読み:ユーエーイー・チーム・エミレーツ
国籍:アラブ首長国連邦
略号:UAD
創設年:1991年(ただし、1997-1998は一時消滅)
GM:マチン・フェルナンデス(スペイン)
使用機材:コルナゴ(イタリア)
2020年UCIチームランキング:3位(昨年4位)
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
UAE-Team Emirates 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
UAE-Team Emirates 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
UAE-Team Emirates 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
エガン・ベルナルに匹敵するどころか、もしかしたらそれを超える勢いの才能を見せつけているタデイ・ポガチャルに加えて、2020年最も活躍した男の一人、マルク・ヒルシを獲得。さらには元ツール・ド・フランス山岳賞×2のラファウ・マイカに、元ヨーロッパロード王者マッテオ・トレンティンなど、さらなる強化を重ねていくこのチーム。イネオスやユンボ、ドゥクーニンクのような「完璧すぎる布陣」ではないものの、2021年も確実に全チームランキング上位に食い込む活躍をしてくれることは間違いないだろう。
一方、フェルナンド・ガビリアの不調は続く。その発射台、フアン・モラノなどは非常に強力な走りを見せてくれていたりする中で、エースのガビリア自身がなかなか結果を出せずにいるのは悔しいところ。2020年は2度も新型コロナウイルスに罹るなど、本人の問題だけじゃないところに不調の原因があるので仕方ないことではあるものの・・・。
大きな経済基盤を活用した運営ではありながらも、若手も積極的に育成する不思議な魅力を持つこのチーム。2021年も新たな才能の誕生に期待したい。
注目選手
タデイ・ポガチャル(スロベニア、23歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- ツール・ド・フランス区間3勝、総合優勝、山岳賞
- ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ区間2勝、総合優勝
- UAEツアー区間1勝、総合2位
- リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ3位
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合4位
- ラ・フレーシュ・ワロンヌ9位
常に我々の想像を超え、進化し続ける男。
実際、2018年にツール・ド・ラヴニールを総合優勝し、そのままジャパンカップに来たときは、正直まだ「そこまで」とは思っていなかった。
前年のラヴニール覇者エガン・ベルナルが規格外なのであって、ポガチャルもまた過去のラヴニール覇者がそうであるように、目に見えるリザルトを残すのは2〜3年後になるだろう、と。
しかし2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェでいきなりの総合優勝。さらに前年にエガン・ベルナルが成し遂げたワールドツアー1年目からのツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝。ワールドツアー最年少総合優勝記録を塗り替えた。
この時点で、ベルナルに匹敵する才能の持ち主であることが明らかとなった。
そしてその年のブエルタ・ア・エスパーニャに出場した彼は、まさかのステージ3勝と総合3位。
デビュー初年度でのその成績は、ある意味「ベルナル超え」を感じさせた瞬間であり、それは誰もが予想しえなかった事態であった。
そして2020年。
ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ総合優勝、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合4位と、そこそこの成績を重ねながら迎えた、ツール・ド・フランス初出場。
さすがにもう彼が常識では捉えられない存在であり、ステージ優勝は当然の如くするとして、もしかしたら総合表彰台に登ることすらあるかもしれない、と、その程度に考えていた。直前のドーフィネ総合4位は思ったほどの成績ではなかったし、いくらなんでも、と。
ツール本戦の第7ステージで横風で彼が1分21秒を失ったとき、ある意味ほっとした部分もあった。彼もまた、「普通」なんだな、と。
