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2021シーズン 4月主要レース振り返り(後編)

 

4月後半は「春のクラシックシーズン」の最終章、アルデンヌ・クラシック3連戦!

そしてジロ・デ・イタリアに向けた前哨戦レースも行われ、一つの山場を迎えていくこととなる。

 

ワロン地域の激しい丘陵地帯、そしてアルプスの山岳地帯を駆け巡る、最強のクライマーたちが男女ともに決定づけられる、そんな4月後半のレースを振り返っていこう。 

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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ツアー・オブ・ターキー(2.Pro)

UCI Proシリーズ 開催国:トルコ 開催期間:4/11(日)~4/18(日)

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元々はワールドツアークラスのレースであったが、様々な事情が絡み、現在は1つしたのProシリーズに。

しかし時期的に北のクラシックやイツリア・バスクカントリーなどと重なっており、出場する選手層はProシリーズとしてもかなり薄い。

今年もワールドツアーチームはドゥクーニンク・クイックステップとアスタナ・プレミアテックとイスラエル・スタートアップネーションの3チームしか出場しないという状況であり、ドゥクーニンク・クイックステップに関していえば6名しか連れてきていない。

 

そんな中、まず大きなトピックとして語られるべきは、マーク・カヴェンディッシュによる4勝である。

層が薄い中とはいえ、ジャスパー・フィリプセンを相手取っての6戦4勝は素晴らしい。

このカヴェンディッシュの活躍については下記記事にて。

www.ringsride.work

 

そんなカヴェンディッシュとフィリプセン以外の唯一のスプリント勝者が、初日にUno-Xプロサイクリングチームのクリストファー・ハルヴォルセンと共に抜け出したアーヴィッド・デクレイン。

昨年はリワル・レディネス・サイクリングチームに所属していた27歳のオランダ人で、昨年のスヘルデプライスで7位、ツール・ド・ワロニーで区間4位や6位などそこそこの成績を出し続けてきていた。

今回はこのデクレインと元スカイでも走っていたハルヴォルセン、そしてアンドレ・グライペルと現ポーランド王者のスタニスワフ・アニョコフスキが安定して上位に入り続けていた。

アニョコフスキは昨年までCCCチームの育成チームで走っていた今年24歳の若手で、今年はブレーデネ・コクサイデ・クラシックでも6位と実力はある選手。

今回はハルヴォルセンもグライペルもアニョコフスキも勝利は得られなかったが、今後十分に可能性のありそうな走りを見せてくれた。

 

そして唯一の山岳ステージではデルコのホセ・ディアスがジェイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス)とエドゥアルド・セプルベダ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)とのスプリントを制して優勝。

ホセ・ディアスは元々はプロコンチネンタルチーム時代のイスラエル・サイクリングアカデミー(現イスラエル・スタートアップネーション)に所属しており、昨年NIPPOデルコ・ワンプロヴァンスに移籍。

ツール・ド・ルワンダのクイーンステージ(キガリ登坂フィニッシュ)で優勝するなど、パンチャー的な素質を持っていた選手だった。

メルハウィ・クドゥスやハビエル・ロモ率いるアスタナ・プレミアテックや、ピエール・ローランおよびカンタン・パシェ率いるB&Bホテルス・p/b KTMによる強力な牽引でコントールされた中での抜け出しによる勝利であり、レースの格は小さいとはいえ、大きな達成の1つではあった。

そしてそこに食らいついて2位となったジェイ・ヴァインは、昨年の「ズイフト・アカデミー・プログラム」で優勝したことでアルペシンでのプロデビューを果たした25歳。

昨年末のオーストラリア国内シリーズ戦でも2勝および総合2位に入るなど実力は申し分ない男で、今回しっかりと結果を持ち帰ることができたのは今後のズイフトラーにとっては一つの希望となるだろう。

なお、ディアスとの4秒差をひっくり返すべく第6ステージの中間スプリントに積極的に挑むなど最後まで諦めない姿勢を見せていたが、最終日のフィニッシュ直前に落車。

幸いにもラスト3㎞を切っていたことで救済対象となったが、逆転は叶わなかった。

 

