りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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パリ〜ニース2022 コースプレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:フランス

Region:イル=ド=フランス地域圏~プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏

First edition:1993年

Editions:80回

Date:3/6(日)~3/13(日)

 

先週のオンループ・ヘットニュースブラッドでいよいよ開幕した春のクラシックシーズン。

それと並行して、ステージレースでもいよいよヨーロッパでのワールドツアー開幕戦として、この「太陽へと向かうレース」パリ~ニースと、「2つの海を結ぶレース」ティレーノ~アドリアティコとが開幕する。

今年はほぼ完全並行日程にて開催されるため忙しい1週間となりそうだが、今年のグランツールを占うこの1週間、しっかりと集中して見ていこう。

 

今回はそのうち、パリ~ニースの8日間のコースを完全解説。

スプリント、TT、山頂フィニッシュ、そして逆転の舞台とバランスよく配置されドラマティックなレースを期待できるステージ構成を確認していこう。

 

全チームスタートリスト&プレビューはこちら

www.ringsride.work

 

目次

 

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第1ステージ マント=ラ=ヴィル〜マント=ラ=ヴィル 159.8㎞(平坦)

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パリの西52㎞地点のところにある、人口およそ2万人の小さな町、マント==ラ=ヴィルを発着する。残り17.6㎞で一度フィニッシュラインを通過し、小周回へ。

 

実にパリ〜ニースらしく、序盤の平坦ステージでも割合でこぼこしている。

山岳ポイントは全部で4つ。ラスト6.9㎞に最後の登りが用意され、その登坂距離は1.2㎞、平均勾配は6%。

昨年の第1ステージも似たようなレイアウトだったが、とくにスプリンターたちの足を止めることはなく、最後はアルノー・デマールとの一騎打ちをサム・ベネットが制した。

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今年の初戦となったUAEツアーでは明確な力不足であったベネット。今大会で復活なるか?

また、逆にそのとき最強の発射台役を見せつけたダニー・ファンポッペルは引き続き強さを発揮できるか。

ファンポッペルの「前」を担うアシストがもう1枚いると良いのだが・・・ハラーとかポリッツが担うのか?

 

 

第2ステージ オウファルジ〜オルレアン 159.2㎞(平坦)

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パリ近郊からいよいよ「太陽」に向かって突き進む、例年通りの「移動ステージ」。例年通り、平穏に進めば何ら問題のない大集団スプリントステージである。

 

もちろん、平穏であれば。

そうでなく、激しい横風によって集団がバラバラになり、いきなり総合争いから脱落する選手が現れるのもまた、パリ〜ニース序盤平坦ステージの風物詩である。

同じくオルレアン近郊にフィニッシュした昨年は小さな横風分断などが途中にありながらも、最終的には致命的な遅れはなく、無事集団スプリントに終わってケース・ボルが金星勝利を挙げた。

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今年は初戦UAEツアーではアルベルト・ダイネーゼがエースを任されていたのか、ボルは全く結果を出せず。今回は果たして。

また、新たにチーム加入したジョン・デゲンコルプもいるため、ボルがエースを担うと確定したわけではなさそうだ。そのデゲンコルプ、10年前同じくこのオルレアンにフィニッシュしたパリ〜ニース2012第2ステージで3位に入っていたりもする(勝ったのはトム・ボーネン)。

いずれにせよ、今期まだ勝利のないDSM。なんとかこの苦境に風穴を開けることはできるか。

 

 

第3ステージ ビエルゾン〜デュン=ル=パレステル 191㎞(平坦)

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プロトンはさらに南下し、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏の町デュン=ル=パレステルへ。

前半はひたすら平坦だが、後半は中央山塊の香り漂うアップダウンレイアウトへ。

とはいえ、3つの3級山岳はいずれも登坂距離3㎞程度・平均勾配5%程度のゆるやかな登りで、最後の山頂からフィニッシュまでは20㎞以上残っている。

 

一応、その最後の3級山岳のあとにも「スプリントポイント」へと至る登りがあったり、フィニッシュ前5㎞ほどのところにカテゴリのついていない登りがあったりはするが、いずれもそこまでの難易度ではなく、結局ある程度のスプリンターたちが残ってくる可能性は十分にある。

 

ラスト2㎞も登り基調だが、平均勾配はおそらく3%程度。

ゆえに、結構予想が難しい。アルノー・デマールやサム・ベネット、ソンニ・コルブレッリは普通に戦えるだろうし、ファビオ・ヤコブセンも問題ないだろう。もちろん、ワウト・ファンアールトはその中でもとくに優勝候補になりうる男だ。

