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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021シーズン 10月主要レース振り返り

 

昨年もジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャなど激しい秋となっていたが、幾分落ち着いた今年も、いくつかのレースが春から延期してきているために、結構豪華なレースが揃うこととなった。

何しろ世界選手権の1週間後にパリ~ルーベ、そしてその1週間後にイル・ロンバルディアなのだから・・・。イル・ロンバルディアの前哨戦レースも含め、結構盛沢山な10月の13レースを振り返っていく。

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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ジロ・デッレミリア(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:10/2(土)

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最後のモニュメント、イル・ロンバルディアに向けて、1週間かけてイタリアで開催される「イタリア秋のクラシック」の緒戦がこのジロ・デッレミリアである。

エミリア=ロマーニャ州を舞台に開催され、州都ボローニャを発着。最後は「サンルーカ教会の激坂」を5回登ってフィニッシュする、パンチャーからクライマー向きのまさにロンバルディアに向けての前哨戦とも言うべきレースである。

昨年はジョアン・アルメイダやアンドレア・バジョーリ、ヤコブ・フルサン、ヴィンツェンツォ・ニバリなど豪華な顔ぶれの争いをアレクサンドル・ウラソフが制したが、今年もかなり早い段階(それこそ1回目のサン・ルーカの登りから)先頭にプリモシュ・ログリッチ、ヨナス・ヴィンゲゴー、アダム・イェーツ、レムコ・エヴェネプール、バウケ・モレマ、ジョアン・アルメイダなどのグランツール山岳ステージを思わせるような豪華な布陣が並ぶ。

最終的にはエヴェネプールが積極的に仕掛けてアルメイダのためのチャンスを作ろうともがいたが、結局最後の登りスプリントでさすがのログリッチが先行。力の差を見せつけられ、ログリッチが2年前に続く自身2度目の勝利を飾った。

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相変わらずシーズン終盤まで元気なログリッチ。一方、こちらも注目されていたツール覇者タデイ・ポガチャルはDNF。

果たして、今年のイル・ロンバルディアはどんな戦いが繰り広げられるのか・・・。

 

 

パリ~ルーベ・ファム(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:フランス 開催期間:10/2(土)

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レースレポートはこちらから

初開催となった女子版パリ~ルーベ。男子よりも距離は短いが、その分石畳の濃度は濃い。むしろ難易度的には高くなったように思われるレイアウトで、女子初の「北の地獄」が開幕する。

残り80㎞地点に用意された最初の石畳区間に入ると同時に、トレック・セガフレードのエリザベス・ダイグナンがアタック。これを見送った集団内にはモビスター・チームが3名、SDワークスが2名控えていたが、ダイグナンのチームメートであるトレック・セガフレードも、エレン・ファンダイクやエリザ・ロンゴボルギーニといった強力なメンバーを含めた3名が控えており、チーム力の差が如実となった。

タイム差はどんどん拡大していき、残り30㎞時点で2分半にまで広がる。残り20㎞を切って最後の勝負所「カンファナン=ペヴェル」と「カルフール・ド・ラルブル」に向かうところでしびれを切らしたマリアンヌ・フォスが単独で抜け出してダイグナンを追走するも、結局、届くことはなかった。

女子初開催となるパリ~ルーベ。その中で、100年以上におよび男子パリ~ルーベでも達したことのない80㎞という超距離での独走勝利、そして初のイギリス人勝利という歴史すら作った偉大なる勝利。それは、トレック・セガフレードというチームが成し得た勝利でもあった。

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パリ~ルーベ(1.WT)

ワールドツアーレース 開催国:フランス 開催期間:10/3(日)

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レースレポートはこちらから

2年半ぶりの開催となった唯一無二の石畳レース。そして、20年ぶりの大雨の中での荒れたレースとなった。

そのカオスを象徴するかのように、残り210㎞の段階で31名もの大規模な逃げ集団が形成。そして、普段であれば決して大きな動きがないはずの序盤のパヴェ(石畳)区間から次々と落車が発生し、集団が着実に数を減らしていく。