しかし、そこからのまさかの追い上げであった。
エガン・ベルナルが途中リタイアし、ポガチャルはログリッチにとっての唯一のライバルとして、その順位を着実に上げていく。
クイーンステージとなる第17ステージではタイムを失ったものの、蓋を開けてみれば彼は、この17ステージ以外ではログリッチから登りでタイムを失ったことは一度もなかった。
そして、「あの」歴史に残る第20ステージ。ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山岳TT決戦である。
その激闘については、以下の記事を参照していただければ幸い。
もちろん、彼にとってはこれからが一番重要である。果たして彼は今後の2020年代の中心的な人物として、フルームやコンタドールのようにツール勝利を重ねていける選手になるのか。
それとも、今回のこの勝利はあくまでも奇跡であり、今後は数あるツール総合優勝候補の一人になってしまうのか。
まずは2021年のツールでの走り次第であり、そしてそれを確実なものとするために、ダビ・デラクルスやダヴィデ・フォルモロ、あるいは新加入のラファウ・マイカたちは非常に重要な存在となるだろう。
ポガチャルはもちろん、チーム・UAEの底力が試される。
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、32歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア区間2勝
- イル・ロンバルディア8位
- ツアー・ダウンアンダー総合2位
- ツール・ド・ポローニュ総合5位
- ツール・ド・ルクセンブルク区間2勝、総合優勝
- グラン・ピエモンテ2位
- ジロ・デッレミリア3位
- UCI世界ランキング8位
プロ2年目の2011年から丸十年間、勝利のないシーズンは1つもない、というずば抜けた安定感を誇る男。今年で32歳だが、まだ32歳なのか、という驚きもある。
そんな彼にとって2020シーズンはかなり良いシーズンだったのではないか。シーズン再開後の「夏のイタリア・クラシック」で次々と上位に入り込み、ツール・ド・ルクセンブルクでは区間2勝と総合優勝。
圧倒的に調子の良い状態で乗り込んだジロ・デ・イタリアでも2勝を記録し、彼の通算ジロ勝利数を8に伸ばした。まさにキング・オブ・ジロ。
脚質としては珍しいくらいに純粋なパンチャー。クライマーには登りで負け、スプリンターとの真剣勝負では手も足も出ない。
しかし、起伏レイアウトのあとのスプリンターでは誰にも負けない。とんがっているけれど、得意分野では最強。そういうタイプの選手が、個人的には大好きである。
そんな彼に期待したいのが、ツール・ド・フランスでの勝利。
彼自身はツールはあまり好きではないようで、出場経験は2017年の1回だけ。そこでも山岳ステージで積極的に逃げに乗り、そんな彼を応援していたが、勝利には届かなかった。
だが、今年のツールはブルターニュ開幕で、初日から珍しくピュアパンチャー向けの激坂フィニッシュ。
ウリッシにとってはツール初勝利のチャンスであると共に、うまくいけばマイヨ・ジョーヌを着れる最大のチャンスかもしれない。
ぜひ、そんなウリッシを見てみたい。チームにとってはポガチャルのための体制が最優先かもしれないが、そこをなんとか。
マルク・ヒルシ(スイス、23歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝
- リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位
- 世界選手権ロードレース3位
- ツール・ド・フランス区間1勝
- UCI世界ランキング10位
2020年シーズン最も活躍した男の一人。昨年企画した「マン・オブ・ザ・イヤー」の投票企画でも票を集めていた。
そのうちの1つはもちろんツール・ド・フランスでの勝利だろうが、さらに凄いのはそのあとも世界選手権ロードレース3位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位、そしてフレーシュ・ワロンヌ優勝と、立て続けに最高の成績を叩き出し続けたということ。
その勢いの凄まじさ、そしてレースをこなすごとに成長していく様子は、余人の想像を超えて彼の存在を遥かに大きくし続けていった。
その結果が、まさかのシーズン開始直後のサンウェブ(というかDSM)からの離脱。
その理由は本人、チーム双方から固い沈黙で共に結ばれているため、解きようがない。
ただ、これによってUAEチームがさらなるアルデンヌ系クラシックの強化を図れることが確定した。
