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2021シーズン 3月主要レース振り返り(前編)

 

いよいよ自転車ロードレースシーズンの本格的な開幕を告げる3月がやってくる。

前半戦からストラーデビアンケ、パリ~ニース、ティレーノ~アドリアティコなど、魅力的なレースが盛沢山。

その中でマチュー・ファンデルプール、ジュリアン・アラフィリップ、ワウト・ファンアールト、タデイ・ポガチャル、プリモシュ・ログリッチなど、スター選手たちが勢ぞろいしている。

 

ただ、その合間に挟み込まれたル・サミン、トロフェオ・ライグエーリア、GPインダストリア&アルティジアナートなどの小さなレース群も注目を外せない。

ティム・メルリエやマウリ・ファンセヴェナントなど、2021シーズン注目すべき選手たちが活躍する重要レースとなっている。

 

そして、ウィメンズ・ワールドツアーもいよいよ始動。

名レースが集う3月前半を振り返っていく。 

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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3月前半主要レース勝利者一覧

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ル・サミン(1.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/2(火) 

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舞台こそ「アルデンヌ・クラシック」の舞台となるワロン地方ではあるものの、フランドル・クラシックさながらの純粋なる石畳レース。とくにフィニッシュ直前には厳しい石畳が用意されており、例年、非常にサバイバルな展開が繰り広げられている。

しかし今年は新型コロナウイルスの影響もあるのか、どのレースも意外なほど大きな集団のままフィニッシュまで辿り着くことが多い。

このレースも同様で、天気も良かったことも影響したのか、結構大きな集団のまま終盤を迎えることとなた。

 

それでも、ラスト15㎞あたりから動きが活発化。

昨年のロンド・ファン・フラーンデレンで6位と健闘した元コフィディスのディミトリ・クレイス(キュベカ・アソス)。彼のアタックに対し、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)が抑え込みにかかる。

さらに残り13㎞。今度はファンデルプールのチームメートであるドリス・デボントがアタック。そうするとクレイスのチームメートであるヴィクトール・カンペナールツが食らいついた。

キュベカとアルペシンの波状攻撃に対し、「クラシック最強軍団」ドゥクーニンク・クイックステップは「トラクター」ティム・デクレルクに集団を猛牽引し、捕まえる。

そしてラスト10㎞で今度は同じくキュベカ・アソスのルーカス・ウィシニオウスキがアタック。残り5㎞を過ぎてからはフロリアン・セネシャル(ドゥクーニンク・クイックステップ)がアタックし、ここにファンデルプールが食らいついた。

 

出入りの激しい攻防戦の中でやはり目立った動きを見せたのがファンデルプール。しかしその有り余るパワーは彼のハンドルバーを破壊してしまう。

それでもエーススプリンターのティム・メルリエのためのアシストを、彼は完璧にこなしてみせた。ラスト500mまで牽き続けた彼が集団から離脱したあとに、ノルウェーチャンピオンジャージを着るラスムス・ティレル(UNO-Xプロサイクリングチーム)が先行して飛び出したものの、その後方から圧倒的なスピードでメルリエがスプリントを開始し、余裕をもってティレルを追い抜くとそのまま先頭でフィニッシュした。

ファンデルプール、デボント、そしてメルリエ。アルペシン・フェニックスの強すぎるエースたちによる波状攻撃が勝利を掴み取った。

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トロフェオ・ライグエーリア(1.Pro)

ヨーロッパツアーProクラス 開催国:イタリア 開催期間:3/3(水) 

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note.com

 

イタリア北西部、リグーリア州の一部ライグエーリアを舞台としたパンチャー向けのワンデーレース。例年は2月中旬に開催されるこのレースも、新型コロナウイルスの影響により2週間後ろ倒しでこの時期に。結果として、ストラーデビアンケの前哨戦的な位置づけとなった。

それがゆえにこのレースも非常に豪華な顔ぶれに。バウケ・モレマやマテイ・モホリッチ、エガン・ベルナルにヴィンツェンツォ・ニバリ、ミケル・ランダ、ナイロ・キンタナなどの錚々たる顔ぶれが揃った。

 

例年勝負所となるのが「コッラ・ミケッレ」と呼ばれる登坂距離2.1km、平均勾配7.9%の激坂と、「カーポ・メーレ」と呼ばれる登坂距離2km、平均勾配3.4%の2つの登り。この2つを含む周回コースを4周するレイアウトがレース後半に待ち構えており、最後のコッラ・ミケッレはゴール前8.5km地点に、最後のカーポ・メーレはゴール前2㎞地点に用意されている。

