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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2021 第2週

 

 

今年のツール・ド・フランスは、もう終わってしまったのか?

そう、思わせてしまうような、第1週のアルプス2連戦でのタデイ・ポガチャルの走り。

その圧倒ぶりは、ライバルたちの「敗北宣言」を早々に出させてしまうほどであった。

 

 

しかし、もちろん、終わりではない。

第2週に用意された二つの目玉ステージ、すなわち「モン・ヴァントゥ2回登坂」と「アンドラ」で、ライバルたちによる反撃が繰り広げられる。

結果としてそれはポガチャルからタイムを奪うことには繋がらなかったものの、それは確かに彼の勢いが落ちてきつつあることを意味してもいた。

 

激動の第3週の「予兆」とも言える第2週の展開を詳細に振り返っていこう。

 

 

もちろん、「伝説」に並ぶ走りを見せたマーク・カヴェンディッシュについても。 

 

目次

 

コースプレビューはこちらから

www.ringsride.work

 

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第10ステージ アルベールヴィル〜ヴァランス 190.7㎞(平坦)

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レースレポートはこちら

休息日明けの平坦ステージ。アクチュアルスタート直後にトッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)ユーゴ・ウル(アスタナ・プレミアテック)の2人だけが逃げに乗り、全体的には平穏な雰囲気で推移した。

残り20㎞を切って横風が強く吹き付けるようになってくると、マイヨ・ジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が後続に取り残される場面もあり、ユンボ・ヴィスマが中心となって集団を引っ張り上げようとする場面などもあったが、最終的には先頭集団の数は絞り込まれたものの、重要な選手が遅れるということはないまま集団スプリントへ。

 

 この日は、ドゥクーニンク・クイックステップがあまりにも完璧なトレインを形成した。すなわち、世界王者ジュリアン・アラフィリップ、ロンド・ファン・フラーンデレン覇者カスパー・アスグリーン、オンループ・ヘットニュースブラッド覇者ダヴィデ・バッレリーニ、そして宇宙最強のリードアウター、ミケル・モルコフ

残り1㎞を切った段階でなお、アスグリーンを先頭にカヴェンディッシュの前に3枚のアシストが残っている状態。

当然、集団は縦に長く引き伸ばされ、カヴェンディッシュのライバルたちは誰も、主導権を奪うことなどできない状態。

 

これが1週目であれば、マチュー・ファンデルプールによってこの最強トレインの横に並ぶ形でアルペシン・フェニックスが上がってきただろう。さらに最後は自ら勝利を狙えるティム・メルリールが最終発射台を務めることで、ミケル・モルコフすら凌駕することができただろう。事実、第6ステージはその展開であった。

が、しかし、すでにファンデルプールもメルリールもリタイアしてしまっている。そうなればもう、誰もドゥクーニンクの最強トレインを止める術はない。

 

あとはもう、カヴェンディッシュにとって最も力を発揮できるラスト100m未満の距離から彼を放てば終了。

カヴェンディッシュのスプリント開始と同時に背後からワウト・ファンアールトも追い上げてきたものの、カヴェンディッシュ自身のコンディションも完璧だったため、結局ファンアールトは前に出ることはできなかった。

また、アルペシン・フェニックスのジャスパー・フィリプセンもかなり後方からスプリンターたちの間を縫ってものすごい勢いで番手を上げてきたものの、やはり届かなかった。

彼もトレインさえ完璧であれば十分に勝負できたかもしれないが、結局は今回も惜敗で終わった。

 

マーク・カヴェンディッシュ、33勝目。伝説の男エディ・メルクスの記録まであと1勝に迫った。

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第11ステージ ソルグ~マロセーヌ 198.9km(山岳)

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レースレポートはこちら

今大会の目玉の1つである、「モン・ヴァントゥ2回登坂」ステージ。

ダニエル・マーティンジュリアン・アラフィリップバウケ・モレマなどの精鋭で形成された17名の逃げ集団とメイン集団との「2つの戦い」が繰り広げられた。

 