今年の目標は昨年取りこぼしたリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの制覇、レース自体が中断したクラシカ・サンセバスティアンの勝利、あるいはイル・ロンバルディアまで狙えるかもしれない。
そしてもしかしたら東京オリンピックも。
とにかくワンデーレースの最高峰はすべて取っておきたいところだ。
その他注目選手
ラファウ・マイカ(ポーランド、32歳)
脚質:クライマー
2014年と2016年のツール・ド・フランス山岳賞獲得者。ティンコフ時代はかのアルベルト・コンタドールの山岳アシストも務めた。2015年にはブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位に入るなど、総合系ライダーとしての可能性も表しつつあった。
2017年からはペテル・サガンと共にボーラ・ハンスグローエへ。いよいよ本格的にエースとして走るチャンスを手に入れたわけだが、しばらくはなかなか結果が出せない不調の時期を過ごす。
その間にエマヌエル・ブッフマンやマキシミリアン・シャフマン、レナード・ケムナなどのドイツ人クライマーたちが躍進してきたことで、マイカがこのドイツチームを去ることになるのは既定路線であった。
しかし、決して彼が「終わった」選手などということはない。2019年にはなんだかんだでジロとブエルタの2つで総合6位。2020年もブッフマンたちが思うような走りができなかった結果、チーム内では4番目のUCIポイント獲得者となっていた。
確かに5〜6年前のように輝かしい成績を出し続けているわけではないものの、それでもなお彼がトップクライマーの1人であることは間違いない。
そんな彼が(そしてコンタドールのアシストという実績をもつ彼が)アシストとしてチームに来てくれることは、この2年なかなか山岳アシストに恵まれずにいたタデイ・ポガチャルにとってはこの上なく喜ばしい出来事であるに違いない。
もちろん、マイカとしては再びエースとして成功することも大きな目的である。実際、ポガチャルに次ぐ存在はデラクルスかフォルモロか、といった状態であるこのチームにおいては、マイカがセカンドエースとして活躍できるチャンスも十分にあるはずだ。
自分がサイクルロードレースを見始めた頃にまさに活躍していた選手だけに、思い入れは強い。またその強い姿を見せてほしい。
ダビ・デラクルス(スペイン、32歳)
脚質:クライマー
クイックステップ所属時代の2016年にブエルタ・ア・エスパーニャ総合7位。このクラシックチームの数少ない総合系エースとして期待されながらも、2018年からはチーム・スカイに。
だが、当時のスカイはピュアクライマーにはやや厳しい方針を持っており、デラクルスはそれでもまだ比較的TTは得意な方だったが、ケニー・エリッソンドと共にチームを離れることに。
そして辿り着いたこのUAEチームでは、やはり総合系エースが不足していることもあり、デラクルスもエースとして走れるチャンスを持っていた。
結果、2016年以来となるブエルタ総合7位。フォルモロ、そして今年から新加入のマイカとの競合は常に油断ならないが、今年もジロとブエルタを走る予定の彼は、なんとかそこでエースとして走れるようそれまでのレース(たとえばパリ〜ニース)で結果を出していく必要がある。
一方、個人的に彼に期待したいのは、昨年のツールでも見せたポガチャルに対する山岳アシスト。たしかにツールでは第2週までは落車の怪我の影響でまったく存在感を示せていなかったが、その分2週目にはようやくポガチャルを助けられるようになり、クイーンステージとなる第17ステージでは、残り4㎞から超牽引。総合12位アレハンドロ・バルベルデ、総合9位トム・デュムラン、総合7位ミケル・ランダ、総合5位アダム・イェーツ、総合3位リゴベルト・ウランといった精鋭たちを軒並み脱落させるほどの走りを見せた。
もちろん、その日は結果としてポガチャルはログリッチからタイムを失うことになり、そのログリッチを助けたセップ・クスと比べればまだまだそのアシスト力は十分ではない。
それでも、決してこのチームが「ポガチャルだけが頑張ったチームではない」ということを示す象徴的な走りをしてくれただけに、今年もエースとしての走りだけでなく、ポガチャルの「最強」を支える走りを期待したいところ。
ただ、今のところツールを出る予定はないとのことなので、そういう役割は予定されていない、のかなぁ。
ブランドン・マクナルティ(アメリカ、23歳)
脚質:オールラウンダー
最初に注目したのは、2018年のドバイ・ツアー。その第4ステージのハッタ・ダムフィニッシュステージで、 当時わずか19歳でアメリカのコンチネンタルチーム所属だったマクナルティが、残り10㎞から独走状態。
