読み:イーエフ・エデュケーション・ニッポ
国籍:アメリカ合衆国
略号:EFN
創設年:2003年
GM:ジョナサン・ヴォーターズ(アメリカ)
使用機材:キャノンデール(アメリカ)
2020年UCIチームランキング:10位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
EF Education First-Drapac p/b Cannondale 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
EF Education First Pro Cycling Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
EF Pro Cycling 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順。
かつてチーム解散の危機に立たされていたこのチームも、グローバル語学学習企業のEFエデュケーション・ファーストにスポンサードされることで見事に復活し、その資金力を活かして2019年からはさらなるチーム強化に成功。タレントを見つけてくるヴォーターズGMの手腕と合わさり、強豪チームの一角とすら言える状況になっていた。
しかし、EFはその業態ゆえにこのコロナ禍においては経営が苦しく、必然的にチームに割ける予算にも限界が出てきたようだ。今年はダニエル・マルティネス、マイケル・ウッズ、セップ・ファンマルク、サイモン・クラークと、チームの中心的な存在とも言える実力者たちを大量に放出。
まだチームにはセルジオ・イギータや昨年のブエルタで大ブレイクしたヒュー・カーシー、ジロ山岳賞のルーベン・ゲレイロなど才能は多く抱えているが、それでも今年の「弱体化」は避けられない状態となった。
そんな中、このチームの財政面をサポートすべく動いたのが、我らがNIPPOである。中根英登、別府史之を含め、昨年彼らがサポートしていた「デルコ」から複数名を引き連れこのチームに売り込んだ。育成チームも含めての手厚い財政支援となり、日本の自転車界の未来にも影響をもたらしてくれると幸いだ。
また、コロンビアのコンチネンタル/アマチュアチームから2人のコロンビア人を獲得。まだ無名の存在だが、そこはヴォーターズの発掘力に期待したい。
弱体化はしたが、ある意味でかつての姿に戻ったとも言える。
ここからの復活はこのチームにとって決して難しいものではないだろう。
注目選手
ヒュー・カーシー(イギリス、27歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝&総合3位
- ツール・ド・ラ・プロヴァンス総合4位
- ツール・ド・フランス総合37位
- UCI世界ランキング48位
チームの次代を担う才能であったダニエル・マルティネスがチームを去ることになったのは大きな痛手であったが、その代わりにブエルタ・ア・エスパーニャで、この新たな才能が産声を上げた。
元々はイギリスのコンチネンタルチーム、ラファ・コンドールに所属し、2014年にはツアー・オブ・ジャパンにも出場。新人賞および山岳賞を獲得する活躍を見せた。
その後はスペインのプロコンチネンタルチームであるカハルラルに移籍するという異色の経歴を持つが、そこから2017年、チームの前身たるキャノンデール・ドラパック・プロサイクリングチームへと加入する。
その実力の高さは疑いようがなかった。2019年にはツール・ド・スイス最終日にスタート直後から逃げに乗り、およそ100㎞を独走逃げ切り勝利。いつ覚醒してもおかしくない存在だった。
それでも昨年のブエルタは実に強かった。プリモシュ・ログリッチ、リチャル・カラパスの両巨塔に喰らいついていっただけでなく、あまり強いイメージのなかった個人TTでも、ヴォーターズ自身を驚かせるほどの走りをしてみせた。
そして何よりも、アングリルで見せたあの恐るべき走り。今にも倒れ込んでしまいそうなくらいに体を揺らしながら、ペダルを踏みながら気を失ってしまっているのではないかと思うような危機迫る表情で、彼は走り続けていた。
1つの勝利にここまでの「すべて」を出し切れる走りは初めて見たように感じる。ただ強いだけではない、執念の走り。
あとはここで止まることのないよう・・・継続して結果を出していけることを願う。