最初の5つ星パヴェ区間「トルエー=ド=アランベール」を終えた段階で、逃げ集団を追いかけるメイン集団(というべきかどうか)はすでに11名~12名程度に絞り込まれていた。

 

重要な動きが巻き起こったのは例年勝負が動き出し始める残り71.5㎞地点「ティヨワ~サール=エ=ロジエール」。昨年もフィリップ・ジルベールとニルス・ポリッツが抜け出したこの4つ星パヴェ区間で、今年はマチュー・ファンデルプールが集団から抜け出した。

ワウト・ファンアールトはポジションを落としておりこれに反応できず、なんとか食らいついた昨年3位イヴ・ランパールトも、やがてファンデルプールの加速についていけず引き千切られてしまった。

先行して集団から抜け出していたソンニ・コルブレッリらと合流したファンデルプールはやがてそのまま逃げ集団の生き残りと合流。

ファンアールトとランパールトを含む集団は懸命に追走を仕掛けるがそのタイム差は徐々に開いていき、これで勝負権を失う結果となってしまった。

 

残り54.1㎞地点の第12セクター「オシー~ベルシー」で、ファンデルプールらに合流される前の先頭集団からジャンニ・モスコンが独り抜け出していた。

2016年、プロ2年目の頃にいきなりの5位を経験しているイタリアの天才モスコン。後続でも2つ目の5つ星パヴェ区間「モンサン=ペヴェル」でファンデルプールが加速して人数がさらに減少。しかしコルブレッリもここから引き千切られることはなく、また逃げ残りのフロリアン・フェルメールシュなどもしっかりとここに残っていた。

残り35㎞。先頭のモスコンとのタイム差は1分13秒。

このままモスコンが逃げ切ってしまうのか?

 

だが、ここでモスコンに悲劇が襲い掛かる。

残り31㎞。モスコンの後輪がパンク。慌ててバイク交換を行うが、タイム差は46秒に。

さらに、残り26.2㎞。セクター7「シソワン~ブルゲル」で、新しいバイクの空気圧が合っていなかったのか、後輪を滑らせて落車してしまう。

これでタイム差は13秒。すぐ後ろにファンデルプールたちの姿が。

捕まるのも時間の問題であった。

 

そして最後の5つ星パヴェ区間「カルフール・ド・ラルブル」で、アタックしたファンデルプールらによってモスコンは捕まえられ、同時に力尽きて脱落。素晴らしい走りを見せた彼は、最後の最後でルーベの女神の悪戯によって敗北を喫することとなった。

 

そして最終局面。最後の難関カルフール・ド・ラルブルを越えて、あとはヴェロドロームでの決戦。

先頭に残るのはファンデルプールとコルブレッリとフェルメールシュの3名。普通にスプリントをすればコルブレッリが有利な中、フェルメールシュはなんとか隙をついてアタックしようとするが、これも潰される。

最後のスプリントの際もフェルメールシュが積極的に先に仕掛けるが、最後はこれを冷静に抑え込んだコルブレッリが、彼自身も全く予想していなかった劇的な勝利を飾った。

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2016年のマシュー・ヘイマンの勝利を思い出すかのような印象的な喜び方を見せてくれたレース直後のコルブレッリ。こういった信じられないような感動を生み出すのが、このパリ~ルーベというレースの魅力でもある。

そして例年、意外な「2位」を生み出すのもこのレースの魅力。前回大会はポリッツ、その前はシルヴァン・ディリエといった才能が輩出されており、今年は最終的にファンデルプールも退けて2位に入り込んだ22歳の「ネオプロ1.5年目」のフェルメールシュ。

すでに昨年ヘント~ウェヴェルヘムでも13位に入るなど才能は見せつけていたこの男は、これからも間違いなく進化し続けていけるだろう。

 

 

スパルカッセン・ミュンスターラント・ジロ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:ドイツ 開催期間:10/3(日)

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ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州のミュンスターを舞台にした、実にドイツらしいスプリンター向けのワンデーレース。