 

今年レースが動いたのはラスト30㎞。最後から2番目のコッラ・ミケッレ。

AG2Rシトロエン・チームのネオプロで2019年のツール・ド・ラヴニール総合4位クレモン・シャンプッサンとドゥクーニンク・クイックステップの昨年ジロ総合14位の若手ジェームス・ノックス、そして2019年ツール・ド・フランス覇者エガン・ベルナルとが抜け出し、これに追随していった選手たちを含む以下の7名が先頭集団を形成した。

  • クレモン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン)
  • エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)
  • マウリ・ファンセヴェナント(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • ビニヤム・ギルマイ(デルコ)
  • ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
  • バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)

 

非常に強力なメンバーが揃ったこの先頭集団の中で、ラスト15㎞、最後から2番目のカーポ・メーレの登りでアタックしたのが、トレック・セガフレードのバウケ・モレマだった。

2019年のイル・ロンバルディアでも、同じような距離からのアタック一発で決めたのがこの男だった。

「最強」ではないかもしれない。だが、最強候補たちが見せる一瞬の隙をついて決定的な攻撃を繰り出す、スナイパーのような男、それがモレマだった。

慌てて追いかける追走集団の中からは、ベルナルとモレマとシャンプッサンとファンセヴェナントが抜け出して互いにアタックを繰り出す展開を見せるが、その最後尾にモレマのチームメートのチッコーネが重し役となって貼りついており、この無造作なアタックと牽制の繰り返しは独走するモレマにとっての後押しにしかならなかった。

最後のコッラ・ミケッレを越えた時点で先頭モレマと追走5名とのタイム差は20秒。

もはや、追いつくことは不可能だった。バウケ・モレマが、今年2勝目を飾る勝利となった。

 

 

ストラーデビアンケ(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:イタリア 開催期間:3/6(土) 

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イタリア・トスカーナ地方の丘陵地帯とレース名の由来となった白い未舗装路を特徴とする唯一無二のレース。

歴史は2007年初開催と浅いが、直後のティレーノ~アドリアティコやミラノ~サンレモへとつながる、重要なレースとして位置づけられている。

 

今年もレースが動き出したのは残り55㎞から始まる「カンチェラーラセクター」こと「モンテ・サンテ・マリエ」。

コース全体の3分の1(60㎞超)が未舗装路に締められているというこのストラーデビアンケにおいても、そのうちの11㎞がこのモンテ・サンテ・マリエに集中している。

残り52㎞地点でジュリアン・アラフィリップがペースアップを仕掛けたことで、先頭はアラフィリップ、ファンアールト、ファンデルプール、ベルナル、ピドコック、ポガチャル、ゴグル、クイン・シモンズの8名に。

2019年2位のヤコブ・フルサンやグレッグ・ファンアーヴェルマート、ティム・ウェレンスなどはここで遅れ、ペリョ・ビルバオやケヴィン・ゲニッツ、サイモン・カーなどと合流して10名の追走集団を形成する。

だが、この追走は先頭に追い付くことはなく、勝負は(のちにシモンズがメカトラで脱落した)先頭7名によって繰り広げられことに。

 

次なる勝負所である残り23㎞地点「モンテ・アペルティ」ではアラフィリップがアタックし、これにポガチャルやファンデルプールたちが食らいつく中でペースが上がり、ワウト・ファンアールトがトム・ピドコックと共に遅れていく。

残り19㎞地点の第3勝負所「ピンズート」で一応2人は復帰するも、最後の勝負所である残り13㎞地点「レ・トルフェ」でマチュー・ファンデルプールが決定的な攻撃を仕掛けたタイミングでは、当然のごとくついていくことができなかった。

残り12.2㎞地点でアクセルを踏んだファンデルプール。ジュリアン・アラフィリップだけがかろうじてこれに食らいつき、エガン・ベルナルも単独でこれを追いかける。

ポガチャル、ファンアールト、ピドコック、ゴグルはここで終戦。

わずか30秒の攻撃で、ファンデルプールは局面を一気に破壊した。

 

残りは最後の1㎞のサンタカテリーナ通りの石畳激坂までは小刻みなアップダウンがありながらも平坦基調。

先頭のファンデルプール、アラフィリップ、ベルナルは互いに互いを牽制しながら緊張感のある時間を過ごしていた。

残り4㎞。アラフィリップが牽制のためにローテーションを拒否してポジションを落としたその隙を突いて、ファンデルプールが一気に加速。

しかしこの攻撃はアラフィリップにきっちりと捉えられる。それでも、ファンデルプールはこのとき、勝てる手応えを感じたようだ。

 