まずは先頭17名が「1回目登坂」すなわち「ソー」からの登坂距離22㎞・平均勾配5.1%の登りに突入すると、その集団の先頭からはマーティンもモレマも脱落し、ジュリアン・ベルナールケニー・エリッソンドのトレック・セガフレードコンビ、アラフィリップ、アントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)、クサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・フェニックス)、ルーク・ダーブリッジ(チーム・バイクエクスチェンジ)、そしてワウト・ファンアールトの7名だけとなった。 

 

さらに残り37.7㎞地点から「2回目登坂」すなわちいつもの「べドアン」からの登坂距離15.7km・平均勾配8.8%の登りに突入。

ここでダーブリッジやペレス、ムーリッセなどが脱落する一方、1回遅れていたモレマが先頭復帰。

3名になったトレックからベルナールが集団牽引の役割を担い、その引き伸ばされた先頭から放たれたエリッソンドが、まずは単独で抜け出した。

 

このアタックに即座に反応したアラフィリップだが、すぐに失速してしまう。牽制? それとも、実はもう、パワーが残っていなかったのか・・・。

ファンアールトはとくにペースを上げることなく、自らのペースを保ちながら淡々とペダルを踏んでいく。

モレマは当然、エリッソンドが前に抜け出ているため、牽く理由はない。

トレックにとって、かなり有利な展開が作られた、はずであった。

 

だが、ここからファンアールトがひたすら強かった。

決してアタックするわけではない。世界トップクラスのTTスペシャリストでもある彼らしく、一定ペースのクライミングで静かにアラフィリップとモレマを突き放した。

そして、一旦は30秒弱までタイム差を開いて先行していたエリッソンドにも、あっという間に追いついて、あまつさえその先頭を奪い取る。

何度か背後のエリッソンドに前を牽くように促すものの、エリッソンドは後ろにモレマがいるからか――あるいは単純に、ファンアールトのペースが速すぎて前に出る余裕がないのか――これを拒否。

やがて残り33.1㎞。山頂までまだ10㎞以上残っている段階で、ファンアールトはエリッソンドを突き放し、単独先頭に立った。

 

後続では限界を迎えたアラフィリップを突き放してモレマが単独でエリッソンドに合流。2人で先頭のファンアールトを追いかける。

しかし、結局2人は彼の背中を見ることは2度となかった。

 

シクロクロス元世界王者。ストラーデビアンケとミラノ~サンレモの覇者。そしてTT世界選手権では2位に入る男が、この超級山岳モン・ヴァントゥでも勝利を掴んだ。それも、前日のピュアスプリントステージで2位に入っているにも関わらず。

真の意味でのオールラウンダー。新たな時代をまた一つ、開いた。

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そして、総合争いもまた、白熱する。

イネオス・グレナディアーズが中心となって牽引するプロトンからは次々とUAEチーム・エミレーツのアシストたちも剥がれていき、山頂まで4㎞を切ったところで最後のアシストであるラファウ・マイカも脱落した。

そして先頭はミハウ・クフィアトコフスキ、リチャル・カラパス、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、リゴベルト・ウラン、アレクセイ・ルツェンコ、エンリク・マス、ウィルコ・ケルデルマンの8名だけに。

クフィアトコフスキが必死の形相で牽引を続け、最後は山頂まで約2㎞のところでオールアウトした様子で落ちていく。このタイミングでマスも脱落した。

 

そして、山頂まで残り1.5㎞。

ここで、総合4位のヨナス・ヴィンゲゴーが最初に攻撃を仕掛けた。

当然、すぐさまポガチャルが反応し、ウランとカラパスが少し離される。ケルデルマンとルツェンコはここで完全に脱落。

 

山頂まで1㎞。ヴィンゲゴーがもう一度加速。

ここでついに、ポガチャルが突き放された。

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山頂時点で、ヴィンゲゴーとポガチャルとのタイム差は30秒。

元々5分以上ものタイム差がついているとはいえ、今大会初めて、ポガチャルがライバルに「差を付けられた」瞬間となった。

 

 

