元全日本TT王者の西薗良太氏が運営するPodcast "Side by Side Radio" にて、GCNで日本語実況も担当しているサイクリングジャーナリストの小俣雄風太氏、ジロ・ローザでの日本人唯一のステージ勝利経験もある元選手の萩原麻由子氏をゲストに招き、海外女子ロードレースについての特集が組まれていた。
その中でも語られているように、GCNを中心に女子ロードレースのライブ中継が着実に充実してきており、まさに女子ロードレース「元年」とも言うべき時期が来つつあるようにも思える。
私自身もこれまで、どうしても男子ロードレースと比較して積極的に集めている情報も少なく、熱心に見ることができてはいないものの、そこには男子と比較しても決して劣らないだけの熱量と魅力とが溢れていることも良く分かる。
今回は、自分自身の勉強の意味合いも含め、海外女子ロードレースの注目選手たちを「りんぐすらいど風」にプレビューしていきたいと思う。
とりあえず、各チーム毎に。
私自身の不勉強ゆえに不十分かつ不正確な面も多くあろうが、ご容赦頂けると幸いだ。
(以下記事における年齢はすべて2022年12月31日時点のものとなります)
(一部グライドさんからおススメ頂いた選手も掲載しております)
アヤフィリップさんとPodcastにて特集しています。
目次
- SD Worx(オランダ)
- Trek - Segafredo(アメリカ)
- Movistar Team(スペイン)
- Jumbo-Visma(オランダ)
- FDJ Nouvelle-Aquitaine Futuroscope(フランス)
- Canyon//SRAM Racing (ドイツ)
- Team DSM(オランダ)
- UAEチーム・ADQ(アラブ首長国連邦)
- その他の注目選手
参考:昨年の世界ランキング上位20名レビュー
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SD Worx(オランダ)
読み:エスディー・ワークス
略号:SDW
創設年:2010年
使用機材:スペシャライズド
GM:アーウィン・ヤンセン(オランダ)
2020年まではブールス・ドルマンスの名で知られていた最強チーム。昨年からは新たにベルギーの人材サービス会社がタイトルスポンサーに付いてSDワークスと名を変えた。
昨年までは「女王」の一角、アンナ・ファンデルブレッヘンが絶対エースとして君臨していたが昨年末をもって引退。現在はチームのスポーツディレクターとしてチームカーのハンドルを握る。
その後継者デミ・フォレリングのほか、他チームからもかつてはマリアンヌ・フォスの右腕として世界最強級の登坂力を誇っていたアシュリー・ムールマン、女子ロード界のシュテファン・クンとも言うべきTTスペシャリストのマーレン・ローセル、さらには女子ロード界若手最有力選手の1人でロード・シクロ・マウンテンバイク全てにおいて好成績を叩き出しているカタブランカ・ヴァスなど、各方面の長有力選手をかき集めている。
さらに今年は何と言ってもロッタ・コペッキー。彼女も他チームからの引き抜き選手で、その選手獲得力と「誰もがエース」という銀河系軍団ぶりは女子ロード界のイネオス、あるいはクイックステップと言ってもいいくらい。
とは言え、ここ最近はチーム力でもトレック・セガフレードに近づかれ、あるいはアネミエク・ファンフルーテンやマリアンヌ・フォスらその他の「女王」に個の力で破られるなど、必ずしもその支配は昨年ほどには盤石ではない。
次期エースの成長も待たれる。逆に言えば伸びしろもまだまだあるチームだ。
デミ・フォレリング(オランダ、26歳)
オールラウンダー、172㎝、2024年まで契約
主な戦績
リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝(2021)
ラ・クルス by ラ・ツール・ド・フランス優勝(2021)
ザ・ウィメンズ・ツアー総合優勝(2021)
ブラバンツペイル優勝(2022)
昨年はラ・フレーシュ・ワロンヌの最終盤で精鋭9名が抜け出したとき、唯一のアシストとして残っていたフォレリングは、ユイの壁の麓まで全力でこの小集団を一人で牽引した。突き放したマリアンヌ・フォスらを追いつかせず、エースのアンナ・ファンデルブレッヘンをより確実に勝たせるために。
そして麓で力尽きて脱落したフォレリングの献身に応えるようにして、ファンデルブレッヘンは自身7度目の、そして引退前最後のフレーシュ・ワロンヌ勝利を掴み取った。
その直後のリエージュ~バストーニュ~リエージュ。今度はそのファンデルブレッヘンが、フォレリングのための全力のアシストをこなした。残り13㎞の最後の勝負所ラ・ロッシュ・オ・フォー・コン。ここで、マリアンヌ・フォスらを突き放し、先頭はファンデルブレッヘン、アネミエク・ファンフルーテン、エリーザ・ロンゴボルギーニ、カタジナ・ニエウィアドマ、そしてデミ・フォレリングの5名だけが生き残った。
ここで、ファンデルブレッヘンは一人全力で残り10㎞を牽引し続けた。最後のスプリントで、フォレリングが勝ってくれることを信じて。そして、フォレリングもまた、この期待に応えた。残り200mでファンフルーテンがスプリントを開始し、直後にロンゴボルギーニも左から加速し、しかしこれらをすべてかわし、フォレリングが先頭でフィニッシュラインを通過した。
2021シーズンで最も美しいレースの1つであった。そして、引退するオランダの伝説ファンデルブレッヘンとフォレリングの、美しい師弟関係のように感じられた。
が、その後の世界選手権で「オランダチーム」として戦ったとき、フォレリングは複数回のメカトラブルに見舞われたあと、最後にエースのマリアンヌ・フォスを勝たせるための十分なリードアウトができなかったこと自分自身を責めるようなコメントと共に涙したことも報じられている*1。
今年もオンループ・ヘットニュースブラッドでアネミエク・ファンフルーテンと共に抜け出した後、ツキイチで足を貯めながらも最後スプリントで敗れるなど、苦しい戦いを強いられつつあるフォレリング。
彼女が本当にファンデルブレッヘンの後継者として世界のトップに君臨するためには、あともう少しだけ、困難を乗り越えていく必要がありそうだ。
ロッタ・コペッキー(ベルギー、27歳)
パンチャー、170㎝、2024年まで契約
主な戦績
ロンド・ファン・フラーンデレン優勝(2022)
ストラーデ・ビアンケ優勝(2022)
パリ~ルーベ2位(2022)
ヘント~ウェヴェルヘム2位×2(2020, 2021)
現ベルギーロード&TT王者。というよりもTTに関しては2019年から、ロードも2020年から連覇しており、名実ともにベルギー最強の女子ロードレーサーである。
それはおひざ元のロット・ベルギー・ツアーを総合優勝していたり、同じくベルギーのル・サミンに勝っていたりすることからもよく分かる。とはいえ、あくまでもベルギー最強であり、その荒地や起伏をものともしないパンチ力のあるスプリントでときおりトップレースの区間勝利を稼ぎつつも、そこまで大きな勝利を手に入れるタイプとは思っていなかった。
が、今年は大ブレイクした。SDワークス2年目となった彼女は、まずストラーデ・ビアンケにて、残り13㎞地点の最後の勝負所「ル・トルフェ」でアネミエク・ファンフルーテンが強烈な加速を見せたとき、唯一食らいついてその後輪を話さなかったのがコペッキーであった。
これまでの彼女であれば、ひたすら加速し続けるファンフルーテンに最後は振り払われていたはずだった。事実、フォレリングも、アシュリー・ムールマンも、ここでは突き放されてしまっている。
が、コペッキーは離れない。そしてル・トルフェを超えたあとも徹底して前を牽かない戦略を取ったことで、ファンフルーテンを集団に引き戻すことに成功した。ル・トルフェ前に形成された16名の中に4名も選手を入り込ませることができていたSDワークスの「数の有利」が功を奏する形となった。
もちろん、ファンフルーテンは最後の激坂「サンタ・カタリーナ通り」で決着をつけるつもりだった。残り900mから加速を開始したファンフルーテン。コペッキーはここにも、すぐさま反応した。
先頭はファンフルーテン、コペッキー、そしてムールマン。だがムールマンはやがて、苦しそうに落ちていく。それでもコペッキーは離れない!