 

 

第4ステージ ドメラ〜モンリュソン 13.4㎞(個人TT)

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オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏の2つの町を繋ぐ個人タイムトライアル。モンリュソンの町は過去6回ツール・ド・フランスのフィニッシュに選ばれており、最も新しい記録が2008年のシルヴァン・シャヴァネルの勝利。そしてパリ〜ニースでもこれまで3回フィニッシュに選ばれており、最も新しいのが1997年のトム・スティールスによる勝利だ。

今回はもちろん、TTスペシャリストが優勝を競い合う。ただし、レイアウトは全体的にアップダウンが激しく、またラスト700mが平均勾配8.6%の激坂となっている。

昨年のこのパリ〜ニースのTTで勝利しているのはシュテファン・ビッセガー。今年もUAEツアーで好調のフィリッポ・ガンナを破り優勝するなどかなり調子は良い。そして、短距離かつ丘陵系という、ビッセガーの最も得意とするパターン・・・ワールドツアー2連勝、なるか。

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そんな彼のライバルとなりうるのがジョアン・アルメイダやブランドン・マクナルティ、昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ丘陵TTで優勝したアレクセイ・ルツェンコなど。

もちろん、元TT世界王者で今年の国内選手権TTを3年ぶりに優勝しているローハン・デニスにも注目。ガンナに続きこのデニスまで打ち破ることができれば、ビッセガーもいよいよ世界を獲る準備ができたと言えるだろう。

 

 

第5ステージ サン=ジュスト=サン=ランベール〜サン=ソヴァール=ド=モンタギュ 189㎞(中級山岳)

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中央山塊の只中、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏のロワール県からアルデシュ県へ。総獲得標高3,350mの、本格的な丘陵ステージである。

アクチュアルスタートから1時間もしないうちに1級山岳の登りが用意されているため、逃げ切り向きのレイアウトではある。前日の個人タイムトライアルで大きく遅れている選手とかはチャンスを拾えるかもしれない。少なくとも山岳賞争いは本格始動しそうだ。

ステージ優勝争いに最も影響を及ぼすのは、最後の1級山岳コル・ド・ラ・ミュル。登坂距離7.6㎞・平均勾配8.3%の、総合争いにも影響を及ぼしかねない本格的なクライマー向け登坂。

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その山頂からフィニッシュまでは33㎞も残っており、この登りで総合狙いのチームが無理をするか落ち着いていくか、なかなか予想が難しい。

一応、フィニッシュ地点では、総合狙いの選手とステージ狙いの選手とが入り混じってのスプリント決着となりそうだ。

ログリッチやファンアールト、アルメイダなんかがその典型になるだろうが、ソンニ・コルブレッリとかも普通に残ってそう。

 

 

第6ステージ クルテゾン〜オバーニュ 214㎞(丘陵)

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いよいよ南仏プロヴァンス地方へ。マルセイユ東20㎞の位置にあるオバーニュの街へと至る。

前日が総合争いも起きかねないステージであり、大きくタイムを失う選手も出てきているであろう。この日も序盤と終盤に登り。しかも終盤の登りは2級山岳で、登坂距離は10㎞を超えるが平均勾配は5%に達しない緩やかな登りということもあり、総合争いの舞台になる確率は前日よりぐっと下がり、実に理想的な逃げ切りステージになりそうだ。

 

今大会の逃げ切り候補生は?

昨年のブエルタで区間優勝し今年も調子の良さを見せているクレモン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン・チーム)、同じく今年すでにブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝しており昨年のツールの山岳賞争いでも活躍していたワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)、ザ・山岳エスケーパーのバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、逃げ切った時の最終スプリントにも強いビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、そしてもちろん、トーマス・デヘントやアレクセイ・ルツェンコなどのプロフェッショナル。

総合争いに絡んでなければ、この辺りの実力者たちは狙ってきそうだ。

 

より若い才能として期待したいのはUAEツアーでも高い登坂力を見せていたアンドレアス・レクネスンド(チームDSM)やツール・ド・ラ・プロヴァンス総合4位のマッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)、あるいはやや未知数なる才能フィン・フィッシャーブラック(UAEチーム・エミレーツ)なんかにも期待したいが、果たして。

 

 

