りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2022 全チームランキング&レビュー(11位~1位)

※以下の記事はナイロ・キンタナの成績剥奪前の情報となります。ご了承ください。

 

前回に続き、ツール・ド・フランス2022の全チームの獲得UCIポイント順で見たランキングおよび簡単なレビューを載せていく。

今回は「成功」側の11チーム。いつものチームもいれば、昨年と比べて大きく飛躍したチームも。基本的には総合順位と連動しているパターンも多いが、そうでない部分も含め、あらゆる「活躍」を客観的に確認できるランキングに仕上がっている。

 

今年のツールの「主役たち」の走りを振り返っていこう!

 

Youtube・Podcastでも全ステージのレビューを行っております!

youtu.be

 

目次

 

22位~12位はこちらから

www.ringsride.work

 

全ステージレビュー記事はこちらから

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2022 第1週 - りんぐすらいど

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2022 第2週 - りんぐすらいど

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2022 第3週 - りんぐすらいど

 

スポンサーリンク

 

 

第11位 EFエデュケーション・イージーポスト 365pt.

2019年 10位 395pt.

2020年 10位 485pt.

2021年 11位 400pt.

逃げ一覧

  • マウヌス・コルト(第2・3・4・5・10ステージ)
  • ニールソン・パウレス(第5・12・14・16ステージ)
  • リゴベルト・ウラン(第9・14・17ステージ)
  • アルベルト・ベッティオル(第10・14・18ステージ)
  • ヨナス・ルッチ(第11・18・21ステージ)
  • シュテファン・ビッセガー(第16・21ステージ)
  • オウェイン・ドゥール(第21ステージ)

 

毎年安定してこの位置に居続ける逆に珍しいチーム。UCIチームランキングや勝利数ランキングでも10位前後のことが結構多い。ザ・中堅というべきか。

ただ、チームのマインド通りともいうべき、「楽しませる」走りは徹底している。決してグランツール総合で安定して活躍する選手や、完璧なトレインでスプリントを制することは多くないものの、全選手がアグレッシブに逃げに乗り、その筆頭たるコルトも、昨年のブエルタ3勝に続き今大会も前半に山岳賞で沸かせ、中盤ではステージ勝利で沸かせてくれた。

Embed from Getty Images

 

その意味では昨年のクラシカ・サンセバスティアン覇者ニールソン・パウレスも結構頑張っており、一時はマイヨ・ジョーヌ着用のチャンスもあったが・・・これは叶わず(Podcast前編を参照)。

ほか、ビッセガーも得意の個人タイムトライアルで2回とも不運に見舞われるなど、メンバー全員そのポテンシャルをすべて発揮できたわけではないため、来年もまた楽しみである。

ところで、いまだにエステバン・チャベスが出場できなかったことが納得できない・・・ブエルタでは頑張ってほしい。

 

 

第10位 チームDSM 430pt.

2019年 17位 155pt.

2020年 8位 565pt.

2021年 20位 45pt.

逃げ一覧

  • アンドレアス・レクネスンド(第10・17・18ステージ)
  • ニルス・エークホフ(第16ステージ)
  • ロマン・バルデ(第17ステージ)
  • クリス・ハミルトン(第17ステージ)
  • アルベルト・ダイネーゼ(第18ステージ)

 

チームとしてはかなり苦しい状態であることは変わらずとも、ロマン・バルデの総合TOP10への返り咲きによって大きくポイントを稼いだ。バルデにとっては本当にこのチームとの出会いはプラスに働いているようなので、それは嬉しい限り。

ほか、ジロ・デ・イタリアで1勝して上昇気流に乗りつつあるダイネーゼは今回は3位が最上位。ツールの勝利への壁は本当に遥かに高いため、3位でも十分すぎる成績。今後が楽しみ。

前哨戦ツール・ド・スイスで逃げ切り勝利している今最も注目すべきDSMライダーのレクネスンドはツールでの引き続きの勝利は叶わなかったが、総合28位は喜ぶべき成績。今年まだ23歳の若手であり、DSMの次代のエースとして期待をかけたいところだが・・・まずは来年いっぱいまでのチームとの契約が無事更新されることを祈るばかりである。

 

 

第9位 アルペシン・ドゥクーニンク 435pt.