しかしこの日は下りフィニッシュ。

最終的には冷静に後続のウランとカラパスと合流したポガチャルが下りでそのギャップを縮め、タイム差なしでのフィニッシュとなる。

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結論だけ見れば、結局ポガチャルは誰からもタイムを失わなかった。

しかしそれでも、ポガチャルが完全無欠ではないことを証明した1日でもあった。

それはすなわち、このツール・ド・フランスもまた、最後までどうなるか分からないということを示す瞬間でもあった。

 

果たして、3週間の結末はどうなってしまうのか。

 

ヨナス・ヴィンゲゴーについては以下の記事も参照のこと。

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第12ステージ サン・ポール・トロワ・シャトー〜ニーム 159.4㎞(平坦)

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レースレポートはこちら

モン・ヴァントゥでの激戦を終え、プロトンは南仏の観光都市ニームへと向かう、典型的な移動ステージを迎える。

大方の予想通りの集団スプリント、そしてエディ・メルクスの記録へと挑戦するマーク・カヴェンディッシュとドゥクーニンク・クイックステップの戦いが繰り広げられる――と思っていた中で、意外な展開が巻き起こる。

すなわち、南仏の移動ステージではよくありはする「横風」。アクチュアルスタート直後に襲い掛かったその横風の影響でエシェロンが形成され、たちまち集団は分裂した。

総合有力勢が大きく遅れるといった事態にはならなかったものの、結果として生まれたのは、13名の大逃げ集団。

そして、メイン集団でもUAEチーム・エミレーツが中心となって牽引し、あっという間にタイム差は10分を超えていく。

 

ある意味で平穏な平坦ステージにはなった。この日の戦いはすべて、先頭の13名の中だけで繰り広げられることとなった。

 

 

先頭の13名にはアンドレ・グライペル(イスラエル・スタートアップネーション)、ルカ・メズゲッツ(チーム・バイクエクスチェンジ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(チーム・トタルエナジーズ)などのスプリンタータイプの選手たちも含まれていたことで、スプリントに持ち込まれないようにフィニッシュから離れた位置から抜け出そうとする選手たちが散発的なアタックを繰り出していく。

その筆頭が、ボーラ・ハンスグローエのニルス・ポリッツであった。

残り50㎞地点でコナー・スウィフト(アルケア・サムシック)と共にアタック。そこにメズゲッツとビッセガーも加わり一時は4名で抜け出すが、のちに後続集団をグライペルが一気に引き上げてきたことで一度は引き戻される。

だが、残り40㎞で再び、今度はシュテファン・キュング(グルパマFDJ)とイマノル・エルビティ(モビスター・チーム)、そしてハリー・スウェニー(ロット・スーダル)と共に4名で抜け出すことに成功する。

そしてこの4名が最終的に勝ち逃げ集団となる。

 

残り14.3㎞。カテゴリのついていない小さな登りで、昨年のU23版イル・ロンバルディア覇者スウェニーが加速してキュングが脱落。しかしポリッツとエルビティは一度は離されながらもペース走行でなんとか追いついていく。

そして残り12㎞。登りも終わりに差し掛かるタイミングで、今度はポリッツがアタック。パンチャーといってもいい加速力から繰り出されたアタックと、ルーラーらしい独走力との合わせ技で、スウェニーとエルビティを完全に置き去りにしたままラスト12㎞の独走を敢行。

最初は大きく口を開けて常に叫びながらアタックしていた苦しそうな表情から、フィニッシュ直前にはさわやかな笑顔と信じられないといったようなジェスチャー。

2019年パリ~ルーベ2位。その未来を嘱望されたドイツ人新エースが、「まずは」ツール・ド・フランスの勝利を手に入れた。

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第13ステージ ニーム~カルカソンヌ 219.9㎞(平坦)

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「集団スプリントととても相性の悪いフィニッシュ」とプリュドム氏も認めるカルカソンヌだが、前日まさかの逃げ切りとなったこともあり、この日こそはなんとしてでも集団スプリントに持ち込まなければ、という思いが働いたのか、出入りの激しい展開の末に許されたのはわずか3名の逃げであった。