このレースで過去2勝しているアンドレ・グライペル。16年のプロ生活を、このレースをもって幕を閉じることに決めていた。彼にとっての最後の、引退レース。

当然、勝利を狙っていたであろうが、残り2.4㎞の小さな起伏で脱落。むしろチームメートのアレクシー・ルナールのためのアシストで走っているようにも見えた。

残り1㎞を前にして今度は前回大会2位のパスカル・アッカーマンがアタック。チャレンジングな早駆けではあったが、これは残り400mで吸収。

バラバラになった先頭集団を牽くのはアルバロホセ・ホッジ。今年のツール・ド・フランス4勝、エディ・メルクスと並んだ男マーク・カヴェンディッシュのために全力で牽引する。

最後はグライペルの意志を継いだルナールが先行してスプリント。だがこれを追い抜いて、グライペルと共に2010年代を駆け抜けてきた最大のライバルにして盟友、マーク・カヴェンディッシュが、グライペルに華を添えるような鮮烈なる勝利を掴み取った。

 

私がサイクルロードレースを見始めた2015年のツール・ド・フランスで「最強」スプリンターだったのはアンドレ・グライペルだった。そこから苦しい時期を過ごしつつも、いつも優しく、力強い走りを見せ続けていたこの男は、最も魅力的な選手の1人であり続けていた。

これまで素晴らしい走りをありがとう。これからの人生も輝いたものでありますように。

 

 

コッパ・ベルノッキ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:10/4(月)

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初開催は1919年。ロンバルディアの大物実業家アントニオ・ベルノッキが創設した伝統あるレースであり、過去にはジーノ・バルタリ、ミッチェル・ジスモンディ、そしてファウスト・コッピなど、著名な選手たちが勝利している。

近年の勝者はエリア・ヴィヴィアーニ、ジャコモ・ニッツォーロ、ソンニ・コルブレッリなど、スプリンターが中心。今回もスプリンターたちによる勝負が繰り広げられるか・・・と思っていたが、冷たい雨が降る中で、まずはレムコ・エヴェネプール、ファウスト・マスナダ、ティボー・ピノなどを含む強力な6名の逃げがレース開始50㎞程度で形成されるという異様な事態。マスナダがエヴェネプールのためのアシストに徹し、残り40㎞を切ってもタイム差は5分弱・・・まさかの逃げ切りが決まることに。

そして残り30㎞。エヴェネプールがいつもの必勝態勢。すなわち、ロングソロエスケープである。

あとはもう、世界選手権TT銅メダリストの独走力を前にして、敵うものなどいない。色々と鬱憤の溜まっていた世界選手権ロードでの思い出を塗りつぶすかのように、鮮やかな独走勝利を成し遂げた。

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エヴェネプールのフィニッシュから8分遅れで到着した集団の先頭はブエルタ・ア・ブルゴス2勝のフアン・モラノが獲る。

ボニファツィオやヴィヴィアーニなど、やはりトップスプリンターたちが並ぶリザルト。しかし、勝ったのは逃げ屋であり、序盤で生まれた決して大きくない逃げ集団がそのまま逃げ切るという、ワンデーレースでは実に珍しい展開となった。

 

 

トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:10/5(火)

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こちらも1919年初開催。今回が100回目となる歴史あるレース。昨年は新型コロナウィルスの影響でこのレース自体は中止となり、同じロンバルディア州で開催され「トリティッコ・ロンバルド」と総称されるコッパ・ベルノッキ、コッパ・アゴスティーニと合体し、グラン・トリティッコ・ロンバルドという1つのレースとして開催された(ゴルカ・イサギレが勝利)。

今年は本来通りの形で開催。イル・ロンバルディアの前哨戦として、前回大会覇者のプリモシュ・ログリッチこそ出場しなかったものの、タデイ・ポガチャルやヴィンツェンツォ・ニバリなど有力選手が集結した。

同じ前哨戦のジロ・デッレミリアでは調子が上がらず早々にリタイアしていたポガチャルだったが、この日は残り120㎞地点からいきなりのアタック。ティム・ウェレンスと共に逃げ集団に合流し、レースに緊張感を与えた。