2021年 8位 675pt.

逃げ一覧

  • クリスティアン・ズバラーリ(第10ステージ)
  • マチュー・ファンデルプール(第11ステージ)
  • ギヨーム・ファンケイルスブルク(第11ステージ)

 

昨年ツールで衝撃的なデビューを飾り、今年のジロ・デ・イタリアでもひたすら暴れ回ったファンデルプールは、さすがに春のクラシックからジロを経ての連戦は限界だったのか、初日TTでしばらくホットシートに座っていた以外ではほぼ見せ場がなかった。それでも第11ステージのアクチュアルスタートからワウト・ファンアールトと共に逃げに乗るなど、最後まで「魅せる」走りをし続けてくれたその心意気は勝利とは別の価値を見せつけてくれた。

そして、このチームがファンデルプールだけのチームではないことをジャスパー・フィリプセンが証明してくれた。都合4回しか集団スプリントのチャンスがなかった今大会。その中で2勝をして、昨年は2位が3回・3位が3回だったところを、しっかりと勝利にまで結びつけることができた。しかも、シャンゼリゼも。

もちろん、あまりにも激しい展開で最後は決して最強スプリンター決定戦とはなれなかった感じはある。最後のシャンゼリゼはフィリプセンが圧倒的過ぎて、シャンゼリゼでは見たことのないような差をつけてフルーネウェーヘンやクリストフを圧倒して勝利した。

Embed from Getty Images

 

メルリールもチームから去り、2023年もツールにエースで出場することはほぼ確定しているであろうフィリプセン。

ライバルたちが万全の状態でも再びこの強さを発揮することができるか。

長く続くスプリンター戦国時代への終止符を打つ選手となれるか。

 

 

第8位 アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ 470pt.

2021年 17位 110pt.

逃げ一覧

  • タコ・ファンデルホールン(第5・19ステージ)
  • コービー・ホーセンス(第9・12ステージ)
  • ゲオルク・ツィマーマン(第10・17ステージ)
  • ルイス・メインチェス(第12・14ステージ)
  • スヴェンエリック・ビストラム(第2ステージ)

 

昨年は半分プロチームのような顔ぶれで、シーズン前半をひたすら苦しんでいたこのチームが、1年経ってまさかツールでこの位置に立つことになるとは。

まずはルイス・メインチェスの総合8位への返り咲き。2016年・2017年もそれぞれ総合8位であり、これで3回目の総合8位。逆に凄い。

メインチェスは昨年の時点で復活の兆しを見せていたが、それが単年の奇跡で終わることなく、翌年も、しかもツールという大舞台で結実させるとは思いもしなかった。この復活は偶然ではなく、必然となっていくことが期待できる。

そしてそれはファンデルホールンも同じ。昨年のジロ・デ・イタリアでの勝利はまさに驚愕であったが、その後も継続して勝利をこのチームにもたらし、今大会も第5ステージ、あのパリ~ルーベステージでの勝利が本当にごくあとわずかというところにまで迫っていた。最後のあのスプリントは非常に強力だった。相手がサイモン・クラークという大ベテランでなければ・・。

だがまだ勝利は得られず。来年はクリストフがいなくなる代わりにテウニッセンやルイ・コスタが加入することがすでに決まっており、ビニヤム・ギルマイの参戦も期待できる。来年こそはツールでの勝利を掴み取りたい。

 

 

第7位 チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ 480pt.

2019年 7位 595pt.

2020年 9位 490pt.

2021年 15位 270pt.

