たちの概観、およびこの出来事をスタート地点とし、今後の日本のロードレースシーンがどうあるべきか、について自分なりの考えをまとめてみた。

 

まだまだ歴の浅いにわかファンである自分が、別府や日本のロードレースシーンについて語ることは、彼の熱心なファンや昔から日本とロードレースについて考えてきた人たちへの大きな失礼に値するかもしれないという危惧もある。

もし、私自身の無知・無明で不正確な内容がありましたら、ご指摘を頂けますと幸いです。

 

 

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デルコ・マルセイユ・プロヴァンスについて

デルコ・マルセイユ・プロヴァンスは、1974年に設立されたVCラポムを前身とするフランス籍のプロチームで、2016年からはプロコンチネンタルチームとしてフランスを中心に世界各地のビッグレースにも出場する有力チームの1つである。

過去にはラトビアチャンピオンのトムス・スクインシュ(現トレック・セガフレード)や、今年のブエルタで勝ったアンヘル・マドラソ(現ブルゴスBH)、来年はボーラ・ハンスグローエ入りする2018年ツアー・オブ・ジャパン東京ステージ覇者マルティン・ラースなどが所属していた。

 

そんなマルセイユが、今年、急速に日本への接近を開始している。

その発端は、今年の夏にチーム解散が発表され行き場を失ったNIPPOが、新たなスポンサー先としてこのチームを選んだことである。

cyclist.sanspo.com

 

まだどういう形でのスポンサーシップになるのか、チーム名に反映はされるのか、といったことは未定だが、かつて育成チーム時代に別府史之が所属していたこともあるこのチームと日本のスポンサーとの接近は、新たな時代の始まりを感じさせた。

 

そして10月。日本の次世代を担う若手ライダーの石上優大と岡篤志の2人が、このデルコ・マルセイユ・プロヴァンスに移籍することが発表された。

さらには、これまで出場実績のなかったジャパンカップへの参戦。

果たして、この南仏のチームがいかなる理由で日本に接近しようとしているのか。

 

その謎を解き明かすヒントを、スポーツライターの宮本あさかがわかりやすく解説してくれている。

www.cyclesports.jp

 

来期はチーム名に組み込まれる予定もあるという「ワン・プロヴァンス」。マルセイユ市、ブーシュデュローヌ県、エクサンプロヴァンス市などが力を合わせてプロヴァンス地方の魅力を世界に広げていこうという意図を持った組織で、今年からこの名称を使用しているらしい。

その目的は世界にプロヴァンスのことを知らしめること。そしてその対象の中には日本も入っている・・・ということで、このチームは今、絶賛日本へのアピール中なのである。

また、別府史之以外にも、日本人ライダーや監督たちとの繋がりが昔からあったことも、記事の中で触れている。しかも、石上優大に至っては、所属していたアマチュアチームが、そもそもこのチームと関係の深い育成チームだったという!

 

このチームが日本と関係を深めていくのは必然だったのだ。

NIPPOヴィーニ・ファンティーニが解散してしまうことは悲しいけれど、新たな応援先として、このチームを選んでいくことは決して悪くないだろう。

そしてプロヴァンス行こうか。

 

 

デルコ・マルセイユ・プロヴァンスの日本人選手たち

それでは、来期このチームに加入する日本人選手たちはどういった選手たちなのか。

簡単に紹介していこう。

 

石上優大(神奈川、22歳)

2018年の全日本選手権U23王者。ジュニア時代にも日本代表メンバーとして世界選手権に出場し17位という成績を残している。浅田顕率いる育成チームEQADSを通して、フランスの強豪クラブチーム「AVCエクサンプロヴァンス」に所属。UCIレースとしては日本で開催された2クラスの大分アーバンクラシックで優勝したほか、アジア大陸選手権U23部門で4位、さらにはスペインで開催された1クラスのプルエバ・ビリャフランカ・デ・オルディシアで7位。U23選手としては最高位でのフィニッシュを果たした。

着実に成長しつつある日本若手の最有力選手。今回のこのデルコ・マルセイユ・プロヴァンスにおいて世界トップクラスの舞台で経験を積み、やがてワールドツアーチームにて活躍する日本人となってほしい。

現在、オリンピック代表選考ランキングでは、増田成幸、新城幸也に次ぐ3位。

 

岡篤志(茨城、24歳)

石上同様にEQADSに所属し、フランスで戦ったこともあるが、生活の違いに馴染めずに一時自転車から離れる時期を過ごした。その後、Jエリートツアー時代の弱虫ペダルサイクリングチームで現役復帰し、Jエリートツアーで個人総合優勝を果たし、強豪宇都宮ブリッツェンへと移籍した。

今年はツアー・オブ・ジャパン初日の堺ステージ(2.6㎞のプロローグ)で優勝し、全日本選手権個人TTで2位に入るなど、TT能力の高さを武器とする。今回、デルコ・マルセイユ・プロヴァンス移籍に伴い、かつて挫折した欧州の地へ舞い戻ることに。