わずかにギャップが開きかける瞬間もあったが、それでもラスト300mの激坂の頂上まで、彼女は何とか耐え抜いた。
そして、最後はファンフルーテンとのサイドバイサイドを制して見事優勝。
今年のベストレースの1つであった。
そして、キング・オブ・クラシック。ロンド・ファン・フラーンデレン。全ベルギー人にとって史上最高の栄誉を、彼女は手に入れる。しかも、再び、ファンフルーテンを打ち破って。今度は、シャンタル・ブラークという最強のアシストの助力を借りて、王者の貫禄を見せつける圧倒的なスプリントで。
これにて彼女はベルギー最強の女子ライダーから、世界最強の女子ライダーの1人として紛うことなく君臨した。彼女は最強チームの強い選手の1人ではもはやなく、このチームの最強エースの一人となったのだ。
マーレン・ローセル(スイス、31歳)
TTスペシャリスト、180㎝、2023年まで契約
主な戦績
東京オリンピック個人TT2位(2021)
世界選手権個人TT2位×2(2020, 2021)
セラティツィット・チャレンジ by ラ・ブエルタ総合2位(2021)
ロンド・ファン・フラーンデレン5位(2022)
女子ロード界最強のTTスペシャリストの一角。昨年/一昨年の世界選手権・東京オリンピックなどでは2位だったが、それぞれ勝ったのはアンナ・ファンデルブレッヘンやアネミエク・ファンフルーテンなどのオールラウンダーが中心であり(昨年の世界選手権のエレン・ファンダイクはTTスペシャリストに近いところがあるが)、純粋なTTスペシャリストとしては世界最高峰クラスであることは間違いないだろう。
スイス人ということで、女子ロード版のシュテファン・クンみたいなイメージもある。
そのクン同様、TTだけじゃない姿も見せている。たとえば女子版ブエルタ・ア・エスパーニャとも言うべきセラティツィット・チャレンジ by ラ・ブエルタでは初日に2位以下に1分半以上のタイム差をつける圧倒的独走勝利を成し遂げている。
が、その後第3ステージではアネミエク・ファンフルーテンによる60㎞という圧倒的な独走勝利によって逆転されて総合2位。シマック・レディース・ツアーでも落車やSDワークスのチームワークにやられ、総合逆転敗北を喫してしまう。
そのシマック・レディース・ツアーでは、SDワークスに対するチーム力の差が露呈した敗北であった。当時所属していたアレ・BTCリュブリャナのアシストたちはすべていなくなり、自ら集団の先頭を立って抜け出したシャンタル・ブラークらを追いかける必要に迫られていた。
そんな彼女が、今年はその仇敵SDワークス入り。そして、その最強チームの一員として立ち回り、今年のロンド・ファン・フラーンデレンでは5位になるなど、早速その才能を輝かせている。
すでに今年31歳と決して若手ではないが、彼女もまたこのチームにてさらなる進化と成長を見せてくれそうな期待を持つことができる。
カタブランカ・ヴァス(ハンガリー、21歳)
パンチャー、163㎝、2022年まで契約
主な戦績
世界選手権ロードレース4位(2021)
セラティツィット・チャレンジ by ラ・ブエルタ総合9位(2021)
男女合わせても最強のハンガリー人と言うべきかもしれない。シクロクロスではすでにワールドカップで優勝しており、ヨーロッパ選手権でも2位(いずれもエリートカテゴリで)。マウンテンバイクの世界でも昨年の東京オリンピックで4位。女子ロード界のマチュー・ファンデルプールやトム・ピドコックのような成績を引っ提げつつ、昨年の6/1から最強チーム・SDワークスに加入し、チャレンジ・ブエルタでいきなりの総合9位。さらに世界選手権ロードレースでは、エリートカテゴリでありながら、デミ・フォレリングやセシリーウトラップ・ルドヴィグら錚々たる顔ぶれを押しのけての4位。
その実力は本物だ。今シーズンはまだアルデンヌ・クラシック3連戦しか走っておらずその成績もまだそこまででもないものの、今年はジロ・デ・イタリア・ドンナの出場も予定しているようで、その才能がロードレースでも頂点を極めるものとなるのかどうか、楽しみである。
アシュリー・ムールマン(南アフリカ、37歳)
南アフリカ人ということで何となく女子版ダリル・インピーみたいなイメージを持っているが、パンチャータイプのインピーよりもずっとクライマータイプの選手。CCCリヴ時代はマリアンヌ・フォスのアシストをしていたイメージもあるが、昨年のジロ・デ・イタリア・ドンナなんかではアンナ・ファンデルブレッヘンに次ぐ登坂力を見せ、デミ・フォレリングと共にSDワークスによる総合表彰台独占を実現させた。
そんな彼女だが、今年いっぱいで引退を決めている。2020年にはEスポーツ世界選手権で優勝している彼女は、バーチャルサイクリスト育成プログラムを創設し、母国南アフリカへの支援にも力を入れようとしている*2。
今年から始まる女子版ツール・ド・フランスもZwiftが後援するなど、女子ロードとEスポーツとの結びつきは強い。彼女の第二の人生もまた、引き続き応援していきたい。
シャンタル・ブラーク(オランダ、33歳)
逆に今シーズン中の引退を撤回したのがこのシャンタル・ブラークであった。彼女は家庭との関わりを理由にキャリアを終えるつもりでいたが、その状況に改善が見られたこと、そして将来的に子どもを持った際に、チームが万全のサポートをしてくれることを約束してくれたことが、引退撤回に繋がったという。
これまでも数多くの、SDワークスのチームの勝利に貢献し続けてきたエースであり名アシストでもある彼女の存在はチームにとって重要であるのみならず、彼女のこのキャリアの選択は、女子ロード界という、男子とはまた違った困難を持っている世界に向けての希望の1つとなるかもしれない。
ナイアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド、22歳)
昨年のジロ・デ・イタリア・ドンナで新人賞を獲得。それ以外にもブエルタ・ア・ブルゴス、ツアー・オブ・ノルウェーでも新人賞。まさに、女子ロード界の最重要新人の一人である。
なお、1歳年下の弟フィン・フィッシャーブラックはUAEチーム・エミレーツに所属。こちらも期待値の高い新鋭であり、昨年7月にユンボ・ヴィズマ育成チームに所属していた彼をUAEがわざわざ引き抜いた形だ。
ニュージーランドはまだまだロードレース界では新興国の1つ。男女とも若き才能が盛り上げてくれることを祈る。
ローネック・ウネケン(オランダ、22歳)
こちらも超期待の新人。新興国の台頭著しい若手世代におけるオランダの期待の星でもある。
そしてすでに勝っている。昨年はワールドツアーのシマック・レディース・ツアーでも1勝。今年も1クラスだが1勝している。
いずれもスプリントでの勝利。しかも今年の勝利はアリス・バーンズやクロエ・ホスキングらと競り合っての勝利だからその実力は本物である。おそらくは純粋なスプリントというよりは、やや荒れた展開に強いタイプのように思える。
エイミー・ピータース(オランダ、31歳)
女子版ではワールドツアークラスであるロンド・ファン・ドレンテや、女子版ブルターニュ・クラシックとも言うべきGPプルエーなどで優勝。ロンド・ファン・フラーンデレンでも2回の2位を経験している実力者。このチームにも2017年から所属し続けている。
そんな、女子ロード界トップクラスのライダーであった彼女だが、昨年12月23日。トレーニング中の事故によって意識を失ったあと、搬送されて手術を受け、その後人工的な昏睡状態に置かれたまま、今に至るまで目を覚ましていない。