残り70㎞を切ったタイミングで集団からフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)やアレックス・アランブル(アスタナ・プレミアテック)などが飛び出してチャンスをつかもうとするが、その都度カスパー・アスグリーンを始めとしたドゥクーニンク・クイックステップの面々がその目論見を阻止。

残り53㎞で最初の逃げがすべて吸収されたあと、新たに出来上がったカンタン・パシェ(B&Bホテルス・p/b KTM)による逃げも残り19㎞で引き戻された。

 

徹底的なコントロールで集団スプリントへと持ち込んだドゥクーニンク・クイックステップ。あとは、フィニッシュまで完璧に仕上げるだけだ。

本来であれば1枚余計に用意されている世界王者ジュリアン・アラフィリップを、途中の集団コントロールですでに使い切ってしまっていたため、残り2㎞でアスグリーン、バッレリーニ、モルコフ、カヴェンディッシュの4名体制に。

しかしここでアスグリーンが残り700mまでひたすら先頭をハイ・ペースで牽き続けるという信じられない仕事ぶりを発揮。

さらにラスト600mの左直角カーブでチームDSMのニルス・エークホフケース・ボルを引き連れて集団先頭を奪うと、バッレリーニがこれをすぐさま抑え込む。

しかしここで、緩やかな登り基調ということもあり、カヴェンディッシュがやや番手を下げている! それに気づいたモルコフはあえてバッレリーニにはついていかず、足を止める。

その隙にカヴェンディッシュが目の前のブアニらを避けてモルコフの後輪に飛びつく。

それを見届けたモルコフは一気に加速し、ボルとエークホフの間に割り込んだ。

その後、残り300mでモビスター・チームのイバン・ガルシアがスプリントを開始。たまらずカヴェンディッシュもこれを追いかけようとするが、彼にとっては早すぎるスプリントを認めず、モルコフがその前で再び加速し、ガルシアの背中にぴったりと貼りつく。

あとは、必勝の残り100m未満まで先頭でカヴェンディッシュを引き上げるだけだった。

あまりにも強い、スーパーリードアウター、モルコフ。

最後は自ら勝利できるほどの勢いながら足を止め、カヴェンディッシュに「伝説」と並ぶ4勝目を捧げ、自らは2位に入り込んだ。

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これで「伝説」と並んだ。

あと1勝で、カヴェンディッシュは唯一の頂点に辿り着く。

残る平坦ステージは2つ。

このドゥクーニンクの圧倒的な強さを思えば、それは決して夢でも何でもないようにすら思えてしまう。

 

あとは、山岳でタイムアウトにならないことと、落車に巻き込まれないこと。

 

 

第14ステージ カルカソンヌ〜キヨン 183.7㎞(丘陵)

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翌日に厳しいアンドラステージ、そしてスプリンターには全くチャンスのないレイアウト。

と、くれば、大逃げは予想通りであった。今大会とくに逃げが決まりやすいステージの筆頭たるこのステージで、14名の逃げ集団が形成された。

 

まずは山岳賞争い。第9ステージで山岳賞ジャージを手に入れたナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)はこの逃げには乗れず、代わりに山岳賞ランキング4位のワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)と同3位のマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネーション)とが熾烈な争いを繰り広げた。

最終的にはプールスは足が売り切れたことで途中脱落。ウッズがこの日合計で12ポイントを獲得。

50ポイントを保有するキンタナを4ポイント上回り、ウッズが山岳賞を奪い取ることに成功した。

 

そして、そんな先頭集団から、残り42㎞地点の長い下りで抜け出したのがバウケ・モレマだった。

4年前、ツール・ド・フランスで初勝利したときも同じく下りでの単独アタックであった。あのときは残り29㎞地点からだったが、そのときからさらに10㎞遠い位置からのアタック。それでも、たちまち作り出した1分のタイム差を縮めさせることなく、バウケ・モレマはツール・ド・フランスでの2勝目を飾ることとなった。