逃げ一覧

  • ニック・シュルツ(第10・18ステージ)
  • ルーク・ダーブリッジ(第7ステージ)
  • ジャック・バウアー(第10ステージ)
  • マイケル・マシューズ(第14ステージ)
  • ディラン・フルーネウェーヘン(第18ステージ)

 

今大会はサイモン・イェーツもルーカス・ハミルトンも出場せず、完全にステージ優勝のみを狙った体制で参戦。このチームのそういう体制は2015年以来である*1

そして、結果は大成功と言ってよいだろう。今年新加入のフルーネウェーヘンがしっかりと勝利をもぎ取り、さらに出戻りしてきたマイケル・マシューズが、5年ぶりのツール・ド・フランス優勝。しかも、あのマンドの激坂で、一度はアルベルト・ベッティオルに抜かれながらも、まさかのそこからの「抜き返し」で。

強く、そして新しい、鮮烈なる勝利であった。

Embed from Getty Images

 

決して最強ではない。エステバン・チャベスやアダム&サイモンが絶好調だった2016年~2017年頃の華々しさはないかもしれない。

だが、これこそが「原点」。それこそ、All for one と称されたこのチームの。

そして来年はクリス・ハーパーやフィリッポ・ザナなど、頼れるクライマーたちが加入してくることもあり、またその原点から一歩先へと進んでいくことも期待できそうだ。

 

 

第6位 チーム・アルケア・サムシック 495pt.

2019年 15位 175pt.

2020年 18位 165pt.

2021年 16位 145pt.

逃げ一覧

  • ワレン・バルギル(第9・11ステージ)
  • マティス・ルーヴェル(第12・18ステージ)
  • コナー・スウィフト(第10ステージ)
  • ユーゴ・オフステテール(第10ステージ)
  • マキシム・ブエ(第16ステージ)
  • ルーカス・オウシアン(第16ステージ)
  • アモリー・カピオ(第18ステージ)

 

ついに、ナイロ・キンタナがここまで登り詰めてきた。今年はツール・ド・ラ・プロヴァンスで総合優勝したりパリ~ニースで総合5位になったりとシーズン序盤から絶好調だったが、同様に好調のようだった2020年も中断期間を挟んでからがくっと失速していただけに、今回も正直不安だった。

確かにヨナス・ヴィンゲゴーやタデイ・ポガチャル、ゲラント・トーマスといった3強からは圧倒的に突き放されていた。第11ステージは惜しかったものの結局はステージ勝利もなく、かつてクリス・フルームを唯一倒しうる男と称された世界最強候補にしては決して満足できる結果ではないだろう。だが、アルケア・サムシックとしても、求め続けた結果の一つをついに手に入れることができた。

そしてこの後は、実に3年ぶりとなるブエルタ・ア・エスパーニャ出場が待っている。得意のスペインの難関山岳を舞台に、さらなる華を咲かせてくれることに期待してもよさそうだ。

キンタナ以外の選手はそこまで目立った活躍はできなかったものの、ポイントこそ得られなかったがユーゴ・オフステテールはシングルリザルトが4回。2年前の初出場ツールでも同じく4回で今回と違い最高順位が4位ということでそのときよりは成績は落ちたものの、世界トップクラスのスプリンター決戦場で引き続き安定した力を見せることはできた。さらなる飛躍が期待される。

 

 

第5位 ボーラ・ハンスグローエ 630pt.

2019年 5位 1070pt.

2020年 12位 395pt.

2021年 5位 495pt.

逃げ一覧

  • ニルス・ポリッツ(第9・11・15・18・19ステージ)
  • マクシミリアン・シャフマン(第7・11・18・21ステージ)
  • パトリック・コンラッド(第9・14・17・18ステージ)
  • レナード・ケムナ(第7・10・14ステージ)
  • フェリックス・グロスシャートナー(第14・16ステージ)
  • アレクサンドル・ウラソフ(第16ステージ)

 

ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナとツール・ド・ロマンディを総合優勝し、前哨戦ツール・ド・スイスも最後の最後でリタイアを喫したものの直前までは総合リーダージャージを着るなど、キャリアハイの成績を叩き出していた今シーズンのアレクサンドル・ウラソフ。今回のツールも、総合表彰台を狙いうると期待されていた。

中盤のアルプス2連戦で大きくタイムを失ってしまったのが痛かったが、そこから何とか復調。最終週ピレネー連戦できっちりと実力を見せつけ、さらには今年急成長しているTT能力を第20ステージで遺憾なく発揮し、逆転総合5位に。