ラスト1㎞。シエナのカンポ広場へと向かう定番の1㎞石畳激坂。

非常に狭いこの登りを先頭で入るファンデルプール。残り700mでアラフィリップが左にラインを変えて飛び出す準備をするかのような牽制状態。

先に仕掛けたのはファンデルプールだった。アラフィリップが一瞬、ベルナルを見る。だがファンデルプールはその隙に一気にそのギャップを開きにかかった。

アラフィリップがペダルを踏みしめる。フレッシュ・ワロンヌを2度制し、2年前もこの石畳激坂でヤコブ・フルサンを突き放して勝利を掴み取った男。

普通に考えれば、ファンデルプールに勝ち目はなかった。

しかしその予想に反し、アラフィリップとファンデルプールとのギャップは一気に開かれていった。

 

「常識」が、再びひっくり返った瞬間だった。

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ストラーデビアンケ・ドンネ(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:3/6(土) 

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同日に行われた男子レースと比べ、全長は50㎞ほど短い136㎞。

男子レースに存在する全長11㎞の「モンテ・サンテ・マリエ」こそ使わないものの、未舗装路の総距離も31.6㎞に及び、難易度は男子レースと遜色なし。

とくに残り23㎞からの「モンテ・アペルティ」以降の最大の勝負所は男子レースとレイアウトが変わらず、白熱の展開が期待された。

 

レースが本格的に動き出したのは残り36㎞地点から。

マビ・ガルシア、シャンタル・ブラーク、エレン・ファンダイク、エリザベス・バンクスなど強力な8名の選手が抜け出す。

残り23㎞地点の「モンテ・アペルティ」でこの先頭集団が分裂すると、残り19㎞地点の「ピンズート」で集団からマリアンヌ・フォスがアタック。

すぐさまディフェンディングチャンピオンのアネミエク・ファンフルーテンとカタジナ・ニエウィアドマ、そしてアンナ・ファンデルブレッヘンやエリザ・ロンゴボルギーニも追随していった。

 

こうして出来上がった12名の精鋭先頭集団。

この中に「最強チーム」SDワークスが4名(ファンデルブレッヘン、ブラーク、アシュリー・ムールマン、デミ・フォレリング)を送り込む。

最後の勝負所、残り13㎞地点の「レ・トルフェ」でファンフルーテンがアタックし、ここにフォスがついていき危険な逃げが出来上がるが、やがて残り10㎞でこれは集団に引き戻された。

その後もマルタ・カヴァッリ、ムールマン、ファンダイクらによる激しいアタック合戦が繰り広げられるが、その間をかいくぐって、残り6㎞でシャンタル・ブラークが再びアタック。エリザ・ロンゴボルギーニだけがここに食らいついていった。

 

集団は当然、SDワークスが完璧に封じ込めにかかる。

先頭の二人だけで迎えることとなった、最後のサンタカテリーナ通りの石畳激坂。

残り500mでブラークがアクセルを踏んで、ロンゴボルギーニを突き放して勝利した。

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GPインダストリア&アルティジアナート(1.Pro)

ヨーロッパツアーProクラス 開催国:イタリア 開催期間:3/7(日) 

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ストラーデビアンケの翌日、同じイタリアのトスカーナ地方で開催されたパンチャー向けのワンデーレース。

後半にかけて登坂距離8.6km・平均勾配3.5%の登り「サン・バロント」を4回登らせ、最後の山頂からフィニッシュまでは7㎞の下り。

小中規模の勾配を得意とするパンチャータイプやワンデーレースに強いタイプのクライマー、あるいは山岳系ルーラーに向いたレースであり、過去にはアダム・イェーツが2勝、サイモン・クラークやマキシミリアン・シャフマン、そしてマテイ・モホリッチなどが勝っている。

今年は類似するイタリアンパンチャー向けレースのトロフェオ・ライグエーリアにでも活躍したミケル・ランダやマウリ・ファンセヴェナント、ヴィンツェンツォ・ニバリ、ジュリオ・チッコーネ、バウケ・モレマのトレック三銃士などに注目が集まった。

最後から2回目のサン・バロント(残り34.5㎞地点)からの下りでヴィンツェンツォ・ニバリがアタック。ここに2018年大会覇者のマテイ・モホリッチと昨年からイタリアのレースで活躍し続けているマッテオ・ファッブロが追いついてくる。

