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2022シーズン 2月主要レース振り返り(後編)

 

いよいよプロシリーズのステージレースが立て続けに開幕し、シーズンの本格的な開幕が進行しつつあるこの2月後半。今年初のワールドツアー・ステージレースであるUAEツアーと、クラシックレースであるオンループ・ヘットニュースブラッドも開催。

 

今年のグランツールやクラシックシーンの行方を占う、2月後半のレースたちを振り返っていこう。

 

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

目次

   

 

参考:昨年の1月~2月「主要レース振り返り」

www.ringsride.work

 

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ツアー・オブ・オマーン(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:オマーン 開催期間:2/10(木)~2/15(火)

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2010年初開催の、中東オマーンで開催されるステージレース。ツール・ド・フランス主催者のA.S.O.も運営に関わる。

2020年は国王逝去の影響で中止され、2021年も新型コロナウィルス流行の影響により中止。実に3年ぶりの開催となった。

中東レースらしいスプリンターの活躍する平坦ステージも多いが、クイーンステージの名物グリーンマウンテンに象徴されるような山岳ステージも用意され、過去の総合優勝者もクリス・フルームやヴィンツェンツォ・ニバリなどグランツールで活躍するライダーから2018年・2019年と連覇したアレクセイ・ルツェンコのように、やや登りの強いパンチャーレベルまで、幅広く活躍できる総合系ステージレースである。

 

今年は「中東に強い」フェルナンド・ガビリアが初日と最終日とで2勝。ここ数年新型コロナウィルス罹患などで苦しみつつ復活の糸口が見えない彼にとって幸先の良いシーズン開幕になった・・・と思いきや、この直後、3度目のコロナ感染に。本当についていないというか何というか・・・。

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しかしスプリントで注目すべきはもう1人の「中東に強い」スプリンター、マーク・カヴェンディッシュ。昨年はまさかのツール・ド・フランス4勝という大復活劇を見せたカヴェンディッシュ。今年はファビオ・ヤコブセンにツールでのエースの座を奪われると噂されているものの、そこに待ったをかける鮮烈な勝利。そしてその勢いはこの後のUAEツアーにも継承されていく。

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そして総合争いが繰り広げられる山岳ステージではまずはUno-Xプロサイクリングチームのアントン・チャーマが1勝。昨年もツアー・オブ・ターキーなどで強さを見せていたが、まさかこのトップレースで勝利を掴むほどにまで成長するとは。

2月前半のエトワール・ド・ベセージュでは昨年ラヴニール覇者トビアスハラン・ヨハンネセンが勝利するなど、今やプロチームの中でも上位を窺う勢いを見せているUno-X。次のワールドツアーチーム更新のタイミングでの昇格候補とも言われるこのチームの強さをしっかりと見せつけてくれた。

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だが、今大会最大の総合優勝候補とも言うべき存在であるファウスト・マスナダが第4ステージで動いた。フィニッシュまで17㎞を残した地点に用意されたクライム・オブ・アル・ジャベル・ストリート(登坂距離4㎞、平均勾配6.6%)の下り。昨年のイル・ロンバルディアでも見せた下りのスピードと独走力とを見せつけて、そのまま集団に1分7秒差をつけて独走勝利。

総合でも2位チャーマに55秒差をつけて首位に。実力から見ても、このままマスナダの総合優勝で決まりか、と思っていた。

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だが、クイーンステージとなる第5ステージ。グリーンマウンテンことジャベル・アル・アフダル(登坂距離6㎞、平均勾配9.9%)の激坂が洗礼を浴びせる。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで区間勝利とマイヨ・ロホ着用を果たしたレイン・ターラマエが、昨年総合TOP10入りを狙ったルイス・メインチェスへの素晴らしいアシストを見せていたヤン・ヒルトのための牽引を行い、平均勾配が13%にも達するラスト2㎞の激坂区間を爆走していく。

そしてここで、マスナダが失速。2020年ジロ・デ・イタリア総合9位の男は、今年はまだ、本格的な山岳へのフィットはできていなかったようだ。

最終的に2位ケヴィン・ヴォークランに39秒差をつけて山頂独走勝利を果たしたヒルト。1分48秒遅れでフィニッシュしたマスナダを総合でも逆転し、6年前のツアー・オブ・オーストリア以来となるステージレース総合優勝を果たした。