第7ステージ ニース〜コル・ドゥ・テュリーニ 155.5㎞(山岳)

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パリ〜ニース恒例の第7ステージ山頂フィニッシュ。今年は2019年の第7ステージでダニエル・マルティネスがミゲルアンヘル・ロペスを破って勝利したテュリーニ峠(登坂距離14.9㎞、平均勾配7.3%)。

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このときは逃げ切りだったが、今年は総合優勝候補が決戦の舞台とするか、同じ様に総合争いから脱落したクライマー勢によるステージ勝利争いの舞台となるか。

3年前に登場したときと比べ道中の登坂の数が少ないことが、やや逃げ切りよりも総合勢による争いになりやすい要素と言えそうか。

 

そして、ここで総合優勝に王手をかける選手が出てくるわけだが、それが最終的に表彰台の頂点に立てるかどうかは全く分からないのがパリ~ニースの面白いところ。

そのドラマを生み出す最終ステージを見ていこう。

 

 

 

 

第8ステージ ニース〜ニース 116㎞(丘陵)

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定番のニーズ、「エズ峠」ステージ。

もちろん、直近の2年間は新型コロナウィルスの影響で走れなかったため、実に3年ぶりの登場である。

かつて、エズ峠は最終日山岳TTの舞台であったが、2014年に(おそらく)初めてラインレースでエズ峠を含んだ下りフィニッシュのレイアウトが用意された。

そして2016年・2017年はアルベルト・コンタドールによる大逆転作戦が建てられ、いずれも失敗に終わったが総合優勝者をわずか数秒差にまで追い詰めた。

2018年からはエズ峠の後に「キャトル・シュマン峠」が設けられ、同年はマルク・ソレルが見事に逆転総合優勝を達成。

今年は再び「エズ峠」が最後の勝負所として復活。果たして、再び大逆転劇の舞台となるかどうか。

昨年はエズ峠ではなかったが、それでもプリモシュ・ログリッチの「自滅」による逆転があっただけに、本当に最後の最後まで何が起きるか分からないのがこのパリ~ニースである。

 

そんなエズ峠のプロフィールは次の通り。

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登坂距離6㎞・平均勾配7.6%。

決して「超難易度」の登りではないが、8日間というシーズン序盤では最長のスケジュールの果てであり、前日のクイーンステージを越えたあとの最終日で1級含む4つの山岳ポイントをここまで越えてきた果ての最後の登りであることを考えると、やはり厳しい登りであることは間違いない。

 

そして、2016年と2017年のコンタドールによる大逆転挑戦劇は、このエズ峠だけでなくその前の1級山岳ペイユ峠(登坂距離6.6㎞・平均勾配6.8%)でのアタックから始まっている。

残り45㎞。普通なら勝負を仕掛けるには早すぎるこのペイユ峠で、アルベルト・コンタドールは2年連続で逆転を狙う挑戦を開始した。

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2016年は、このペイユ峠の登りで一度、総合首位ゲラント・トーマスを含むメイン集団と1分以上のタイム差をつける。

この飛び出しはその後、ニコラ・ロッシュやイアン・ボズウェル、ベン・スウィフトといった当時のスカイの名アシストたちの牽引によってエズ峠直前で吸収。

しかしその後始まったこのエズ峠にて、当時コンタドールのアシストであったラファウ・マイカが強力に牽引し、山頂まで残り1.5㎞の地点でコンタドールを放った。

そして、コンタドール、この日2度目の独走を開始。突き放されたトーマスは、その後セルヒオ・エナオの助けを借りてダウンヒルを突破し、わずか4秒差というギリギリで総合首位の座を守り切ることに成功する。

 

2017年もコンタドールはペイユ峠から勝負を仕掛けた。トレック・セガフレードに移籍していたコンタドールの今度のアシストはハルリンソン・パンタノ。このアシストを受けての発射で、コンタドールは総合首位セルヒオ・エナオを突き放し、逃げていた先頭集団に合流。

そのままこの年はスカイに追い付かれることなく40秒差でエズ峠に突入し、その山頂時点ではタイム差を1分にまで開いていた。

だが、結局この年もその後の下りでタイム差を縮められ、最終的にはわずか2秒差で逆転を逃す。

 

今年もこの最後の15㎞の下りが白熱の追走劇を生むのか。

 

次回は、そんな劇的なパリ~ニースに出場予定の選手たちの中から「注目選手」を紹介していこうと思う。

 

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