過去においても数多くの悲劇を生み、今年に関してだけ言っても多くの事故が男子のトップライダーも見舞われている。無名のライダーも含めればその数はより夥しいものになるだろう。
ピータースの回復を祈る。
Trek - Segafredo(アメリカ)
読み:トレック・セガフレード
略号:TFS
創設年:2018年
使用機材:トレック
GM:ルカ・グエルチエーナ(イタリア)
安定した中堅チームという趣の男子チームと比して、この女子チームは今やSDワークスに匹敵する高い総合力を兼ね揃えたチームである。昨年の第1回パリ~ルーベに続き今年もトレックが連覇。ロード&TT&シクロクロスの世界王者も抱え、数多くのエース級選手も集める。
既に述べたようにSDワークスがファンデルブレッヘン引退のあと、かつてほどの絶対ぶりが見られなくなりつつある中、このトレックも含めた二強時代へと突入したことは、男子ロードにおけるユンボやUAEの台頭同様、女子レース界を面白くさせてくれるはずだ。
エリーザ・バルサモ(イタリア、24歳)
パンチャー、165㎝、2024年まで契約
主な戦績
世界選手権ロードレース優勝(2021)
ヘント~ウェヴェルヘム優勝(2022)
トロフェオ・アルフレッド・ビンダ優勝(2022)
エクステリオー・クラシック・ブルッヘ~デパンヌ優勝(2022)
昨年まではコンチネンタルチームのヴァルカー・トラベル&サービスに所属。それゆえか、そこまで目立たない走りに終始していたように思っていたが、昨年の世界選手権ロードレースにおける、イタリアチームの同胞エリーザ・ロンゴボルギーニとのコンビネーションにも成功し、まさかの世界王者に。「最強」オランダチームがレースをコントロールする中、最後の最後まで息を潜めていたイタリアチームの戦略勝ちだった(男子も同じ手を使おうとして後手を踏んだ挙句壊滅してしまったが・・)。
そして、「アルカンシェル・マジック」である。男子のマッス・ピーダスンがそうであったように、このバルサモも、アルカンシェルを身に纏って以来、勝ちに勝ちまくっている。3月20日から27日にかけて出場した3レース(トロフェオ・アルフレッド・ビンダ、エクステリオー・クラシック・ブルッヘ~デパンヌ、ヘント~ウェヴェルヘム)では3連勝。もちろんいずれもワールドツアーレースである。
しかもブルッヘ~デパンヌでは、同じく今年最高レベルに絶好調のあのロレーナ・ウィーベスを差してのスプリント勝利。これまでは世界選手権のように、荒れた展開や登りを多少含んでいるレースでのスプリントが強いという印象だったのに、ほぼピュアスプリンター向けと言ってよいブルッヘ~デパンヌで、地上最強のピュアスプリンターと言っていいウィーベスに勝つってどういうこと・・・? ヘント~ウェヴェルヘムではマリアンヌ・フォスに対して、昨年の世界選手権に続く勝利。名実ともに「最強」となりつつある。
今年はジロ・デ・イタリア・ドンナとツール・ド・フランス・ファムに出場予定。とくにジロ・デ・イタリアの方はマリアンヌ・フォスの独壇場になりがちなレースだが、そこに風穴を開けていけるか。
エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、31歳)
オールラウンダー、170㎝、2024年まで契約
主な戦績
パリ~ルーベ優勝(2022)
ロンド・ファン・フラーンデレン優勝(2015)
ストラーデビアンケ優勝(2017)
トロフェオ・アルフレッド・ビンダ優勝×2(2013, 2021)
グランプリ・ド・プルエー優勝(2021)
世界3大女王、マリアンヌ・フォス&アンナ・ファンデルブレッヘン&アネミエク・ファンフルーテン、あるいは彼女たちが牽引するオランダの牙城に、果敢に挑み続けている第4軸。ファンデルブレッヘンが引退した今、彼女は明確にそこに割って入る権利を手に入れている。
なかなか勝ちきれない選手だった。昨年もストラーデ・ビアンケでアネミエク・ファンフルーテンに敗れ2位。世界ランキングでも同様に2位。しかし、今年は違った。パリ~ルーベで、バルサモやホスキングなどチームメートが倒れる中、自ら残り33㎞から果敢に飛び出した。
そして掴み取った栄光。「勝てない」時代は脱し、いよいよ世界の頂点へと向かっていく。
そんな彼女の走りにおいて、個人的にとても感動したのは2年前のヨーロッパ選手権ロードおよび、ラ・クルス by ツール・ド・フランスでの「執念」の走りだ。
そのときのことは以下、記事にまとめてある。
このとき、ベストタッグを組んだエリザベス・ダイグナンは、今シーズンは第二子の出産のためにお休み中。その代わりにエリザ・バルサモやルシンダ・ブラントといった頼れる相棒たちと共に、今後もチームの柱として、活躍し続けてくれるだろう。
ルシンダ・ブラント(オランダ、33歳)
ルーラー、168㎝、2023年まで契約
主な戦績
オンループ・ヘットニュースブラッド優勝(2017)
グランプリ・ド・プルエー優勝(2014)
アムステルゴールドレース2位(2018)
パリ~ルーベ3位(2022)
ヘント~ウェヴェルヘム3位(2016)
ロードレースでも10年以上のキャリアにおいてトップシーンで活躍し続けている選手ではあるが、それ以上に注目に値するのが、昨年のシクロクロスにおける女子史上初の「グランドクロス」達成である。男子ではシクロクロス界のエディ・メルクスとも言うべき存在のスヴェン・ネイス、およびワウト・ファンアールトしか達成できていない偉業である。
その実力がゆえか。今年のパリ~ルーベでも中盤積極的に動き、さらに残り33㎞でチームメートのロンゴボルギーニが抜け出したあとも、集団内でローテーション妨害を絶妙に働き最後は自らも3位に入った。あのロッタ・コペッキーを集団内で封じ込めていたのはブラントの活躍であることは間違いない。
トレック・セガフレードをSDワークスに匹敵するチームたらしめるのは、やはりロンゴボルギーニやバルサモのような絶対的エースだけではなく、その脇を固める(SDワークスでいえばシャンタル・ブラークのような)準エース級のタレントの存在が重要。
シクロクロスシーズンとの兼ね合いは大変ではあるが、引き続きチームを支える存在として活躍に期待している。
エレン・ファンダイク(オランダ、35歳)
昨年の世界選手権個人タイムトライアルで、2013年に続く2回目の世界王者に。アネミエク・ファンフルーテン、マーレン・ローセルといった強豪を押しのけてのこの8年ぶりの勝利は実に感動的であった。
レースにおいても、その独走力と牽引力を活かしてチームの強さに全面的に貢献している。もちろん自身も2014年にロンド・ファン・フラーンデレンを優勝し、2018年や2019年にもドワースドール・フラーンデレンで優勝するなど、エースとしての強さも存分に発揮できる。トレントで開催された昨年のヨーロッパ選手権ロードレースでは、最強オランダチームの一角として戦い、残り20㎞から間隙を突いての独走勝利を決めた。
この独走力はチームに第三の選択肢を与えてくれる。それは、最強チームの証でもある。ただし、契約は今のところ今シーズン限り。果たして、来年はそのままトレックに残るのか? SDワークスあたりに行ってしまうと驚異ではある。
クロエ・ホスキング(オーストラリア、32歳)
これまでラ・クルス by ツール・ド・フランスやカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースなどを含む39の勝利を飾っているスプリンター。出れば勝てる最強スプリンターの一角というわけではないが、常に上位に食い込むことが期待される実力者である。