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アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオの好調が止まらない。昨年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合11位のオドクリスティアン・エイキングは移籍してしまったが、残されたメンバーも山岳レースでも存在感を示す気概は十分。

勢いだけではない、実績もとなった活躍を今年は見せられるか。楽しみだ。

 

 

ブエルタ・ア・アンダルシア(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:2/16(水)~2/20(日)

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スペイン南部アンダルシア地方で開催される実にスペインらしい山岳ステージレース。初日からいきなりの逃げ切りが発生したり、直前のブエルタ・シクリスタ・ア・ラ・リジョン・デ・ムルシア・コスタ・カリダでプロ初勝利したばかりの若手コーヴィが早速の2勝目を飾ったり、イネオスの謎のネオプロアメリカ人シェフィールドが小集団の中から飛び出して驚異のプロ初勝利を飾ったり(しかも同じくイネオスのネオプロ、ベン・ターナーが同じステージで4位に入ったり)と、前半は波乱に満ち溢れていた。

とくにシェフィールドは本当に驚き。昨年の8月までラリー・サイクリングに所属していたが、そのあとは全くといっていいほどレースに出ず。そのあたりの状況が不明ながら、イネオスに入っていきなりのこの成績は、今後の飛躍が実に楽しみになる男である。

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下記のYoutube(Podcastも有)でもシェフィールドに言及しております!

youtu.be

 

総合争いが動いたのは第4ステージ。

スタート直後の1級山岳でいきなりミゲルアンヘル・ロペスやサイモン・イェーツ、ジャック・ヘイグといった超強力な小集団が抜け出し、総合リーダージャージを着ていたアレッサンドロ・コーヴィらはこれに乗り遅れたまま最後まで追いつけず。

そして「逃げ切り」を決めたこの先頭集団からは、残り20㎞で一旦アレクセイ・ルツェンコがアタック。ここにサイモン・イェーツやベン・オコーナーたちが食らいつき一度引き戻されるが、さらに残り15.5㎞でもう一度ルツェンコがアタック。今度はただ一人、ワウト・プールスだけが追いかけてきた。

強調が取れない追走集団を尻目に、そのままフィニッシュまで辿り着いた2人のマッチスプリント。一度は先頭に躍り出たルツェンコだったが、最後は名パンチャーたるプールスが抜き返し、2018年以来4年ぶりとなるアンダルシアでのステージ勝利。

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さらにレナード・ケムナが逃げ切りを決めた最終ステージもしっかりとメイン集団内でフィニッシュし、キャリア2度目となるステージレースでの総合優勝を果たした。

 

クリス・フルームの最も信頼する右腕とも言われていた最強の山岳アシスト、プールス。

2020年にその立場からの独立を目指してスカイを旅立ち、ここバーレーンにやってきたが、実は以来勝利なしの時を過ごしていた。

それでも昨年はツール・ド・フランスで山岳賞ジャージを長く着るなど目立った活躍を見せており、昨年のバーレーンのチーム全体のハイコンディションの一角を占めてはいた。

今年のこの勝利をきっかけに、更なる飛躍を遂げていけるか!

 

 

ヴォルタ・アン・アルガルヴェ(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:ポルトガル 開催期間:2/16(水)~2/20(日)

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ポルトガル南部、アルガルヴェ地方を舞台とするステージレース。アンダルシアが割とピュア山岳ステージレースであるのに対し、こちらは長めの個人タイムトライアルと、一定ペースのオールラウンダー向け山頂フィニッシュが2つと、近年のグランツールで活躍するタイプのTTスペシャリスト系オールラウンダー向けのステージレースとなっている。

