シーズン最初のモニュメント、ミラノ~サンレモは、一見して非常にシンプルなレースのようにも思える。
全長300㎞弱の超ロングステージながら、そのすべての戦いはラスト30㎞、特にその中でもラスト10㎞にほぼ集約される。最後の勝負所ポッジョ・ディ・サンレモでアタックしたパンチャーたちに対し、ピュアスプリンターを含む追走集団が全力で追走し、逃げ切りか、集団スプリントで決まる。
だが、そのはっきりとした勝負所の設定と、その難易度の「高すぎない、低すぎない」絶妙なバランス、そして世界最高峰のレースバリューによって、各チームは明確な戦略をもってこのレースに挑む。それは結果として、真正面からの勝負では到底勝つことのできない選手、チームによる様々な戦い方が試される舞台となり、毎年のようにドラマチックな展開が生まれる。
今年もまた、熱い戦いが演じられた。そしてそれは、例年以上に各チームの緻密な戦略によって描き出されたドラマであった。
今大会2大優勝候補であるユンボ・ヴィズマ、UAEチーム・エミレーツはどのような思惑で残り30㎞のレースを動かしたのか。
そしてその最後に勝利を掴んだ「あの男」とチームは、どのような戦略でもってレースに挑んだのか。
ラ・プリマヴェーラ、世界最高のスプリンターズクラシックの今年の展開を、各チームの戦略を分析しつつ解説していく。
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事前情報(注目チーム、コース)
今年のミラノ~サンレモも(レース展開に影響を及ぼさない中盤のトゥルキーノ峠の復活という要素はありつつも)ほぼ変化のないコースで開催された。
しかし、例年と違い、レース前に体調不良等によって、数多くの有力選手が未出走を選ぶこととなった。すなわち、昨年覇者ジャスパー・ストゥイヴェン、昨年2位カレブ・ユアン、2020年2位で2019年覇者のジュリアン・アラフィリップ、さらには昨シーズンから絶好調のソンニ・コルブレッリやサム・ベネットなど、錚々たる顔ぶれが欠場を表明した。
ゆえに、例年以上に誰が優勝するのか予想しづらい状況に。
その中でも、下記2チームがおそらくはレースの中心に立つことになるだろう、と考えられていた。
まずは、ユンボ・ヴィズマ。
2020年覇者ワウト・ファンアールトは今年も絶好調。むしろ例年以上の絶好調ぶりに、チームとしても彼をサポートする体制を強化。
クラシック開幕戦のオンループ・ヘットニュースブラッドでは、昨年のヘント~ウェヴェルヘムでファンアールトを勝たせたファンフーイドンクと新加入ティシュ・ベノートが力を発揮し、見事、優勝。
さらにパリ~ニースでも再びファンフーイドンクと、こちらも新加入のクリストフ・ラポルトによるラスト7㎞からの3級山岳での超牽引によってまさかの「ワンツースリーフィニッシュ」を実現。
今回のミラノ~サンレモも、このファンアールト&ラポルト&ログリッチ&ファンフーイドンク全てが揃い、さらに平坦牽引要員としてヨス・ファンエムデンとエドアルド・アッフィニ、新加入トッシュ・ファンデルサンドを揃えるという、完璧な布陣。
ワウト・ファンアールトによる絶対的勝利を狙った、これ以上ないくらいの本気の体制で挑むことができていた。
そしてもう1つの優勝候補チームがUAEチーム・エミレーツ。
潔いくらいにピュアスプリンターを連れてくることを諦め、最初からポガチャルを中心にチプレッサもしくはポッジョ・ディ・サンレモで勝負をすることを狙いにきた布陣。
今シーズン絶好調の若手コーヴィや2019年リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位のダヴィデ・フォルモロや世界最強パンチャーの1人ディエゴ・ウリッシなど勝ちを狙える選手も他にもいるため、彼らにポッジョ・ディ・サンレモで勝負させることを前提に、ポガチャルがチプレッサでアタックし、独走に持ち込んで逃げ切るという戦略もありえそうなイメージがあった。それは過去に前例の少ない高難易度の戦略ではあるが、あのストラーデ・ビアンケ50㎞独走勝利を果たしているポガチャルであれば、十分に選択肢に入りうる戦略であった。