エリザ・バルサモを獲得し、かつ彼女も覚醒しつつあるとはいえ、まだまだ決定的なフィニッシャーの少ないトレック・セガフレードにおいては重要な存在。ただ、彼女も契約は今期までである。
エリザベス・ダイグナン(イギリス、34歳)
リジー・ダイグナンとも。旧姓アーミステッド。旦那は元チーム・スカイのフィリップ・ダイグナン。
元世界王者であり、昨年初開催のパリ~ルーベを制したことで、ロンド・ファン・フラーンデレン&リエージュ~バストーニュ~リエージュ&パリ~ルーベの、女子ロード界3大モニュメントすべてを制した唯一の選手となった。
ロンゴボルギーニのときに書いたように、ロンゴボルギーニの盟友として、チームの柱でもあった存在。今シーズンについては、第二子出産のために休養中。2018年も一人目を授かるために休養しており、そこから復帰してなお栄光を積み重ね続けている。
チームも全面的に彼女を支援し、2023年には復帰予定。勝利だけじゃない、女子ロード界への強い貢献を果たしている存在である。
Movistar Team(スペイン)
読み:モビスター・チーム
略号:MOW
創設年:2017年
使用機材:キャニオン
GM:セバスティアン・ウンスエ(スペイン)
最強の女王アネミエク・ファンフルーテン擁するチーム。また、若きパンチャー/スプリンターのエマセシル・ノースガードも非常に有望な選手だ。
ただ、スペインチームの稼ぎ頭が彼女ら外国勢というのはちょっと寂しいところ。スペイン最強の女子選手と言っていいマビ・ガルシアも、2019年を最後にチームを去ってしまっており・・・。
今後、スペイン人若手をいかにして育てていけるか、がこのチームの課題となりそう。
アネミエク・ファンフルーテン(オランダ、40歳)
オールラウンダー、168㎝、2022年まで契約
主な戦績
世界選手権ロードレース優勝(2019)
世界選手権個人タイムトライアル優勝×2(2017, 2018)
東京オリンピック個人タイムトライアル優勝(2021)
ロンド・ファン・フラーンデレン優勝×2(2011, 2021)
リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝(2019)
クラシカ・サンセバスティアン優勝(2021)
ストラーデ・ビアンケ優勝×2(2019, 2020)
ラ・クルス by ル・ツール・ド・フランス優勝×2(2017, 2018)
堂々たる戦績。まさに世界最強の女王の一角。この年齢でこの成績というのがまた凄い。冒頭に掲げたPodcastでは今年のオンループ・ヘットニュースブラッドにおける舞台裏について萩原氏がコミカルに表現しているが、まさにそれがこの選手の凄さの源泉なのだろう。ゆえにちょっと昨年の世界選手権でフォレリングに苦言を呈する場面なんかも。
その強さの表現はとくに独走という展開において発揮される。彼女を逃がしたら最後。誰もそれに追い付くことはできない。圧倒的だったのは2020年のストラーデビアンケ。残り50㎞の段階でメイン集団から11名が抜け出し、そこからさらにマビ・ガルシアが抜け出した。
ガルシアは直前に自分がいた集団から3分差をつけ、メイン集団からは5分差をつけていた。これはもう、少なくともこの11名から勝利者が出ることは間違いないだろう、と思っていた。
が、その5分差がついていたはずのメイン集団から、ファンフルーテンがアクセルを踏み始めた。あっという間に10名の追走集団に追い付き、これを突き放し、そして(たしか)残り20㎞近くを残してガルシアに追い付いた。
そのあとはガルシアと共に最後のカンポ広場への激坂に到達するが、そこでやはり強烈な加速力でガルシアを突き放して圧倒的勝利。今年のストラーデビアンケでタデイ・ポガチャルが圧倒的な強さを見せていたが、ある意味それ以上の劇的な勝利であった。なお、フィニッシュ後はかなり余裕そうな表情でインタビューに応えていた。まじか。
逆に、抜け出させなければいい。今年のストラーデビアンケのロッタ・コペッキーはまさにその戦略で勝利した。もちろん、そのうえであのカンポ広場に食らいつくことができたからこそだが。
一方で、ついていけばそれでいいわけでもまた、ない。今年のオンループ・ヘットニュースブラッドでツキイチだったデミ・フォレリングをスプリントで降している。2020年の世界選手権でも、わずか1週間前のジロ・ローザでの落車で左手首を骨折していたはずなのに、最後の2位争いのスプリントでエリーザ・ロンゴボルギーニを降している。
昨年のリエージュ~バストーニュ~リエージュではフォレリングにスプリントで敗れているので常にではないが、フィニッシュでのスプリント力も、ピュアスプリンターやコペッキー級でなければ、必ずしも負けるわけではないのは驚異的である。
バルベルデは22歳の今年、引退を決めた。ファンフルーテンは果たして、どこまで走るのか・・・パリ五輪とか、普通に優勝争いしてそうで恐ろしい。
エマセシル・ノースガード(デンマーク、23歳)
パンチャー、172㎝、2024年まで契約
主な戦績
セラティツィット・フェスティバル・エルシー・ジェイコブス総合優勝(2021)
ル・サミン優勝(2022)
オンループ・ヘットニュースブラッド2位(2021)
ヘント~ウェヴェルヘム5位(2022)
パリ~ルーベ6位(2021)
昨シーズン大ブレイクした若き世界最強のスプリンターの一角。ピュアスプリントというよりは登りスプリントに強いパンチャータイプで、昨年はマリアンヌ・フォスやロッタ・コペッキーらを打ち破った。今年もル・サミンで勝利。また、ヘント~ウェヴェルヘムでも5位に入るなど、クラシックでも強さを見せている。
同じくモビスター・チームと契約しているマティアス・ノルスガードの妹で、デンマーク若手最強のTTスペシャリストのミッケル・ビョーグの婚約者(もう結婚した?)。まだまだ伸びしろしかない、今後に期待の選手である。
ただ、バルサモとか、ウィーベスとか、この世代のスプリンターは有望な選手が多いので、なかなかの戦国時代である。
アレニス・シエラ(キューバ、30歳)
男女合わせて唯一の、トップリーグに所属するキューバ人選手である。最も活躍していたのは2017年~2019年頃で、当時はトロフェオ・アルフレッド・ビンダ2位やヘント~ウェヴェルヘム4位、ツアー・オブ・カリフォルニア優勝など。ただ、今年もロンド・ファン・フラーンデレンで4位に入るなど、まだまだ強さは衰えていない。
彼女がここ最近のモビスターで3番目に強い選手と言っていいが、彼女もまた外国人選手なのが、チームとしては少し悲しいところ・・・。
シェイラ・グティエレス(スペイン、28歳)
と、言うことで、スペイン人選手でも1名ピックアップしておく。2017年にはジロ・ローザで区間1勝。同年にはマドリッド・チャレンジ by ラ・ブエルタで5位、グランドで6位など、荒れた展開や起伏ありの展開の中でのスプリントで強みを見せていた、と思う。
上位に入ってポイントを稼ぐにはどうしてもトップスプリンターたちのいない場所で、ウィーベスやバルサモ、ホスキングらがいるとなかなか勝てない、そんな立ち位置で勝利自体もここ2年ないが、スペインチームを盛り立てるために頑張ってほしい。
あとはアリシア・ゴンザレスなどがいるが・・・若手有望スペイン人がなかなか見当たらないのが残念なところである。
Jumbo-Visma(オランダ)
読み:ユンボ・ヴィズマ
略号:JVW
創設年:2020年
使用機材:サーベロ
GM:エスラ・トロンプ(オランダ)、リチャード・プルッヘ(オランダ)