そしてこのレースでもう1人、注目すべき活躍をしていたのがチーム・NIPPOプロヴァンス・PTSコンチ所属の織田聖である。

彼にとっては初となるProシリーズという大舞台。ワールドツアークラスの選手たちとも一緒に走れるこのチャンスを生かすべく奮闘。

初日は43位、そして27日目は23位。

いずれもチーム内最上位でのフィニッシュとなり、悪くない成績を残せていた。

しかし第4ステージの落車に巻き込まれ、そのまま翌日は未出走に。

この怪我が長く影響を残すものにならなければいいが・・

 

いずれにせよ、ワールドツアークラスの選手たちも出場するProシリーズのスプリントで23位は十分にうまくやっている。

このまま経験を積み、少しでも結果に繋げられれば幸いだ。

 

最後に、このレースは昨年のツール・ド・ポローニュで大きな事故に遭ったファビオ・ヤコブセンの復帰レースとなった。

もちろんスプリントに参加したりはできなかったものの、まずは無事走り切ってくれたことが嬉しい。

これから少しずつ、焦らず、復帰していけることを願っている。

 

 

ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(2.Pro)

UCI Proシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:4/14(水)~4/18(日)

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スペイン東部バレンシア州を舞台に繰り広げられる5日間のステージレース。例年、2月前半に開催されるこのレースだが、今年は新型コロナウイルスの影響でこの時期に後ろ倒し。

しかし例年であればマヨルカ・チャレンジからブエルタ・アンダルシアに向けて続く一連のスペイン合宿系メンバーが集まりそれなりに良いメンバーが揃うのだが、今年はクラシックシーズンど真ん中ということで出場選手層がぐっと薄くなってしまった。あまりに選手が集まらないので特例で9名を連れてきているチームもいるくらいだ。

そんな中、その実績と実力で頭何個も飛び出ているのがエンリク・マスだった。むしろ、勝たないといけないくらいのプレッシャーすらあったであろう彼は、クイーンステージとなる第3ステージで見事優勝を成し遂げた。移籍後初勝利。チームにとっても今季待望の2勝目である。

 

とはいえ、翌日の個人TTに向けて、その絶対の優勝候補である欧州王者シュテファン・キュングに対し、どれくらいのタイム差をつけられるかが課題だったのだがーー結果的につけたタイム差は、ボーナスタイム込みで51秒。

これなら、いくら平坦のTTとはいえ、キュングに抜かれる心配はかなり抑えられた、と思われていた。

 

だが、マスに襲い掛かった悲劇。

残り400mで、その前輪がパンク。

第1計測ではキュングから19秒遅れで通過しており、そのままいけば十分に総合を守れる可能性があった中でーーまさかの、敗北であった。

 

あまりの悔しさに荒れた様子を見せたキュングだったが、彼の実力は決して幻ではない。

この悔しさをバネに、今年さらなる大きな結果を狙っていってほしい。

 

結果としてクイーンステージも区間9位でフィニッシュしたキュングが総合優勝。

マスの不運のうえとはいえ、十分に素晴らしい結果であった。

さらにグルパマFDJは初日にマイルズ・スコットソンが逃げ切りでステージ優勝。最終的にはクイーンステージでタイムを落とすものの、諦めず粘り強く追走集団の先頭を牽引する姿も見せており、結果としても総合9位と十分に健闘した。

そして2つあるスプリントステージではアルノー・デマールがカレブ・ユアンを2度とも打ち倒し、見事な優勝。

結果、全5ステージ中4ステージをグルパマFDJが制するという実に素晴らしい結果となった。

 

一方、今や世界最高峰のスプリンターの1人であるカレブ・ユアンは、この第3ステージと第5ステージの集団スプリントでそれぞれ3位、6位と、彼らしくない結果に。

デマールがツールで「最強」の証明を果たせるか。そしてユアンはこのまま「スランプ」に陥らずに立て直せるか。

 