 

中根英登(愛知、30歳)

国内のUCIレースで好成績を残し続けてきたクライマー。2017年からはNIPPOヴィーニ・ファンティーニに所属し、ツアー・オブ・ジャパン総合9位やサマー・アジアン・ゲームス5位など。

今年は特に強く、シーズン冒頭のコロンビア・ツアー(1クラス)では、ボブ・ユンゲルスが逃げ切ったステージでミッヘル・ライムやジュリアン・アラフィリップらと並び区間5位に入賞する快挙。その後はイマイチ調子の上がらない期間もあったが、ジャパンカップではマイケル・ウッズやバウケ・モレマらトップ選手たちが作り上げたハイ・ペースの中食らいつき、6位でフィニッシュするなど実力の高さを見せつけた。また、このポイントにより、オリンピック代表選考ランキングの順位を一気に上げ、4位となった。

 

別府史之(神奈川、36歳)

言わずと知れた、新城幸也と並ぶ現役日本人トップライダーの1人。パンチャータイプで登りやスプリントでのアシストが多い新城に対し、別府はそのルーラー的な脚質を活かし、平坦や「ラスト10㎞」の牽引で前に出てくることが多い。

2009年に新城幸也と共に日本人初のツール・ド・フランス完走者となる。その第19ステージではスプリントで7位、第21ステージでは敢闘賞を手に入れるなど、類稀なる活躍を見せていた。

全日本選手権ではロードで2回、タイムトライアルで3回頂点に君臨している。また、2008年には奈良で行われたアジア選手権で優勝している。

 

現在、オリンピック代表選考ランキングでは5位以内にも入れない状況であり、このままでは選考は絶望的。ゆえに、彼は賭けに出た。あくまでもアシストとしての走りしか不可能な現在のチームを抜け、ある程度自由な走りが許されるチームへ。代表選考に必要な上位2枠にはまだ100ポイント近く届かない状況だが、係数2倍のツアー・オブ・ジャパンの総合上位と、ヨーロッパツアー2クラスの上位、および3倍のヨーロッパツアー1クラスの上位に入ることで、この差の逆転はありえない話ではない。

また、別府史之自身が選考基準には入れなくとも、現在ランキング3位の石上や4位の中根をアシストするという可能性もあるかもしれない。

とくに中根は2年前にツアー・オブ・ジャパン総合9位に入っており、同じ成績を出せればそこで40ポイントを稼ぐことができる。2位の新城幸也までは現時点で76ポイント差あり、決して小さくはない差ではあるが、可能性は十分に考えられるだろう。

 

このチームの日本人選手たちの活躍を楽しみにすると共に、オリンピック代表選考に向けてどのように戦略的な走りをするのかも、注目していきたい。

 

 

その他の注目選手たち

デルコ・マルセイユ・プロヴァンスには日本人選手以外にも注目の選手たちがいる。

たとえば、元デルコで別のチームへと移籍し、来年から復帰するという別府と同じパターンの選手が2名いる。

現カチューシャ・アルペシンのホセ・ゴンサルベス、そして現ワロニー・ブリュッセルのジャスティン・ジュールス。

ゴンサルベスは登坂力とスプリント力と独走力を合わせ持ったオールラウンダータイプの選手で、かつてはイルヌール・ザッカリンのアシストとしても活躍した。

そしてジュールスは今年躍進しているスプリンター。ブエルタ・アラゴンではトマ・ブダやエドゥアルド・プラデス下して1勝。ツール・ド・ルクセンブルクでも、クリストフ・ラポルトが優勝したステージで、恐ろしい勢いで加速しあわや勝利というところにまで迫った(最後の最後で進路が狭まり、ラポルトとフェンスの間に挟み込まれるような形で落車しながら2位に入線した)。

ほかにもNIPPOでも活躍していたエドゥアルドミカエル・グロースや今年のパリ〜ルーベ9位のエヴァルダス・シシュケヴィチュスなど。

純粋に1つのプロコンチネンタルチームとしても注目すべきチームである。

 

 

日本のロードレースの第3の夜明け

最後に、このデルコ・マルセイユ・プロヴァンスと4名の日本人選手たちが果たしうる「日本のロードレースの今後」と、よりよい未来をつくるうえで今、日本のロードレースに何が必要か、を自分なりにまとめてみたいと思う。

 

かつて、日本の自転車ロードレースには2つの「夜明け」があった。

1つは、90年代の前半。当時ヒタチチームなどで活躍していた市川雅敏が1990年に日本人として初めてジロ・デ・イタリアに出場。本来のエースがリタイアしたことを受け、臨時エースを任された末に総合50位でフィニッシュ。その他ヨーロッパで合計6勝という、日本人としては歴代最高の成績を残している。

続いて今中大介がシマノ社員としてツール・ド・北海道で3度総合優勝するなどの実績を残し、テストライダーとしてイタリアの名門チーム「チーム・ポルティ」に出走。そこで、日本人として初めての近代ツール・ド・フランスへの参加を実現した。