男子の各トップチームが女子チームも持つようになっていく流れに従い、ついに(今や男子では世界最強チームの一角となった)ユンボ・ヴィズマも、2020年に創設が決まった。本格稼働は2021年で、その目玉として、女子自転車界最大の立役者とも言うべきマリアンヌ・フォスを獲得。まだ若手はそこまで結果を出していないが、これまでフォスがやってきたオランダ女子自転車界の活性化を、このチームでも担ってくれることに期待していきたい。
マリアンヌ・フォス(オランダ、35歳)
パンチャー、168㎝、2023年まで契約
主な戦績
通算238勝
ジロ・ローザ区間優勝×30(2007~2021)
世界選手権ロードレース優勝×3(2006, 2012, 2013)
ロンドンオリンピックロードレース優勝(2012)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝×5(2007, 2008, 2009, 2011, 2013)
トロフェオ・アルフレッド・ビンダ優勝×4(2009, 2010, 2012, 2019)
ヘント~ウェヴェルヘム優勝(2021)
アムステルゴールドレース優勝(2021)
圧倒的な戦績。ロードレースだけでなくマウンテンバイク、トラックレース、シクロクロスでもそれぞれ成績を積み上げており、トラックレースでは2008年北京オリンピックのポイントレースで金メダル。同年の世界選手権ポイントレースでも同様に優勝し、2011年の世界選手権でもスクラッチ種目で金メダルを獲得している。シクロクロスでは過去7回の世界王者に輝いており、今年またそこに1つ勝利を積み上げたばかりである。
その圧倒的な強さは女子ロード界のエディ・メルクスとすら言われる。そして、現代に続くロード・シクロクロスの女子オランダ勢の強さは、その多くがこのフォスへの憧れから始まったとも聞いたことがある。さらに言えば、女子ロード界そのものの発展にすら、多大な貢献をしたとも。
まさに生ける伝説。そんな彼女が、ユンボ・ヴィズマ・チーム創設の初期メンバーとして選ばれたことは、彼女の強い使命を感じさせる。決してチーム力においてはまだまだSDワークスやトレック・セガフレードには敵わないものの、ここを拠点に、今後のさらなる女子ロード界の発展に寄与してくれたら嬉しい。
なお、脚質としては、あらゆる場面に強くはあるものの、やはり最も得意とするのは登りや荒れた展開のパンチャー的スプリント。
そして、シクロクロスで培った未舗装路や悪天候への適性も間違いなくあるだろう。昨年のパリ~ルーベは、残り80㎞で飛び出したエリザベス・ダイグナンの独走を、残り20㎞のカンファナン・ペヴェルからの猛烈な追撃によって撃ち落とそうと迫った。
その勢いはすさまじく、なんとか食らいつこうとしたエリーザ・ロンゴボルギーニ(今年の優勝者)も難なく振り払い、2分半あったタイム差を1分17秒差まで縮めたのである。
最終的には、チーム力の差で敗北してしまったが、それでもあの第1回「地獄の」パリ~ルーベにおける最強は間違いなく彼女だった。
そして期待されていた今年は――出場直前でCovid-19陽性が判明。悔しいDNSとなってしまった。
まだまだその記録の積み上げは止まりそうにない。生ける伝説、マリアンヌ・フォス。その栄光はどこまで続くのか。
コリン・ラベツキ(アメリカ、30歳)
旧姓コリン・リヴェラ。長くチーム・サンウェブ&DSMで走っていたが、今年からユンボ・ヴィズマへ。2017年にはロンド・ファン・フラーンデレン&トロフェオ・アルフレッド・ビンダ&プルデンシャル・ライドロンドン・クラシックで優勝するなど圧倒的な強さを誇った。
身長155㎝とかなり小柄で、その軽量さを活かした登りスプリントを最も得意とする。最近はかつてほどの強さを発揮しきれないところもあるが、それでも東京オリンピックロードレースで7位、世界選手権ロードレースで10位、今年もトロフェオ・アルフレッド・ビンダ6位やアムステルゴールドレース9位など、やはり丘陵系のレイアウトでは上位に入り込むことが多々。
フォス以外はなかなかタレントが揃い切れていなかったユンボ・ヴィズマにとっては強力な補強と言えるだろう。
アンナ・ヘンダーソン(イギリス、24歳)
昨年のグランプリ・ド・プルエー10位、そして今年のオンループ・ヘットニュースブラッド7位など、チームの時代のクラシックエースを担いうる才能を発揮しつつある若手イギリス人。契約も2024年までと長く、期待の表れと言えるだろう。
リエンヌ・マーカス(オランダ、28歳)
そこまで若くはないものの昨年は欧州選手権TTで5位、世界選手権TTで9位。世界選手権ミックスドリレー・チームTTのオランダ代表メンバーにも選ばれ銀メダルを獲得。ツアー・オブ・ノルウェーでも逃げ切り区間勝利を果たすなど、強力な独走力がチームの底を支える重要なキーパーソンと言える。
来年のフォスのルーベ制覇を支える存在となれるか。
FDJ Nouvelle-Aquitaine Futuroscope(フランス)
読み:エフデジ・ヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ
略号:FDJ
創設年:2006年
使用機材:ラピエール
GM:ステファン・デルクール(フランス)
創設年は他のチームと比べても結構古い。FDJと付いているがトレック・セガフレードやモビスター、ユンボ・ヴィズマのような男子チームからの派生ではなく、元はヴィエヌ・フチュロスコープもしくはポワトゥー=シャラントゥ.フチュロスコープ.86という名のチームだったところに、2017年からスポンサーとしてFDJが加わった形となる。
そのタイミングでチームの「社長」としてフランスの元ジュニア王者で現在はコメンテーターのエマニュエル・マーロが就任。
最強チーム勢に次ぐ強豪チームの一角として、男子のFDJ同様に、確かな存在感を放っている。
マルタ・カヴァッリ(イタリア、24歳)
パンチャー、167㎝、2022年まで契約
主な戦績
アムステルゴールドレース優勝(2022)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝(2022)
パリ~ルーベ5位(2022)
ヘント~ウェヴェルヘム5位(2020)
ロンド・ファン・フラーンデレン6位(2021)
強くはあるし、昨年の世界ランキングでも18位という成績の選手ではあったが、まさかあのユイの壁の頂上で、他のすべてを突き放して先頭を突き進んでいた「姉御」アネミエク・ファンフルーテンに食らいつき、最後にこれを突き放すスプリントを見せるなんて。
男子レースのディラン・トゥーンスのアレハンドロ・バルベルデ倒しにも驚いたが、ある意味それ以上の衝撃であった。だってフォレリングもロンゴボルギーニも突き放したあのファンフルーテンを、さらに、だよ?
しかも直前のアムステルゴールドレースでも優勝。パリ~ルーベでも5位と、絶好調中の絶好調。この記事を書いている段階ではまだ結果の不明なリエージュ~バストーニュ~リエージュでももしかしたら・・・達成したらフィリップ・ジルベール以来の?偉業の達成である。
実際、そこまでの選手だとは思っていなかった。トップレースでのハイリザルトには何度も食い込んではいたが、今年に入った段階では勝利は国内選手権ロードと2クラスのレースでの2勝のみ。それも、最も新しい勝利が2019年の9月だったのだから、典型的な「勝てない」選手だった。
正直FDJと言えばセシリーウトラップ・ルドヴィグ一人が抜け出ているような印象だったため、チームとしてはここで強力なエースを手に入れたと言えるだろう。但し契約は今年まで。離さずにおけるか?
セシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク、27歳)
クライマー、168㎝、2022年まで契約
主な戦績
ジロ・デッレミリア優勝(2020)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位(2020)
ラ・クルス by ル・ツール・ド・フランス2位(2021)
ロンド・ファン・フラーンデレン3位(2019)
Side by Side Radioでもキャラの良さに触れられていた。そのあたりについては以下のブログの記事に詳しいので参照を。「女性版サガン」という形容も。
ただ、キャラクターだけではない。なかなかトップレースでの勝利には恵まれないが、その鋭いアタックは常に最強のクライマーの集う場所に彼女を連れていく。今年もストラーデビアンケ5位、トロフェオ・アルフレッド・ビンダ9位、ロンド・ファン・フラーンデレン6位など。
ただ、とにかく、最後の勝負所の良い位置にはいるが、そこから先に抜け出すことができない。彼女のチームメートが常にその場にいないこともまた、苦しい理由だろう。
そのあたりを、覚醒しつつあるマルタ・カヴァッリがうまくカバーしてくれればいいのだが。あるいは、別チームに行ってしまう? 契約は今年まで。。。
グレース・ブラウン(オーストラリア、30歳)
ミッチェルトン・スコット&チーム・バイクエクスチェンジに在籍していたが、今年からFDJに。
彼女の脚質を一言で表すと「エスケープスペシャリスト」。とにかく隙を見つけて抜け出してはそのまま逃げ切っちゃう(あるいは捕まえられてしまう)印象が強く、昨年のブルッヘ~デパンヌの優勝や2年前のブラバンツペイルでの優勝もそのタイプだ。男子で言うとセーアン・クラーウアナスンやジャスパー・ストゥイヴェンのようなレイトアタックの名手って感じか?
その意味でカヴァッリやルドヴィクと同じ場面で活躍するタイプではないものの、その前段で飛び出して先行することで他チームのアシストを使いながら集団に残った彼女たちを有利にする、というコンビネーションなんかは期待できるかも。
派手な逃げ切り勝利でビッグレースの勝利にも期待したい。今年はジロ、そしてツールにも出場予定だ。
クララ・コッポーニ(フランス、23歳)
FDJ生え抜きの若きフランス人ルーラー/スプリンター。モビスター・チーム同様、外国勢に助けられている感のあるこのフランスチームにとっては、時代を担いうる期待の存在である。今年のオンループ・ヘットニュースブラッド5位、ル・サミン5位、ヘント~ウェヴェルヘム&ブルッヘ~デパンヌ10位。昨年のザ・ウィメンズ・ツアーでも(総合優勝のフォレリングには結構大きい差をつけられてはいるが)総合3位。
基本的にはスプリントに強いタイプなので、クラシックでもそれこそヘント~ウェヴェルヘムやブルッヘ~デパンヌのようなスプリンターズクラシック向け。成長途上の逸材である。
エヴィタ・ムジッチ(フランス、23歳)
こちらもFDJ生え抜き。2020年のジロ・ローザの後半ステージで毎回終盤アタックを続ける中、最終日第9ステージでついに勝利。その後も安定した強さを見せ続け、先日のリエージュ~バストーニュ~リエージュでもコル・ドゥ・ロジエ前に新たに形成された8名の逃げの中に加わる。最終的にも20位と、かなり健闘していた。現フランスエリートロード王者でもある。
FDJが「セシリーだけ」のチームではなくなり、チームとしての総合力を上げていく流れの中での重要な存在である。
Canyon//SRAM Racing (ドイツ)
読み:キャニオンスラム・レーシング
略号:CSR
創設年:2016年
使用機材:キャニオン
GM:ロニー・ラウケ(ドイツ)
その名の通りバイクメーカーのキャニオンとコンポーネントメーカーのスラムがスポンサーに名を連ねる。登録はドイツだが、11か国からメンバーが集まり、ウェアブランドはロンドン拠点のRaphaが担当実際には今年から担当はしなくなったようだが、Rapha主審のデザイナーが担当? 国際色豊かな女子オリジナルチームである。
カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、28歳)
クライマー、165㎝、2024年まで契約
主な戦績
アムステルゴールドレース優勝(2019)
トロフェオ・アルフレッド・ビンダ優勝(2018)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位(2021)
ストラーデビアンケ2位×2(2016, 2017, 2018)
世界選手権ロードレース3位(2021)
チームの顔と言ってよい存在。同じポーランド人のミハウ・クフィアトコフスキに似て、ステージレースもクラシックも、登り主体であればなんでも強い。ロンド・ファン・フラーンデレンでも上位に入れる実力の持ち主だ。
世界ランキングでも何度もTOP10に入っており、フォレリング、ロンゴボルギーニらと肩を並べ、フォスやファンフルーテンに挑めるだけの才能の持ち主である。
だが、チームは2018年からキャニオン一筋。2024年まで契約も結んでおり、チームも離さない思いを持ち、また彼女自身も、オランダ人やイタリア人が強い勢力を持っているチームへと行くつもりはないのかもしれない。
「常に上位」で終わるのか。それとも。今年初開催の女子版ツール・ド・フランスにも出場予定。2019年以来遠ざかっている勝利を、輝かしい舞台にて掴み取りたいところ。
エリーズ・シャベイ(スイス、29歳)
まだ大きな勝利はない。これまでは主に逃げに乗る姿が基本だった。
だが昨年からその実力をめきめきと伸ばしつつあり、昨年はブエルタ・ア・ブルゴスで一時総合リーダージャージを身に着ける。ロンド・ファン・ドレンテでも残り14㎞の最後の勝負所に飛び乗り、勝ち逃げ集団の中で4位に入り込むことまではできた。少しずつ、エース的なポジションを掴み取れるようになってきた。
今年はパリ~ルーベで4位。素晴らしい成績であり、より重要な役回りを任されていくことになるだろう。
アリス・バーンズ(イギリス、27歳)
チームのエーススプリンター。Uno-X所属のハンナ・バーンズは2歳年上の姉で、共にスプリンターとして活躍している。
上位には入ってポイントは稼いではいるが、勝ち星はまだまだ少ない。まずは小さなレースからでもいいので、しっかりと勝利を稼いでいきたいところ。
ソラヤ・パラディン(イタリア、29歳)
今年のトロフェオ・アルフレッド・ビンダで3位、昨年のアムステルゴールドレースでは5位、2年前のリエージュ~バストーニュ~リエージュでは4位。丘陵系レースでよく上位に入れるパンチャータイプの実力者。今年からキャニオンスラム入りし、ニエウィアドマの相棒となることが期待される。
サラ・ロイ(オーストラリア、36歳)
昨年まではバイクエクスチェンジに所属していたベテランスプリンター。役割としてはアリス・バーンズに近い。ちゃんとは見られていないので不明だが、今年のブロアイゾーン・フリースラント・ツアー(旧ヘルシー・エイジングツアー)ではアリス・バーンズの発射台の役割を務めていた様子?