そのポガチャルは残り44㎞でパンクによってメイン集団に引き戻されるが、代わりにダヴィデ・フォルモロやリゴベルト・ウランなどが先頭に。その後もしばらく先頭の面子が入れ替わる展開が続いたが、そこから残り10㎞でアレッサンドロ・デマルキがアタック。食らいついてきたフォルモロと2人でフィニッシュまでやってきた。

3年前のジロ・デッレミリア以来勝利のなかった「丘陵系エスケーパー」デマルキ。その本領発揮ともいうべきタフネスさで、最後はフォルモロを退けて先頭でフィニッシュを突き抜けた。

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集団の先頭はポガチャルが掴み、ロンバルディアに向けての好調さを見せつける格好となった。

 

 

ミラノ~トリノ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:10/6(水)

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1876年に初開催されたイタリア最古のセミクラシックレース。昨年はミラノ〜サンレモの前哨戦としてスプリンター向けのレイアウトが用意されたが、今年は例年通りのピュアクライマー向けの頂上フィニッシュ。イル・ロンバルディアに向けた最重要の前哨戦として機能した。

勝負所となるのは登坂距離4.9㎞、平均勾配9.1%の「スペルガの丘」。フィニッシュまで20㎞地点に1回目、そしてラスト5㎞から2回目の登りが待ち構える。

1回目の登りの下りで集団から抜け出したのはマウリ・ファンセヴェナント。それこそ昨年のフレーシュ・ワロンヌのように、鮮烈な独走を開始する。

これを20秒差で追いかけながら最後の登りに突入した集団からは、ラファウ・マイカが最初にアタックし、ここに世界王者ジュリアン・アラフィリップが食らいついていく。

しかし、残り4.5㎞で集団の先頭を牽引してこれを飲み込んだのがイネオス・グレナディアーズのアダム・イェーツ。この勢いについていけずアラフィリップはすぐさま脱落し、アダムに食らいついていけた選手はわずか数名。逃げ続けていたファンセヴェナントも、残り4㎞でついに捕まえられてしまった。

先頭はアダム、ポガチャル、ログリッチ、アルメイダ、ウッズ、バルベルデの6名だけ。あっという間に精鋭集団に絞り込まれることとなった。

 

だがその中でもアダム・イェーツの調子が良い。ひたすら先頭固定をペースを上げ続け、後ろのメンバーは楽をするどころかむしろついていくので精一杯。

残り3.2㎞でバルベルデとウッズ、残り2.8㎞で残り3名も突き放し、アダムは単独で先頭に立った。

しかし、ログリッチがここから腰を上げ、ペースアップ。ポガチャルたちを突き放し、残り2.6㎞でアダムに追い付いた。

あとは2人の一騎打ち。残り400mで最初にアダムが加速し、ログリッチとのギャップを開いたものの、ログリッチも粘る。

そして残り300m。ゆっくりとアダムに近づいて後輪を捉えたログリッチがそのままアダムを追い抜いて一気に抜け出した。

圧倒的な強さ。このままイル・ロンバルディアも手中に収めてしまうのか?

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グラン・ピエモンテ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:10/7(木)

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ジロ・デッレミリアやミラノ~トリノと並ぶイル・ロンバルディア前哨戦レースの1つだが、毎年そのコースの特徴が大きく変化することが特徴のこのグラン・ピエモンテ。

今年は総獲得標高も1,400m程度の比較的ゆるやかなスプリンター向けといってもいいレイアウトが用意された。

そしてその予想通り、最後は集団スプリント。ジャコモ・ニッツォーロ、ソンニ・コルブレッリ、マッテオ・トレンティン、エリア・ヴィヴィアーニといったトップスプリンターたちが集う中、残り1㎞のロータリーで落車こそ発生しなかったものの集団が絞り込まれ、ヴィヴィアーニはここで脱落。ツアー・オブ・ノルウェーやツアー・オブ・ブリテンで絶好調だったイーサン・ヘイターもフィニッシュ前で番手を落とし、集団の先頭はオラフ・クーイのためのユンボ・ヴィスマのアシストが先導。左からトレンティンが早駆けで一度前に抜け出すが—―最後に集団の真ん中から現れたのはボーラ・ハンスグローエ?

