りんぐすらいど

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ツール・ド・フランス2021 最強スプリンター候補プレビュー

 

真の「世界最強スプリンター」を決める場はどこよりもこのツール・ド・フランスでこそ相応しい。過去にはマーク・カヴェンディッシュやマルセル・キッテル、アンドレ・グライペルなどが1大会に4勝以上を叩き出し、正真正銘の「最強スプリンター」であることを示していた。

 

しかし、近年は3勝することすら珍しい、群雄割拠の戦国時代に突入して久しい。

そんな中、昨年のジロで4勝を叩き出したアルノー・デマールが3年ぶりにツール・ド・フランスへ戻ってくることや、暫く不調だったペテル・サガンやマーク・カヴェンディッシュ、アンドレ・グライペルなどが少しずつ調子を取り戻しつつあることなど、注目すべきポイントは多い。

とくにサム・ベネットやジャコモ・ニッツォーロが欠場するという事態は、この混乱にさらに拍車をかけることになるだろう。

 

今回、今大会の注目スプリンター7名を紹介していく。

ただ、ここで紹介した選手以外にも、十分に勝てる選手は非常に多くいて、なかなか難しいものである。 

 

※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。

※年齢はすべて2021/12/31時点のものとなります。

※出場日数とは、ツール初日までに今期出場したレースの日数のことを表しています。

 

目次

 

全21ステージのコースプレビューはこちらから

第1週(第1~第9ステージ)

第2週(第10~第15ステージ)

第3週(第16~第21ステージ)

 

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カレブ・ユアン(ロット・スーダル)

オーストラリア、27歳、167cm、69kg、出場日数29日

Embed from Getty Images

今年3大グランツールで勝利を狙うと宣言しているカレブ・ユアン。

すでにジロでは幸先の良い2勝を遂げ、直近のベルギー・ツアーでも文句なしの2勝。

おそらく共に3大グランツールを旅することになるのであろう最強のアシスト陣ーージャスパー・デブイスト、ロジャー・クルーゲ、トーマス・デヘントーーもしっかりと揃え、隙のない状態でツールに挑む。

 

とくに最大のライバルたるサム・ベネットの欠場は、彼にとって大きなチャンスとなる。

とはいえ、ブエルタへの出場も睨む彼と彼のアシストたちは、マイヨ・ヴェールにもシャンゼリゼにも興味はないだろう。

おそらくは、最長でも第13ステージくらいまでしかおらず、そこまでに2勝重ねられれば上出来だ。

 

ただし、最初のスプリントステージたる第3ステージでの結果はおそらく期待できない・・・なんてジンクスも、打ち破れるか?

 

 

アルノー・デマール(グルパマFDJ)

フランス、30歳、182cm、76kg、出場日数33日

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ミラノ〜サンレモも制している世界トップスプリンターの1人。

にも関わらず、最も強く望んでいるであろうツール・ド・フランスでの勝利はそう多くない。

2017年と2018年に1勝ずつ。同年に2勝以上はできていない。

 

その意味で彼は「最強」ではなく、そこから一段劣る存在で居続けていた。

しかし、ティボー・ピノのための2年をツールから離れて過ごすうちに、デマールもまた着実に進化を遂げていた。

そして昨年のジロ・デ・イタリアでは、見事なステージ4勝とマリア・チクラミーノの獲得。

 

もちろん、ツールとジロではやはりレベルは違う。

ツールで同じ勝ち方をしてこそ、最強を名乗る資格がある。

そのことは誰よりもよく彼自身が分かっており、だからこそ今年は、チームも彼のためのツールメンバーを揃え、そして真に最強であることの証明のために乗り込んだ。

 

いつも通り前哨戦は軽く済ます。

ブークル・ドゥ・ラ・マイエンヌでステージ3勝と総合優勝。

もちろん1クラスのレースを席巻しただけでは、誰よりも良い状態であるとは断言できない。

 

あとは結果で示すだけ。

ジャコポ・グアルニエーリ、イグナタス・コノヴァロヴァス、マイルス・スコットソン・・・昨年のジロでもデマールを支えた最強の布陣と共に、3年ぶりのツールでの最強を証明する!