実力者同士のトレインで、ロレーナ・ウィーベスやクロエ・ホスキングらトップスプリンターたちを打ち負かせるか。
リサ・クライン(ドイツ、26歳)
リサ・ブレナウアーと並ぶドイツの最強TTスペシャリストの一角。昨年の世界選手権ミックスドリレー・チームタイムトライアルでは、トニー・マルティンに有終の美となる金メダルを掴ませる貢献を果たして見せた。
TTでの勝利以外としては、バーンズ、ロイのための高速牽引などか。2019年にはブールス・レディース・ツアーで、エイミー・ピータースとエリザベス・ダイグナン、アマンダ・スプラットとの小集団スプリントを制していたりもするので、同じように果敢な抜け出しからのチャンスを狙ってほしい。
シャリ・ボサイト(ベルギー、22歳)
U23育成系チーム、NXTGレーシング*3出身。今年ル・サミンで9位、ドワースドール・フラーンデレンで8位など、ベルギークラシックとの相性が非常に高い。
ブロアイゾーン・フリースラント・ツアー(旧ヘルシー・エイジング・ツアー)では初日TTで11位と好成績を出し、そのまま総合10位・新人賞獲得。TT能力も高いことから、チームのトレインやリードアウトトレインの一員としての活躍も期待できそうだ。
クロエ・ダイガード(アメリカ、25歳)
2019年の世界選手権個人タイムトライアルにおいて、わずか22歳でアネミエク・ファンフルーテンとアンナ・ファンデルブレッヘンを打ち破って優勝して見せた稀代の才能。その後、当然注目を浴び続けていたが、翌年の2020年世界選手権TTの下りでコースアウトし、骨折だけならまだしも、大腿部から膝まで続く大きな傷を負うこととなってしまった。
そこから彼女はレースに戻り、昨年の東京オリンピックトラックレースでは、チームパーシュートでアメリカ代表メンバーに選ばれ、銅メダルを手に入れるだけの活躍を果たせたものの、この春、彼女は今度は伝染性単核球症を患うという不幸に見舞われた。
現時点ではいつ彼女が復帰するかは分からない。また、復帰してなおもかつてのようなパフォーマンスを取り戻せるかは。
それでもわくわくするような走りを見せてくれた彼女が、再び何らかの形で自転車の世界に戻ってきてくれることを願っている。
Team DSM(オランダ)
読み:チーム・ディーエスエム
略号:DSM
創設年:2011年
使用機材:スコット
GM:イワン・スペケンブリンク(オランダ)
女子チームとしては歴史が古く、男子チーム同様「スキル」「アルゴス」「シマノ」「ジャイアント」らと共にしてきた。
女子ロード界最強のピュアスプリンター、ロレーナ・ウィーベスを始めとした強豪選手たちに恵まれ、強さにおいては男子チームよりも上と言えるだろう。
とはいえ今年の4勝はまだすべてウィーベスの手によるもの。リアヌ・リッパートやジュリエット・ラブーなど、若き才能のさらなる進化が待たれる。
ロレーナ・ウィーベス(オランダ、23歳)
スプリンター、171㎝、2024年まで契約
主な戦績
ロンド・ファン・ドレンテ優勝×2(2021, 2022)
プルデンシャル・ライドロンドン・クラシック優勝(2019)
AGドリダース・ブルッヘ~デパンヌ優勝(2020)
スヘルデプライス優勝×2(2021, 2022)
女子ロード界最強のピュアスプリンター。2019年にはマリアンヌ・フォスもアネミエク・ファンフルーテンも押しのけて世界ランキング1位にも輝くほど圧倒的だった。当時は20歳だよ?
ただその後は、エマセシル・ノースガードなどの台頭もあり、やや影を潜めたか?と感じる瞬間があった。いやそれでも2021年も13勝しているけれど。
だが、今年ここまで、あまりにも圧倒的な強さを見せている。3/12から3/16にかけての、ワールドツアークラスのロンド・ファン・ドレンテ含む3レースを3連勝。しかもその勝ち方がエグい。ロンド・ファン・ドレンテとノケレ・コールスではそれぞれ2位のエリザ・バルサモとロッタ・コペッキーに1秒差をつけているのだが、これは別に逃げ切りとかではない。いずれも、普通にスプリントしたらあまりにも強すぎてバルサモやコペッキーらを突き放して実質独走勝利のような形でフィニッシュに突っ込んできたのである。
今年あまりにも調子のよいバルサモやコペッキーを相手取ってのそれである。今年のウィーベスは、これまでもものすごく強かったが、今年はそれ以上に、頭一つ二つ抜け出た強さなのかもしれない。果たしてどうなるのか・・・今年出場予定の第1回女子版ツール・ド・フランスがおそろしい。
リアヌ・リッパート(ドイツ、24歳)
2020シーズンに強烈な飛躍を遂げた若手ドイツ人ライダー。年初のツアー・ダウンアンダーで総合2位、カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースでも優勝し、ウィメンズ・ワールドツアーの総合リーダージャージを着て中断期間へと突入した。
シーズン後半もラ・フレーシュ・ワロンヌ8位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ10位、そしてイモラの世界選手権ロードレースでは5位。
単純な逃げ足の強いルーラータイプではなく、登りや丘陵もある程度いけるオールラウンダータイプとして、将来の成長が大きく嘱望される存在となった。その年の世界ランキングでは7位。
2021シーズン、2022シーズンにおいてはそのときほどの活躍はまだ見せられていないが、それでもしっかりと成績は出し続けている。今回のアルデンヌ・クラシックでも、アムステルゴールドレース3位・ラ・フレーシュ・ワロンヌ7位と上々。今夜のリエージュ~バストーニュ~リエージュでは果たしてどうなるか・・・。
ジュリエット・ラブー(フランス、24歳)
こちらもまだまだ非常に若い選手。昨年の世界選手権個人タイムトライアルでは6位。東京オリンピックでも9位。それでいてジロ・デ・イタリア・ドンナでは山岳個人TTで6位のほか、普通の山岳ステージでもしっかりと上位に食い込んで採取的には総合7位。登りもTTもいける真正オールラウンダーとして、女子フランス人若手最大の有望株と言えるかもしれない。
まだまだ飛躍しうる存在。今後もしっかりと追っていく価値のある選手だ。
ファイファー・ゲオルギ(イギリス、22歳)
昨年の国内選手権ロード王者。もちろんエリートで。今年はドワースドール・フラーンデレン4位やパリ~ルーベ9位など。昨年のロンド・ファン・ドレンテでも6位なので、クラシック系スプリントに強いタイプ。
今年のロンド・ファン・ドレンテやGPウーティゲンではウィーベスのアシストを務めたのかな? 彼女もまた、将来有望な選手だ。
シャーロット・クール(オランダ、23歳)
U23育成系チームNXTGレーシングからの昇格組。そのNXTGレーシングに所属していた昨年にすでにプロ2勝しているが、いずれもエリーザ・バルサモに競り勝っており、その才能が極めて高いことは証明されている。
注目の選手である。
UAEチーム・ADQ(アラブ首長国連邦)
読み:ユーエーイー・チーム・エーディーキュー
略号:UAD
創設年:2011年
使用機材:コルナゴ
GM:ルーベンス・ベルトリアティ(スイス)
2021シーズンまではアレ・BTCリュブリャナと知られていたチームを買収して成立させた。UAEチーム・エミレーツの女子チームとして見て良いだろう。なお、ADQはアブダビ首長国の政府系投資ファンドであり、UAEマネーががっつり入り込んでいることが良く分かる。
今のところはマルタ・バスティアネッリやマビ・ガルシアを中心とし、そこまで強豪チームというわけではない。ただ、ランプレ・メリダを買い取ってUAEチーム・エミレーツとして数年かけて今の地位にまでゆっくりと登り詰めたこの組織が、数年後にSDワークスらと肩を並べる最強チームを創り上げていても不思議ではないだろう。
とりあえず今年の移籍市場での動きが気になるところ。
マルタ・バスティアネッリ(イタリア、35歳)
2018年ヘント~ウェヴェルヘム覇者であり、2019年ロンド・ファン・フラーンデレン覇者。2007にはロード世界王者にも輝いている大ベテランである。
今年もヘント~ウェヴェルヘム6位、ドワースドール・フラーンデレン5位、ロンド・ファン・フラーンデレン10位など、実力の高さを見せつけている・・・が、やはり彼女だけで世界トップレースの第一線で勝ち負けを競うエースとなるのは難しいだろう。
むしろ彼女の経験をこれからの次代を担う若手たちに継承していってほしいところ。UAEチーム・エミレーツ黎明期のルイ・コスタのような。
マビ・ガルシア(スペイン、38歳)
現スペインロード王者であり、間違いなくスペイン国内最強の女子ライダーである。アネミエク・ファンフルーテンやアンナ・ファンデルブレッヘンらオランダの女王たちにも果敢に挑み続けてきた。
