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パリ~ルーベ2021(男女) コースプレビュー

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およそ2年半ぶりの開催となる、「クラシックの女王」パリ~ルーベ。

いつもと違う秋のさなかに開催され、雨予報も出ているという、荒れ模様が予想される今年の「北の地獄」。

今回は、この注目すべきレースの重要セクションについて、過去のレースを振り返りながら紹介していく。

今年初開催の女子レースについても少し触れている。

実際のレースを視聴する際の参考になれば幸い。

 

注目選手はこちらでプレビュー!

www.ringsride.work

 

目次

  

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コース全体について

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https://www.paris-roubaix.fr/en/stage-1

2021年のコースも例年と大きくは変化しない。全長257.7㎞。全部で30セクションの石畳(パヴェ)区間が用意され、その総距離は実に全行程の5分の1に達する。

但し、最初の100㎞は平穏な舗装路が続き、ここでライダーたちはしっかりとしたウォーミングアップを行っていくこととなる。

最初の石畳区間は残り161.4㎞地点に用意された第30セクター「トロワヴィル~インチ(全長2.2㎞、★★★)」から。

2019年エディションではこのセクションの直後に、「セクター・マイケル・ホーラールツ」という別名でも呼ばれ、その名の通り2018年のパリ~ルーベのこのセクションで心停止によって落車しそのまま還らぬ人となった若きホーラールツを悼むモニュメントが建てられた「ブリアストル~ヴィースリー」を通過していたのだが、どうやら今年はそこは使用しない様子? 

少しだけ例年と異なるコースを辿る箇所を設けつつ、やがて残り119.6㎞地点の第22セクター「ケレネン~メン(全長2.5㎞、★★★)」以降は例年と全く同じコースを辿ることとなる。

 

なお、セクターの数字は第30セクターから始まり進むごとに数字が減っていく形式。

そして各セクターに設けられた★の数は難易度を現し、最大で星5つの最難度パヴェが3つ登場する。

以下、その3つの5つ星パヴェを中心に、過去のレースでも重大な動きの巻き起こっている要注意パヴェおよび区間を紹介していく。

 

 

残り103.5㎞「アヴルイ~ワレー」(★★★★)

第20セクター/全長2.5km

最初の5つ星パヴェ区間「アランベール」の直前に登場する難易度の高い長めのパヴェ。

当然、アランベールに向けての位置取り争いも白熱し、2018年はここで、マッテオ・トレンティンとセバスティアン・ラングフェルドという2人の優勝候補が落車リタイアする憂き目に遭った。

マシュー・ヘイマンも何度もここでレースを失ったと告げる、隠れた重要セクションである。油断は禁物だ。

 

 

残り95.3km「トルエー=ド=アランベール」(★★★★★)

第19セクター/全長2.4㎞

フィニッシュまで残り100㎞を切って、いよいよ本格的なパリ~ルーベが開幕する。

その最初の洗礼となるのが、3つ存在する5つ星パヴェの1つ目、パリ~ルーベを象徴する「森の中のパヴェ」アランベールである。

Embed from Getty Images

 

それはまさに、「地獄の入口」。

但し、誰もが警戒するポイントであり、かつゴールまで距離もあることから、ここで勝負を仕掛けようとする優勝候補はまずいない。

むしろここでは、「脱落しない」ことが重要である。

 

落車、パンク、あるいは道が狭いこともあり後方に取り残されてしまうと大きなタイムギャップが生まれ、たとえ先頭に戻ることができたとしても大きく力を使ってしまうことになる。

たとえば2014年には優勝候補でもあったアレクサンダー・クリストフがパンクによって戦線離脱。

2019年にはワウト・ファンアールトがパンク。チームメートのパスカル・エーンクホーンのバイクを借りて走り出すが、その後なかなかチームメートとの連携が取れなかったり単独落車してしまったりと不運が重なり、体力を浪費してしまうこととなる。このときの一連のトラブルが、最終段階での「ガス欠」につながったのは間違いないだろう。

 

この場所はあくまでも地獄の始まりに過ぎない。

だが、それは最初の波乱を巻き起こすには十分すぎる場所でもある。

 

 

残り60.2km「オルシー」(★★★)

第13セクター  全長1.7㎞

この石畳区間が、というよりも、ここと次の4つ星パヴェ区間「オシー~ベルシー」(残り54.1㎞地点、全長2.7㎞)までの間の「舗装路区間」が、過去多くのドラマを生んできた。