セルジオ・イギータ(コロンビア、24歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- パリ~ニース総合3位
- ツアー・コロンビア2.1区間1勝&総合優勝
- コロンビア国内選手権ロードレース優勝
- UCI世界ランキング63位
南米の類稀なる才能。元々はコロンビアのプロコンチネンタルチーム、マンサナ・ポストボンに所属しており、2019年にEFと契約。
4月まではフンダシオン・エウスカディ(現エウスカルテル・エウスカディ)に一時的に籍を置いて5月からが正式契約であったのだが、このフンダシオン時代にもボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナで新人賞を獲ったりブエルタ・ア・アンダルシアで区間2位&総合7位を獲ったりしていた。
当初は登りスプリントに強いパンチャータイプという印象だったが、同年のツアー・オブ・カリフォルニアで総合2位。
さらにはブエルタ・ア・エスパーニャの1級山岳を4つ越えさせる山岳ステージて逃げ切り勝利を果たしたことで、チームの主力クライマーとしての地位を確立した。
今年はエガン・ベルナル、イバン・ソーサらを下してコロンビアロード王者に輝き、パリ〜ニースでも総合3位。
大きな期待をもってツール・ド・フランスに挑んだが、ここではいくつかの不運のもとに結果出せずに終わってしまった。
しかしマルティネスが去った以上、彼がチームの中心である必要がある。
2021年目標は、グランツールの総合争いへの参画だ。
TTでも時折強さを見せつけることもある彼にとって、来年のツール・ド・フランスは可能性を見出すことのできるコースレイアウトとなるだろう。
カーシーと共に、未来のEFを支える存在となってほしい。
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、29歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- 世界選手権ロードレース11位
- オンループ・ヘットニュースブラッド21位
- ストラーデビアンケ30位
- UCI世界ランキング211位
2018年にオンループ・ヘットニュースブラッドとアムステルゴールドレースを立て続けに制し、同年の世界選手権ロードレースでは7位を記録した。 そのまま稀代のワンデーレーサーになるかと期待していたが、ディメンションデータへ移籍してからの2年間は全くの鳴かず飛ばずだった。
だが、今回のEFへの移籍は、そんな彼の復活につながる大きな一手であるように感じる。
ディメンションデータ(NTTプロサイクリング)での彼の苦境の一端は、彼を支えるアシストたちの不在だとも言える。それに対してこのEFであれば、彼と同じような脚質を持つ実力者アルベルト・ベッティオルがダブルエースとして存在しており、彼のロンド制覇を支えたセバスティアン・ラングフェルトも健在だ。
チームとしても、抜けたセップ・ファンマルクの穴を埋める存在として、ヴァルグレンには大いに期待していることだろう。このチームが再びクラシックの頂点を掴み取るチャンスは十分にあるように思われる。
そしてまた、今年は世界選手権がフランドルで開催される。コースの詳細は不明だが、ロンド・ファン・フラーンデレンのコースは使われないという噂なので、どちらかというとピュアクラシックスペシャリストというよりは、このヴァルグレンやそれこそベッティオルのような、パンチャータイプクラシックスペシャリストにとって有利になるレイアウトというパターンも十分ありうる。
2021年はヴァルグレンにとって復活の年になるはずだ。そして、別府もまた、その手助けができたとしたら実に嬉しいことである。
その他注目選手
中根英登(日本、31歳)
脚質:パンチャー
誰もが驚きの移籍であった。それが発表されたのは、彼の「東京オリンピック選考脱落」が確定した直後であった。
彼のファンの多くが落胆し、悲嘆にくれる中で届けられたまさかのEFプロサイクリング公式ツイートでのその報告は、思わず二度見してしまうくらいに寝耳に水のニュースであった。
“I'm very glad that I'll be riding for this wonderful team. I understand that the mission of a WorldTeam is extremely difficult, but I'm ready for that."
