りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

パリ~ルーベ2022(男女) コースプレビュー

Embed from Getty Images

Class:ワールドツアー

Country:フランス

Region:北フランス

First edition:1896年

Editions:119回

Date:4/17(日)

 

3年ぶりに春開催に戻ってきた「北の地獄」パリ~ルーベ。

昨年は久々の大雨の中でまさに地獄の様相を呈していたが、今年は今のところ晴れ予報。

昨年優勝者ソンニ・コルブレッリが不整脈による離脱中。ワウト・ファンアールトもCovid-19罹患からの復帰初戦と役者がすべて揃っているわけではないものの、絶好調のマチュー・ファンデルプールや好調のシュテファン・クン、そして直近のアルデンヌ・クラシック&ブラバンツペイルを連勝しクラシック戦線で存在感を示しつつあるイネオス・グレナディアーズなど、これまでとはまた違った面子による大混戦も期待できる今年の「クラシックの女王」。

 

その、注目すべきレースの重要セクションについて、過去のレースを振り返りながら紹介していこう。

最後の方では女子レースについても簡単にプレビューしていきます。

 

 

スポンサーリンク

 

  

コース全体について

今年のコースは全長257.2㎞。全部で30セクションの石畳(パヴェ)区間が用意され、その総距離は実に全行程の5分の1(54.8㎞)に達する。

但し、最初の100㎞は平穏な舗装路が続き、ここでライダーたちはしっかりとしたウォーミングアップを行っていくこととなる。

最初の石畳区間は残り160.9㎞地点に用意された第30セクター「トロワヴィル~インチ(全長2.2㎞、★★★)」から。

なお、セクターの数字は第30セクターから始まり進むごとに数字が減っていく形式であり、ここから30個の石畳セクションが始まるということになる。

そして各セクターに設けられた★の数は難易度を現し、最大で星5つの最難度パヴェが3つ登場する。

以下、その3つの5つ星パヴェを中心に、過去のレースでも重大な動きの巻き起こっている要注意区間を紹介していく。

 

 

残り103.5㎞「アヴルイ~ワレー」(★★★★)

第20セクター/全長2.5km

最初の5つ星パヴェ区間「アランベール」の直前に登場する、難易度の高い長めのパヴェ。

当然、アランベールに向けての位置取り争いも白熱し、2018年はここで、マッテオ・トレンティンとセバスティアン・ラングフェルドという2人の優勝候補が落車リタイアする憂き目に遭った。

マシュー・ヘイマンも何度もここでレースを失ったと告げる、隠れた重要セクションである。油断は禁物だ。

 

 

残り95.3㎞「トルエー=ド=アランベール」(★★★★★)

第19セクター/全長2.4㎞

フィニッシュまで残り100㎞を切って、いよいよ本格的なパリ~ルーベが開幕する。

その最初の洗礼となるのが、3つ存在する5つ星パヴェの1つ目、パリ~ルーベを象徴する「森の中のパヴェ」アランベールである。

f:id:SuzuTamaki:20220416134304j:plain

 

それはまさに「地獄の入り口」。

 

但し、誰もが警戒するポイントであり、かつゴールまで距離もあることから、ここで勝負を仕掛けようとする優勝候補はまずいない。

昨年は大雨の中、このアランベールでメイン集団が12名にまで絞り込まれるという事態にはなったものの、今年はとりあえず晴れということなので、そういった特異な事態にはならないだろう。

むしろここでは、「脱落しない」ことが重要である。

 

落車、パンク、あるいは道が狭いこともあり後方に取り残されてしまうと大きなタイムギャップが生まれ、たとえ先頭に戻ることができたとしても大きく力を使ってしまうことになる。

たとえば2014年には優勝候補でもあったアレクサンダー・クリストフがパンクによって戦線離脱。

2019年にはワウト・ファンアールトがパンク。その後集団に復帰するものの、チームメートとの連携トラブルや単独落車など不運が重なり、体力の浪費を招いて最後の「ガス欠」につながった。