スプリンターたちの今後の動きにも注目だ。

 

 

アムステルゴールドレース(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:オランダ 開催期間:4/18(日)

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レースレポートはこちらから

「千のカーブ」と形容される複雑なコースとアップダウンが特徴的なオランダ南東部リンブルフ州のワンデーレース。ここから1週間に及ぶ「アルデンヌ・クラシック3連戦」の開幕戦にあたる。

残る2つのアルデンヌ・クラシックと比べ、丘陵の厳しさはややゆるく、スプリンターに近いパンチャータイプにもチャンスがあるレース。先日のブラバンツペイルに勝ったトム・ピドコックや2位のワウト・ファンアールトが優勝候補として名を連ねていた。

今年は新型コロナウイルスの影響で、例年の終盤コースを周回するレイアウトに。勝負所カウベルクを計12回登らせるということで、より厳しい展開も期待された。

 

レースが大きく動き出したのは残り35㎞。最後から2回目のカウベルクの登りでイーデ・スヘリンフがまずは飛び出し、ここにワウト・ファンアールトやトム・ピドコックが反応して一気に動き出した。

残り30㎞で再びスヘリンフがアタックししばらく独走を続けるが、残り19㎞地点から始まる最後のカウベルクの登りでワウト・ファンアールトとジュリアン・アラフィリップが飛び出してこれを追い抜き、さらにここに食らいついてきたピドコックやマイケル・マシューズ、アレハンドロ・バルベルデ、マキシミリアン・シャフマンなどが強力な小集団を形成した。

一時はこの小集団の中に2015年覇者クフィアトコフスキとリチャル・カラパス、そしてピドコックの3名を入れて有利な展開を作っていたイネオス。残り14㎞でクフィアトコフスキがアタックし独走を開始するが、やはり骨折明けで思うような力を発揮できなかったのか、これはすぐさま捕まえられた。

代わって抜け出したのがファンアールトとピドコック、そしてシャフマンの3人だった。追走集団はマウリ・ファンセヴェナントがアラフィリップのために懸命に牽引し続けるも、イネオスの2人がローテーション妨害を仕掛けたことでペースが上がらず、先頭3名の逃げ切りが決まる。

最後はブラバンツペイルのリベンジを誓うファンアールトが、残り200mを切ったところでスプリントを開始。

すぐさまピドコックもこれに食らいついていくが、最後はほんの数センチの差で、ファンアールトの勝利が決まった。

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まさに激戦。ファンアールトの強さはもちろんだが、ピドコックという男の果てしない可能性を感じさせたブラバンツペイルからの連戦であった。

 

 

アムステルゴールドレース女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:オランダ 開催期間:4/18(日) 

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男子と同様のサーキットを7周する計116.3㎞の女子レースは、最後のカウベルクからフィニッシュまで19㎞ある男子レースと違い、(かつてのアムステルゴールドレースのように)フィニッシュ前2㎞地点に最後のカウベルクが設けられている。

序盤から繰り返しアタックがかかり続け、なかなか決定的な逃げが生まれない。

そんな中、残り36㎞、最後から3回目のカウベルクの登りで、ヨーロッパ王者アネミエク・ファンフルーテンがアタック。多くの優勝候補たちはここに食らいついていったが、唯一世界王者アンナ・ファンデルブレッヘンだけはここで脱落してしまった。

そのあとのグールヘンメルベルグとベメレルベルグで再び集団は活性化。この混乱の中でついにグレース・ブラウンとパウリーナ・ローイヤッカースの2人が抜け出して30秒近いタイム差を作り出すが、続く最後から2回目のカウベルクでファンフルーテンとアシュリー・ムールマンの加速によってこれを20秒に短縮。

最後のグールヘンメルベルグへの下りでローイヤッカースを突き放して独走状態になったブラウンはその後も2〜30秒差をキープしながら逃げ続けたが、ラスト2㎞のカウベルグの登りでついに捕まった。