いずれも、ピュアスプリンターで戦うという選択肢のない2チーム。
ユアンやコルブレッリが去る中で、この2チームがレースの中心に来るという時点で、今年のミラノ~サンレモが一筋縄ではいかないものになるだろうことは、容易に予想することができた。
コースについても再確認していこう。
今年のミラノ~サンレモは全長293㎞。中盤に3年ぶりにトゥルキーノ峠が復活しているものの、レースの展開に影響を及ぼすことはなく、勝負はやはりラスト50㎞を切ってから、とくに残り30㎞以降のチプレッサ&ポッジョ・ディ・サンレモの2大峠で繰り広げられることになるだろう。
残り27.2㎞から登り始めるチプレッサは、登坂距離5.6㎞、平均勾配4.1%、最大勾配9%。この先にあるポッジョ・ディ・サンレモよりもどのパラメータも上回る登りではあるが、山頂からフィニッシュまでもまだ20㎞以上残っており、ここで勝負が決まることはほとんどない。集団が絞られることもあるが、その先の9㎞の平坦路でその集団が再び膨れ上がることが往々である。
そして残り9.2㎞地点から登り始めるのがポッジョ・ディ・サンレモ。登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%という、登りとしては決して厳しいものではないものの、最後の集団スプリントに持ち込みたくないチームがここで全力牽引を敢行。
とくに山頂まで残り1㎞となるラスト6.5㎞前後に最大8%の激坂区間が登場。過去、たとえばジュリアン・アラフィリップなんかが、昨年・一昨年ともにここで加速して勝負を動かしている。
今年もここで、とくにUAEチーム・エミレーツなどが確実に動かしてくることが予想されていた。それに対し、これをコントロールしようとするユンボ・ヴィズマがどんな動きを見せていくか。あるいは、他チームからどんな「第3の伏兵」が現れてくるか。
そんな事前予想の中で、いよいよ今年のミラノ~サンレモが開幕した。
チプレッサでの動き
今年も、残り30㎞を切ったところから始まる最初の勝負所チプレッサまでは、そこまで大きくレースは動かず。
最初8名いた逃げもこの時点で残り4名にまで絞り込まれ、タイム差は2分41秒。飲み込まれるのは時間の問題であった。
波乱というべき点が1つあるとすれば、残り50㎞を切った段階で優勝候補の1人であったはずのトム・ピドコックが脱落したくらいか。それ以外は落車もなく平穏に過ぎていった。
そして、ついにチプレッサの登りが始まる。
その麓までの区間で、いよいよ熾烈な位置取り争いが始まる。まず、数を揃えて前に出てきたのは最大の優勝候補ファンアールトを抱えるユンボ・ヴィズマ。平坦番長のエドアルド・アッフィニやトッシュ・ファンデルサンドが、ネイサン・ファンフーイドンクらを後ろに従えながら加速していく。
そこに、本来のエースであるコルブレッリを欠いたバーレーン・ヴィクトリアスも、ジョナサン・ミランがダミアーノ・カルーゾを引き連れてポジションを上げていき、ほか、マチュー・ファンデルプールやジャスパー・フィリプセンなどを連れてきているアルペシン・フェニックスやミハウ・クフィアトコフスキをエースに据えるイネオス・グレナディアーズのルーク・ロウなどが前の方に。
だが、残り27.2㎞。チプレッサの登りが始まると同時に先頭に立ったのは、UAEチーム・エミレーツのオリヴィエロ・トロイア。一気に加速し、集団を縦に長く引き伸ばしていく。
やはりポガチャルはチプレッサにて早めのアタックを仕掛ける気なのか?