一体誰が・・・と思っていた中で、その名が告げられたのは、ボーラ・ハンスグローエのネオプロ1年目にしてトラック英国代表のマシュー・ウォルス! その才能は間違いないと思われていた男が、ツアー・オブ・ノルウェー最終日に続く2勝目を掴み取った。

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イル・ロンバルディア(1.WT)

ワールドツアーレース 開催国:フランス 開催期間:10/9(土)

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レースレポートはこちらから

シーズン最後のワールドツアーレースにして最後のモニュメント。「落ち葉のクラシック」とも呼ばれ、また総獲得標高4,500mに達する本格的なクライマーズクラシック。

出場するメンバーもグランツールに匹敵する豪華なもので、激戦が予想された。

残り90㎞を超えて登りが連続し始めると集団の数も徐々に減少していき、残り56㎞地点で逃げもすべて吸収。

そして残り41㎞から最後の重要な登り「パッソ・ディ・ガンダ」へと突入した。

 

集団の先頭はジュリアン・アラフィリップやジョアン・アルメイダらを抱えるドゥクーニンク・クイックステップが中心となって牽引。ときどきロマン・バルデを擁するチームDSMのティシュ・ベノートもこれに協力する。ここまでの前哨戦で絶好調だったプリモシュ・ログリッチは、すでにアシストがほとんどいない危険な状態に。

ここで最初に動いたのが過去2回のイル・ロンバルディアを制しているヴィンツェンツォ・ニバリ。残り37.4㎞地点でアタックし、単独で抜け出す。

一度引き戻されたあと再びアタックしたニバリに、今度はツール・ド・フランス覇者タデイ・ポガチャルが食らいつく。そしてここに、プリモシュ・ログリッチが反応できず。

抜け出したニバリとポガチャル、パヴェル・シヴァコフにロマン・バルデといった4名。やがてこれも集団に引き戻されるのだが、その前に残り35.5㎞でポガチャルがアタック。

そのまま独走を開始した。

 

数を減らしながらポガチャルを追いかける追走集団。しかし「パッソ・ディ・ガンダ」の山頂時点でそのタイム差は35秒に。ジュリアン・アラフィリップもこの山頂間際でアタックし、追走集団は9名に。

この下りで、追走集団からアラフィリップのチームメートであり地元出身のファウスト・マスナダがアタック。独走を開始したマスナダはやがて残り16㎞でポガチャルに合流。一方、ログリッチのためにヨナス・ヴィンゲゴーが牽引する追走集団はなかなかペースが上がらず、勝負権を失ってしまった。

 

最後はポガチャルとマスナダのマッチアップ。普通にスプリントで勝負すれば圧倒的にポガチャル有利の中、なんとかマスナダもツキイチで足を貯めつつ、残り3㎞の石畳急坂の後の区間でアタックしようとするなどもがくが、うまくいかず。

ホームストレートでもポガチャルの背後をとってチャンスを窺いつつ、残り150mで先行して加速しようとするが、これをきっちりと見ていたポガチャルが同時に腰を上げ、最後はマスナダに並ばせることもなく圧勝するに至った。

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とにかくポガチャルが圧倒的に強すぎた。一方、マスナダも途中完全にアシストとしての働きで、危険な逃げを引き戻すなど動いていた中で、最後の最後でこれだけの走りを見せたのは素晴らしい。

これは地元パワーなのか、それとも今後の更なる躍進に向けてのスタート地点となるのか。

今後の活躍にも引き続き注目していきたい。

 

 

ザ・ウィメンズ・ツアー(2.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イギリス 開催期間:10/4(月)~10/9(土)

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そのまんまの名前であるが、実際にはツアー・オブ・ブリテンの女子版と考えてもらえば良い。スポンサーも同じAJベルである。