 

この場所はあくまでも地獄の始まりに過ぎない。

だが、それは最初の波乱を巻き起こすには十分すぎる場所でもある。

 

 

「魔の20㎞」

残り71.6㎞「ティヨワ~サール=エ=ロジエール」(★★★★) 

第15セクター  全長2.4㎞

残り60.2㎞「オルシー」(★★★) 

第13セクター  全長1.7㎞

残り54.1㎞「オシー~ベルシー」(★★★★) 

第12セクター  全長2.7㎞

 

残り71.6㎞地点から始まる第15セクター「ティヨワ~サール=エ=ロジエール」から残り51.4㎞地点で終わる「オシー~ベルシー」が終わるまでの20㎞は、パヴェ区間だけではなく舗装路区間も含め、常にどこで決定的な動きが巻き起こるかわからない、油断ならない危険な区間である。

 

まずはティヨワ~サール=エ=ロジエール。ここでは2019年大会でその年のワンツーを獲ることとなるフィリップ・ジルベールとニルス・ポリッツの2人が抜け出した。

昨年大会ではマチュー・ファンデルポールが強烈なアタックを繰り出し、イヴ・ランパールトやワウト・ファンアールトを突き放してコルブレッリなどが待つ集団へとブリッジを架けた。

 

とくに危険なセクションが「オルシー」から「オシー~ベルシー」までの間の舗装路区間。2012年大会ではここでトム・ボーネンがアタックしてそのまま逃げ切り勝利。

2018年大会でもペテル・サガンがここで抜け出し、悲願のルーベ制覇を果たしている。

また、2019年大会でも同じくサガンがアタックし、そこにイヴ・ランパールト、ワウト・ファンアールト、セップ・ファンマルクといった優勝候補たちが食らいつき、次のモン=サン=ペヴェルでジルベールらに追い付いて「最終便」を形成した。

 

また、昨年大会の「オシー~ベルシー」では、ジャンニ・モスコンが先頭集団から抜け出して独走を開始。その後のパンクや落車がなければ、そのまま逃げ切ってしまってもおかしくないくらいの走りであった。

 

パリ~ルーベは5つ星区間で決まるとは限らない。

むしろ未舗装路区間ですらない場所ですら、決定的な動きが巻き起こるものである。

 

 

残り48.6km「モン=サン=ペヴェル」(★★★★★)

第11セクター/全長3km

大会2つ目の5つ星パヴェ区間。

およそこの辺りから、実力者による本格的なペースアップと、集団のセレクションがかかってくる。

 

2013年にはカンチェラーラが集団を一気に絞り込んだ。

2016年はここでヘイマンやボーネンなど最終グループの5人を含む7人が抜け出す形となった。

2018年も優勝候補級の6名が絞り込まれた(すでにサガンが独走を開始しており、追いつくことはなかったが)。

2019年は前述したように先行していたジルベールとポリッツにサガンら4名の優勝候補たちが追いついたポイントでもある。

 

また、石畳スペシャリストであっても落車を起こしてしまう波乱のポイントでもある。

2016年には衝撃のカンチェラーラ落車。すぐ後ろにいたサガンは驚異的なバイクコントロールで落車こそ免れるものの、先行されていた有力集団に追いつくことはできなくなってしまった。

2018年もクリストフとルーク・ロウが落車している。

良くも悪くも、レースの流れを決定づける重要ポイントと言えるだろう。

f:id:SuzuTamaki:20220416140629j:plain



残り39.2km「ポン=ティボ〜エンヌヴラン」(★★★)

第9セクター/全長1.4km

ここも決して難易度の高い区間ではないものの、いよいよ残り距離が短くなってくるため、勝負どころになることもしばしば。

2013年はファンデンベルフやファンマルクといった優勝候補が飛び出し、カンチェラーラが遅れる(のちに追い付いて逆転優勝してしまうが)。

2014年はサガンが飛び出して先頭集団に追い付き、のちに独走に入った。

 