そうはさせじとすぐさまコントロールに動いたのがユンボ・ヴィズマ。ファンデルサンドを先頭に、後ろにファンフーイドンク、ファンアールト、ラポルトを従えて先頭に躍り出て、主導権を奪い返す。
UAEチーム・エミレーツも、今度は先日のトロフェオ・ライグエーリアで勝利しているヤン・ポランツが先頭を奪い取り、更なるペースアップ。
ユンボ・ヴィズマもファンデルサンドを失うも、ラポルト、ファンフーイドンクがファンアールトをきっちりと守りながら先頭付近のポジションを維持し続ける。
残り24㎞。
山頂まで3㎞を切ったあたりで、今度はダヴィデ・フォルモロが先頭を担う。
2019年リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位のアルデンヌ・クラシック最強格のパンチャーにより猛牽引でついにファンフーイドンクが脱落。
イネオス・グレナディアーズもミハウ・クフィアトコフスキただ一人になり、クイックステップもエース、ファビオ・ヤコブセンを失うなど、集団は一気に絞り込まれていく。
しばらく後方で待機していたプリモシュ・ログリッチも、この状況の中一気にポジションを上げていった。
だが、いずれにせよ、UAEチーム・エミレーツによるチプレッサでのポガチャル発射という事態は、ユンボ・ヴィズマのコントロールによって抑え込まれた。むしろ、UAEは次々とアシストを切り替えながら加速していった結果、チプレッサを終えた時点で先頭に残ったのはポガチャルとフォルモロ、そしてウリッシの3名だけに。
ユンボ・ヴィズマもラポルト、ファンアールト、ログリッチの3名。合計27名にまで縮小されたプロトンは、次なる勝負所ポッジョ・ディ・サンレモに向けての平坦路を突き進んでいくこととなる。
ポッジョ・ディ・サンレモでの動き
フィニッシュまで残り21.6㎞で山頂を越えるチプレッサ。そこから3.3㎞の下りを経て、残り18.3㎞から残り9.2㎞までの9.1㎞に渡る平坦路を突き進んだうえで最後の勝負所ポッジョ・ディ・サンレモへと至る。
昨年もこのチプレッサの登りで30名近くにまで絞り込まれたものの、ポッジョの麓では再びそれが80名近くにまで膨れ上がっており、例年このチプレッサ~ポッジョ間は一旦集団が落ち着くタイミングではあった。
しかし、UAEチーム・エミレーツはこの区間でもなお、フォルモロに先頭を牽引させたままペースを落とさない。フォルモロは完全に麓までで使い切るつもりのこのハイ・ペースで、例年であればある程度戻るはずの追走集団の姿はついぞ見ることなく、集団内は27名のまま突き進んでいく。
その中にUAEは3名。フォルモロはほぼ使い切る予定なので、ポッジョではウリッシとポガチャルの2枚だけとなる。ユンボ・ヴィズマはラポルトとログリッチとファンアールト。
その他はイバン・ガルシアとアレックス・アランブルの2枚が残るモビスター・チームやカンタン・パシェとアルノー・デマールが残るグルパマFDJのほかは、マイケル・マシューズ(バイクエクスチェンジ)、アントニー・テュルジス(トタルエナジーズ)、フロリアン・セネシャル(クイックステップ)、ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス)、マッス・ピーダスン(トレック)、ブノワ・コヌフロワ(AG2Rシトロエン)、ミケル・ヴァルグレン(EFエデュケーション)、ジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル)、セーアン・クラーウアナスン(DSM)、そしてマチュー・ファンデルプール(アルペシン)などが単独で残る。
その中で、ユンボ&UAEと共に3枚残せていた唯一のチームがバーレーン・ヴィクトリアス。ヤン・トラトニク、ダミアーノ・カルーゾ、そしてマテイ・モホリッチの3名がこの時点で27名の中に残っていた。
そして残り9.2㎞。
いよいよ、最後の勝負所、ポッジョ・ディ・サンレモが始まる。
まず勝負を仕掛けたのはユンボ・ヴィズマだった。すでにUAEはフォルモロも使い果たし、アシストは実質1枚。ここで先手を打ってこれを崩すことができるのはユンボの方だった。
パリ~ニースでもラスト7㎞からの3級山岳でファンアールトたちを一気に抜け出させたラポルトの超強力な加速。
UAEの唯一残ったアシストのディエゴ・ウリッシも、負けじとポガチャルを引き連れてラポルトの横に並ぶが、それをさらに凌駕するラポルトの加速は、一気に先頭を奪い取り、さらなるペースアップ。
これで一度、ウリッシが脱落しかける。
だが、その後再びギアを入れなおしたウリッシが、執念の再加速。
最後の力を振り絞り、ポガチャルを引き連れて先頭を奪い返し、この加速によってついにラポルトも脱落する。
だが、ウリッシも、これが限界だった。
残り8.2㎞。
タデイ・ポガチャルが、山頂まで残り3㎞近く残したかなり早いタイミングで、最初のアタックを繰り出す。
当然、これはすぐさまファンアールトが反応する。
一瞬、2人で抜け出しかけるが、これを見て4番手に立っていたマチュー・ファンデルプールが加速。一気に2人を引き戻す。
昨年の東京オリンピックマウンテンバイクでの落車以降、腰や背中に痛みを抱え、長期療養を余儀なくされていたファンデルプール。
春のクラシックも不安視されていた男が、今回のミラノ~サンレモで予定より早いタイミングでの戦線復帰。とはいえ、あまりにも急に決まった復帰初戦の今日は、あくまでも足慣らしでしかないと思われていた。
にも関わらず、この局面でチームで唯一生き残り、かつ決定的なポガチャルとファンアールトの抜け出しを引き戻す働きを見せた。やはりこの男は、異様である。
ファンデルプールの働きによって一度は落ち着いた集団先頭。
このアタックで、ポガチャルも不用意に足を使ってしまったか・・・と思っていた中で、残り7.7㎞。
ポガチャルの、2度目のアタック!