 

そして、目指すは2003年のジャン・パトリック・ナゾン以来18年ぶりとなるフランス人シャンゼリゼ勝利。

ベネットも(おそらく)ユアンもいない中で、その栄光に浴する可能性はこの男が最も秘めているだろう。

 

 

ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

ベルギー、27歳、190cm、78kg、出場日数15日

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だが、ある意味で、そんなアルノー・デマールにとっての最大のライバルになるのはもしかしたらこの男なのかもしれない。

ロンドやルーベを制するだけのクラシックの才能を持ち、世界王者に挑戦できるだけのTT能力を持ち、超級山岳でトップクライマーたちを篩い落とすだけの登坂力を兼ね揃えながら、スプリントでも常にトップスプリンターたちと互角に渡り合うという、神に愛されすぎた男。

ベネットが欠場し、ユアンが途中リタイアしてもなお、この男はシャンゼリゼでデマールの前に立ちはだかるかもしれない。

過去にも割と純粋なスプリントステージとはちょっと違ったリザルトを生み出しがちな石畳のわずかな登りスプリントは、元来この男にとって有利なものであり、昨年も6位に入り込んでいる。

 

あとは、何勝できるか。

もちろん、最大の目標はエースのプリモシュ・ログリッチを守るために平坦な山岳で彼をアシストすることであり、ヨナス・ヴィンゲゴーやセップ・クスと並ぶ山岳アシストの筆頭ですらあるだろうが、チャンスがあったときにはその「片手間」で2勝くらいしてしまいそうなのが本当に恐ろしい。

今年は直前のベルギー国内選手権ロードでも優勝し、ナショナルジャージを常時着た状態での参戦で、絶好調ぶりを窺わせる。

 

またパンチャー向けの2ステージで開幕し、平坦2つを挟んで長めのTTがやってくる今年のツールの序盤のスケジュールは、この男がマイヨ・ジョーヌを着用するチャンスに溢れているとも言えそうだ。

 

 

ティム・メルリール(アルペシン・フェニックス)

ベルギー、29歳、185cm、74kg、出場日数38日

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もはやUCIプロチームでありながらワールドツアーチームと遜色ない活躍を見せるアルペシン・フェニックスの中で、ある意味その象徴とも言えるのがこのメルリールだ。

現役のシクロクロッサーで、ロードでのワールドツアーチーム経験はない。

しかし過去にはベルギー国内ロード王者に輝き、そして今年は初出場のジロ・デ・イタリアの最初のスプリントステージでいきなり勝利した。

カレブ・ユアン、ジャコモ・ニッツォーロらと並び、世界最強のスプリンターの1人となったのだ。

www.ringsride.work

 

その強さをこのツールでも証明できるか。

ユアン、デマール、ファンアールト・・・彼らと並び1勝でもしてみせることはUCIプロチームとしては明らかに驚くべきことであるのと同時に、それが実現したとしても決して不思議ではないとも思わせるだけの存在に彼はなったのだ。

アルペシン・フェニックスはマチュー・ファンデルプールだけのチームではない。

メルリールもまた、このチームを象徴するエースだ。

 

もちろん、このチームのエーススプリンターは彼だけではない。

昨年、ブエルタ・ア・エスパーニャでも1勝しているジャスパー・フィリプセンもいる。

どちらがエースで走るのかは決して明白ではないので、そのあたりは実際にレースが始まってからのお楽しみだ。

 

 

ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)

スロバキア、31歳、184cm、78kg、出場日数44日

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3年連続世界王者とロンド、ルーベの制覇。そして7回のマイヨ・ヴェール。

歴史に名を残す偉大なる男も、少しずつキャリアの晩年に向けて歩を進めており、昨年、初めての完走した上でのマイヨ・ヴェール喪失は、その時代の終わりを感じさせる瞬間でもあった。

 

しかし、この男はそう簡単には終わらない。

今年のジロ・デ・イタリアでは久々に真正面からのスプリントでグランツール勝利を果たし、かつポイント賞も昨年のリベンジを果たして獲得。

その勢いのまま、このツール・ド・フランスでも、8枚目のマイヨ・ヴェール獲得を目指す。

実現すれば、ジロ・ツールの連続ポイント賞獲得である。

 

そしてその可能性は非常に大きい。昨年敗北したベネットは今年欠場し、ユアンもおそらく途中でツールを去る。

あとはデマールが3勝以上してサガンが勝てない、となれば厳しいが、そうでなければ最大の有力候補であることは間違いないだろう。

 

そして、それは彼にとってシャンゼリゼ獲得というまだ実現していない夢への可能性にも繋がっている。

昨年は3位。ファンアールトが得意とするタイプのフィニッシュであるというのは、すなわちサガンにとっても大得意のレイアウトであるわけだ。

 

マーク・カヴェンディッシュにペテル・サガン、アンドレ・グライペルといった、まるで5年前に戻ったかのような戦いを、私たちは見ることができるかもしれない。

 

 

ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)

イタリア、31歳、176cm、74kg、出場日数26日

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元バルディアーニCSF。2017年に現チームが発足した際、ワールドツアーデビューを飾ることに。

その初年度からパリ〜ニースで勝利。

2018年にはツール・ド・フランスで区間2位を2回獲得した。

 

しかし、2位であった。

いずれも、ペテル・サガンの後塵を配して。

荒れた展開や登りスプリントに強い特性は、非常に高いレベルではあったものの、「最強」にはなれなかった。

 