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そして総合争いはノーコンテスト。

しっかりと足を貯めた中で、いよいよ第2週最終日、アンドラ決戦へと駒を進めていく。

 

 

第15ステージ セレ~アンドラ・ラ・ベリャ 191.3km(山岳)

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ツール・ド・フランスでは5年ぶりの登場となるピレネー山中の小国アンドラ。フランスとの国境を越えたところに位置する1級山岳ポート・デンバリラは標高2,408mと、今大会最標高地点(=アンリ・デグランジュ賞)。

超高々標高バトルで第2週のクライマックスが描かれることに。

 

この日も非常に出入りの激しい展開が続き、30㎞ほど消化したところで32名の逃げ集団が形成される。

その中には山岳賞首位のマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネーション)、2位のナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)、3位のワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)、そして4位のワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)がすべて含まれており、それぞれ54、50、49、43ポイントという接戦。

展開の読めない熾烈な山岳バトルが幕を開ける。

 

 

残り105㎞地点の1級モン・ルイス峠(登坂距離8.4㎞、平均勾配5.7%)はプールス、残り58.2㎞地点の2級ピュイモレンス峠(登坂距離5.8km、平均勾配4.7%)はファンアールトが先着。

さらに、そこまであまり争う姿勢を見せていなかったキンタナが、次の1級山岳ポート・デンバリラ(残り44.6㎞地点、登坂距離10.7km、平均勾配5.9%)の山頂まで残り2㎞を切ったところでアタック。

一気に追走集団を突き放して山頂を先頭通過し、下りで追い付かれはしたものの、さらにこの日最後の1級ベイクサリス峠(登坂距離6.4km、平均勾配8.5%)の登り口でもまたアタックして独走に持ち込んだ。

しかしこの最後の登りでのキンタナのアタックは長くは続かず。結局、この日を終えて最後に山岳賞ジャージを手に入れたのはそれぞれの山岳ポイントを1位・2位・3位・3位と常に安定して上位で通過していたプールスが、最終的に74ポイントにまで積み上げ、山岳賞ジャージを奪還。

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それでも山岳2位のウッズとのポイント差は8ポイント、キンタナとファンアールト都は10ポイントの差でしかない。

しかも、3週目に登場する2つの「超級山岳山頂フィニッシュ」はいずれもポイント2倍の「40ポイント」。総合勢も含め、まだ誰が最後にこの水玉ジャージを手に入れるかはわからない。

白熱の山岳賞の行方もまた、第3週の見所の1つだ。

 

 

そして、最後のベイクサリス峠でキンタナを突き放し、プールスも後退させ、先頭に飛び出したのは、この日エースのヨナス・ヴィンゲゴーを1人にしてでも先頭に3名の有力選手――ステフェン・クライスヴァイク、ワウト・ファンアールト、そしてセップ・クス——をすべて入り込ませたユンボ・ヴィスマだった。

その中の、アメリカ人トップクライマー、クス。

2018年に突如ツアー・オブ・ユタでステージ3勝と総合優勝を果たし覚醒し、2019年ブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝、そして2020年にはときにプリモシュ・ログリッチ以上の走りすら見せながらそのツール総合2位とブエルタ総合優勝を支えた「最強山岳アシスト」。

だが、安定感のなさとTTがあまり得意でないことも影響し、エース級で出場したステージレースではそこまで良い結果は出せず。より総合力の高い新鋭ヨナス・ヴィンゲゴーにそのお株を奪われつつあった昨今だったが・・・この日は、残り19.5㎞。ベイクサリス峠の山頂まで残り5㎞の地点でアタック。

唯一アレハンドロ・バルベルデだけがこれに食らいついてきたが、それもあっという間に突き放し、独走を開始した。

 

それは、爽快感すら感じさせる鋭いアタックであった。

ヴィンゲゴー、ログリッチ、ポガチャル・・・昨今のステージレースを支配するオールラウンダータイプとはまたちょっと違う、重みのある一撃。

ナイロ・キンタナやサイモン・イェーツにも近しいその一撃の持ち主はなかなか報われないことも多い中で、彼は今回その一撃を見事に放ってみせた。

 