たとえば2012年にはこの舗装路でトム・ボーネンがアタックしてそのまま逃げ切り勝利。

2018年にはペテル・サガンがここで抜け出し、悲願のルーベ制覇を果たした。

そして前回大会の2019年にも同じくサガンがこの舗装路でアタック。そこにイヴ・ランパールトにワウト・ファンアールト、セップ・ファンマルクといった優勝候補たちが食らいつき、次のモンサン=ペヴェルで先行していたフィリップ・ジルベールとニルス・ポリッツ——この年のワンツーを飾る男たち——にサガンら4名が追いついた。

 

なお、ジルベールとポリッツがアタックしたのは残り71.5㎞地点の4つ星パヴェ「ティヨワ~サール=エ=ロジエール」。この残り71.5㎞から51.4㎞までの20㎞は、舗装路も含め油断のならない「魔の20㎞」と見てよいだろう。

 

 

残り48.6km「モンサン=ペヴェル」(★★★★★)

第11セクター/全長3km

およそこの辺りから、実力者による本格的なペースアップと、集団のセレクションがかかってくる。

2013年にはカンチェラーラが集団を一気に絞り込んだ。

2016年はここでヘイマンやボーネンなど最終グループの5人を含む7人が抜け出す形となった。

2018年も優勝候補級の6名が絞り込まれたが、すでに先頭にはサガンが逃げており、追いつくことはなかった。

2019年は前述したように先行していたジルベールとポリッツにサガンら4名の優勝候補たちが追いついたポイントでもある。

 

また、石畳スペシャリストであっても落車を起こしてしまう波乱のポイントでもある。

016年には衝撃のカンチェラーラ落車。すぐ後ろにいたサガンは驚異的なバイクコントロールで落車こそ免れるものの、先行されていた有力集団に追いつくことはできなくなった。

2018年もクリストフとルーク・ロウが落車している。

良くも悪くも、レースの流れを決定づける重要ポイントと言えるだろう。

Embed from Getty Images

 

 

残り39.2km「ポン=ティボ〜エンヌヴラン」(★★★)

第9セクター/全長1.4km

ここも決して難易度の高い区間ではないものの、いよいよ残り距離が短くなってくるため、勝負どころになることもしばしば。

2013年はファンデンベルフやファンマルクといった優勝候補が飛び出し、カンチェラーラが遅れる(のちに追い付いて逆転優勝してしまうが)。

2014年はサガンが飛び出して先頭集団に追い付き、のちに独走に入った。

 

残り30km台という距離は、クラシックにおいてはしばしば決定的な動きが巻き起こる区間でもある。一般的にルーベは次の「カンファナン・ペヴェル」でこそ最終的なセレクションがかかりがちだが、油断しているとこのセクションで、勝者が決定付けられてしまうかもしれない。

逆にここで出遅れている選手たちには、逆転の目がなさそうだ。2019年のファンアーヴェルマートのように・・。

 

 

残り19.9km「カンファナン=ぺヴェル」(★★★★)

第5セクター/全長1.8km

最後の山場である「カルフール・ド・ラルブル」を前にして、それ単体では勝負を決めきれないと判断したスペシャリストたちによる積極的な攻撃が始まる。

2014年はカンチェラーラの執拗なペースアップにより、先行していたボーネングループが捕まえられる。

2016年はここで、最後の5名が形成された。

2017年はファンアーヴェルマートのためにダニエル・オスが強力な牽引を続け、後方に取り残されたトム・ボーネンとの距離を決して縮めることなく、エースの勝利に最大限の貢献をしてみせた。

 

そして、これを抜ければすぐに、最後の関門が待ち構えている。

 

 

残り17.2km「カルフール・ド・ラルブル」(★★★★★)

第4セクター/全長2.1km

ここが最後の勝負所である。2017年はここで、ファンアーヴェルマート、スティバル、ラングフェルドという3名に絞り込まれた。

逆に独走、もしくは小集団がすでに決まっていれば、それは本当に強いメンバーであるため、後方から追いかけてくる集団が追い付くことはかなり難しくなるだろう。

Embed from Getty Images

 

観客の盛り上がりも最高潮。それゆえにトラブルも起こりがち。

たとえば2013年には先頭に2人も送り込んでいたクイックステップの選手が次々と観客との接触に見舞われて脱落している。

どうしても道の端の石畳の少ない区間を走りたくなりがちだが、気をつけないと・・・。

 

 

ルーベの黄金の14㎞

最後の5つ星区間「カルフール・ド・ラルブル」を超えたあとは、もう難易度の高い石畳区間は登場しない。2つ星や1つ星など、石畳とはいえないレベルのものも登場してくる。

