昨年に続き、新型コロナウイルス(Covid-19)流行により中止となってしまったツアー・ダウンアンダーの代替レース「サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング」。
その男子レース初日となった今日、元EFエデュケーション・NIPPO、今年からチーム・ブリッジレーンの一員として走るジェームズ・ウェーラン(オーストラリア、25歳)が、20㎞に及ぶ独走の末に後続に1分23秒差をつけて圧勝した。
同じように独走をしかけたものの最後は21歳の若手ルーク・プラップに追い抜かれた、1週間前の国内選手権ロードレースでの敗北への早すぎる「リベンジ」の達成。
そしてそれは、3年間過ごしたワールドツアーチームからの「降格」を余儀なくされたことに対する「リベンジ」でもあった。
これぞロードレース。
ジェームズ・ウェーランのこれまでと、そして今シーズンもまたドラマティックな展開を数多く生み出してくれることを予感させるような、素晴らしい開幕レースとなったこのサントス・フェスティバル・オブ・サイクリング第1ステージを振り返っていこう。
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才能と失望と奮起
ジェームズ・ウェーランは1996年7月11日にビクトリア州メルボルンで生を享ける。
2018年(2017年とも)にはルーク・プラップも昨年まで所属していたアマチュアチーム、インフォーム・ティネッリ(現インフォーム・TMXメイク)に属し、U23版ロンド・ファン・フラーンデレンで優勝するなど才能を見せつけていた。
マックス・カンター、ロバート・スタナード、マルク・ヒルシなどの現在では皆ワールドツアー入りしている強豪選手たちを押しのけてU23最強クラシックライダーであることを証明したウェーランはそのまま、EFエデュケーション・チームの育成チームとトレーニーを経て2019年にEFエデュケーション・ファーストでプロデビューを果たすこととなった。
しかし、その後はなかなか芽が出ず。
2020年のレース中断期間に開催された「デジタル・スイス5」では初日にローハン・デニス、ニコラス・ロッシュに次ぐ3位に入り込む驚きの走りを見せてくれてはいたが、現実のレースでは1勝もしないまま3年目に突入。
デジタル・スイス5でのジェームズ・ウェーランについては以下のPodcastの12:52~で言及。
そして今年、彼はついに契約更新を許されず、オーストラリアのコンチネンタルチームであるブリッジレーンへの事実上の「降格」を喫することとなった。
だが、それで諦める男ではなかった。
今シーズン最初のUCIラインレースと言っても良い、オーストラリア国内選手権ロードレース。
昨年も最終盤、ラスト1㎞を過ぎたところで突然後続の集団から飛び出してきて先頭を奪い取りあわや逆転優勝というチャンスを掴みかけたこのレースで、今年もまた、彼は非常に強い走りを見せつけていた。
ワールドツアーチームのジャージを脱ぎ、コンチネンタルチームの一員として走る初日となったこの日、彼は絞り込まれたメイン集団で終始積極的なアタックを繰り返していた。
そして残り33㎞。残り3周回を前にして、彼は鋭いアタックでついに集団から抜け出し、先頭で逃げていた選手たちもすべて追い抜いて、単独で先頭に立つこととなった。
ただ、残り30㎞超という距離は、一人で逃げるには少し長すぎたか。
やがて、残り30㎞を切ってから集団からあの男が抜け出してくる。
ルーク・プラップ。昨年のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングでウィランガ・ヒルにおける「最強の足」を見せつけ、そして国内選手権個人タイムトライアルでは20歳にしてルーク・ダーブリッジを打ち破りエリート王者の座を手に入れた才能の塊。
昨年のこの国内選手権ロードレースでは、残り50㎞とあまりにも早すぎるタイミングで飛び出してしまったがゆえに最後の勝負に絡むことのできなかったプラップは、今年、集団の中で静かに息を潜め続け、そして残り30㎞を切ったこの必勝のタイミングで、最強の独走力を見せつけるに至った。
そして残り9㎞。
最後のブニンヨン山の登りで、ついにウェーランはプラップに捉えられ、そしてそのままあっという間に突き放されてしまった。
Plapp catches, then overtakes Whelan!!!
— CyclingCentral (@CyclingCentral) January 16, 2022
Inside 9km to go and Plapp looks the goods for the green and gold!