ここからの進化も期待できる、オールラウンダーとしての大成を感じさせる3週間となった。あとは安定感をいかに発揮できるかだ。

Embed from Getty Images

 

自慢の逃げスペシャリストも積極性を発揮。昨年優勝したコンラッドもポリッツも、いつ勝ってもおかしくない実力者シャフマンもひたすら逃げて、逃げて、逃げまくった。毎年勝ってもおかしくない今や世界最強の山岳エスケーパーであるレナード・ケムナも第7ステージのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユであと一歩だったが・・・あれはあの激坂があまりにも凶悪過ぎたのと、ポガチャルとヴィンゲゴーが無慈悲すぎた。

そしてサム・ベネットの代役であり――実際今シーズンの走りをみるに確実にサム・ベネット以上の実力を持っていた——ダニー・ファンポッペルの、期待通りの上位入賞。

勝ちこそ拾えなかったものの各メンバーがきっちりとポイントを稼いでいったことで好成績での5位となった。

これでこの4年間で3回目の5位。プロコンチネンタルチームから昇格してまだ5年、そして当時の中心であったペテル・サガンもラファウ・マイカもいない中でのこの成績は恐るべきものである。

いつまでも5位のままではいられない。そのさらに上を目指すべく、来年は総合表彰台を目指したいところだ。

 

 

第4位 グルパマFDJ 1015pt.

2019年 8位 420pt.

2020年 17位 165pt.

2021年 14位 300pt.

逃げ一覧

  • ティボー・ピノ(第9・14・17ステージ)
  • シュテファン・クン(第13・14ステージ)
  • ヴァロンタン・マデュアス(第16・18ステージ)
  • オリヴィエ・ルガック(第16・21ステージ)
  • マイケル・ストーラー(第16ステージ)
  • アントワーヌ・デュシェーヌ(第21ステージ)

 

まずはダヴィド・ゴデュの大成功。これまでティボー・ピノの後継者と目されながらも、なかなかTOP10にも入れず苦戦していた彼が、今回はまさかの総合4位。タイム差で言えばTOP3には大きく離されて13分39秒差ではあるものの、5位のアレクサンドル・ウラソフにも2分以上のタイム差をつけており相対的には十分な実力を保持。ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ(第7ステージ)、グラノン峠(第11ステージ)、ペイラギュード(第17ステージ)、オタカム(第18ステージ)といった重要ステージではすべて7位以内ではフィニッシュしており、歴とした強さを発揮し続けた結果だ。相変わらずTTは弱点ではあるが、それを補って余りある登坂力だった。

今後、引き続きチームの総合エースとして、さらなる進化を期待し続けていきたい。来年でもまだ27歳であり、総合ライダーとしてのピークはまだ先だ。

Embed from Getty Images

 

さらに、今回このチームが大成功だったと言えるのは、ゴデュの躍進だけではない。同じく未来の総合エース候補と目されながらも思ったほど伸ばし切れていなかったヴァロンタン・マデュアスが総合11位。ゴデュと同世代であり、ゴデュと共にここまで成長しつづけてきた男であり、今後も彼の右腕としての活躍に期待していきたい。

そして、ティボー・ピノ。前哨戦ツール・ド・スイスでもステージ勝利するなど復活の兆しを見せていた彼は、今大会も勝利には届かなかったものの積極的な逃げや追走で惜しいところにまで迫っていた。第9ステージのシャテル、第14ステージのマンドではいずれも、逃げ切り勝利したボブ・ユンゲルスやマイケル・マシューズらをほぼ単独で追撃するような立場だっただけに、タイミングなどがかみ合えば勝利の可能性はありそうだった。最後の超級山岳第18ステージでもダニエル・マルティネスと共に最終盤まで逃げ続けるが、ここはワウト・ファンアールトの怪物的な走りに惨敗。ただその後しっかりとエースであり後輩のゴデュのアシストに尽力するなど、美しいシーンも見ることができた。

結果、総合15位でのフィニッシュは十分に成功と言っていいだろう。これからも少しずつマイペースに、その力を取り戻していってほしい。

 

そういった成功の影で、残念な結果となってしまったのはシュテファン・クン。今年は春のクラシックでは好成績を残し続けており調子は悪くなかったと思うが、得意のTTではいずれもTOP10にも入れない不調具合を見せてしまった。

2020年の世界選手権TTでは3位。昨年も5位。世界の頂点こそが彼の一つの到達点。その栄光に向けて、さらにその刃を磨き続けてほしい。

 

 

第3位 イネオス・グレナディアーズ 1265pt.