ゆえに、この男にとってはものすごく相性が良い。2020年にもここで総合優勝しているレムコ・エヴェネプールが、2度目の総合優勝。今シーズン初戦のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでは初日逃げ切りで総合リーダージャージを着たものの、グラベル区間を含むクイーンステージでタイムを失って惜しくも総合2位となっていた彼も、32㎞TTで2位シュテファン・クンに1分近いタイム差をつけて圧勝したエヴェネプールが、最終日も「きゅうりのように冷静に」ライバルたちを抑え込んで堂々たる総合優勝を果たした。総合2位ブランドン・マクナルティには1分17秒差をつける結果に。

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そして2つあるスプリントステージでは、今や世界最強スプリンターと言っても差し支えない安定感を誇るファビオ・ヤコブセンがさすがの2連勝。これで今期4勝目。月末のクールネ~ブリュッセル~クールネでの勝利も含めて5勝。集団スプリントステージでは5戦4勝という圧倒的な勝率を誇る、まさに最強スプリンターだ。

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UAEツアーでもマーク・カヴェンディッシュは頑張っていたけれど・・・モルコフなしでもこの強さを発揮するヤコブセンを見てしまうと、やっぱり今年のツール・ド・フランスのエースは・・・と思ってしまうよね。

なお、第2ステージのファロ山頂フィニッシュではフィニッシュ直前にセルジオ・イギータとトビアス・フォスが前輪を絡ませて落車。その混乱の中で抜け出したダヴィド・ゴデュが今期1勝目を飾る。

そして最終ステージのマルハオ山頂フィニッシュでは、そんな悔しい思いを味わったイギータがダニエル・マルティネスとのコロンビアンマッチスプリントを制してリベンジ勝利。

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昨シーズンは0勝。ツール・ド・フランスでは2週目の最後に落車リタイアするなど、満足のいかない1年を過ごしていた彼が、新チームで、ナショナルチャンピオンの証を胸に刻みながら、挽回の年を迎えられるか。

 

 

UAEツアー(2.WT)

ワールドツアーチーム 開催国:アラブ首長国連邦 開催期間:2/20(日)~2/26(土)

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各ステージの詳細レビューはこちらから

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今年最初のワールドツアーレース。そして、4つの集団スプリントステージに1つの個人タイムトライアル、2つの山頂フィニッシュと、非常にバランスの取れたステージ構成となっており、出場メンバーの豪華さと相まって、個人的には現代の「第4のグランツール」と称しても良いと思っているくらい気に入っているレースだ。

ただ、新型コロナウィルスの影響もあり、各チームメンバーが少な目だったこともあり、各種スプリントステージではややアシストの枚数の少ないスプリント決戦になってしまったのは残念。第6ステージではその煽りを受けて、おそらくこのレースの前身ドバイ・ツアーやアブダビ・ツアーから数えても初となるであろう「逃げ切り」も決まってしまった。

また、ロット・スーダルの影響は顕著で、結局このレースには4名しか出場せず。元々出場予定だったカレブ・ユアンモ急遽出場回避となったことも、スプリンター頂上決戦という意味では残念ではあった。

そんな中、今期2勝しており絶好調のディラン・フルーネウェーヘンも、地元レースで気合を入れている(ただ3回目のコロナ感染となったフェルナンド・ガビリアの代わりの急遽招集ということもあって調子はあまり上がり切っていなかった)パスカル・アッカーマンも、今期まだ昨年の不調をひきずっているのかもしれないサム・ベネットも、すべて蹴散らして勝利を奪い合ったのがジャスパー・フィリプセンとマーク・カヴェンディッシュ。

第1ステージはアシストの力も借りながら、うまくスペースを見つけて強力な足でロングスプリントを敢行して1勝。第2ステージはほぼ同じ条件でのマッチスプリントで相性の悪さを露呈したのかカヴェンディッシュに1敗。第5ステージではラスト1㎞でカヴェンディッシュがメカトラブルに遭ってしまい不戦勝。さて、フィリプセンは果たして対カヴェンディッシュの苦手意識をぬぐいとることができたのだろうか。

それは分からないが、ただ、今期「こそ」ツール・ド・フランスでの勝利を目指す彼にとって、良い手ごたえを感じる1週間となったはずだ。

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そしてTTでは昨年の13㎞TTでガンナに惜敗したシュテファン・ビッセガーがリベンジ勝利。今年のガンナはすでにシーズン冒頭の2つの短距離TTを勝っていたところだったので、かなり調子は良かったはずで、そんな彼を7秒も差を付けて勝ったのは、本当にビッセガー、強い。