残り30km台という距離は、クラシックにおいてはしばしば決定的な動きが巻き起こる区間でもある。

一般的にルーベは次の「カンファナン=ペヴェル」でこそ最終的なセレクションがかかりがちだが、油断しているとこのセクションで、勝者が決定付けられてしまうかもしれない。

逆にここで出遅れている選手たちには、逆転の目がなさそうだ。2019年のファンアーヴェルマートのように・・。

 

 

残り19.9km「カンファナン=ぺヴェル」(★★★★)

第5セクター/全長1.8km

最後の山場である「カルフール・ド・ラルブル」を前にして、それ単体では勝負を決めきれないと判断したスペシャリストたちによる積極的な攻撃が始まる。

2014年はカンチェラーラの執拗なペースアップにより、先行していたボーネングループが捕まえられる。

2016年はここで、最後の5名が形成された。

2017年はファンアーヴェルマートのためにダニエル・オスが強力な牽引を続け、後方に取り残されたトム・ボーネンとの距離を決して縮めることなく、エースの勝利に最大限の貢献をしてみせた。

2021年はマチュー・ファンデルプールがペースを上げ、先頭のモスコンとの距離を一気に縮めると共に、自身の集団をソンニ・コルブレッリ、ジャンニ・フェルメールシュの3人だけに絞り込ませる。

 

そして、これを抜ければすぐに、最後の関門が待ち構えている。

 

 

残り17.2km「カルフール・ド・ラルブル」(★★★★★)

第4セクター/全長2.1km

ここが最後の勝負所である。2017年はここで、ファンアーヴェルマート、スティバル、ラングフェルドという3名に絞り込まれた。

とはいえ、ここで「最終列車」が決まる、という展開はそう多くはない。この時点で独走、もしくは小集団がすでに決まっていれば、それは本当に強いメンバーであるため、後方から追いかけてくる集団が追い付くことはかなり難しくなるからである。

昨年大会も、この時点で先頭集団を形成していたファンデルプールとコルブレッリとフェルメールシュの3名がそのまま最後まで走り抜くこととなった。ファンデルプールもこのセクションで何度もアタックを繰り出そうとするが、コルブレッリはしっかりとそれに食らいつき、最後のチャンスを掴むこととなった。

f:id:SuzuTamaki:20220416144831j:plain

 

観客の盛り上がりも最高潮。それゆえにトラブルも起こりがち。

たとえば2013年には先頭に2人も送り込んでいたクイックステップの選手が次々と観客との接触に見舞われて脱落している。

どうしても道の端の石畳の少ない区間を走りたくなりがちだが、気をつけないと・・・。

 

 

ルーベの黄金の14㎞

最後の5つ星区間「カルフール・ド・ラルブル」を超えたあとは、もう難易度の高い石畳区間は登場しない。2つ星や1つ星など、石畳とはいえないレベルのものも登場してくる。

ただ、だからといってこの区間が何もないエリアというわけではない。むしろ、この何でもない低難易度パヴェや舗装路区間でこそ、本当に決定的な動きが起こることはよくある。


たとえば2019年は、この区間にある2つ星の石畳「グルソン」(残り14.9㎞、全長1.1㎞)で抜け出したポリッツにジルベールが食らいついた一方、そこまで常に積極的な動きを見せていたサガンの足が完全にストップしてしまった。

2015年は残り12㎞地点でファンアーヴェルマートとランパールトが抜け出し、ここにベルト・デバッカーが単独でブリッジ。そして、このデバッカーのチームメートであるジョン・デゲンコルプが合流したことによって、彼のこの年2つ目のモニュメント獲得への王手を打つこととなった。

 

一方で、ヘイマンが勝利を飾った2016年、ファンアーヴェルマートが勝利を飾った2017年なんかは、最後に絞り込まれた集団の中でスプリント勝負に持ち込みたくない選手たちがアタックを仕掛ける場面が頻発したが、いずれも決定的な抜け出しに繋がらなかった、ということもあった。