2019年 1位 2115pt.

2020年 11位 445pt.

2021年 6位 835pt.

逃げ一覧

  • ディラン・ファンバーレ(第10・17・18ステージ)
  • ダニエル・マルティネス(第14・16・18ステージ)
  • ヨナタン・カストロビエホ(第9・17ステージ)
  • フィリッポ・ガンナ(第10・13ステージ)
  • トム・ピドコック(第12ステージ)
  • ルーク・ロウ(第18ステージ)


エガン・ベルナルもリチャル・カラパスもいない中で、どれだけ2強に食らいつけるか、厳しい見立てもあった。アレクサンドル・ウラソフや前哨戦では強さを見せていたベン・オコーナーらを相手取って、3番目の座も守り切れるとは断定できる状況ではなかった。

だが、すでにキャリアも終盤に差し掛かっていると思われていた元ツール覇者ゲラント・トーマスの、安定した強さを思い知ることとなった3週間であった。

アタックはほぼなかった。もしかしたら第18ステージで互いににらみ合うタデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴーとの間隙を縫って飛び出したあの1回だけだったかもしれない。それ以外ではひたすら、この2人の怪物のやり取りにじっと貼りつき、アタックには無理に反応せず、マイペースで追い付くという走りをやり続けた。「区間4位が4回、5位が1回」というそのリザルトは、彼の今大会での圧倒的安定界のある走りを象徴する。

結果、2位ポガチャルにも5分近いタイム差をつけられながらも、4位以下にも大差(6分以上)をつけて総合表彰台を確保。プロ17年目の36歳としては素晴らしい成績を残すこととなった。

 

とはいえ、彼がこの後再びツールを制することができるか?と言われればやはり難しいと言わざるを得ないだろう。

一方で、その可能性を感じさせる走りを見せたのが若きトム・ピドコックだ。シクロクロスやマウンテンバイク、あるいはアルデンヌ・クラシックでのワウト・ファンアールトと渡り合う活躍などが目立ってはいるが、元々2020年のU23版ジロ・デ・イタリアでは区間3勝の総合優勝。2位のアンリ・ファンデナベーレに2分25秒差、3位のケヴィン・コレオーニに5分54秒差をつけての圧勝であった。

ゆえに、ファンアールトやファンデルプールらシクロクロッサーたちの中では最もグランツールに向いた男と目されていたが、今回のツールでの走りはそれをまさに裏付けるような結果となった。第12ステージのアルプ・デュエズでは一人飛び出し、ルイス・メインチェスやクリス・フルーム、ニールソン・パウレスやジュリオ・チッコーネらを突き放し、4年前のゲラント・トーマスに続くラルプ・デュエズの英国人連覇を成し遂げた。

Embed from Getty Images

 

その活躍もあって一時総合8位にまで浮上したものの、アルプスではやや失速し、最終的には総合17位。

だがまだ23歳の超若手。2020年代の中心的人物となることは間違いないだろう。

 

 

第2位 UAEチーム・エミレーツ 1540pt.

2019年 13位 235pt.

2020年 2位 1770pt.

2021年 1位 1930pt.