だが、これもやがて吸収され、最後のサン・バロントの登りで今度はナイロ・キンタナがアタックした。

ここに食らいついたのが先日のトロフェオ・ライグエーリア優勝者のバウケ・モレマと同3位のマウリ・ファンセヴェナント、そして同6位のミケル・ランダが食らいついていき、のちにフィニッシュ直前で追い付いてきたイーデ・スヘリンフを交えた5名が逃げ切る形となった。

追いついてきたスヘリンフがそのままアタックを放つが、やや登り勾配ということもあり、追いついてきたばかりの彼には最後まで抜けきる足は残っていなかった。

あとはワンデーレース巧者のモレマと、パンチャータイプのファンセヴェナントの一騎打ち。モレマも先に抜け出てライグエーリアに続く勝利を眼前に捕らえたが、これを若きファンセヴェナントが力強く抜き去っていった。

昨年のフレーシュ・ワロンヌ終盤でアグレッシブな逃げを見せ、今年のツール・ド・プロヴァンスではジュリアン・アラフィリップのための最終アシストを演じてみせた今最も注目すべき男の1人。

ここが彼の活躍の第一歩となりそうだ。

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パリ~ニース(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:フランス 開催期間:3/7(日)~3/14(日)

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毎年欧州サイクルロードレースシーズンの本格的な開幕を告げるステージレースである「太陽へ向かうレース」。

近年は序盤に激しい横風で総合争いが滅茶苦茶になることが多かった中で、今年は比較的落ち着いた状態に。

しかし週末の最後の2日間に関しては舞台となるはずだったニースがロックダウン状態に。

結果、とくに最終ステージのコースは大きく変わり、このことが最終日に大きな波乱を呼ぶこととなった。

 

前半のスプリントステージではドゥクーニンク・クイックステップが相変わらずのミケル・モルコフの名アシストぶりを発揮し、サム・ベネットが2勝。もちろん、モルコフの超級のリードアウトにしっかりと食らいついていけるベネットの実力があってこそであり、今年のこの最強コンビの実力は昨年以上。今年のツールこそ、3勝・4勝を叩き出すことも夢ではないかもしれない。

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一方、そのドゥクーニンク最強トレインに一矢報いたのがチームDSMとケース・ボル。昨年のツール・ド・フランスでもその強さを見せつけながらも勝利にはあと一歩届かなかった彼らが、第2ステージ終盤のヘアピンカーブ後の混戦の中でも前方にしっかりと食らいつき、最後はボルの向かい風をものともしないパワースプリントで勝利を掴んだ。

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一方、この日のマッズ・ピーダスンの2位を導き、ある意味でボルにとっても最高のリードアウトをやってみせたのがジャスパー・ストゥイヴェン。誰よりも強い走りをこの第2ステージで見せていた彼の調子の良さは、のちのちのモニュメントでの大勝利へと結びついていく。

 

そして個人TTでは元世界王者ローハン・デニスが沈む中、フランス王者レミ・カヴァニャ、そしてUAEツアーではフィリッポ・ガンナに次ぐ2位となり実力の高さを見せつけていたEFエデュケーション・NIPPOの若手、シュテファン・ビッセガーがいきなりのワールドツアー勝利。

GPインダストリアのファンセヴェナントもそうだけど、最近は本当、若手が才能を見せつけてから結果を持ち帰るまでのスパンが短すぎる。

シュテファン・ビッセガー、今後も注目し続けていくべき男だ。

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だが、今大会で最も強い男はやはりこの男だろう。

プリモシュ・ログリッチ。第4ステージではスプリントポイントでのボーナスタイムを狙って残り3㎞からのアタックとそのままの独走逃げ切り勝利。

第5ステージではパンチャー向け登りスプリントで、後ろについたクリストフ・ラポルトを並ばせることなく振り切っての勝利。

そしてクイーンステージの第6ステージでは、ギリギリまで逃げ続けていたジーノ・マーダーを、フィニッシュまでわずか25mで抜き去っての容赦ない勝利と、圧倒的な強さを発揮し続けていた。

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第3ステージの個人TTでも優勝者ビッセガーから6秒遅れの区間3位。

文句なしの圧倒的強さで、総合優勝間違いなし――そう、思われていた。

 

しかしそんなログリッチを、「パリ~ニースの洗礼」が襲う。

最終日、ルヴァンの丘からの下り。昨年のツール・ド・フランス第1ステージでも使用されたこの危険な下りで、ログリッチは同じ個所で2度、落車した。

その1回目から脱臼していたというログリッチは、その後彼を助け出そうとしたチームメートたちもすべて失い、たった一人でタイム差が広がっていくメイン集団を追いかける羽目になった。