ただ、だからといってこの区間が何もないエリアというをけではない。むしろ、この何でもない低難易度パヴェや舗装路区間でこそ、本当に決定的な動きが起こることはよくある。

 

たとえば2019年は、この区間にある2つ星の石畳「グルソン」(残り14.9㎞、全長1.1㎞)で抜け出したポリッツにジルベールが食らいついた一方、そこまで常に積極的な動きを見せていたサガンの足が完全にストップしてしまった。

2015年は残り12㎞地点でファンアーヴェルマートとランパールトが抜け出し、ここにベルト・デバッカーが単独でブリッジ。そして、このデバッカーのチームメートであるジョン・デゲンコルプが合流したことによって、彼のこの年2つ目のモニュメント獲得への王手を打つこととなった。

Embed from Getty Images

 

一方で、ヘイマンが勝利を飾った2016年、ファンアーヴェルマートが勝利を飾った2017年なんかは、最後に絞り込まれた集団の中でスプリント勝負に持ち込みたくない選手たちがアタックを仕掛ける場面が頻発したが、いずれも決定的な抜け出しに繋がらなかった、ということもあった。

 

独走で終わることの多いロンドとはまた違った、予想できない白熱した終盤戦を楽しめるこの14㎞こそが、本当の意味での「ルーベ」なのかもしれない。私はここを勝手に「ルーベの黄金の14㎞」と呼んでいる。

 

 

そして、ラスト1㎞はヴェロドローム(トラック競技場)で繰り広げられる神経戦。

おそらく現存するロードレースにおいて唯一ヴェロドロームでフィニッシュするレースなのか?

その、他にはない独特なシチュエーション・・・バンクの上と下とに分かれ、上からの下りの勢いを利用してスプリントを仕掛けようとする選手とそれを見計らって最短距離で先行しようとする選手とのフィニッシュ直前の攻防は目を離せない。

もちろん、そこであまりにも牽制し過ぎれば後ろから猛烈な勢いで迫りくる追走集団に追いつかれる――世界で最も過酷な石畳レースのラストに繰り広げられるこの完璧に整備されたスムースな路面における純粋スプリント勝負は単純なパワーだけでは推し量れない瞬間を演出してくれるだろう。

Embed from Getty Images

 

 

以上、過去10年ほどのレースを振り返りつつ、各注目セクションについて解説してきた。

ただし、いずれのレースも、それは非常に晴れ渡った快晴の中でのレースであったことを付け加えておこう。

現時点で、週末のルーベは雨予報。しかも、例年と異なる秋のさなかでのレース。もしかしたら落葉すら路面には撒かれている可能性もあるだろう。シーズン終盤であるということも、いつもとの大きな違いである。

 

そんな状態で繰り広げられるパリ~ルーベは、我々の予想を遥かに超えた展開を生み出しかねない。

ここまでの予習はすべて無駄になる可能性も。

 

 

史上最も予想のつかないレースになりかねない今年のパリ~ルーベ。

果たして、ヴェロドロームで栄光の石畳トロフィーを手にするのは誰だ?

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女子レースについて

そしてパリ~ルーベに関しては、今年はもう1つの大きなニュースがある。

それは、ついに、女子版パリ~ルーベが開催されるということ。本当は昨年初開催の予定だったのだが、男子パリ~ルーベが中止になると同時に女子版も中止されていた。

 

今年は男子同様にこの秋に延期しての開催が決定。日程は男子の前日にあたる、10/2(土)。

初開催からいきなり雨模様の中でのサバイバルレースとなりそうな気がするが、注目すべきこのパリ~ルーベ・フェム。

注目選手などは男子と一緒に次回紹介するとして、コースについてだけ簡単に触れておこう。

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https://www.paris-roubaix-femmes.fr/en/stage-1

女子は全長115.6㎞。全部で16つの石畳区間が登場し、見てわかるように、残り82.5㎞地点からの第17セクター以降は男子と全く一緒。すなわち、3つの5つ星パヴェのうちモンサン=ペヴェルとカルフール・ド・ラルブルの2つはそのまま使われ、重要な勝負所のほぼ全てが踏襲されている。

スタートからわずか33.1㎞で最初の石畳区間が始まり、そこからわずか30㎞で最初の5つ星パヴェ。

全体の4分の1が石畳区間で占められるという、ある意味で男子以上に厳しいのではないか?と思える女子レース。

 

これまでの例がない分、より予想のつかないレースになってしまいそうなこの第1回パリ~ルーベ・フェム。

男子以上の注目をもってその展開を楽しみにしたい。

 

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