昨季ブレイクした印象の強い彼だが、今年もその勢いは継続していけそうだ。

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そして総合では圧倒的だったタデイ・ポガチャル。

確かに、直前の新型コロナウィルス感染の影響が全くなかったわけではなかっただろう。第3ステージの個人TTでは本来ステージ優勝してもおかしくないくらいだったと思うが、結果は区間4位。

第4ステージも最後のスプリントで勝ちはしたが、それまではチームメートにすべて任せ、最終ステージもアダム・イェーツがアタックするまでは自分で動かないなど、本来の彼の圧倒的な強さは鳴りを潜めてはいた。

それでも十分に強すぎて結果としては圧勝なのだから本当に凄いのだが。あとは、そういう好不調の波があってもそれをカバーしてくれる仲間の存在の心強さこそが最盛期のクリス・フルームなんかの強さの秘訣だったわけだけど、今回のUAEチーム・エミレーツはまさにそれを体現していた。

数年前までの「ポガチャルだけが強い」チームからは確実な脱却が見られる。それは下記の記事でも触れているように、昨年のツール・ド・フランスから見られていた傾向。

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そして今年そこに新たに加わったジョアン・アルメイダとジョージ・ベネットの強さが十分に発揮されたのが今回のUAEツアー。

今年のポガチャルはさらに、隙が無い。

 

そして、そんなUAEチーム・エミレーツに果敢に挑んだアダム・イェーツ・・・と、その「最強アシスト」として他チームのアシストとは一線を画す活躍を見せたのが、ネオプロの20歳ルーク・プラップ。

期待に十分すぎるほど応えて見せた彼の活躍の詳細は以下の記事で。

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オンループ・ヘットニュースブラッド(1.WT)

ワールドツアーチーム 開催国:ベルギー 開催期間:2/26(土)

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レース詳細はこちらから

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「春のクラシック」開幕戦、オンループ・ヘットニュースブラッド。ここからレースを見始める人も多い、シーズン全体の象徴的な開幕レースでもある。

往年のロンド・ファン・フラーンデレンの名フィニッシュ、すなわち「カペルミュール~ボスベルグの17㎞」が完全再現されてはや5年目。毎年ドラマを生み出すこのレースが、今年も非常に興奮する展開を生み出した。

 

すなわち、「ダブルエース」級の実力者ティシュ・ベノートを加えた「新生ユンボ・ヴィズマ」が、そのチーム力を生かしてレースを完全に支配下に置いたのである。

 

まずは残り31㎞。昨年のヘント~ウェヴェルヘムでワウト・ファンアールトを勝たせたネイサン・ファンフーイドンクの強烈な牽引によって集団が縦に長く引き伸ばされ、その先頭からティシュ・ベノートがアタックした。

これにすぐさま反応したのがイネオス・グレナディアーズのトム・ピドコックとヨナタン・ナルバエス。そしてその3名にワウト・ファンアールトも食らいつき、のちに昨年のパリ~ルーベ覇者ソンニ・コルブレッリも加わり、強烈な5名の「抜け出し集団」が形成された。

もちろん、ファンアールトに対する圧倒的警戒はこの5名の動きをぎくしゃくなものにしてしまう。その末にユンボ・ヴィズマが選んだのは、昨年のこのオンループでクイックステップが選んだ戦略。すなわち、「どうせ牽制されるなら抜け出してしまえ」作戦で、残り20㎞からティシュ・ベノートが単独でアタック。

残ったメンバーはイネオスが牽かざるを得ないが、それでもファンアールトを警戒しすぎた結果、この残り4名は集団に吸収された。

 

さりとて、メイン集団もベノートにこのまま行かせるわけにはいかなかった。AG2Rシトロエン・チームやシュテファン・クンを中心にこれを全力で追走し、いよいよ残り17㎞から始まるカペルミュールでこれを捕まえた。

 