ここで先頭に躍り出たのがまずはファンフルーテン。続いてカシア・ニエウィアドマ、マリアンヌ・フォス、デミ・フォーレリングがギャップを埋めて、次いでニエウィアドマがカウンターアタック。

ここでフォスが脱落するが、後続からエリザ・ロンゴボルギーニがブリッジを仕掛けてくる。

そのままカウンターで飛び出したロンゴボルギーニに対し、ニエウィアドマがきっちりとこれに反応していった。

ロンゴボルギーニとニエウィアドマという強力なデュオで迎えたラスト1㎞。しかしここでロンゴボルギーニがローテーションを拒否したことでペースが落ち、後続からマビ・ガルシア、フォーレリング、フォス、ムールマン、ファンフルーテン、ウトラップルドヴィグ、ソラヤ・パラディン、アマンダ・スプラットらが残り300mで追いついてきた。

最後は、フォスがしっかりと強烈なスプリントを見せつけての勝利。最後のカウベルグで遅れたにも関わらず、そこからの復活。

さすがの女王である。

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ラ・フレーシュ・ワロンヌ(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:4/21(水)

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レースレポートはこちらから
登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、最大勾配は一説では26%にも達するという、激坂中の激坂「ユイの壁」でお馴染みのフレーシュ・ワロンヌ。

昨年は新型コロナウイルスの影響でスケジュールがずれ、その結果やや例年と比べると混沌としたリザルトが生まれる結果となったが、今年は有力勢がしっかりとコンディションを整えて参戦。唯一昨年優勝者マルク・ヒルシを含むUAEチーム・エミレーツだけがコロナに関わるごたごたで出場できずに終わったが、概ねフルメンバーでの真剣勝負となった。

 

マウリッツ・ラメルティンクやオマール・フライレなどの抜け出しも見られたものの、勝負はやはり最後の「ユイの壁」に託される。

登り口でミケルフローリヒ・ホノレやヤン・トラトニクが早めのアタックを仕掛ける場面もあったが難なく吸収され、いよいよ「壁」の最も厳しい区間へ。

残り500m。大会初出場のプリモシュ・ログリッチが先頭に躍り出る。ジュリアン・アラフィリップはログリッチの背後に、その右隣にアレハンドロ・バルベルデの姿。

残り350m。最も厳しい区間において、ログリッチが早めの加速を開始した。

ユイの壁のセオリーでいけばやや早すぎる仕掛け。これを見てアラフィリップも残り300mで加速を開始。一度右隣のバルベルデの様子をちらりと見ながら、そのままペダルにかけた足に力を込めた。

バルベルデもこのアラフィリップの後輪につけ、2014年から2019年までの6年間を制し続けている2人による仕掛け所を知り尽くした加速が始まる。

だが、ログリッチも負けてはいない。残り200mを切っても、そのリードは縮まることなく、2秒近いタイム差をつけて先行する。

アラフィリップもさらなる加速。ここで、背後にいたバルベルデが引き千切られた。

残り100m。いよいよ、ログリッチのすぐ後ろにまで迫ってきたアラフィリップ。

残り60m。ログリッチは左を振り向き、そこに世界王者の姿があることを確認した。

残り50m。いよいよ、2人の車輪が並んだ。

 

ここで、ログリッチはさらなる加速。小刻みに左右に振れながら、一度その前輪が前に出る。

しかし残り25m。

大きく左右に振れるアラフィリップの前輪が、一気にログリッチを追い抜いていった。

最後は上体を上げ、胸のアルカンシェルを誇示する余裕は十分にあった。

ログリッチもさすがに諦めざるをえなかった。

 

ジュリアン・アラフィリップ、フレーシュ・ワロンヌ3勝目。

常に最強であり続けるわけではないが、ここぞというときにはしっかりと強さを見せつける、これぞ王者の走りであった。

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ラ・フレーシュ・ワロンヌ女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:4/21(水)

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2015年からこの大会を6連覇している、バルベルデ以上の女傑アンナ・ファンデルブレッヘン。