1992年からはフジテレビによる「英雄たちの夏物語」というツール・ド・フランスのダイジェスト番組が始まり、青嶋アナウンサーの実況などが今でもときおり懐古的に話題になったりする。

この時期、ようやく日本人は自転車ロードレースの「世界」へと足を踏み入れることができたのである。

 

そして2度目の「夜明け」は、2009年の新城幸也・別府史之による、日本人初のツール・ド・フランス完走。

しかも、このツールで別府によるステージ7位や敢闘賞、新城によるステージ5位、そして新城はさらに翌年のジロ・デ・イタリアで区間3位、2014年にはアムステルゴールドレースで10位に入るなど・・・あの時代、日本人によるワールドツアー勝利という夢は、果てしなく近いところにまで迫っていた。

 

だが、この2つ目のチャンスも、やがて果たされぬまま終わりを告げようとしている。

 

新城幸也も別府史之も、間違いなく日本人史上最強のロードレーサーであり、世界に認められた選手である。今も2人もワールドツアーチームに求められるだけの実力をもっている。

新城は12個のグランツールに出場し一度の途中リタイアもないという世界10本の指に入るタフネスさを持ち合わせ、別府は3大グランツールと全モニュメントとオリンピックの経験をもつ3人(ほか2名はルイ・コスタとフィリップ・ジルベール)の現役選手の1人だという。

 

そんな彼らでも、まだ、世界の頂点の舞台での勝利はない。

日本人は決して弱くはないけれど、まだ、頂点に至るまでの道のりは長いのだ。

 

 

 

だからこそ、今回のデルコ・マルセイユ・プロヴァンスへの4人の日本人の移籍が、「第3の夜明け」になると信じている。

しかもそこに、別府という存在がいてくれることが、とても心強い。

 

 

 

 

 

どうすれば今の日本のロードレースが、世界標準になれるのだろうか。

その理由については様々な意見が交わされ、多くの試みがなされている。

一つは、浅田監督や大門監督が推し進めるような、世界の舞台での日本人の活躍を推進していく方向。

また一つは、国内プロロードレースを発展させ、より世界水準に近づけていく方法。

実際、そのどちらも重要だと思うし、それぞれにはさらに細分化した方法論が議論されていることだろう。

たとえば後者、国内ロードレースの発展についても、2つの方向性がありうる。たとえば「コース」の改善。より欧州ナイズされた厳しいコース設定を日本でも用意できなければ成長はないという考え方だ。

実際、そうだと思う。コースが選手を強くする側面はあるだろう。

だが日本においてそのコースを実現することはなかなか難しいことは、TOJディレクターを務める栗村が再三述べており、また、ツール・ド・栃木の終了からも見えてくる部分のように思われる。

 

そして、コースだけ難しくしても意味はない。一方で語られるのは、「選手がレースを作る」という考え方だ。

すなわち、より本場欧州のレースを体験してきて、その厳しさを自ら発揮できる選手たちによる、レースの高度化、ハード化である。

昨年から本格的に走りつつあるマトリックス・パワータグのフランシスコ・マンセボの存在はその意味で非常に重要と思われる。あの走りについていける日本人選手が、レースの中でどんどん育っていくべきだと思う。

 

 

そして、そう考えたとき私は、新城幸也と別府史之という2人の選手に、「日本に戻ってきてほしい」という思いを強く感じたのである。

すでに生活の拠点を海外に置いている彼らが現実的にそれを実現するのは難しいかもしれないが、それでも同じ日本人である彼らが、欧州標準の走りを間近で見せレースをすることによって、もっともっと日本人選手たちのレベルの底上げが実現するのではないか。

 

 

そんな風に思っていたからこそ、今回の別府史之の選択は、その方向性に少し近づく選択のように思え、個人的に感極まるものがあった。

 

 

 

石上優大は今、この「第3の夜明け」の中心になれる素質をもっとも持つ存在であると期待している。その彼が、それでもたった一人で欧州の中心で戦わせられることに、最初の報道を聞いたとき、不安を覚えたものである。

しかし実際にはそこに、岡という同年代の仲間がおり、中根という頼れる先輩がいて、そして別府というレジェンドが近くにいてくれること。

これだけのピースが揃った中で、石上が「第3の夜明け」を実現させてくれることを期待している。

 

 

だから、こんなことを言ったら怒られるのかもしれないけれど、私は個人的には、別府がオリンピックに出られるかどうかは、そこまで気にしていない。

それよりも、彼が、後進たちのために今やれること、やるべきことは何なのかを考え、そして選択してくれたものだと勝手に感じ、彼への感謝の思いが尽きないのである。

 

 

大きすぎる期待は余計なものとなるだろう。

それでも、来年から始まるこの可能性に、わずかな夢を描きながら、見守っていきたいと思っている。

 

 

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