が、その間、ファンアールトはしっかりと足を貯めることができていた。

そして、カペルミュール終了後、最後の勝負所となった残り14㎞「ボスベルグ」。

この登りの「直前」で、ファンアールトは集団の不意をついてアタックした。

 

あとはもう、世界王者級の独走力をもつファンアールトの独壇場であった。

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これまで、幾度となく、アシスト不在の先頭集団で後手を踏み続けていた最強の男が、ティシュ・ベノートという存在を得てついに、理想の戦い方ができるようになったことを見事に象徴した勝利であった。

このまま、今年の北のクラシックでは、ついにその頂点を、栄冠を掴み取ることができるのか。

 

 

クールネ~ブリュッセル~クールネ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:2/27(日)

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オンループ・ヘットニュースブラッドと並び「オープニングウィークエンド」を構成するベルギー・フランス語圏(ワロン地域)も一部使用したクラシックレース。

オンループ・ヘットニュースブラッドと比べると比較的スプリンター向きのレースということで、オンループから一部メンバーを変更するチームも例年多く、ユンボ・ヴィズマもワウト・ファンアールトを外した代わりにクリストフ・ラポルトを加えたメンバーで挑んだ。

 

とはいえ、例年、必ずしも集団スプリントで決着するとは限らず、逃げ切りや、スプリントであってもサバイバルな展開で絞り込まれた集団でのスプリントとなることも多々ある。

今年もスプリンターの出番はないように思われた。残り61.7㎞地点のコート・ド・トリユの登りでティシュ・ベノートがアタック。これをきっかけにトム・ピドコックやシュテファン・クン、カスパー・アスグリーンなどを含めた17名の強力な先頭集団が形成された。

後続集団ではこの日の優勝候補の1人であったソンニ・コルブレッリが牽引するほどの本気の体制で追走し、残り17㎞ほどでこれを吸収。

しかしその直前に先頭集団から3名の選手が飛び出していた。ヨナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアーズ)、タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、そして、クリストフ・ラポルトである。

 

当然この3人の中ではラポルトが最もスプリント力があり、有利。前日のティシュ・ベノートのアタックからのファンアールト勝利というパターンを踏襲するが如く、今年の新生ユンボ・ヴィズマの強さを証明するような展開に、本日も持ち込むことができたのである。

残り1㎞でタイム差は6秒。果たしてどうなる? メイン集団ではトレック・セガフレードが隊列を組んで先頭を懸命に牽引していくが、ファビオ・ヤコブセンも、カレブ・ユアンも、すでにアシストは周りにおらず、孤独なように見えた。

 

だが、さすがのラポルトも、積極的に動きすぎていたこの日は足が残っていなかったのか、ギリギリまで何度も後ろを振り返りながらなかなかスプリントを開始せず、それができたのはようやくフィニッシュ100m手前から。

そしてそのときには残り300mまで迫っていたメイン集団から、まずはファビオ・ヤコブセンが、そしてその後輪にくらいついてカレブ・ユアンが、スプリントを開始した。

 

そして一瞬でラポルトたちを飲み込んだ2人のトップスプリンターは、横並びのマッチスプリント。これを制したのは――これで今年5勝目となる、ファビオ・ヤコブセンであった。

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最後は独力で勝負を決めたヤコブセン。元々、チームメートでライバル関係にあった同世代のアルバロホセ・ホッジと比較するとより荒地というかベルギーらしい展開の中で強い印象のあった彼だが、最近はピュアスプリントも世界トップ級となり、まさに隙のない男である。

ここまで無類の強さを誇っている彼も、もう一人の世界最強、ユアンとの直接対決はなかなか実現していなかった中で、今回、やや特殊な形ではあるものの、とりあえずは一旦、彼に土をつけた形となる。

そしてクラシック開幕戦で厳しい敗戦を強いられたチームへの誇りを取り戻す1勝にもなった。

 

逆に悔しい敗北となったユンボ・ヴィズマだが、昨日のベノートに続き今日のラポルトと、新メンバーが早速機能していることを見せつけており、十分に成功といえる結果であった。

このまま今年のクラシックは、いよいよエース、ファンアールトに王冠をかぶせることができるか。

 

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