だが、今年は違った。

ツール・ド・ロマンディ、そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。いずれもピュアスプリンターは耐え難く落ちていく過酷なステージで、彼は2位を重ねながらも最後には勝利を掴んだ。

そしてイタリア国内選手権でも、終盤でファウスト・マスナダと共に抜け出し、最後はしっかりと「勝ち切った」。

 

今年31歳。プロ11年目。

最近の流行りからすればかなり遅い方かもしれないが、それでも彼は「殻」を打ち破った。

ゆえに今年こそ、この世界最高峰の舞台で勝利する最大のチャンスだ。

ジロ・デ・イタリア以降絶好調の続くチームの雰囲気の中で、トリコローレを身に纏いながら、彼はそれをついに掴み取ることはできるのか。

 

 

マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

イギリス、36歳、175cm、70kg、出場日数29日

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プロ生活15年で積み上げた勝利数は151、ツール・ド・フランスだけでも30勝にのぼり、伝説の男エディ・メルクスの記録する34勝に次ぐ成績を誇る。

歴史に残る偉大なるスプリンターである。

 

しかしそんな彼も、今年の頭の段階ではすでに丸3年も勝利のない状態が続いていた。

昨年は契約先がなく引退せざるを得なくなるかもしれないと感傷的になる場面もあった彼だが、最終的に元々所属していたクイックステップへの移籍が確定。

それでも、優れた若きライダーたちの多いこのクイックステップで、彼が勝利を掴むことはもちろん、エースとしてビッグレースに出場することも難しいだろうと思われてきた。

 実際、今年彼に与えられたのは1クラスやProシリーズといった、「2軍・3軍」のレースだった。

また、 その中でも単独エースでは決してなく、若くとも実績と期待のあるライダーと共に出場し、実際に彼らが上位に来ることもしばしばあった。

 

4月7日に行われたスヘルデプライスでは、サム・ベネットと共に出場した久々の「1軍レース」ではあったものの、その中で彼はベネットの後ろについて「スイーパー」の役割を任された。

その仕事は確かにしっかりと果たしていたものの、その「エースではなく、かといって発射台でもない」という立ち位置は、このチームにおける彼の微妙な立ち位置を象徴するものであった。

結局、このレースはドゥクーニンク・クイックステップの敗北に終わる。

最終的なその敗因は、「最終局面における枚数の少なさ」にあったことから、カヴェンディッシュが最終発射台の1つ前とかその前の段階の牽引役を務めていれば、あるいは別の選手がそこにいれば、勝てたかもしれないという微妙な後味を残す結果となった。

note.com

 

だが、直後のツアー・オブ・ターキーで、彼は「復活」を遂げる。

ステージ4勝という、往年の彼の強さを蘇らせるかのような、鮮やかな連勝であった。

www.ringsride.work

 

もちろん、これはProシリーズといいながらその実態は1クラスか1クラスの中でもとくに層の薄いレースとすら言えるツアー・オブ・ターキーという場での結果であった(とはいえジャスパー・フィリプセンが相手にいる中ではあったので十分に凄いが)。

本当の意味で彼がまだ世界の第一線で活躍できるかも、と感じたのは、直近のベルギー・ツアーでの勝利。

直前2つのステージでカレブ・ユアンが連勝した中で、最終日は彼が大きく後退してしまったがゆえとはいえ、ティム・メルリールやパスカル・アッカーマンを相手取っての勝利は、本当の意味で彼が再び「勝てる」と感じた瞬間であった。

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それは彼自身にとっても同じ思いだったようで、勝利の後はまるでプロ初勝利を遂げた青年のように、興奮と共にはしゃぎまくる姿も見せてくれた。

そしてミケル・モルコフという男の偉大さを語り、自分はただ彼の背中に乗って導かれたからこそ勝てただけだと、謙虚な言い方を忘れていなかった。

 

そして、ツール・ド・フランスについても、あくまでもサム・ベネットの膝の具合次第であると理解していた。それでも、万が一に備え、ツールに向けての準備は、怠らなかった。

 

 

だが、そんな中で、3年ぶりのツール・ド・フランス出場が決まる。

エディ・メルクスの記録更新については無言になる彼だが、それでも1勝はしたいという思いは確かに秘めていることだろう。

彼は決して、その名声と過去だけでこのチャンスを掴んだわけではない。

直前のレースの結果で、勝てると信じられて出場するのだから。

 

もちろん、彼の勝利は見てみたい。

いつものあの、両手を前に突き出すガッツポーズと弾けるような笑顔を見てみたい。

 

だがとりあえずはまず、彼の帰還を祝福しよう。

マーク・カヴェンディッシュ。

伝説を創り、そしてそれを伝説で終わらせず、衰えてもなお、挑戦し続けることを忘れない、この永遠の若きパイオニアのツールへの帰還を。

 

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