しかし、病気明けということもあるが、今年の彼女は決して万全な状況ではなかった。直前のアムステルゴールドレースでも53位と大失速。

むしろ、チームメートのデミ・フォレリングの方が調子は上向きなのではないか—―そんな思いとともに行われた、今回のフレーシュ・ワロンヌであった。

 

残り10㎞地点のコート・ド・シュマン・デ・ギースの登りでアネミエク・ファンフルーテンが加速し、集団は削ぎ落され、結果としてファンフルーテン、ロンゴボルギーニ、ルドヴィグ、スプラット、ニエウィアドマ、ラブー、ガルシア、そしてフォレリングとファンデルブレッヘンの9人だけが生き残る。

そしてこの集団の先頭を牽いたのはフォレリング。チームはあくまでも、「ワロンヌの女王」ファンデルブレッヘンを全力サポートする意向のようだ。マリアンヌ・フォスなどを含む後続の強力な集団を追いつかせないためのフォレリングの決死の牽引によって、9人は9人だけで(そして単独で逃げ続けていたルス・ウィンダーを捕まえた10名で)ユイの壁に挑むこととなった。

フォレリングは登り始めるとともに失速。すべては「女王」に託された。

 

そしてここからはひたすら、ファンデルブレッヘンが強すぎた。

シッティングのまま淡々とペースを上げていく。ただそれだけで、ライバルたちが次々と突き放されていく。

ニエウィアドマだけが、最後まで食らいつきつづけることができていた。残り150mで彼女はアタックを仕掛け、一旦はファンデルブレッヘンの前に出ることもできた。

しかし、残り100mでファンデルブレッヘンはついに腰を上げる。そしてあっという間にニエウィアドマを抜き去り、これを突き放し、彼女にとって7年連続となる勝利——そして、今年すでに引退を決めている彼女にとって、最後の勝利――を堂々と成し遂げることとなった。

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ツアー・オブ・ジ・アルプス(2.Pro)

UCI Proシリーズ 開催国:オーストリア~イタリア 開催期間:4/19(月)~4/23(金)

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かつてはジロ・デル・トレンティーノと呼ばれ、ジロ・デ・イタリアへの前哨戦として人気を博していた。

2017年からはオーストリア西部も舞台として増やし、現在の名称に変更。それでもレースの雰囲気は変わらず、山岳の多いジロへの準備レースとなった。

第2ステージで圧倒的な登坂力を見せたサイモン・イェーツがそのまま総合優勝。2018年の覚醒と転落。その後2019年・2020年とリベンジを狙ったものの、頂点に届くことはなかった彼が、4度目の正直とばかりに、万全の態勢でジロに挑む。

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一方、このイェーツの走りには届かなかったものの第2ステージで必死の追走を行ったパヴェル・シヴァコフ、そしてこの第2ステージでは4位、第4ステージではステージ勝利者のビルバオとサイモン・イェーツと共に最後のスプリントに挑んで2位に入り込んでいたアレクサンドル・ウラソフなどは、サイモンとともにジロ・デ・イタリアでの重要な存在となりそうだ。

UCIプロチームのアンドローニジョカトリ・シデルメクに所属しながらも総合4位と大健闘をしてみせたエクアドル人若手のジェフェルソン・セペダも同様に注目。

ベルナル、ソーサと続いたアンドローニの期待の南米枠だけに、このジロで何かしてくれそうな気がしてならない。

 

ステージ優勝ではスプリントはなかったものの、年初のツール・ド・ラ・プロヴァンスなどでもアグレッシブな走りを見せていたジャンニ・モスコンが絶好調のステージ2勝。とにかく、終盤のアタックからの勢いが凄まじいので、ジロでも彼が勝ち星を狙えそうなステージはいくつかある。