そんな彼女ももう40が近い。今年もアムステルゴールドレース6位やラ・フレーシュ・ワロンヌ5位と健闘しているが、バスティアネッリ同様、後世に託していきたいところ。託されるスペイン人ライダーの有望株がなかなか出てこないのが残念ではあるが・・・。
ソフィア・ベルティッツォーロ(イタリア、25歳)
そんな、「託される」存在の1人がこのベルティッツォーロかもしれない。昨年まではリヴ・レーシング所属。2019年にはロンド・ファン・フラーンデレンで4位に入っている実力者で、今年もトロフェオ・アルフレッド・ビンダで2位。さすがにバルサモのスプリントには緩和なかったが、ソラヤ・パラディンやシャンタル・ブラークら強敵らを蹴散らしての力強いスプリントだった。
ピュアスプリンターではなくどちらかというと丘陵系のパンチャータイプ。バスティアネッリの後を継ぐ存在になれるか。
その他の注目選手
キアラ・コンソンニ(イタリア、23歳)
UCIコンチネンタルチームのヴァルカー&トラベルサービス所属のイタリア人スプリンター。まだ今年で23歳と若いが、現在急成長中の逸材である。今年はドワースドール・フラーンデレンでエリーズ・シャベイやファイファー・ゲオルギらを打ち破って勝利。一応来年まで契約は残っているが、トレック・セガフレードとかに入ったら面白いと思うのだが。
コフィディス所属のスプリンター/トラックレーサーのシモーネ・コンソンニは実兄。
スザンヌ・アンデルセン(ノルウェー、24歳)
女子ロードではワールドツアー入りしているUno-Xプロサイクリングチーム所属のノルウェー人。男子ではすでにかなりのプレゼンスを誇っているノルウェー人だが、女子界ではその筆頭を担うことになるのがこの若きスプリンターとなりそうだ。
2017年にはわずか18歳で世界選手権ロードレースエリートカテゴリで7位。その後、チーム・サンウェブに移籍してワールドツアーカテゴリでしばらく過ごすがそこではあまり芽が出なかった。今年からこのノルウェーチームに加入したことで、さらなる覚醒を果たせるか。
レティツィア・ボルゲージ(イタリア、24歳)
2019年ジロ・ローザ第4ステージを20歳で勝利。その名を轟かせたが、翌2020年はそこまで大きくは飛翔せず。
だが、2021年に今度はジロ・デッレミリアで6位になるなど再びその実力の高さを示し始め、今年、新たにEFエデュケーションがタイトルスポンサーとなりワールドツアーチームに昇格したEFエデュケーションTIBCO・SVBに移籍。ノケレ・コールスやシュヘルデプライスでシングルリザルトを記録するなど、再び成長の兆しを見せ始めている。
ルーラー・スプリンタータイプ。
シルヴィア・ザナルディ(イタリア、22歳)
昨年のヨーロッパ選手権U23カテゴリの覇者。エヴィタ・ムジッチやカタブランカ・ヴァスなどのエリートで活躍する実力者たちを下して勝利した。
所属チームはUCIコンチネンタルチームのビーピンク(Bepink)で、まだまだロードのトップレースでは頭角を現してはいないが、昨年のトラックレースJr/U23欧州選手権においては個人追い抜き・団体追い抜き・ポイントレースの3つで金メダルを獲得。エリートのオムニアムや団体追い抜きでも活躍するなど、ロードレースとの親和性の高い中距離種目で着実に成績を上げていることから、今後十分に注目すべき逸材であることは間違いない。
ルビー・ローズマン=ガノン(オーストラリア、24歳)
今年チーム・バイクエクスチェンジ・ジャイコに移籍してプロデビュー。まだまだUCIレースでの活躍はそこまででもないが、すでに国内シリーズ戦は制覇しており、ツアー・ダウンアンダー代替レースであるサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングでは、2021年にポイント賞、そして今年は2位→2位→1位と続け最終的に総合優勝。国内クリテリウム選手権も制し、非UCIレースのベイ・サイクリング・クラシックも全2ステージを完全制覇するなど、国内では敵なしの強さを誇っている。国内選手権エリートでも4位だ。
あとは、ヨーロッパの地でどれだけ成績を出せるか。ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでは初日スプリントステージでバルサモに次ぐ2位は記録しているが、以後はまだそこまででもない。
なお、トラックレースにも参戦し、先日のネイションズカップではマディソンで6位などの成績を残している。
ヤラ・カステライン(オランダ、25歳)
シクロクロッサーとして有名で、3大シリーズ戦のシングルリザルトも連発している強豪選手。エリート初年度の2019-2020シーズンではいきなり欧州選手権を制したり、スーパープレスティージュで総合2位・DVVトロフェーで総合3位など、最強国オランダの次を担う存在として期待されていた。
最近はその舞台ではマノン・バッカーやアニーク・ファンアルフェン、インゲ・ファンデルヘイデンなどのさらに若い世代の実力者たちに突き上げを食らっているイメージがあるが、逆にロードレースで徐々に才能が開花し始めている。所属チームはUCIコンチネンタルチームのPlantur-Puraというチームではあるが、今年のフレーシュ・ワロンヌでは9位。単純なルーラー力ではなく、登坂力がついてきているのは魅力的だ。
グライドさん情報として、ラボバンク女子チーム最終年の獲得選手であり、マリアンヌ・フォスの薫陶も直接受けているという。期待のオランダ人「クライマー」となれるか。
ゾーイ・バックステット(イギリス、18歳)
Side by Side Radioの中でも紹介されていた、今後来る若手ライダーたちの中でも最大の有望株。2004年パリ~ルーベ覇者マニュス・バックステットの娘だが、すでに彼以上の存在になると噂されている。何しろ、昨年の世界選手権ジュニアロードカテゴリにて、まさに圧勝して見せたのだから。しかも、周りのほとんどは18歳、ジュニアカテゴリ最終年の選手たちばかりだった中で、彼女は17歳で勝利を掴んだのだから。
そして今年のシクロクロス世界選手権でも、ジュニアカテゴリで圧勝。早くも2枚目のアルカンシェルを手に入れることとなる。
男子レースでも驚異の若手の波が押し寄せ続けている昨今だが、女子レースではある意味それ以上に、ロレーナ・ウィーベス、カタブランカ・ヴァス、そしてこのバックステットなど、エリートに余裕で張り合う才能が続々と出現してくる。
彼女たちが一堂に会したときに、どんな劇的なドラマが待ち受けているのか。女子ロード界は新たなステージへと突入しようとしている。
梶原悠未(日本、25歳)
言うまでもない日本自転車界の至宝。2020年には日本人として「中距離種目」における史上初の世界王者となり、東京オリンピックでも自転車種目としては快挙となる銀メダルを掴み取った、今最も注目すべき日本人自転車選手の1人である。
先日のグラスゴーで行われた今年最初のトラックネイションズカップ(旧ワールドカップ)でも当たり前のようにオムニアム種目で優勝。
その中距離種目での活躍から、ロードレースにも期待を持ちたいところで、現在は自転車発展途上国の有力選手たちを集める「ワールドサイクリングセンター選抜チーム」の一員として走っており、3月にはスイスで開催された「Grand Prix Crevoisier」というレースで11名の小集団スプリントを制して勝利している。
今後、ロードにどれだけ注力するかはわからない。まずはパリ五輪での金メダルが最大の目標であるだろうし、将来的には競輪ももちろん選択肢に入ることだろう。
まずはじっくりと、その活躍を引き続き見守っていきたい。
トラックレースでは男子でも期待され続けてきた今村駿介(今年24歳)が同じネイションズカップのマディソンで2位になるなど、世界で通用する実力がつきつつあるのも楽しみだ。
以上、つたないながらも、自分なりに調べたこと、知っていることをまとめてみた。
参考にしていただければ幸いだが、間違いや言うべきなのに言えてないことなどあればぜひ遠慮なく指摘していただきたい。
引き続き、男子のみならず女子ロードも盛り上げていく助力ができれば嬉しいものである。
スポンサーリンク
*1:'The girls who were still there can blame themselves': Annemiek van Vleuten critical of team-mates at World Championships | Cycling Weekly
*2:Ashleigh Moolman Pasio launches eSports team funded by membership model | Cycling Weekly
*3:グライドさんからの情報で、チーム発足時のプレスリリースによると、NXTGが「Next Generation in Cycling」の略で、GにはGirls/Gread Education/Geniusesの意味も含むとのこと。