— EF Pro Cycling (@EFprocycling) October 16, 2020
And we're ready for you, Hideto! 🇯🇵 We're proud to announce that this guy is joining the team in 2021. pic.twitter.com/63DQsHW832
ジョナサン・ヴォーターズいわく、2019年のジャパンカップにおける彼の走りにほれ込んだからという。のちに発表されたNIPPOのEFチームへのスポンサードの経緯ももちろん影響はあっただろうが、それでもヴォーターズが日本の若手ではなく、この30を過ぎた男をあえて選んだのは、その実力を確かに認めているからだろう。引退した元UAEの選手マヌエーレ・モーリもまた、中根を「別府・新城の次に強い日本人」として認めていた。
そして、それが発表された直前の代表選考レースで彼が彼自身の順位ではなく、あくまでもチームメートのサイモン・カーの勝利のために走ったその姿勢もまた、この若き力が活躍するEFにおいては重要なポイントであるように思う。
おそらくは、中根自身がエースで走る機会はほぼ、ないだろう。少なくともヨーロッパにおいては。
それでも、新城幸也や別府史之がアシストとして大きな存在感を放ち、ワールドツアーチームの中で使われ続けるのはやはりその安定感を見込まれてのことである。
日なたに入ることだけがロードレースの選手ではない。世界で認められる走りを、ぜひ中根には期待したい。
ただ、やっぱりグランツールに出場して、どこかのレースで逃げに乗って、日本のファンたちを沸かせる走りもまた、期待している。
いつか見てみたい。「日本人によるグランツール逃げ切り勝利」を。
ヨナス・ルッチ(ドイツ、23歳)
脚質:ルーラー
昨年のツアー・ダウンアンダー最終日ウィランガ・ヒル。
ロット・スーダルのネオプロ・マシュー・ホームズが「ウィランガの王」リッチー・ポートを打ち破ったことで驚きに包まれたこの日、もう1人のネオプロが印象的な走りを見せていた。
彼の名はヨナス・ルッチ。ドイツ人の当時22歳。197㎝、82kgの重量級選手でありながら、逃げに乗って迎えたウィランガ・ヒルの最終登坂でアグレッシブなアタックを繰り返し繰り出していた。
結局その動きは実を結ぶことなく集団に吸収されてしまうわけだが、その後もレース・トーキー、ヘラルドサン・ツアーとオーストラリアの大地で積極性を見せ続けていた。
そんな彼は元U23ヘント~ウェヴェルヘム優勝者。そしてジョナサン・ヴォーターズGMもまた、彼を「ターミネーターのアーノルド・シュワルツネッガーのようなマシンだ」と形容していた。
そう、つまり彼はその本職においては北のクラシックスペシャリスト。ゆえに、2020年シーズンも北のクラシックでの活躍が期待されていた。
その緒戦となるオンループ・ヘットニュースブラッドでは、残り70㎞の「レケルベルグ」で、早くも「勝ち逃げ集団」となる8名が形成される。
そしてルッチはその中に入り込んでいた。イヴ・ランパールト、マッテオ・トレンティン、マイク・テウニッセン、ジャスパー・ストゥイヴェン、ティム・デクレルク、セーアン・クラーウアナスンといった超精鋭軍団の中に、である。
そこまでは完璧だった。しかし彼はその直後、実にネオプロらしい「失敗」をしてしまう。
その後、長い中断期間を経て行われた「秋のクラシック」での彼の結果は全くもって見るも無残なものであった(ヘント~ウェヴェルヘムとドリダーフス・ブルッヘ・デパンヌDNF、ロンド・ファン・フラーンデレン91位)。
ルッチはこのまま、期待だけされて消えていく運命にあるのだろうか?