昨年大会も残り3.2㎞地点でフェルメールシュが勇気あるアタックを仕掛けるが、コルブレッリは牽制することなく自らこれを捕まえ、漁夫の利を得ることはできずに終わった。

 

独走で終わることの多いロンドとはまた違った、予想できない白熱した終盤戦を楽しめるこの14㎞こそが、本当の意味での「ルーベ」なのかもしれない。

私はここを勝手に「ルーベの黄金の14㎞」と呼んでいる。

 

 

そして、ラスト1㎞はヴェロドローム(トラック競技場)で繰り広げられる神経戦。

おそらく現存するロードレースにおいて唯一ヴェロドロームでフィニッシュするレースなのか?

その、他にはない独特なシチュエーション・・・バンクの上と下とに分かれ、上からの下りの勢いを利用してスプリントを仕掛けようとする選手とそれを見計らって最短距離で先行しようとする選手とのフィニッシュ直前の攻防は目を離せない。

もちろん、そこであまりにも牽制し過ぎれば後ろから猛烈な勢いで迫りくる追走集団に追いつかれる――世界で最も過酷な石畳レースのラストに繰り広げられるこの完璧に整備されたスムースな路面における純粋スプリント勝負は、単純なパワーだけでは推し量れない瞬間を演出してくれるだろう。

f:id:SuzuTamaki:20220416145508j:plain

 

 

昨年はフィニッシュ後、自転車を両手で掲げ絶叫していたコルブレッリ。

どんなトップライダーでも、その瞬間の歓喜は計り知れないものとなる、唯一無二かつ世界最高峰のレース、それがパリ~ルーベである。

 

今年、その栄光の「石畳のトロフィー」を手にするのは果たして、誰か。

f:id:SuzuTamaki:20220416152211j:plain

 

 

 

女子レースについて

昨年初開催となった女子版パリ~ルーベ、「パリ~ルーベ・ファム」。

女子においては例のないほどに過酷なレースであり、全く予想のつかない展開の中、まさかの「最初の石畳区間」で飛びだしたエリザベス・ダイグナンがそのまま独走勝利。

82.5㎞という、男子を含めた100年以上の歴史の中で最長の独走勝利を記録することとなった。

f:id:SuzuTamaki:20220416152713j:plain

 

この第1回を経て、より経験を重ねた精鋭選手たちが集う第2回、果たしてどんな展開になるのか。

全長は125㎞。残り82.4㎞地点で最初の石畳区間「オルネン~ヴァンディニー(3.7㎞、★★★★)」が登場。昨年はここでファンダイクが独走を開始した。

そこからはすべて男子と同じルートを辿り、石畳区間は全部で17セクション(全長29.2㎞。全体の4分の1!)。

すなわち、3つの5つ星パヴェ区間のうえ、レース展開に直接影響を及ぼしうる2つの5つ星パヴェ区間である「モン=サン=ペヴェル」と「カルフール・ド・ラルブル」の2つともそのまま使用される。

女子レースとしては圧倒的に厳しいレースであることは間違いなく、実力者だけが最後に生き残るのは必至だろう。

 

前述したようにファンダイクの独走であったことは確かだが、それでも残り20㎞を切ったところにある重要な勝負所「カンファナン=ペヴェル」でメイン集団からマリアンヌ・フォスがアタック。

唯一エリーザ・ロンゴボルギーニだけが食らいついたが、そのロンゴボルギーニも突き放して鬼気迫る勢いで先頭のファンダイクとのタイム差を詰めていった。

 

結局は元々ついていたタイム差が大きすぎて捕まえることはできなかったが、それでも女子ロード界最高のレジェンドたるフォスの強さを思い知らせる走りであった。

f:id:SuzuTamaki:20220416154319j:plain

 

 

今年はどんなレースが見られるのか。

女子も合わせて、注目していこう!

 

 

詳細なレースレポートはこちらから

note.com

 

スポンサーリンク

 

  

スポンサーリンク