最終日の600m級の山が連続するアップダウンステージではボーラ・ハンスグローエに所属するクライマー、グロスシャートナーが見事な逃げ切り勝利。

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2019年にはツアー・オブ・ターキー総合優勝、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでも総合9位に入り込むなど、総合ライダーとしての実力も高めつつある彼だが、今回のジロではエマヌエル・ブッフマンがいながらも、今年いまいち結果を出し切れていない彼に代わってエースの走りを任される可能性がないわけではない。

 

 結果として、確かに「ジロ前哨戦」としての機能を果たしたように感じる今回のツアー・オブ・ジ・アルプス。

ここで活躍した選手たちの、ジロ本戦での走りに注目だ。

 

 

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:4/25(日)

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アルデンヌ・クラシック3連戦、そして3月頭から2か月間にわたって続いてきた「春のクラシック」のフィナーレを飾るのは、「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」の異名をもつ世界最古のクラシックレース。
起伏の多いアルデンヌ・クラシックの中でも随一の丘陵レースとなっており、総獲得標高は4,000mを超えることも。過去の優勝者も、他2つのアルデンヌ・クラシックと比較してもグランツールなどで活躍するクライマーたちが名を連ねることも多く、それだけ厳しいレースであることがわかる。

 

優勝候補は昨年優勝者のプリモシュ・ログリッチ、先のフレーシュ・ワロンヌで優勝したジュリアン・アラフィリップ、またフレーシュ・ワロンヌでは残念ながら出場できなかったタデイ・ポガチャルとマルク・ヒルシのUAEチーム・エミレーツコンビ、そしてこの日41歳の誕生日を迎えたアレハンドロ・バルベルデなど。

そんな中、トム・ピドコックこそ出ていないもののリチャル・カラパス、ミハウ・クフィアトコフスキ、アダム・イェーツ、テイオ・ゲイガンハートなど強力なライダーを揃えるイネオス・グレナディアーズが、早い段階で積極的な動きに出始める。

 

まずは残り35㎞地点のコート・ド・ラ・ルドゥット。集団の先頭をゲイガンハートが強力にプッシュし、一旦この集団の数が12~3名にまで絞り込まれた。

そして、アラフィリップがそこにいない。彼が取り残された追走集団ではマウリ・ファンセヴェナントが必至の牽引を行い、なんとかエースを重要な集団へと引き戻そうとすことに成功する。

だが、続いて残り23㎞地点のコート・ド・フォルジュで再びゲイガンハートがアタック。今度はアダム・イェーツをその背後に控えさせている。

この攻撃はすぐさまヨナス・ヴィンゲゴーらが反応して引き戻すことに成功するが、今度はここからカラパスが単独でアタック。

隙を突いたこの攻撃に、タイム差は一気に20秒近くにまで開くこととなった。

 

そして、先頭にカラパスを単独で置いたままいよいよ突入する勝負所の残り14.6㎞コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォー・コン。

先頭を突き進むのはドゥクーニンク・クイックステップのジェームス・ノックス。その背後にはジュリアン・アラフィリップ。クフィアトコフスキ、マイケル・ウッズ、アレハンドロ・バルベルデと続く。その横にはダヴィド・ゴデュが上がってきて、その背後にはポガチャルの姿も。

ログリッチは、この時点で先頭から11~12番目と、ポジション的にはあまりよくなかった。

 

しばらくはノックスの牽引のまま膠着状態に陥っていたが、残り13.6km地点でダヴィデ・フォルモロがアタック。ここにウッズ、ゴデュが反応していく。

縦に長く伸びるメイン集団。ログリッチはここでも、10番目の位置に。

 

残り13.5㎞で先頭のフォルモロがカラパスを追い抜いていく。フォルモロはここで足が止まるが、続いてカウンターで加速したのがマイケル・ウッズだった。

延々と続く加速の連続によって、縦に長く引き伸ばされた集団の中ほどでは限界を迎えて千切れていく選手が——その先頭にいたのはヤコブ・フルサンであり、その背後につけていたログリッチであった。

 

かくして、最後の集団が形成される。

ウッズ、ゴデュ、ポガチャル、アラフィリップ、バルベルデ。

ディフェンディングチャンピオンのログリッチはここで終戦となってしまった。

 