逃げ一覧

  • ブランドン・マクナルティ(第9・16ステージ)
  • ヴェーガルスターケ・ラエンゲン(第7ステージ)
  • マルク・ソレル(第14ステージ)

 

ある意味で今年のツール・ド・フランスの主役であり、最も3週間を面白くさせた男とも言える、タデイ・ポガチャル。

そのチームとしての戦略は昨年と変わらないものであっただろう。前半はポガチャルが自らの力でしっかりとタイムを稼ぎ、後半にピークを持って行ったアシストたちがそれを守り切る、という戦略。

www.ringsride.work

 

だが、第1週目でポガチャルは思ったほどのタイム差を、ライバルたるヨナス・ヴィンゲゴーにつけることができないまま終わった。第9ステージのラストのスプリントなどは、その焦りの表れだったのかもしれない。

そして、第11ステージ。ガリビエ峠での波状攻撃もすべて抑え込み、最後のグラノン峠の登り口時点では余裕さすら見せていたポガチャル。

しかし、これだけひたすら攻撃を仕掛け続けられるというのは彼にとっても初めての経験であり、未知の領域であった。ゆえに彼も、その後の失速はまったく予想できていなかったのだろう。

 

それでも、彼は戦意を失うことなく、ひたすらアタックを繰り出し続けた。後半で予定通りブランドン・マクナルティやミッケル・ビョーグらがコンディションを上げてきたものの、まさかのトラブルでラファウ・マイカやマルク・ソレルらを失うピンチの中でも、最後の最後、第18ステージでも諦めることなく何度も何度もアタックを繰り出し続けた。

最後はそれで落車の憂き目に遭うものの、王者という座に胡坐をかくことなく、最後まで挑戦し続けたその姿勢は、ただ強いだけではないこの男の魅力を心底感じさせることとなった。

Embed from Getty Images

 

今回の敗北は彼にとっても、そしてチームにとっても、決して損失だけではないだろう。この敗北を糧にして、更なる進化を。そして、2020年代の本当の最強を巡る争いを、改めてリスタートすべきときだ。

 

あとは、改めて「チームの強さ」も感じられた。第11ステージのポガチャル陥落の時も最後まで牽引し続けていたラファウ・マイカの強さはもちろん、ブランドン・マクナルティも昨年同様3週目にコンディションを上げてきて、第17ステージのペイラギュードでは、彼独りの走りでユンボ・ヴィズマのアシストをすべて引き剥がすほどであった。

さらに同じく第17ステージの道中のミッケル・ビョーグ。そもそもこの時点でアシストがマクナルティと彼とヒルシの3名だけとなっておりそのヒルシも今大会圧倒的にコンディションが悪くほとんど役に立てなかった中で、このビョーグが残り56㎞地点から残り28.5㎞地点までひたすら先頭を牽き続けていた。もちろん、途中に2級山岳ウルケット・ダンシザンの登りも挟んでいる決して簡単ではない道のりだ。

今年はすでにUAEツアーなどでも登りの前半でのアシストなどが光っていたビョーグ。TTスペシャリストとしてはU23時代の世界選手権3連覇の勢いと比してエリートカテゴリではそこまで目立てていないものの、この山岳もいける超高速アシスト力がより磨かれることになると、ポガチャルにとってこの上なく頼りになる存在となるだろう。

マイカもマクナルティもビョーグも2024年まで契約が残っており、今回の敗北の経験も踏まえ、よりこのチームはポガチャル一人ではなくチームとして挑戦し続ける体制を構築していくだろう。

2023年も実に楽しみだ。

 

 

第1位 ユンボ・ヴィズマ 2860pt.

2019年 3位 1490pt.

2020年 1位 2280pt.

2021年 2位 1665pt.

逃げ一覧

  • ワウト・ファンアールト(第6・9・11・15・16・18ステージ)
  • クリストフ・ラポルト(第10・11ステージ)
  • ネイサン・ファンフーイドンク(第16ステージ)
  • ティシュ・ベノート(第18ステージ)

 

第11ステージのあの戦いは、今シーズン1番の名勝負であったと共に、それこそ2018年ジロ第19ステージに並ぶような、ここ数年の中でも特筆すべき名レースであったように思う。