ラスト1㎞のアーチを潜ったときにも、集団とのタイム差は30秒以上残っており、これはもしかしたら・・・!という思いが強まっていた。
しかしこの日のラストはハッタ・ダム。わずか1㎞の登坂だがフィニッシュに近づくにつれてその勾配は増していき、最後の100mの平均勾配は実に14%に達する。
元ジュニアTT世界王者のマクナルティをもってしても、この登りにさしかかると同時にその足は重みを増し、最後の300mを登り切るのに1分も要するほどのペースにまで落ち込んでいた。
その間に、後続は猛烈な勢いで追い上げる。そして、奇跡の勝利まであと一歩というところにまで迫っていた青年は、ラスト50mで容赦なく集団に飲み込まれてしまった。
そんな彼が、ただ単にTTスペシャリストで終わる男ではないことを、同じ年のツアー・オブ・カリフォルニアで証明して見せてくれた。
第6ステージ。サウス・レイク・タホの定番山頂フィニッシュ。エガン・ベルナルが今大会2度目の勝利を遂げその総合優勝を確実にした日に、マクナルティはベルナル、アダム・イェーツ、テイオ・ゲイガンハートに次ぐ区間4位でフィニッシュした。
さらに同年のツール・ド・ラヴニール。タデイ・ポガチャルが総合優勝を果たしたこの年のラヴニールを、彼は総合30位という振るわない結果で終わることになる。
しかしその中でもクイーンステージとも言うべき第7ステージの山頂フィニッシュで、彼はイバン・ソーサとポガチャルという、この世代最強格の2人のクライマーとトリオを組んで先頭でフィニッシュを果たした。しかも、実力だけで言えば、この日彼はその2人を斥けて勝っていたはずだった。ただ、勝利を確信して手を挙げるのが早すぎて、最後はわずかにソーサが先行してしまった・・・。
類稀なるTT能力と、同世代最強格に劣らない登坂力。
誰もが認めるその才能は、2019年にポガチャル、ソーサと共にワールドツアーチームでデビューを飾ることは必然であると思われていた。
しかし彼はあえて、母国チームのラリー・サイクリングでもう1年走り続けることを選択した。それは、アメリカという自転車ロードレース界にとってはまだまだ「異郷」の地を生きる若者にとっては、正しい選択だったと言えるかもしれない。
そして、十分に準備期間を整えたうえで満を持してワールドツアーデビューを果たした2020年。新型コロナウイルスの影響で思うような走りができなかった部分はあるだろうが、それでも初出場となるグランツール、ジロ・デ・イタリアで、彼はその実力を申し分なく発揮する。
初日の個人タイムトライアルは強風の影響もあり記録はあまり参考にならないが、第14ステージの個人TTでは3位、第21ステージの個人TTでは8位と、十分にトップクラスのTT能力を発揮。
さらにペテル・サガンが逃げ切った第10ステージのトルトレートでは終盤でアタックし、そのまま区間2位に入り込むアグレッシブな走り。最終的には総合15位と、グランツール初出場の22歳にとっては十分すぎる成績を残した。
どうしてもポガチャルやエヴェネプールと比較するとその派手さは薄いように思えるかもしれないが、彼もまた紛れもなく抜きんでた才能の持ち主であることは間違いない。
本来であればその実力が真に発揮されるのは2~3年目。今年、あるいは来年の彼の走りには、昨年以上の注目をしていく必要があるだろう。
総評
ポガチャルはもちろんどのグランツールでも総合優勝を狙える男。ただし、それ以外の総合エースたち、すなわちラファウ・マイカ、ダビ・デラクルス、ダヴィデ・フォルモロはいずれも、総合TOP10は狙えるかもしれないが、表彰台以上をどこまで安定して狙えるかというと・・・という評価にならざるを得ないので、チームとしての総合的なグランツール評価は最高値を与えることは難しい。
代わりに北のクラシックでは2020年も活躍していたアレクサンダー・クリストフとマッテオ・トレンティンのダブルエース体制が光る。アルデンヌ系クラシックでも元々ダヴィデ・フォルモロが強かったところに2020年の最強アルデンヌ系ライダーの1人、マルク・ヒルシが加わることでモニュメント含め獲得がかなり現実味を覚えてくると言えるだろう。
スプリントはジャスパー・フィリプセンが離脱したことは非常に痛く、フェルナンド・ガビリアの復活次第。山岳逃げはヒルシ、フォルモロ、ビョーグ、マクナルティあたりが高い適性をもち、総合まで狙えなくともステージ優勝はしっかりと稼いでくれそうだ。
全体的にどの項目でも成績を残してくれそうなチームではあるが、やはりユンボやイネオス、ドゥクーニンクほど層が厚くはない。
一人一人の成長と、いざというときのチームの結束が重要になる。
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