そして最後はスプリント対決。

精鋭集団だけが残った先頭5名は徹底的な牽制モードに入り込み、バルベルデを先頭にじりじりと残り距離を削っていく。

後方からはマルク・ヒルシ、ティシュ・ベノート、バウケ・モレマの3名が集団から抜け出して近づいてきている中、ギリギリまで粘り続けて残り250mを切ったところでバルベルデがスプリントを開始した。

一度はウッズが先行したように見えた中で、右手からやはりこの男、アラフィリップが猛烈な勢いで加速していく。

だが、その後輪をしっかりと捉えていたものがいた。タデイ・ポガチャル。

アラフィリップの猛加速に食らいついていったばかりか、その右手からさらに加速し、これを追い抜いていった!

 

昨年はジュリアン・アラフィリップの斜行によって勢いを削がれチャンスを失ったポガチャル。

今年のフレーシュ・ワロンヌではコロナの影響で出場できず、とにかくフラストレーションを貯めていたはずの若きツール覇者が、その実力を遺憾なく発揮し、初のモニュメント制覇を成し遂げた。

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リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:4/25(日)

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レースレポートはこちらから
男子レースに先駆けて行われた女子レースは、男子よりも120㎞ほど近い全長140.9kmのコースで開催された。

それでも残り61.7㎞地点のコル・ドゥ・ロジエ以降は男子と全く同じレイアウトで戦うことになるため、勝負所・仕掛け所はほぼ変わらない。

 

決定的な動きが巻き起こったのはやはり残り14.6㎞地点から始まるコート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォー・コン。

アンナ・ファンデルブレッヘン、カタジナ・ニエウィアドマといった有力勢が集団先頭でペースを上げていくと、後方からはアマンダ・スプラット、マビ・ガルシア、そしてマリアンヌ・フォスといった別の有力勢が零れ落ちていく。

やがてこのロッシュ・オ・フォー・コンの山頂を越え、フィニッシュまで残り13㎞という段階になったところで、ファンデルブレッヘン、デミ・フォレリング、アネミエク・ファンフルーテン、エリザ・ロンゴボルギーニ、そしてニエウィアドマの5名だけが残る格好となった。

 

ここで、ファンデルブレッヘンとフォレリングの2枚を乗せることのできていたSDワークスは圧倒的有利であった。

そしてその有利さを生かすべく、ファンデルブレッヘンは自ら、全力で集団を牽引し続ける。

スプリントにおいてはオランダの若き才能フォレリングに対する信頼感は十分であった。

後は怖いのは、スプリント勝負に持ち込みたくないファンフルーテンやロンゴボルギーニによるアタックと、牽制しすぎて後方からフォスたちが追いついてくることだけ。

その2つを防ぐために、ファンデルブレッヘンの牽引はあまりにも強力であった。

それはまるで、男子のヘント~ウェヴェルヘムにおける、ワウト・ファンアールトのためのネイサン・ファンフーイドンクの仕事のようなものであったが、この女子リエージュ~バストーニュ~リエージュにおいては、そのアシストの役割を世界王者がやってのけるというのだから、その強さは間違いがなかった。

 

結果、最後は予定通りのスプリントに。残り200mからファンフルーテンが早めのスプリントを開始。すぐさまそこに、フォレリングが飛び乗った。

コース右手から飛び出した彼女らに対し、左からスプリントを開始したのはロンゴボルギーニ。

しかしフォレリングはきっちりとファンフルーテンを抜き去り、ロンゴボルギーニも追いつかせることなく、先頭でフィニッシュに雪崩れ込んだ。

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フォスを含む後続集団はこれもまたSDワークスのチームメート、アシュリー・ムールマンがしっかりとローテーション妨害。

まさに女子版ドゥクーニンク・クイックステップとも言うべき最強チーム、SDワークス。

世界王者が若き才能のためにアシストし勝たせるという構図もまた、実にドゥクーニンクらしい姿であった。

 

 

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