すなわち、難攻不落の「最強」タデイ・ポガチャルに対し、ヨナス・ヴィンゲゴーとプリモシュ・ログリッチという「ダブルエース」でひたすら波状攻撃を繰り返し続けたあの瞬間。その瞬間こそはポガチャルを崩すことはできなかったが、そのダメージは彼自身も知らぬ間に彼を蝕んでいた。そして、最後の5㎞。最後の最後まで力を尽くしてくれたログリッチの想いを受け継ぐかのように飛び出したヴィンゲゴーのアタックに、ついに最強は陥落した。

この勝利はヨナス・ヴィンゲゴーの勝利であると共に、「誰よりも不屈な男」プリモシュ・ログリッチと共に掴んだ勝利であった。

Embed from Getty Images

 

そのあとも彼はチームと共に戦い続けた。ログリッチは落車で負った怪我に限界を感じ途中リタイア。同時にステフェン・クライスヴァイクも落車によってレースを去るが、山岳最強の登坂アシスト力を見せるセップ・クスや、マイヨ・ヴェールを着ながら一流クライマーたちを振り落とす驚異の走りを見せるワウト・ファンアールトと前待ちで活躍したティシュ・ベノート。

彼らの存在を信じて、最後まで冷静に、油断することなくポガチャルのアタックを抑え込み続けたヨナス・ヴィンゲゴー。

あまりにもチームの指示を遂行し続けた末に、最後の最後のTTで少し色気を出してしまった結果があの落車寸前のオーバーライドだったかもしれないが、それも無事に乗り越えて最後は安全にフィニッシュ。

フィニッシュ地点で待ち構えていたワウト・ファンアールトの涙こそが、このチームが最強ポガチャルを倒すためにチームとして奮闘し続けたことの証であった。

Embed from Getty Images

 

その「チーム」としての在り方は、第19ステージのクリストフ・ラポルトによる今大会唯一のフランス人勝利の瞬間にも表れている。

逃げ切りの恐れがあった最後の瞬間、ファンアールトがラポルトのために全力で集団を牽引。その結果、ラポルト自身の見事な判断力も相まって、彼にとっても信じられない栄光の瞬間を掴み取ることができた。

 

そのファンアールトはそもそも、第5ステージの石畳ステージでも、メカトラで遅れていたヴィンゲゴーを引き上げてポガチャルとのタイム差を最小限に抑える働きもしたし、第11ステージで一度遅れていたログリッチらを一気に先頭集団にまで引き上げる働きもしたし、最後の超級山岳となる第18ステージでは自らの牽引でタデイ・ポガチャルを振り落としすらした。

そのうえで第4ステージの「実質平坦ステージでの終盤アタックから逃げ切り」といった前代未聞の勝ち方もしてみせた。

Embed from Getty Images

 

そしてこの第4ステージでは、その最後の飛び出しを実現させるアシストをしてみせた「ユンボ・ヴィズマ版ドリス・デヴェナインス」ネイサン・ファンフーイドンクとティシュ・ベノートのアシストも忘れてはならない。

彼らは北のクラシックにおいても、ファンアールトのためのどこよりも強いアシストをしてみせてくれていた。

ユンボ・ヴィズマは今回のツールのみならず、シーズンを通して最強チームであることを証明して見せたのである。

 

 

では来年はどうなるのか? ポガチャルにとっても初めての経験の中で失った勝利であったが、今回の敗北を糧に、彼と彼のチームとはより盤石な体制を整えて来年は挑戦者としてツールに乗り込むであろう。今回と同じ走りをするだけでは、ユンボ・ヴィズマは決して楽には勝たせてくれないであろう。

「まだどうなるかわからない」を常に感じさせてくれた今年のツール。そして、それは来年以降についても同様だ。

継続して「挑戦者」として来年も戦い続けてほしい。きっとまた、進化した面白さを感じさせてくれるに違いない。

Embed from Getty Images

 

スポンサーリンク

 

 

22位~12位はこちらから

www.ringsride.work

 

最新移籍情報はこちらから

www.ringsride.work

*1:2015年はアダム・イェーツもサイモン・イェーツも出場していたが当時はまだ総合系の選手ではなく、実際に最上位がアダム・イェーツの総合50位であった。

スポンサーリンク