今度はファンアールトも反応が遅れるが、代わりにモビスター・チームのアレックス・アランブルが食らいつく。ファンアールトも後方で焦ることなく、マイペースに加速していきながら先頭2名に追い付いた。
だが、ポガチャルは止まらない。
残り7.4㎞。3度目のアタック!
だが、さすがに立て続けのアタックで彼のキレも失われつつあるのか、ファンアールトたちも問題なくこれについていく。
さらに残り7.1㎞で今度はログリッチがカウンターアタック。この状態で唯一先頭に2枚を残せているユンボ・ヴィズマならではの攻勢。だが、これもファンデルプールが引き戻しにかかる。
トップライダー同士の本気の撃ち合い。しかし、なかなか決まらない。
そうこうしているうちに、いよいよ運命の「山頂までラスト1㎞の最大勾配8%区間」がやってくる。
残り6.6㎞。山頂まで1.1㎞。
ここでポガチャルが4回目のアタック。しかしファンアールトもファンデルプールも引き離せない。ポガチャル、首を振る。
残り6.4㎞。この間隙をついて、今度はチームDSMのセーアン・クラーウアナスンがアタック!
昨年のミラノ~サンレモでも、ラスト1.5㎞で集団から飛び出し、先行していたジャスパー・ストゥイヴェンに追い付いた男。結局そのときはストゥイヴェンにいいように利用された挙句集団に飲み込まれてしまうが、2020年のツール・ド・フランスでも2勝している世界トップクラスのレイトアタッカーだ。
そして、この飛び出しにすぐさまポガチャルが単独で食らいついた。
300mにわたりダンシングを続け強烈な加速を見せるセーアン・クラーウアナスン。そこにぴったりと貼りつくポガチャル。
ファンアールトたちとのギャップが開いた。
だが、これでも決まらなかった。
結局、ファンアールトとファンデルプールは山頂までの間に先頭2人に食らいつき、ポッジョ・ディ・サンレモの下りではこの4名(クラーウアナスン、ポガチャル、ファンアールト、ファンデルプール)が先頭。
マイケル・マシューズが牽引する13名の追走集団とのタイム差は、山頂時点でわずか2秒差でしかなかった。
このまま、十数名の小集団でのスプリントで決まるのか?
勝負を決めた3.3㎞の「下り」
だが、今年のミラノ~サンレモの最も決定的な動きは、この次の瞬間に生まれる。
残り5.5㎞の山頂ラインを通過した直後、13名の追走集団の先頭にマテイ・モホリッチが躍り出る。
そのまま、かつて今や禁止されている「スーパータック」を生み出したダウンヒルスペシャリスト、モホリッチが加速を開始。
するとすぐさま、追走集団から抜け出したうえで、先頭を突き進む4名に追い付いたかと思えば、そのままその集団の先頭にも躍り出た。
そして、残り4.5㎞。
ヘアピンカーブの続く危険なダウンヒルセクションで、ついにモホリッチが単独で抜け出した!
マテイ・モホリッチ(TBV)の下りが速い!