そして、彼の今の住まいであり、良く知っている道だというベイクサリスからのテクニカルな下りも彼にとっては大きな武器であった。

ダウンヒル巧者でもあるバルベルデとのタイム差を決して縮めることがないまま、万感の思いを込めてフィニッシュにまで飛び込んできた。

ログリッチを含めて3名をすでに失っているユンボ・ヴィスマが一か八かで繰り出した「3名逃げ」は、クスの勝利という素晴らしい成果を導き出した。

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では、総合争いは?

序盤~中盤まではひたすら、UAEチーム・エミレーツに牽引を押し付けたライバルたち。

結果として先頭34名とのタイム差は最大で10分超にまで広がったが、フランス~アンドラ国境に向かうピュイモレンス峠の登りで、イネオス・グレナディアーズとモビスター・チームが集団の先頭に躍り出て、一気にペースを上げ始めた。

リッチー・ポート、そしてイバン・ガルシアを中心に加速していく集団は、1㎞を消化するごとに30秒を縮めるという、恐ろしい勢い。

さらに先頭逃げ集団に入り込ませていたジョナタン・カストロビエホとディラン・ファンバーレも落ちてきて合流したことで、イネオストレインは更なる加速。

最終的に1級ポート・デンバリラの山頂間際ではミハウ・クフィアトコフスキ、ゲラント・トーマス、リチャル・カラパス、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、エンリク・マス、ウィルコ・ケルデルマン、リゴベルト・ウランなど10名ちょっとの精鋭集団しか残っておらず、当然そこにUAEチーム・エミレーツのアシストの姿はない。

 

そして、最後の1級ベイクサリス峠で繰り広げられる、第1週の最終決戦。

まず仕掛けたのはリチャル・カラパス。だがこれはすぐさまポガチャルによって引き戻される。さらにポガチャルも先頭に立ってペースアップを仕掛けるが、だが、これまでのようにライバルたちを突き放すほどの勢いはない。

さらに、モン・ヴァントゥではポガチャルを突き放す驚きの走りを見せたヨナス・ヴィンゲゴーも2度に渡りアタック。あのときと同じようにポガチャルだけが食らいつき、カラパスとウランが少し離れてついていく、という瞬間もあったが、しかしこの日はいずれの攻撃も決定的なものにはならなかった。

その度に、スローダウンが繰り返され、一度遅れたベン・オコーナーやウィルコ・ケルデルマンが追いついてはカウンターでオコーナーがアタックするというような場面が何度か繰り返される。

 

結果として、この日は総合TOP勢は実質的なノーコンテスト。

総合2位のギヨーム・マルタンと総合8位のアレクセイ・ルツェンコだけが脱落したくらいに終わった。

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タデイ・ポガチャルの圧倒的優位は変わらない。それは本当に、一切変わらない。

しかし、第1週が終わったあのときと比べ、その雰囲気は少し異なっているように思う。

モン・ヴァントゥで見せた、ヴィンゲゴーに突き放されるポガチャル。

そしてこのアンドラで見せた、ライバルたちを突き放せなかったポガチャル。

 

まだ、「総合優勝争い」も終わってはいない。そんな風にすら思える。

何しろ、第3週は今大会ではまだ未知の「超級山岳山頂フィニッシュ」が「2回」登場するのだ。

第17ステージのコル・ド・ポルト。そして第18ステージのリュス・アルディダン。

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いずれも非常に厳しい、超級山岳山頂フィニッシュ。

ここで、また歴史的なドラマが描かれる可能性は十分にある。

そして、第20ステージの、「30㎞超平坦個人タイムトライアル」。昨年、世紀の大逆転劇を生んだポガチャルは、もしかしたら今年、その足元を掬われてしまうかもしれない?

 

 

まだまだ、予想のつかない今年のツール・ド・フランス。

以下の記事で第3週のコースを予習しつつ、楽しみにそれを迎えよう。

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