読み:チーム・キュベカ・アソス
国籍:南アフリカ
略号:TQA
創設年:2007年
GM:ダグラス・ライダー(南アフリカ)
使用機材:BMC(スイス)
2020年UCIチームランキング:21位(昨年22位)
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Dimension Data 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Team Dimension Data 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
NTT Pro Cycling 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
NTTがチームのタイトルスポンサーになり、日本チャンピオンの入部を加入させてわずか1年。世界の状況の変化により早速NTTが撤退。NTTはもちろん前身のディメンションデータからの引継ぎではあったものの、この2016年のワールドツアー化以来のスポンサーが離脱することを意味していた。
当然、チーム存続の危機。チームとしても引き留めることもできず、大量に選手が流出。たとえチーム存続ができたとしても、ワールドツアーチームとしての資格を残すことは難しいのではないか・・・と思っていた。
その状況は2018年のBMCレーシングチーム⇒CCCチームのときを彷彿とさせる出来事。しかし、当時よりも幸いなのは、このコロナ状況下において他のチームも苦しく、意外と年末間近の時期でも有力な選出たちがフリーの状態で残っていたということ。
結果、サイモン・クラークやセルジオ・エナオ、ロバート・パワーといった実力者たちの獲得も果たされ、半分プロコンチネンタルチームのようだった当時のCCCチームよりは幾分か戦える戦力が残っているように見えなくもない。
ただ、ファーストスポンサーについているのはプロジェクト名であるキュベカであり、今回新たにタイトルスポンサーに加わったスイスのサイクルウェアブランド「アソス」も、あくまでもセカンドスポンサーとしての就任ということで、予算はずっと削減されたはず。
苦しい戦いを強いられるのは間違いない。
注目選手
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、32歳)
脚質:スプリンター
2020年の主な戦績
- ヨーロッパ選手権ロードレース優勝
- イタリア国内選手権ロードレース優勝
- パリ~ニース区間1勝
- ツアー・ダウンアンダー区間1勝
- ミラノ~サンレモ5位
- UCI世界ランキング24位
実力はあるがなかなか勝ちきれない。名前にかけて「2位ッツォーロ」と呼ばれることもある、そんな男だった。
しかし2020年の彼は、その殻を一つ打ち破ったような気がする。シーズン開幕戦ツアー・ダウンアンダーで早速1勝した彼は、その勢いのまま3月のパリ~ニースでも初優勝。そしてシーズン後半戦でもイタリア国内選手権、さらにはヨーロッパ選手権と連勝。過去サガン、クリストフ、トレンティン、ヴィヴィアーニと錚々たるトップスプリンターたちがその名を連ねてきたヨーロッパ王者に、このニッツォーロが君臨することとなった。
この調子の良さであれば、ツール・ド・フランスでも1勝はしてもおかしくないだろう。その期待に応えるかのように、第3ステージでは3位。あと、一歩だった。
しかし、膝の痛みを訴え、第8ステージでリタイア。悔しくもバイクを降りる結果に。好調のまま突き進んだ2020シーズンは、これで終わりを迎えることとなった。
この悔しさは、2021シーズンで晴らさなくてはならない。今度こそ、ツールで勝利を手に入れられるか。
サイモン・クラーク(イタリア、35歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ロイヤル・ベルナール・ドローメ・クラシック優勝
- ジロ・デ・イタリア区間3位・区間4位
- ツール・ド・オー・ヴァル区間2位
- エトワール・ド・ベセージュ区間2位
- UCI世界ランキング132位
山岳/丘陵エスケープスペシャリストで、過去2回のブエルタ区間優勝と1回の山岳賞、そしてGPインダストリア&アルティジアナート優勝などの経歴を持つ。昨年もジロ・デ・イタリアで果敢に逃げ、区間3位と4位を1回ずつ。ドローメ・クラシックでは、ヴィンツェンツォ・ニバリとワレン・バルギルを相手取ってスプリントでこれを制している。
2019年のアムステルゴールドレースでは、先頭を突き進んでいたヤコブ・フルサンやジュリアン・アラフィリップらに後続から追い付いたマチュー・ファンデルポールの背後を取ることに成功。
その前に出ることはどうしたって無理ではあったものの、うまくそのスリップストリームに入って、2位フィニッシュを得ることには成功。彼にとってもキャリア最大の成果の1つではあった。
すでに引退も近い年齢ではあるが、まだそのアグレッシブさは失われてはいない。EFが彼を手放すことは驚きではあったものの、この新チームで自由な走りを許されながら、ジロやツールでの逃げ切り勝利も狙っていきたい。
ファビオ・アル(イタリア、31歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・ブルゴス総合9位
- モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ5位
- ツール・ド・ラン総合10位
- UCI世界ランキング301位
2015年ジロ・デ・イタリア総合2位・ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝。2017年にはツール・ド・フランスでラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山頂フィニッシュを制し、一時はマイヨ・ジョーヌも着用。ヴィンツェンツォ・ニバリに次ぐ、イタリアの総合エース筆頭として活躍するはずだった。