ゆえにコースの特徴もツアー・オブ・ブリテンに類似しており、平坦から丘陵系のコースが多く、序盤は起伏に強いスプリンターの2人が、中盤は最強ピュアスプリンターの一角、ロレーナ・ウィーベスが連勝している。勝てなかったがクララ・コッポーニ(FDJヌーベルアキテーヌ・フチュロスコープ)やクロエ・ホスキング(トレック・セガフレード)、シェイラ・グティエレス(モビスター・チーム)などが常に上位に入り込んでいた。

そんな中、第3ステージの丘陵系、とも言えないような平坦基調の16.6㎞の個人タイムトライアルで、2位以下に一分以上の大差をつけて勝利したデミ・フォレリングがそのまま総合優勝。

世界選手権ではやや、チームメートに攻められる格好となり本人も失意に沈む様子を見せていたが、今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝など、ポスト・アンナファンデルブレッヘンの急先鋒として、これからも期待すべき存在であることは間違いない存在だ。

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パリ~ツール(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:10/10(日)

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シーズン最終盤に待ち受ける、1896年から続く歴史あるレース。かつてはスプリンター向け(と言いつつ逃げ切りもよく起きていた)レースではあったが、3年前からは葡萄畑と未舗装路で彩られたよりクラシック風味のレースに。
4年目となる今年もサバイバルな展開に。残り90㎞を切ったころには、先頭集団が「37名」という大集団に。そこにジャスパー・フィリプセンやジャスパー・ストゥイヴェン、シュテファン・キュングやグレッグ・ファンアーヴェルマートなど、非常に有力な選手たちが集まっており、早くも勝負権はこの37名に委ねられた。

そんな先頭集団から3名の選手が抜け出す。スタン・デウルフ、フランク・ボナムール、フレデリック・フリソン。これを追う追走集団もグルパマFDJが中心となって牽引し、少しずつ数を減らしていき、やがてラスト11㎞地点の「コート・ド・ロシュコルボン」でアルノー・デマールがアタックを繰り出した。

今年、3年ぶりのツール・ド・フランスで昨年のジロでの4勝に続く強さを発揮しようと意気込んだものの、初日から盟友イグナタス・コノヴァロヴァスを失い、自身も落車の影響か不調。ブエルタ・ア・エスパーニャでもコノヴァロヴァス不在の中、発射台ジャコポ・グアルニエーリも1週目でリタイアするなど本業のスプリントでは全く存在感を示せていなかったデマール。

しかしそのブエルタでの積極的な逃げ、そして世界選手権ロードレースでも中盤から積極的に動いて最終的なジュリアン・アラフィリップを2連覇に貢献するなど、単純なスプリンターとして以外の走りの強さも見せていた。

そんな彼が、このクラシック風味に生まれ変わったパリ~ツールで、残り11㎞の登りでアタックするというサプライズな動き。ここには今年のミラノ~サンレモ覇者ジャスパー・ストゥイヴェンだけが食らいつき、強力な2人で先頭の(フリソンが脱落したあとの)デウルフ&ボナムールのコンビとの距離を詰めていった。

ギリギリまで粘る2人だったが、ラスト1㎞でタイム差は5秒。最後の最後でデウルフたちも牽制に入ったことでペースが落ちてフィニッシュ直前に4名が合流。そうなればもう、純粋スプリントでデマールに敵う道理などなかった。

6月のルート・ドクシタニー以来となる勝利。今年のデマールは決して良いシーズンではなかったとは思うが、それでも、最後の最後でしっかりと強さを見せつけた。

パリ~ツールでは2006年以来15年ぶりとなるフランス人勝利となった。

 

 

グランプリ・デュ・モルビアン(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:10/16(土)

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来年5月にフランスのモルビアン県プリュムレックで開催されるワンデーレース。2019年まではグランプリ・ド・プリュムレック=モルビアンという名称だった。昨年は新型コロナウィルスの影響で中止となり、今年もこの時期に延期。

2019年はブノワ・コヌフロワが勝利。過去にはアンドレア・パスクアロンやアレクシー・ヴュイエルモ、サミュエル・デュムランが勝利するなど、スプリンター〜パンチャー向けレース。実にフランスワンデーらしいレースだ。