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) March 19, 2022
溝落とし😱ご安全に🙏
Cycle*2022 ミラノ〜サンレモ🇮🇹
【Milano 〜 Sanremo】293.0km
〜J SPORTSオンデマンドでLIVE配信〜#MilanoSanremo #jspocycle pic.twitter.com/CXRG3gugI6
この、他の選手を遥かに圧倒するダウンヒルスピードの秘訣が、彼が取り入れた新技術ドロッパーシートポストにあるということを辻啓氏が以下のように解説してくれている。
曰く、マウンテンバイクですでに主流となっている機材であり、スイッチ一つでサドルの高さを50~100mmほど下げ、下りの安定性の向上と空力改善に驚くほど寄与する技術。
250gほどの重量を増してしまう同機構の採用はロードレース界では見送られてきていたが、今回、このポッジョからの下りが勝敗を分けると確信したモホリッチとチームが、トレーニング時からテストを繰り返し、この瞬間に懸けて取り入れたのである。
そしてその瞬間のために、チームも彼を助けるために動いた。
集団が一気に絞り込まれたチプレッサでは、その登りの終盤でダミアーノ・カルーゾがモホリッチを引き連れてポジションを上げる姿が見られていた。
ポッジョ・ディ・サンレモ突入時にも、バーレーンはUAE、ユンボと並んでアシストを2枚残していた。
そして最後のポッジョ・ディ・サンレモ山頂通過時点で、追走集団として形成された13名の後方にカルーゾとトラトニクが控えていたその姿は、ポッジョの登りの後半で彼らがモホリッチのポジションを守るために力を使っていたことを想像させた。
そうして掴み取ったダウンヒル区間でのモホリッチの「独走」。
みるみるうちにファンアールトらとのギャップを開いていき、ダウンヒルが終わる残り2.3㎞地点でそのタイム差は6~7秒差にまで開いていた。
その後も追走集団からはマチュー・ファンデルプールの加速やファンアールトの加速などが散発的に繰り広げられるが、結局、いつもの「ファンアールトへの牽制」が始まり、ペースは上がらない。
そしてモホリッチはそもそも、ダウンヒルだけじゃない、純粋な逃げスペシャリストでもある以上、もはや勝負は決まったも同然であった。
最後、集団からアントニー・テュルジスも単独で抜け出すことに成功するが、届かない。
残り50mで後ろを振り返って勝利を確信したモホリッチは、上体を上げ、両腕を2回力強く振り下ろし、胸元のスポンサーを強調しながらフィニッシュ。
そして最後は、両手を天に突き出した。
ピュアスプリントでは勝ち目のないポガチャルのために、2つの登りで主導権を奪い取りにかかったUAEチーム・エミレーツ。
これを抑え込み、ワウト・ファンアールトのための必勝態勢を作り上げようとしていくユンボ・ヴィズマ。
この2大優勝候補チームに対し、エースのコルブレッリを欠く中、ポッジョからの下りという一点での勝負に懸けてレース前から戦略的に準備してきたモホリッチと、彼を支えるべき働いたバーレーン・ヴィクトリアス。
最後は、そのバーレーンが勝利を掴み取った。そしてそれは、昨年から続く、このチームの「最強ではないけれど、誰もが勝てる」の継続を意味している。
バーレーン・ヴィクトリアス。今年もまた、このチームはロードレースシーズンを熱くしていきそうだ。
一方で、勝てはしなかったが、相変わらずラポルトやファンフーイドンクが良い働きをするユンボ・ヴィズマにも無限の期待がかかる。
このまま来るべきクラシックシーズンの「ホーリーウィーク」での栄光をついに掴み取ることができるか。
対するUAEチーム・エミレーツも、このホーリーウィークにタデイ・ポガチャルが参戦することがすでに決まっており、今回のミラノ~サンレモの、彼への期待の高さとその勝利に向けての執念の強さを感じ取っただけに、「まさか」を引き続き楽しみにしたい。
そして今年のクラシックでの完全復帰は絶望的と思っていたマチュー・ファンデルプールの、思いもよらない走り。やはりファンアールトの目の前には、最後にこの男が立ちふさがるのか。
今年のクラシックシーズンもまだ始まったばかり。そしてそれは、例年以上に熱く、盛り上がるものになりそうな予感をひしひしと感じている。
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