しかし、その後、彼自身もその原因を突き止めきれない数々の不調が彼を襲い、失意の底へと突き落としていった。UAEチーム・エミレーツに多額の年俸と大きな期待を寄せられながら移籍したものの、その3年間で1勝するどころかただの1つの表彰台に登ることすらできなかった。
一時はイタリアのUCIプロチームへの「降格」も噂された。ある意味でそれは彼にとって気楽な走りを許されるという意味で、決して悪くない選択だと思っている。
しかし、彼はあくまでもワールドツアーチームを選んだ。ワールドツアーとはいえ、キュベカ・アソスでは、年俸も下手したらイタリアのUCIプロチームに行くのと大して変わりないくらいの水準に落ちているような気がする。
それでも彼は世界最高峰の舞台で走り続けることを選んだ。その思いが、結果につながることを願っている。
私がこの自転車ロードレースの世界に興味を持ち始めた時期に強かった男だけに、思い入れは強い。頑張れ、ファビオ。
その他注目選手
セルジオ・エナオ(コロンビア、34歳)
脚質:クライマー
かつては、チーム・スカイ(現イネオス・グレナディアーズ)でクリス・フルームやゲラント・トーマスの右腕として活躍した山岳アシスト。彼自身も2017年のパリ~ニースでアルベルト・コンタドールを下して総合優勝するなど、活躍を見せていた。
そんな中、リッチー・ポートやワウト・プールス同様に、エースとして走ることを求めてチームを飛び出す形になったか。2019年からはUAEチーム・エミレーツに。
しかしそこからの2年間、エースとしてもアシストとしてすらも、正直ほとんど目立つことのないまま過ごす結果に終わり、ラファウ・マイカなどの加入と引き換えに、彼自身は放出となってしまった。
そして訪れたキュベカ・アソス。ここでは総合のライバルと言うべき選手はドメニコ・ポッツォヴィーヴォやファビオ・アルなどで、エナオが明確にエースの座を譲るべき相手とは言い難い選手たちである。
つまり、彼にとっては再びチャンスが巡ってきた形になる。果たして、ここでチャンスを掴めるか。
ロバート・パワー(オーストラリア、26歳)
脚質:パンチャー
ジェイ・ヒンドレーやルーカス・ハミルトンらと並ぶ、オーストラリアの有望若手パンチャー/クライマー選手として注目されてきた。
2018年にはミッチェルトン・スコットの一員としてジャパンカップで優勝。その翌年からは、クリス・ハミルトンやヒンドレー、マイケル・ストーラーといった同じく有望な若手オージークライマーが集うチーム・サンウェブへ。
2020年の年初のツアー・ダウンアンダーでは、リッチー・ポートが優勝した「キングメーカーの登り」パラコームにて区間2位。そのシーズンにおける好調ぶりと活躍を期待できるような走りであった。
しかしそのあとはなかなか大きな結果にはつながらず。ブエルタ・ア・エスパーニャ区間4位がこのシーズン最大の成果と言うべきか。そしてまさかの、サンウェブ離脱。もしかしたら走りだけじゃない部分で、何か理由があるのかもしれない。
キュベカ・アソスへの移籍は決して彼が強く望んだ結果ではなかったであろう。だが、彼本来の実力を発揮することができれば、エースとしてこのチームでもトップレベルの実績を積み上げることも可能なはずだ。期待したい。
なお、タイプとしてはやはりクライマーというよりはパンチャータイプで、グランツール含むステージレースでの総合を狙うよりは、ワンデーレースに強い脚質と言えるだろう。
2018年にはストラーデ・ビアンケでも6位。アルデンヌ系のレースでこそ、彼の実力が最大限発揮できるのかもしれない。
カレル・ヴァツェク(チェコ、21歳)
脚質:パンチャー
「レムコ・エヴェネプールの最大のライバル」と言われて注目されている男。というのも、エヴェネプールが無双していた2018年のジュニア最終年、同い年のこのヴァツェクが、そんな敵無しだったエヴェネプールに3度、敗北を味わわせている(Course de la Paix Juniorsの第3ステージ、Giro della Lunigianaの第1ステージ個人TTと第3ステージ)。
もちろん、だからといって彼がエヴェネプールに匹敵する才能の持ち主であると断言することはできない。エヴェネプールがドゥクーニンク・クイックステップでプロデビューを果たし、クラシカ・サンセバスティアン優勝など類稀なる成績を1年目から残していたそのとき、ヴァツェクはハーゲンスバーマン・アクセオンに所属し、UCIポイントを1ポイントも獲れないシーズンを過ごしていた。
昨シーズンはチーム・コルパック・バランに所属。UCIレースの出場日数自体もわずか6日間で、国内選手権も含め目立った活躍を見せられずに終わっている。
よって、その名前だけが先行して騒ぎ立てられている中で、決して過度な期待を寄せるべきではないとはわかっている。
それでも、才能は確かに秘められているはず。2000年生まれ世代の中ではエヴェネプールほどではないにしても突出した才能の持ち主であることは確かで、初年度から、とまで欲は言わないもののその走りには常に注目しておきたい。
ただ、このディメンションデータ~NTTプロサイクリングの系譜となるチームは、ここまで若手の育成という点では正直、微妙なところがあったりもするだけに、果たしてこの男の才能を十分に引き出すことができるのか、不安ではある。
総評
2020年シーズンはある意味常連で会った「UCIワールドツアーチームランキング最下位」は免れたものの、散々なシーズンであったのは確かで、今年はそれをさらに上回る(下回る?)状態となる予感しかしていない。
それでもスプリントにおいてはニッツォーロが世界トップクラスの実力を持っているのは確かなため、そこでなんとか稼ぎ出したいところ。また、サイモン・クラークやロバート・パワーが、アルデンヌ系クラシックでなんとか上位に入り込んでくれれば・・・。
あとは逃げ。ひたすら逃げて、結果につなげる。それがこのチームに許された、非常に重要な役回りである。
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