それでも最後まで諦めることなく走り続けた彼のその精神性は見事なものだった。

一方で、この「絶対的なエースがトラブルに見舞われた」ときにどうしようもなくなるユンボの体制は、今年(こそ)のツール・ド・フランス制覇に向けての課題の1つとして考えることができるだろう。

 

そして、ログリッチが脱落した後、昨年に続く2連覇のチャンスを掴み取ったのがマキシミリアン・シャフマン。

クイーンステージでもログリッチ、逃げていたマーダーに続く区間3位と文句なしの強さを見せていたシャフマンは、この最終日における総合2位アレクサンドル・ウラソフと総合3位ヨン・イサギレとの波状攻撃に対しても自らこれをすべて抑え込み、しっかりと総合優勝を護り切って見せた。

ある意味で昨年に続きイネオスとユンボ「不在」の中での勝利と言えるかもしれないが、しかし今年の勝利もまた、彼は確かに強く、それゆえの必然的な勝利でもあった。

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ティレーノ~アドリアティコ(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:イタリア 開催期間:3/10(水)~3/16(火)

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パリ~ニースと並行して開催される、イタリア半島の西海岸(ティレニア海)から東海岸(アドリア海)へと横断する1週間のステージレース。

パリ~ニースと違い本格的な山岳ステージはアペニン山脈を越える第4ステージくらいで、それ以外はスプリンターやパンチャー向けのステージが続く。毎年恒例の最終日ド平坦個人TTの存在もあり、例年TTも得意なオールラウンダーに有利なレースとなっている。

 

今年はすでにUAEツアー総合優勝など活躍している昨年ツール覇者タデイ・ポガチャルが圧倒的有利と見られるなか、初の本格的ステージレースでのエースを務めることになるワウト・ファンアールトがどこまで走れるかに注目が集まった。

結果としてポガチャルがあまりにも――本当にあまりにも――強すぎる走りを披露し続けた結果ファンアールトは総合2位に終わるものの、それでもポガチャル以外のクライマーたちを軒並み斥けるポガチャルの強さは圧倒的であった。

そもそも、これだけ山を登れる選手がさらに集団スプリントでもピュアスプリンターを薙ぎ倒して優勝してしまうのだから意味がわからない。そして、最終日TTも勝利を奪い取り、パンチャー向けの登りスプリントも上位に食い込む。「脚質ファンアールト」ここに極まれり。

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そして今回のレースのもう一つの目玉が、ストラーデビアンケでも繰り広げられたマチュー・ファンデルプールvsジュリアン・アラフィリップvsワウト・ファンアールトの熱いバトル。

ストラーデビアンケではファンデルプールの圧倒的なパワーに敗北を喫したアラフィリップだったが、このティレーノ~アドリアティコ第2ステージではその借りを返すかのようにアラフィリップが勝利。ファンデルプールが悔しさのあまりハンドルを叩くという珍しいシーンも見ることができた。

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かと思えば翌第3ステージではワウト・ファンアールトのアシストを受けたファンデルプールがさらなるリベンジの勝利。

モトGP選手へのリスペクトという独特なガッツポーズで余裕の勝利を演出した。

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さらに、クイーンステージで登り始めから明らかに力を抜いて足を貯めていたファンデルプールが、翌日の「壁のステージ」で残り52㎞地点から独走を開始するという驚きの展開に。

やはりこの男は、規格外の強さを持っているのか――

 

と、思っていたところ。

それをまさか、残り20㎞で3分24秒ものタイム差を開いていたファンデルプールを、そのタイミングで集団からアタックしたタデイ・ポガチャルが、着々とその差を詰めていくなんて――。

前日のクイーンステージでも圧倒的な力で当然のごとく勝利して見せた現役最強のクライマーが、このパンチャーズステージでもファンアールトもベルナルも突き放して単独で「怪物」ファンデルプールを追い詰めていく。

 

最後はわずか10秒。

勝ったのはファンデルプールだったが、そのフィニッシュしたときの姿は、まるで敗北者のような項垂れ方をしていた。

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ただ単に強いだけでない。

常識外れの強さを見せつけたマチュー・ファンデルプールを、さらに極限にまで追い詰めた男、タデイ・ポガチャル。

そして誰よりも万能な足をもつその意味で最強の男ワウト・ファンアールト。

アラフィリップやベルナルやガンナといった才能すらもある意味平凡にすら感じさせてしまう異才の祭典となった今年のティレーノ~アドリアティコ。

彼らが彩るであろう2020年代は果たしてどんな10年になってしまうのか・・・恐ろしさを感じさせる1週間であった。

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