いや、そうは思わない。彼はきっと、ここから伸びる。
むしろネオプロ1年目で成功するなんてのはごくわずかな特別な例にすぎない。だからこそUCIでは、ネオプロとの契約は2年を義務付けているのだ。
逆に言えば、今年は彼がこのワールドツアーで走り続けられるかどうかを決める、重要な1年。
そしてチームとしても、ヴァルグレン、ベッティオルと、丘陵系のパンチャータイプクラシックスペシャリストこそ揃っているものの、ファンマルクの穴を埋めるという意味では「パリ~ルーベ」向けの選手が足りていないのも事実。
そこはこのルッチが担うべきポイントである。
私は信じている。きっと彼が、ニルス・ポリッツに負けない、ドイツの期待の重量級ルーラーになることを。
がんばれルッチ。
ニールソン・ポーレス(アメリカ、25歳)
脚質:オールラウンダー
2016年のツアー・オブ・カリフォルニア。
若手の登竜門とも呼ばれたこのレースの新人賞(23歳以下の選手たちから選出)のTOP3を占めたのが、当時から最強育成チームとして名高いアクセオン・ハーゲンスバーマンだった。
そのときの新人賞3位がルーベン・ゲレイロ。当時21歳。昨年のジロ・デ・イタリアで山岳賞を手に入れた男である。
そのときの新人賞2位はテイオ・ゲイガンハート。当時21歳。同じく昨年のジロ・デ・イタリアで、総合優勝を果たした男である。
そして、そのとき、その2人を1分以上突き放して堂々の新人賞1位(総合では9位)に輝いたのが、当時まだわずか19歳だったこの男、ニールソン・ポーレスである。
その後、一足先にワールドツアー入りを果たしたゲレイロとゲイガンハートに遅れること1年、2018年に当時「最強」への階段を少しずつ踏みしめつつあったチーム・ロットNLユンボ(現ユンボ・ヴィズマ)にてプロデビュー。
この強豪チームで彼もまた、その才能を輝かせることになるのだろう、と当時は信じていた。
しかし、2018年にセップ・クスが台頭し、2019年にはローレンス・デプルスが異様な強さを発揮する中で、ポーレスはなかなかチャンスを掴めずにいた。
そして2020年には早くもユンボを去り、EFに。彼の「最強若手オールラウンダー」としての台頭の道は一旦、閉ざされてしまったように見えた。
しかし、2020年のツール・ド・フランスでは、4度に渡って逃げに乗る。彼が今のままでは、総合エースを任され、かつてのような栄光に満ちた走りをすることはできないことを承知で、ただがむしゃらに、今できることをやろうと、力を振り絞った。
それは決して、実ることのないアタックだった。
それでも彼は諦めず、何度も、何度もアタックして、そして結果の出ないツール・ド・フランスを終えた。
しかし、忘れてはいけない。昨年栄光を掴んだゲイガンハートもゲレイロも、2年前のブエルタ・ア・エスパーニャの3週目に、同じように何度も繰り返し逃げに乗って、その度に勝利を逃していたのだということに。
だから今年は、ポーレスがついにその本当の実力を世界に知らしめるシーズンになると確信している。
ニールソン・ポーレス。アメリカの若き才能。
その第二の台頭は今、目の前に迫ってきている。
総評
実績を残した中心的な戦力が大量流出し、戦力ダウンは避けられない。
一方で、ベッティオル、カーシー、イギータ、ヴァルグレンら残された、あるいは新たに加入してきた新戦力が、それでも結果を積み上げてくれることも期待できるチームだ。
一方で、不安が残されているのがスプリント。本来中心的な役割を担うはずだったクリストファー・ハルヴォルセンが精神的な問題もおり母国のチームへと移ってしまい、かつていたサッシャ・モドロも不在のこのチームでスプリンターとして残されているのはモレノ・ホフラントやジュリアス・ファンデンベルフなどの一部にとどまっている。
マグナス・コルトニールセンもまあ、ブエルタ・ア・エスパーニャで区間2勝していたりする一応スプリンターではあるんだけど・・・最近はもっぱら山岳アシストや山岳エスケーパーとしての活躍が主になっている感。
やはりクラシックで勝利を量産していかなければ、数年前に経験した全チーム中最低ランクの勝ち星しか稼げない結果に終わる可能性も。
「強豪」ではない、しかしチャンスを多く持っているチーム。こういうチームにこそ、活躍してほしいものだ。
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