Watch the men's race on @SBSOnDemand here: https://t.co/faKUk1AMYo#sbscycling #couchpeloton #RoadNats22 pic.twitter.com/tyxTIz70dW
そのままプラップはペースを落とすことなく、元いた集団に3分13秒差もつける圧倒的な逆転独走勝利を果たした。
ただ、それでもウェーランはそこから45秒遅れでフィニッシュラインに到達。
プラップに続いて集団から飛び出してきたブレンダン・ジョンストンにも追いつかれることなく、2位を死守してフィニッシュを迎えた。
「僕は今回2位だったけれど、ポディウムに乗ることも僕の夢ではあった。もちろん、勝つことが最大の夢ではあるけれども、まずは今、2位を獲ることができた」
「僕はまだワールドツアーに行くことを諦めてはいない。きっとこの走りは、そのための助けになるだろう」
だが、彼の「夢」は意外にも早く叶えられることとなる。
サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング第1ステージ
サントス・フェスティバル・オブ・サイクリングは、昨年のツアー・ダウンアンダーが新型コロナウイルスの流行により中止となった際に、その代替レースとして開催されたレースイベントである。
原則としてオーストラリア選手のみが出場し、国内唯一のワールドツアーチーム、バイクエクスチェンジが参戦するほか、リッチー・ポートやクリス・ハーパーなどの国外チーム所属のオージーライダーも特別チームを編成して参戦し、熱いレースが展開された。
今年も1月23日の女子レース開幕を皮切りに、3日間の女子レース、1日で行う男女クリテリウムレース、そして本日からの3日間の男子レースという7日間の日程で開催されている。
女子レースでは今年からチーム・バイクエクスチェンジ・ジャイコ入りした23歳のルビー・ローズマン=ガノンが総合優勝。今年の国内クリテリウム王者であり、年始の米・サイクリング・クラシックでも優勝、そして国内選手権ロードレースでも4位に入っている、バイクエクスチェンジ期待の新人である。
さらに女子クリテリウムでは同じバイクエクスチェンジのジョージア・ベイカーが優勝、男子クリテリウムでは今年のU23国内ロード王者に輝いたばかりの21歳の新鋭ブレイク・クイックが優勝している。
そんな中開催された男子ロードレースの1日目は、お馴染みスターリングからロべサルまでの114㎞。
普段は登りフィニッシュとして存在感を示すスターリングを含んだ周回コースは、長さの割に総獲得標高は1,800mと高めの数字で、決して簡単ではないアップダウンレイアウトであることが窺える。
最初に16名もの逃げが生まれ、メイン集団からはルーク・プラップとローハン・デニスが振り落とされるという波乱の展開の中、集団から昨年も初日ステージで大逃げ独走勝利、そのまま最終日まで総合首位の座を守り続けたルーク・ダーブリッジが飛び出す。
だがフィニッシュまで40㎞も残った状態で先頭に飛び出したダーブリッジはやがてメイン集団に引き戻されることになり、その集団も数を絞りバラバラに。
未だ後続集団にいたプラップもコースアウト仕掛けるなどうまくかみ合わない時間を過ごしている間に、残り20㎞を残して集団から飛び出したのがジェームズ・ウェーランであった。
「ルーク・プラップが集団に戻ったって聞いたとき、『(国内選手権の)デ・ジャヴかよ』と思ったものだったよ」
とのちに振り返っているウェーラン。
しかしこの日はその悪夢が繰り返されることなく、むしろタイム差は着実に開いていき、フィニッシュに辿り着いたとき彼は、2位以下の集団に1分23秒もの大差をつけることに成功していた。
「まだ実感が湧かない。表彰台に登れば湧くのかもしれないけれど・・・それにしても凄いレースだった。勝つことは常に意識してこれまでやってきたけれど、実際に勝って見ると、それは本当に特別な感情だって分かる」
これはUCI公式レースではないため、彼にとっての「プロ初勝利」ではまだ、ない。
しかし今年悔しい思いを味わいながらシーズンを開始し、そして諦めず前を向き続けようとしている男にとって、非常に手応えのある「勝利」となったのは間違いない。
ジェームズ・ウェーラン。
若き才能の1人であった男は、26歳となる今年、世界の舞台へと向けて再びギアを上げ始める。
なお、ウェーランはステージ序盤にメカトラブルによって遅れ、そこから集団に復帰するためにモーターペーシングを使用してしまったことによるペナルティとして1分のタイムペナルティを受けている。
よって、公式記録においては彼は「2位以下に23秒差」という記録となっており、総合争いにおいてもまだまだ逆転可能な接戦である。
最終日第3ステージにはお馴染みウィランガ・ヒルも待ち構えており、今年のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングの総合争いの行方はまだまだ、わからない。
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