全長176.9㎞。ラース・ファンデンベルフ(グルパマFDJ)、ジェレミー・ルボー(グゼリース・ルーベ・リールメトロポール)、ジャン=ルイ・ル・ニ(フランス選抜)の3名の逃げが終盤まで続いたが、これを捕まえた集団が最終的には集団スプリント。ブライアン・コカール、エリア・ヴィヴィアーニといった優勝候補たちが前に出る中、これらを薙ぎ倒して先頭でフィニッシュしたのはスポートフラーンデレン・バロワーズのアルネ・マリット。

 

昨年はロット・スーダルU23に所属し、今年がプロ1年目となる22歳。今年はアークティックレース・オブ・ノルウェーで区間6位、ツール・ド・ルクセンブルクで区間7位など、上位に入り込む実力の高さを見せていたが、ついに掴んだ勝利。先日のパリ~ツールでも7位と、ベルギー人らしい荒地や混戦にも強いワンデー系スプリンターである。

ネオプロのためチームとの契約は来年いっぱい続くが、その活躍次第では十分にワールドツアーチーム入りを果たしてもおかしくない男だ。

 

 

ウィメンズ・ロンド・ファン・ドレンテ(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:オランダ 開催期間:10/23(土)

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今シーズンのウィメンズ・ワールドツアー最終戦、そしてこの「主要レース振り返り」で取り扱う最後のレースは、この女子版ロンド・ファン・ドレンテである。

例年であれば3月に開催されるこのレースが今年は新型コロナウィルス流行の影響でこの時期に。男子版のロンド・ファン・ドレンテは翌日24日日曜日に開催されたが、1クラスのレースである男子版と違い、女子版はワールドツアークラス。ザ・ウィメンズ・ツアー総合優勝者のデミ・フォレリングなども参加したものの、基本的には石畳を含みながらも平坦レースであるこのレースの主役は彼女ではない。

 

今年で14回目となるこのロンド・ファン・ドレンテは、オランダの最北東、ドレンテ州を舞台とし、その北側に位置するアッセンの街から、南側に位置するホーヘフェーンの街へと至る。

全長159.1㎞。前半に6か所の未舗装路区間を含み、そこではリーク・ノイエ(パークホテル・ファルケンブルグ)が最初に3分近いタイム差を形成したが、そこに今年引退を決めておりこれがキャリア最後のレースとなったヤネケ・エンシング(チーム・バイクエクスチェンジ)が追いつき2人逃げとなった。35歳と20歳の新旧オランダコンビである。

しかしノイエがメカトラによって脱落。1人になったエンシングも残り85㎞で集団に吸収され、レース後半のVAMベルグ(登坂距離500m、平均勾配4.2%)を含む周回コースに突入すると、散発的なアタックが繰り返されレースは一気に活性化されていった。

そして残り40㎞。

前イギリスロード王者のアリス・バーンズ(キャニオンスラム・レーシング)と現イギリスロード王者のファイファー・ゲオルギ(チームDSM)のコンビが集団から抜け出し、30秒近いタイムギャップを確保。その後、残り16㎞で2人が捕まえられたあと、残り14㎞の最後のVAMベルグの登りでエリーズ・シャベイ(キャニオンスラム・レーシング)、フローチェ・マッカイ(チームDSM)、エレナ・チェッキーニ(SDワークス)の3名が抜け出す。

これを追いかける追走集団はすでにわずか4名。しかもその4名中3名がチームDSMの選手ということで、やがて合流し7名となった先頭集団は完全にDSMに支配された。

最後は、フランツィスカ・コッホが献身的に集団を牽きメイン集団を突き放し、最後の直線で先頭をゲオルギが強烈にリードアウトし、最終発射台のマッカイが残り300mから牽引し、ラスト150mで現役最強ピュアスプリンターのロレーナ・ウィーベスが文句なしの勝利を飾った。

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これでシーズン13勝目。DSMが圧倒的なチーム力を見せて、シーズン最後のレースを勝利で締めくくった。

 

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